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パウル・ツェランの雪の景[2019年02月11日(Mon)]

DSCN9888.JPG
一昨日の雪。積もることはなかった。
今日も降るかと言われていたが、雲は薄く、降る気配は全くなかった。

心遣りにパウル・ツェランの詩を一編――

*******

帰郷    パウル・ツェラン

降雪、ますます霏々として、
鳩の色をして、昨日のように、
降雪、まるでお前が、今もまだ眠っているかのように。

遠くまで横たえられた白。
その上をずっと、果てしなく、
消え去ったものの橇の跡。

その下に、かくまわれて、
湧き上る、
目にこんなにも痛いものが、
丘また丘、
目に見えぬまま。

どの上にも、
自身の今日のなかへ連れ戻されて、
物いわぬもののなかへ滑り落ちたひとりの「私」――
木でできた、一本の杭。

あそこで――ひとつの感情が、
氷の風に吹き寄せられて、
それが、その鳩の、その雪の
色をした旗布を取りつける。


*1959年の詩集『言葉の格子』の中の1編。
中村朝子・訳「改訂新版 パウル・ツェラン全詩集T」(青土社、2012年)に拠った。

◆4連目、「自身の今日のなかへ連れ戻されて」とは、故郷に帰って来ても、かつての自分にはもう戻れないことを確認するほかないことを言う。
パウル・ツェラン(1920-70)の両親は1942年に強制収容所で死亡。彼もまた強制労働に従事させられた。

◆最終連、「あそこで――ひとつの感情が、/氷の風に吹き寄せられて、」という詩句は佐藤春夫の次の詩に似ている。

別離  佐藤春夫

人と別るる一瞬の
思ひつめたる風景は
松の梢のてつぺんに
海一寸(いっすん)に青みたり
(け)なば消(け)ぬべき一抹の
海の雲より洩るやらむ
焦点とほきわが耳は
人の嗚咽を空に聞く


◆特に、前半の感情移入された「風景」が「松の梢のてつぺんに」一寸の海として青く凝縮されて在る、という表現。
感情が風景の中を彷徨し、かつ求めて得られぬ苦悶の末に一点に凝集して行く点が共通している。

しかし、こみあげる感情や纏綿とした抒情の気分は、ツェランの詩にはない。
佐藤春夫の詩にある声(視覚が聴覚に転じることによるクライマックスの表現)もない。

代わりにあるのは、雪というよりは氷として感覚されている痛みだ。
寒気による痛みはやがて無感覚状態をもたらす。
結果、「その鳩の、その雪の/色をした旗布」と表現される「旗布」は、黒い弔旗が反転して「白布」と感覚されているようだ。


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