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ただ ひとびとがいるばかり[2019年06月19日(Wed)]

DSCN1065.JPG
タイサンボク(泰山木)。花が笑みをこぼしているように見えた。
早大・大隈庭園にて

*******

◆国と国の違いを強調する輩は、そうすることによって手にする物質的な利得をちゃっかり計算しているのだろう。

そんなセコい算盤はじくのをやめて、国境やら民族やらの隔て・仕切りを取っ払えばどんなにか気が楽だろうに。

***

苦い味  茨木のり子

ひとがいるばかり
ただ ひとびとがいるばかり
言葉が違い
風俗が違い
風や
雪や
陽の分量が違うくらい
夜になれば灯をともし
朝になれば働きに出
子を育て 死ぬ
やさしくされれば波紋のように嬉しさひろがり
辛くされれば忘れないぞと拳を固める

なんとまあ 似た者どうし
理想の国も
たちまちに風化
なにごとも永くは続かないのだ
だらけたり緊張したりが生物の呼吸なのだから
過去に釣瓶(つるべ)をおろし
ゆったりと一杯の水も汲みあげられない愚鈍さ
どんぐりの背くらべ
幼い者の教育なんて
どのつらさげて どの国も
血まみれの手で
洗っても洗っても落ちない手で
とっくに子らに勘づかれてしまっているのに
進化したはずの尾骶骨から
ふさふさの尻尾
狡猾獰猛 政府という名の尻尾
性懲(しょうこり)もなく生えてきて
というよりぞろりみずから生やさしめ
尾っぽは雄たけび 民(たみ)が主(しゅ)
どちらが頭やら尻尾やら
ひとがいるばかり
ただ ひとびとがいるばかり
そのあたりまでは来ていながら
鳥や獣や魚にもはるかに劣る暮しぶり
彼らの無心
彼らの静謐にも及ばず
誰が言い始めたか ひとを知的生物と
まだ水気たっぷりの地球で
四十五億人
呆れるほどの似たものどうし


『寸志』(花神社、1982年)所収
谷川俊太郎選『茨木のり子詩集』(岩波文庫、2014年)に拠った。

木の葉と言の葉[2019年06月19日(Wed)]

DSCN0097.JPG


イージス・アショア配備地選定をめぐるデータ誤記&捏造の発覚が止まらない。
電子レンジどころではない電磁波が市街地の間近で出力される恐怖に加え、誤ったデータに基づいてミサイルを発射して構わないとは、誤射・誤爆も知ったことではないということではないか。
「防御」を装う殺傷兵器を扱う者として、正気の沙汰ではない。

【毎日新聞2019年6月18日】
別の場所を山頂と誤認識 仰角に続きミス 陸上イージス 防衛相会見
https://mainichi.jp/articles/20190618/k00/00m/010/069000c


*******

ことば10     伊藤勝行

あやまって
木の実ではなく
その中の木の心を喰べてしまった森のけものが
血をめぐる木の心にうながされて
立ちあがった
それが人間であったとしよう

立つ とは
木のようにひとりで立つことである
支えを断つことである
しかし
立ちあがった人間は
土に根を持たない植物として
きわめて不安定な存在であった

〈タツ〉ために
〈タチ〉の攻撃性と
〈タテ〉の防御性を身につけたが
それは断つことではなかったのである
武器を支えとした人間は
そのことばさえ
〈タチ〉と〈タテ〉で支えてしまった
木の葉と言の葉は
遠くへだたってしまったのである

立っている木の根もとから
一斉に立ちあがって
敵陣へ突撃する人間のさいごの姿は
壮烈ではあろうが
木からみれば
あわれな木ちがいとしか見えないであろう


*詩集『ことば』(不動工房、1977年)所収。
日本現代詩文庫『伊藤勝行詩集』(土曜美術社出版販売、2000年)に拠った。





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