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齋藤貢の詩「魂」[2019年01月10日(Thu)]

◆朝日新聞夕刊2面の「……をたどって」という連載、赤田康和による『危機の時代の詩をたどって』が始まっていて、4回目の今日10日はフクシマの詩人たちを取り上げた。一人は齋藤貢氏。現在いわき市に住むが、2011年3月11日には南相馬市小高の小高商業高校に居た。

◆記事は2018年10月に出た詩集『夕焼け売り』(思潮社)を紹介している。

次のような詩句を読むと、詩人の「憤怒」はますます燃えさかり、同時にそれを御する氷のような、しかし決せて溶けることのない冷徹さを内に籠めたものになっているようだ。

夕焼け売りの声を聞きながら
ひとは、あの日の悲しみを食卓に並べ始める。
あの日、皆で囲むはずだった
(にぎ)やかな夕餉(ゆうげ)を、これから迎えるために


齋藤自身も義理の叔母やその娘を津波にさらわれ行方が知れぬままである。母も寝たきりになり、87歳で亡くなったと、記事は伝えている。

◆2013年の詩集『汝は、塵なれば』から一編。


魂    齋藤貢


ひとりぽっちの
暗くて重い。

憤怒の魂よ。

あなたは
真夜中の海に
瓦礫のように浮いたままで。

水の沈んだ下半身は
クラゲのように
もうこんなに透きとおってしまって。
もうこんなに冷たくなってしまって。

こうなると
あなたは
もうこの世のひとではないのかもしれない。

月は出ていないので
くらやみに
透明になったあなたのからだは
きらきらとひかる。

ひらひらと
思い出も波間を漂っている。

からだでもない
こころでもない
これが魂というものなのだろうか。

握りしめていた母(かあ)さんの手をあなたは離した。
そのとき
なみだで
急に目がみえなくなって
耳が聞こえなくなって
からだで呼吸ができなくなって。

苦しいなぁ。

声も出せなくなって。
あなたは
彼岸へと
浮遊するひとになっている。

不思議なことだが
こうなると
魂はとても軽いのだ。

ひとりぽっちの
暗くて重い。

憤怒の魂よ。

背筋を正して
この世に別れの挨拶をすると
からだが
波間にきらきらとひかる。

こころも
きらきらとひかる。

もうすぐ
彼岸から
迎えの舟もやってくる頃だろう。
 


『汝は、塵なれば』(思潮社、2013年)

◆1連目「重い」は連体形で、「ひとりぽっちの/暗くて重い」全体は2連目の「憤怒」にかかることばのはずだが、詩は「。」で一たん息を止める。
そうして一行置いてから、言葉を継いで「魂」に直接呼びかける。
水の中の苦しさ、そして、手を握りしめていた母娘が抗いようのない力で引き離されて行ったことを想像したためである。
(この詩に於いて「。」は、水中で固く結んだ口から少しずつ漏れて浮かんでゆく息のようだ。)

母親の手を離した時の娘に詩人は思いをはせる。

〈 苦しいなぁ。 〉

ほかにどんなことばがありえたろう。

*******

*齋藤貢については2018年9月3日の記事《わたしたちの向かう方位》で、同じく『汝は、塵なれば』から「揺れて、揺れて」を紹介した。    
http://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/975

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