李禹煥の詩[2018年05月25日(Fri)]
◆「もの」派の美術家、李禹煥(リ・ウーハン 1936〜)に詩集『立ちどまって』があることに気づいた。
山頂 b 李禹煥
山頂に立ったら
両手を前に差し出せ
やがて空が降ってきたら
抱えて山を下りよ
◆山頂に立つためには垂直方向への運動を持続させねばならない。
上へ上へと体を運んで山頂に立ったら、次に為すべきは両手を前に差し出すことだ、という。
水平方向への動きである。
二つが交差するところに「空が降って」くる。
それはこの世界を手にすることである。
山頂に立った自分は、自分でありながら、自分ではないものについて知った自分である。
世界によって結節点を刻印された自分と言ってもいい。
手にしたものを大事に抱えて山を下りる、とは、下降して再び地べたに立ったとき、手にしたものを水平方向に伝えるためである。
すなわち下降の動きと水平の動きが地上でクロスするところに自分は降り立って人々に伝えることを行う。表現という行為の一つの在りようである。
◆この詩にはヴァリエーションがある。
山頂 a
山頂に立ったら
両手を伸ばして待ちなさい
やがて空から風が来たら
吹き上げられて登りなさい
◆ここでは垂直方向の力と水平方向の力とによって風が生まれ、上へ上へと吹き上げる力となること、その力に依りながらさらに上方へ登ってゆくように、と促している。
鉄板の上に石が置かれた立体作品であったり、白いカンバスにグレーの四角形が浮かぶ(あるいは沈む)平面であったりする、一見静的な李禹煥の作品からエネルギーの放射を感じる不思議を解く鍵が、詩の中にあるように思う。
★参考記事
【鎌倉近代美術館 その1】[2016年1月25日]
⇒https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/244
李禹煥『立ちどまって』(書肆山田、2001年)