地虫の生涯[2018年10月22日(Mon)]
◆大岡信にこんな短詩がある。
時間 大岡 信
地虫は一生の間知らずに終る
一メートル離れた根に棲む隣人を
『草府にて』(1984年)所収。岩波文庫『自選 大岡信詩集』(2016年)によった。
◆木の根方をうごめく地虫に我々の孤独を重ねて見ているようだ。
立ち上がればすぐ隣の木の根方にも同様のやつが這い回っているのだが、そして両方に目を注ぐ自分には彼らの連帯を願う気持ちすらあるのだが、立ち上がって見下ろす気にはなれない。
一メートルどころか千キロだって移動することさえある人間なのに、その一人である己もまた、己よりはるかに大きな何者かに見つめられていることを感じているからだ。
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◆先日出会った上野公園の東京藝大卒業制作からもう一点――
黒氏琢也「ムズムズ」 (2018年)
なぜ「ムズムズ」という題なのか、離れて見ていてはわからない。
近づいて根元を見ると――
――というしかけである。
足下に蠢く虫たちにそそのかされてか、樹上には熾(さか)んに炎が噴きあがっているようだ。
あるいは木肌をはい上がる虫たち自らが、次々と我が身を灼いて空に昇って行くようでもある。