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『本を贈る』という贈りもの[2019年01月15日(Tue)]

『本を贈る』という不思議な本

『本を贈る』という面白い本に出会った。
編集者に始まり、装丁家、校正者、印刷、製本、取次、営業、書店員、本屋、批評家まで「本を贈る」をテーマに綴った文章が並ぶ。
中味の文章を書く仕事の人から、出来た本を売る仕事の人まで、本に関わる人々10名の面白い話が並ぶ。

◆肝心の読者がいないではないか、といぶかる向きが居るかもしれない。しかし心配には及ばない。いずれも本に関わる人たちだけに、読んだ本、関わった本の中味について触れた文章も多い。

逆に印刷や製本の職人さんで「本は読まない」と公言してはばからない人物も登場するのがおかしい(しかし自分の仕事には細部にいたるまで持てる技を惜しみなく注ぐ)。

◆校正の話では〈衍字(えんじ)〉という単語に出くわした。「脱字」の反対で、不要な活字が混じったもののこと。「はじめに」などの類いだ。
そうした本の世界の術語に出会う楽しみもあるが、この本の最大の美点は、「もの」としての本をこよなく愛する人たちの仕事への愛情が伝わってくる点だろう。
そして基底に本をつくる人間への信頼が存在することが分かる。


映画のエンドクレジットのようなラストページ

◆読み終えて奥付に目を遣ろうとして手がふと止まる。
奥付の右の頁に、〈印刷〉として印刷会社の名前が記され、その下に「工程管理」「用紙手配」「面付」「点検」「検版」「用紙受入」「断裁」「本文印刷」「付物印刷」「スリップ印刷」「紙積み」「発送」「営業」とそれぞれの仕事を担った人たちの名前が明記されているのだ。
それぞれの仕事内容については文章の中に触れていたり注記されているものが少なくないが、それ以外にもこれだけの担当者がいて仕事が進められたということだ。

◆印刷だけではない。〈製本〉についても同じ。製本担当した会社名の下に、「営業」「生産管理」「荷受」「束(つか)見本」「断裁」「折り」「貼込」「バインダー」「くるみ」「見本」「仕上」「発送」という仕事内容とその担当者の名前が記されている。
これは製本を担当した2社のうち1社の分。製本にはもう1社が関わっていて、「表紙貼」「箔押」の仕事の担当者名が記されている。

そうして、その下に〈校正〉牟田都子〈装丁/装画〉矢萩多聞、〈編集/本文組版〉中岡祐介、とそれぞれの仕事を行った人たちの名前が載っているのである。

牟田都子、矢作多聞のお二人は本編の文章も書いているが、それぞれの専門の腕をこの本のためにふるったということになる。
校正者の名前を記録することも異例である。

最後の〈編集/本文組版〉の中岡祐介氏は本を出した「三輪舎」の代表。編集を担ったのだから『本を贈る』の編者として表紙に名前を刷ってもおかしくはないところだが、実際に文章を書いた10名を共著者としている。

◆いずれにせよ、通常どこにも名前が登場することのない人たちのことを、本の最後にしっかり記した。
映画の最後に数分にわたってスタッフの名前や協力者の名が流れるが、あのエンドクレジットに当たる1頁を収めたこと、これがこの本の大きな特色だ。

彼らの手が直接かかわって出来上がった一冊を手にし、ひもといたのだ、ということを最後に確かめて私たちは本を閉じることになる。まことに豊かな時間を生きたという手応えとともに。

◆装丁家・矢作多聞「女神はあなたを見ている」から気に入った部分を紹介する。

「京都で写真を撮っている人がいるんだけど、ちょうど同い歳だし、会ってみませんか」
晶文社の編集者・斉藤さんに紹介され、吉田亮人(あきひと)さんと出会ったのは四年前のこと。
四条のタイ料理屋で落ち合ったぼくらは、初対面にもかかわらず、一〇年ぶりに再会した友人のように、何時間も飽きることなく話しこんだ。彼はかばんがパンパンになるほど写真を詰めこんできたが、一枚の写真もみせることはなかった。ぼくは装丁家のくせに本づくりの話をほとんどしなかった。ぼくは一〇代で学校を辞めて絵描きになり、吉田さんは小学校の先生を辞め写真家になった。二人には年齢のほかに、「学校という場所からドロツプアウトした」というユニークな共通点があった。
どうして、写真家になったんですか、と聞くと、
「妻に、教師辞めて写真家になったら、と言われて……」
と笑う。有名な写真家の作品を見て衝撃を受けたとか、学生時代からカメラだけが友だちでとか、そういう返答を予想していたばくは面食らった。
しかし、彼は写真の勉強はおろか、カメラさえ持っていなかった。近所に住む「写真に詳しいおじさん」に相談し、街の家電量販店で安いカメラを買った。
撮るものがない。なにを撮ったらいいか悩んでいると、友だちが言った。
「写真家はみんなインドに行くもんだ」
吉田さんはその言葉をそのまま素直に受取り、深い考えもなしにインドヘ行く。
 


★『本を贈る』について三輪舎のホームページ;
http://3rinsha.co.jp/okuru/

★2月に「本を贈る 展 それぞれの仕事にまつわる、ものやこと」というのが開かれるそうだ。
2019年2月1日(金)〜3日(日)@BORN FREE WORKS(鎌倉由比ガ浜)
http://3rinsha.co.jp/3087/

[本を贈る」三輪舎-A.jpg
『本を贈る』(三輪舎、2018年)

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