竹中郁「夜の星」[2018年09月21日(Fri)]
竹中郁・画(1968年 孫・山内エリに宛てたハガキより)
夜の星 竹中 郁
日本の上に星がある
ガソリンの匂いのする星がある
訛りのひどい言葉つきの星がある
フォード自動車のひびきのする星がある
コカコラ色の星がある
電気冷蔵庫の唸りのこもった星がある
缶詰のごそごそを秘めた星がある
ガーゼとピンセットで掃除され
フォルマリンで消毒された星がある
原子放射能をふくむ星がある
なかに 目にもとまらぬ速さの星
突拍子もない軌道を走る星
ふかく ふかく
宇宙の谷底めがけて突込んでゆく星もみえる
日本の上には星がある
それが 冬の夜
毎夜 毎夜
重たい鎖のようにつらなってみえる
竹中郁少年詩集『子ども闘牛士』(理論社、1985年)
◆モダニズム詩人竹中郁(1904-82)は戦後間もなく、毎日新聞大阪本社にいた井上靖のすすめで児童詩誌『きりん』を発行。1950年からは毎月、大阪の「こども詩の会」に子どもたちが持ち寄った詩を批評し、指導に尽力した。『子ども闘牛士』は竹中の没後『きりん』を引き継いだ小宮山量平が敬愛の念をこめて編んだ詩集である。最初に掲げた画のように竹中自筆の絵はがきを挿画として多数収録し、愛情あふれる詩集となっている。
後掲のカバー絵の『子ども闘牛士』も竹中が描いたもの。
小宮山が創業した理論社は、〈詩の散歩道〉など少年詩集シリーズを多く世に送っている。
◆さて竹中の詩「夜の星」は《三いろの星――組詩のこころみ》と題する連作の一つだが、この「星」が、星条旗に象徴されるアメリカを指していることは明らかだ。
自動車や原子力、月ロケット、コカコーラや冷蔵庫など、息もつかせぬスピードでアメリカ文明に席巻されたこの国の頭上に光る星々。とりわけ冬の夜空にそれは重たい鎖としてつらなり光るのだと。
南シナ海に展開した海自の潜水艦の頭上にもそれは光っていたであろうか。