「豆腐」―井上俊夫の戦場[2018年05月01日(Tue)]
ムラサキハナナ
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◆木島始が編んだ『列島詩人集』は、兵士として大陸に渡り戦後を生きた人々の姿も多く収める。
たとえば井上俊夫の次のような詩。
豆腐 井上俊夫
あんな時は
気が立っているから
こいつを串刺しにするような
手応えしかないもんだ。
三十人からの初年兵に
順番に突かしたのだから
青い綿入れの軍服は
無論、蜂の巣さ。
農業協同組合の理事会がはてたあと
すき鍋をかこむ
酒くさい息の一人が
ぎこちない手附きで
真赤な肉片を一枚一枚敷きならべ
その上に
中国の百姓だって好きな
豆腐をのせた。
*井上俊夫(1922-2008)。大阪生まれ。小野十三郎らに師事。
1942〜46年、兵役に就く。
「従軍慰安婦だったあなたへ」(かもがわ出版、1993年)
「初めて人を殺す――老日本兵の戦争論」(岩波現代文庫、2005年)などの著作がある。
◆改訂された高等学校学習指導要領(2022年から実施)に寄せられたパブリックコメントを閲覧していたら、体育の武道で銃剣道の普及を称揚する声が複数あった。
閲覧は1回につき1時間と制限されているので、せいぜい100通ほどを通覧するのが精一杯だったが、その中に2件存在した。
◆昨年改訂された中学校の学習指導要領(2021年から実施)の保健体育の武道に、突如「銃剣道」が付け加えられ、それが一部の政治家や愛国心教育に血道を上げている人々の組織的動員によるものであったことは下記の記事で触れた。同じことが高校の武道においても目論まれていたのである。
【関連記事】
★(1)銃剣道 歴史に目をふさぐおぞましさ[2017年4月2日]
⇒https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/459
★(2)まともじゃない「愛国心学習指導要領」[2017年3月31日]
⇒https://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/458
◆上記(1)の記事で、辺見庸が井上俊夫の「初めて人を殺す――老日本兵の戦争論」(岩波現代文庫、2005年)を引用し「刺突訓練」について書いていることを紹介した。
◆井上俊夫は「豆腐」というこの詩において、スキ焼キを囲みながらの体験談の形で、初年兵の「刺突訓練」の様子を語らせる。
嗜虐的ですらある――というよりは、嗜虐的であることが勇猛さと不可分である――集団による陶酔的な殺戮が生々しくここに再現していることに戦慄する。
このわずか17行の詩篇を読めば、学校に銃剣道を導入することが、集団的乱心にほかならないことを思い知るはずだろう。