ぼくのなかの宝珠[2019年09月04日(Wed)]
市民病院上層階の窓辺に置かれたゆらゆら葉が上下するおもちゃ。ソーラーで動く仕掛けらしい。
バイパスを通りかかったタンクローリーが映っていた。
偶然のコントラスト。
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金色の鹿 村上昭夫
金色の鹿を見た
金色の鹿を見たと言っても
誰もほんとうにしてはくれない
僕が頼りにならない少年だったから
ぼくのなかの目立たない存在なのだから
誰もそっぽを向いては
足早に行ってしまう
でもその山ならばたしかにある
みなが五葉山と呼ぶ山で
東は直きに太平洋で
広がる午前の雲を背に深く負いながら
あの鹿はどの方向へ向ったのだろう
そのことをどのように説いたなら
ぼくが分ってもらえるのだろう
鹿が死んでしまうと
ぼくのなかの宝珠が死ぬという
言い伝え
ぼくはそのことを
夕凪の便りのように聞いた筈なのに
★野村喜和夫・城戸朱理 編『戦後名詩選 T』(思潮社、2000年)
*五葉山…岩手県南東にある山。標高1341.3m
◆村上昭夫(1927-1968)は18歳で迎えた敗戦後、シベリアに抑留、帰国後は結核と闘いながら詩集『動物哀歌』を遺した。