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成田敦「水の身振」[2019年06月12日(Wed)]

水の身振  成田敦

谷川に下りて
朝の澄んだ水を眼に汲みあげる
そしてこれが水なのだ と
掌のひらに水を掬った
口を水で繰りかえしすすぎ
わたしを染めあげてしまう水の色に
そっと息をこらしている

渓流から
水が熟れてふくらむ
その匂いの中
わたしは水に発酵し
水のひびきに立ってゆく
その尖る水のひびきで
わたしの体があたためられる調べに
めざめている

水辺に鳥が降り立っていた
水を啄むのがきこえる
いつまでも
わたしの朝と溶け合ってしたたる水の身振(みぶり)
見えている



新・日本現代詩文庫『成田敦詩集』(土曜美術社出版販売、2007年)

◆水を「眼に汲みあげる」という表現がすばらしい。
さらに、水が「熟れて」におい、「尖る」という、まさに「水の身振」に心奪われ、そのなすがままに身を任せている朝のひとときが目の前に繰り広げられることに息を呑む。

読む者は嫉視している己をひそかに恥じるだろう。



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