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角田柳作という人(2)[2018年01月06日(Sat)]

角田柳作という人について、司馬遼太郎『ニューヨーク散歩』(「街道をゆく 39」朝日文庫、1997)は、コロンビア大学で彼に師事したドナルド・キーンの記憶に拠って描いている。「週刊朝日」に連載当時(1993年)日本において広く知られていなかった事情がある。
「角田柳作先生」と標題を付した回で、まず人物像を次のように描き出す――

いかにも明治人であった。
たとえば、自然な謙虚さ、頑質なばかりの地味さ。
また禅の説話のなかの人のように名利に恬淡としていたこと。
存在そのものが古典的日本人のエキスのような人でありながら、日本に住むことなく、ニューヨークのような超現代的な大都市に住みつづけたこと。
(略)
すばらしい学殖と創造心をもちながら、著作を持つことに無頓着だったこと。理由は「私はまだ生徒ですから」というのが口癖だったこと。このため母国では無名だったこと。

◆そのほか司馬の記述によっていくつか点綴しておくと、群馬の出で旧制前橋中学校から東京専門学校(早稲田の前身)に学び、坪内逍遙の講義をきいたこと。明治30(1997)年には世界最初(!)の研究書である「井原西鶴」を20歳で刊行した。
(司馬が(!)を付して特筆しているとおり、岩波の旧日本古典体系の「井原西鶴・上」は参考書目の筆頭に〈角田柳作・井原西鶴〉を挙げている)。

その後、明治42年、ハワイに渡り、ニューヨークにやって来てコロンビア大で講義を聴いたのは1918年、すでに41歳になっていた。学問の飽くなき遍歴者というべき人だった(司馬)。

コロンビア大ではプラグマティズムの大宗というべきデューイの講義をきいた。

◆当時のコロンビア大に乏しかった日本学の文献を寄贈し、これが「日本文化研究所」として発足、角田は研究所長兼特別講師に任ぜられた。
1928年から日本思想史、歴史、古典文学を講じるようになった。

◆10年後、角田の薫陶を受けたのが、のちの歴史家ハーバート・ノーマン(1909-57)であった。
父ダニエル・ノーマンは宣教師として来日し、保養地としての軽井沢を開拓した人として知られる。ハーバートは軽井沢で生まれ、カナダのトロント大を出たあと、英・ケンブリッジ〜米・ハーバードに学び、ロックフェラー財団の学資を得てコロンビア大の角田のもとで研究した。
戦後はカナダ駐日代表部主席として活躍したが1957年、アメリカに吹き荒れたレッドパージがカナダにも及んでスパイの嫌疑を受けた果てに赴任先のカイロで自ら命を断った。

◆ハーバート・ノーマンは角田柳作についてふれた文章は残さなかったようで、その理由を司馬は「ノーマンは鋭すぎるほどに社会科学的な体質だったせいか」と書いているが、ノーマンの重要な著作「忘れられた思想家 ― 安藤昌益のこと」(岩波新書、1950年)が念頭にあってのことだろう、安藤昌益や本多利明らについては「戦前、日本の大学で研究・講義された形跡がすくなかった」のに対して、「その時期、ニューヨークのコロンビア大学では、角田柳作によって、朗々と講義されていた。」と、書いている(『ニューヨーク散歩』「学風」の章)。
角田の講義が若い日本研究者たちのために多くの素材を融通無礙に示したことが想像される。
ドナルドキーン氏を軸としてその学統の結実ともいうべき人々が司馬の『ニューヨーク散歩』には多数登場する。角田柳作という一人の傑出したmentorのもとで学んだ人々が、それぞれに個性豊かな風姿で読む者の前に立ち現れてくる思いがする文章である。

◆この本で「瀉瓶(しゃびょう)」という言葉を知った。司馬の説明を引く。

キーンさんは、復員後、大学にもどり、大学院で角田先生の瓶(へい)から水のすべてを自分の瓶に瀉(そそ)いでもらった。瓶(へい)を呉音で瓶(びょう)と読んで、瀉瓶(しゃびょう)という。
このことばは、『広辞苑』にはある。しかし古い漢語の辞典には見あたらない。
空海が創(はじ)めた真言宗では、「瀉瓶相承」(しゃびょうそうじょう)は重要な用語である。
このことばは、空海の師である長安の恵果がつかった。


瀉瓶はコロンビア大だけの話ではなかった。
若き角田柳作が旧制福島中学で関わった出来事について、長田弘が司馬に書簡の形で伝えた。
同校の歴史で「角田事件」として知られるその出来事もまた師弟間の「瀉瓶」と角田柳作という人物のひととなりを良く伝えているように思う。

司馬遼太郎ニューヨーク散歩.jpg


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