ILC(国際リニアコライダー)は、ヒッグス粒子の存在がまだ実験で確認されていなかった当時に構想されました。その後、ヒッグス粒子の存在は確認され、長さを縮小して建設コストを少し圧縮する案に変更されましたが、学術的意義が低下し、8月10日から日本学術会議で巨額な費用に見合うのか、学術界の合意が得られるのかが再検討されています。
ILCをめぐる論議では、リスクの存在とそれを克服していく課題、実験が終了したとの施設やトンネルの取り扱いをどうするのかがほとんど論議されてきませんでしたが、今年3月に野村総研の報告書が公表され、検証が求められています。
8月24日、岩手県の有志が自治体に問題提起しました。
宮城県の私たちも、独自に検証したい点です。
野村総研の報告書と一関市住民の公開質問状を紹介します。
●環境への影響やリスクを明らかにした野村総研の報告書
180302 ILCに関する規制・リスク等調査分析 報告書全文.pdf<一関市でのILC誘致運動>
<一関市の住民の会の公開質問状>
2018年8月24日
一関市長 勝部修殿
国際リニアコライダー誘致に関する問題点と公開質問状
ILC誘致を考える会 共同代表
千坂げんぽう・原田徹郎
貴職におかれましては市民の健康で文化的な生活のためにご尽力いただき、心よりお礼申し上げます。
さて、当市に掘削口を設けるとされる北上高地が国内候補地の一つとなっている国際リニアコライダー(以下、ILC)計画の学術的な意義や経済波及効果の期待など「長所」はさかんに広報されています。しかし、「短所」については、市民にはほとんど知らされないまま、誘致を積極的に推進する貴職の姿勢に不安を抱いております。
私たちは、一般住民の立場で、その「長所」と「短所」の両面を学ぶことから得られる懸念を払しょくするために、ここ3年余、研究者に学び、検討を重ねてきました。つきましては、貴職がこの推進に当たり、「長所」だけでなく、市民生活に及ぼす「短所」をどのように吟味しているのかをお聞きしたく、下記質問についてご回答をお願いします。
なお、ご回答は8月31日までに文書にてお願いします。期日までに正確なご回答が難しい質問につきましては、その理由を記載し、改めて9月10日までにご回答をお願いします。ご回答の内容は当会で回覧すると同時にホームページ等で一般市民に公開いたしますのでご承知ください。
記
(1) 「放射化する地下水・空気・施設」について
(2) 「核のゴミ最終処分場」について
(3) 「超高額の地元負担と経済効果」について
(4) 「地震・断層帯・残土・地下水・使用電力」について
(5) 「地元の雇用不安」について
(6) 「大人の責任と児童・生徒の参加」について
(1) 「放射化する地下水・空気・施設」について
@ 文科省が委託した「有識者会議」や株式会社 野村総合研究所の「国際リニアコライダー(ILC)計画に関する規制・リスク等調査結果分析」の報告書概要版(本年2月)では、ILCの放射線に関し、「放射化した地下水が、広域に移動することがないように、適切な対応策を実施し、その効果を長期間にわたって継続的に監視する必要がある。実験終了時も含めた長期にわたる維持管理方法の検討が極めて重要」と公的に警告しています。市民の生活を思えば、速やかにこれを伝え、新たな対策を提言するべきです。この報告についてお答えください。
A 放射線障害防止法では、水や空気の放射性物質は法で定められた濃度限度以下に希釈すれば、どれだけ大量の放射性物質でも河川放流や大気中に放出できるようです。ILCで放射化した冷却水や空気も、希釈して河川放流、及び大気に放出処理するのですか。お答えください。
B 「放射能事故は絶対にないとは言い切れない」と文科省幹部が発言し、現に一関市が視察したセルンで2008年9月に、2013年5月には東海村で放射能漏れ等の事故があり、多くの被曝者が出ました。東日本大震災7年後の現在も福島第一原発汚染により、側溝清掃も出来ない一関市、現在も野生キノコ・タケノコ・山菜等の販売が出来ず、多くの農家が打撃を受けています。万一、放射能事故が発生すれば、さらなる打撃となります。お答えください。
(2) 「核のゴミ最終処分場」について
@ 昨年7月、政府は核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)の最終処分場に適した地域を大まかに示しました。日本地質学会(高橋,吉田,2012年)によれば、この処分場の適地は3カ所、特に北上高地と阿武隈高原の2カ所としています。政府は原発事故の福島県は対象から除く方針です。2012年北海道が「受け入れ拒否宣言」し、市町村でも受け入れない意見書や条例を制定しています。一関市の取り組みを具体的に説明してください。
A 県や市は最終処分場への転用を認めないと明言していますが、知事や市長が交代した場合どのように保証されるのでしょうか。また、国家的事業では、県や市の意向を無視して施策が強行されています。国に異議を唱えることができますか。お答えください。
(3) 「超高額の地元負担と経済効果」について
@ 現在まで、国や県から一関市に付いたILCに関する予算は、それぞれいくらですか。お答えください。
A 現在まで、ILCに関連した一関市の支出金額はいくらですか。お答えください。
B 市民負担について、多くの市民に福祉・医療・教育など生活に直結した説明がありません。巨大施設と関連諸施設・道路等の建設費用、さらに毎年約500億円の維持費の一関市負担額の内訳をお答えください。
C 「ILC誘致が実現した場合の県推進室の試算で全国・20年間で5兆7,190億円の経済効果がある」と一斉に報道されました。この内訳と一関市の額を公開してください。
(4) 「地震・断層帯・残土・地下水・使用電力」について
@ ILCに振動は厳禁と聞きます。この約10年間に限っても、岩手宮城内陸地震・東日本大震災の後も地震が多発し、一関市も例外ではありません。更に、集中豪雨など自然災害もあります。説明して下さい。
A 北上高地に沿って存在する「北上低地西縁断層帯」が不安要素と思われます。お答えください。
B 工事によるトンネル残土量(ダンプ台数・期間・捨場)についてお答えください。
C 24時間運転のILC使用電気16万キロワットの供給発電所と費用、及び排熱問題について、お答えください。
(5) 「地元の雇用不安」について
@ 北上製紙の閉鎖、NECの来春3月撤退で大幅な税収減が予想され、当市の雇用は不安定期にあります。
2009年(平成21年)3月の「一関市都市計画マスタープラン」では、「小さくても市民が安心して暮らせる“コンパクトシティ”を目指し、行政と市民が自然と共生した町づくりを進める」と確認しました。このプランと「ILC誘致によるまちづくりプラン」とは明らかに矛盾します。説明してください。
(6) 「大人の責任と児童・生徒の参加」について
@ ILC誘致を巡って大人でもよく分からない事や問題点が山積しています。特に、放射化した水や空気、実験終了後の高度に放射化した巨大施設や装置の長期にわたる管理【(1)@参照】は、30年後の市民にとって大きな不安要素です。この世代が現在の児童・生徒であり、短所も知らせないまま、何も知らない純粋で素直な子どもたちをILC誘致運動に参加させることに大人の責任を強く感じます。この責任についてお答えください。
以上