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ラルス・フルデンの「前を見て」[2019年08月14日(Wed)]

前を見て   ラルス・フルデン
            大倉純一郎訳

一酸化炭素を吸っちまうということもある
馬に頭を蹴られちまうということもある
手を脱穀機のドラムに巻き込まれちまうということもある
海におっこちて溺れちまうということもある
肺病になっちまうということもある
手綱(たづな)を首にかけていたら、馬鍬(まぐわ)に巻きついて一緒に
引っ張られちまうということもある
蛇にかまれちまうということだってあるさ
前を見て歩かなかったら
蜂にさされることもあるし、それで死んじまった人だってある
氷で滑って、それで手足が折れちまったということもある
雄牛にとっつかまって、突き殺されちまうことだってあるさ
足で釘を踏んで、それで敗血症になっちまうことだってある
肺炎になっちまうということもある
あまり近よりすぎたら、めまいがしだして、それで急流に
おっこちまうことだってあるさ
死体を見たら、気がふれちまったということもある
プロペラに手をつぶされちまうことだってある
斧で自分をひっぱたいて血が止めどもなく流れちまうということもある
車からおっこちたら、頭が車輪の下にはまっちまったということだってある
いかなことにも成りうるし、いかなことも起こりうるものさ
前をみていないとね
前を見よう、子供たち! 


川崎洋・編『いのちのうた』 (あなたにおくる世界の名詩8 岩崎書店、1997年)より
*ラルス・フルデン(Lars Huldén 1926-2016)はフィンランドの人。

◆日本風に言えば「畳の上で死ぬ」こと以外の、さまざまな事故死のオンパレードである。
どれも「前を見て」いれば避けられるのだから、注意深く生きよう、と呼びかけているのだが、この詩には、〈一度は死ぬ以上、尋常じゃない死に方を味わいたいところじゃないか〉という気分に誘うところがある。
次いで、〈どうせなら、このリストにない最期を迎えたいじゃないか〉という考えが頭の中を占領し出す。
そうして、〈「死に方リスト」に存在しない死に方〉というのは、実は 〈人の注文通りじゃない生き方〉ということじゃないか! という考えに進むことになるようだ。
この詩が持つユーモアの効能である。



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