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柳美里と谷川雁[2017年11月20日(Mon)]

DSCN4775-A.jpg
 寒さも日の光も竹林を縫うように静かにわたる。

*******

柳美里「JR上野駅公園口」を読んで、主人公カズのような「存在しない者」たちの掌や足の痕跡を、粘土板に刻みつけて、この世界に存在する者として表現する作者、というイメージを思い浮かべた。
★11月18日の記事『JR上野駅公園口』の語り手http://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/685

◆その上で同じ著者の随想「言葉は静かに眠る」(新潮文庫、2004年。単行本は2001年)を読んでいたら「最後の煙草」という一篇に出会った。
詩人・谷川雁を追悼したものである(「文藝」1995年夏季号に掲載)。

1993年の秋に谷川雁に初めて会ったときのことが書かれている。
四谷のBARにたまたま来ていた詩人に、「文藝」の編集者が引き合わせてくれ、しどろもどろに挨拶したあと、煙草をぱっぱっと喫って慌てて顔のまわりに煙を張りめぐらしたことなどが綴られている。
谷川にドラマと小説の違いを端的に指摘されて、柳は戯曲や詩が文学の本流だと再確認して意を強くする。会話から谷川が肺がんを患っていることを知る。

谷川の口から、デパートの子ども服売り場を歩くのが好きだ、などとプライベートの話題も出た後に、谷川が柳に煙草を一本、所望した。

その場面から最後までを下に転記する。

大丈夫なのだろうか、と躊躇(ためら)っているとOさんが自分の煙草を差し出した。
「最後の煙草を誰にもらうかは重要だ」氏はその煙草を受け取らずに悪戯っぽい笑みを唇に漂わせた。
「メンソールですけどいいですか」私は氏に煙草を渡し、火をつけた。
その火に横顔が照らされた。治らない病を負っているひとには見えなかった。凛として、なお柔和な居ずまいだった。
煙草を旨そうに喫い終えると、氏は傍らに置いてあった中折帽をかぶって立ちあがり、くたびれた靴を履いた。
背筋をぴんと伸ばした立ち姿で、谷川雁氏は去った。

遅れてきた読者として、私は詩書をひらいて、読む。

まだ低く訴えている
彼の肉体は苦しい栄光に
もうほとんど透きとおっていた
午前三時迫りくる「あれ」のために
世界は闇のなかで粧(よそお)うた
銀河は高貴な声のように遠く
夜は若かった
香油の時は一滴々々彼の額にそそいでいた
血のうせた指を彼はそっと折ってみた
星たちは秘かな関係(かかわり)を断った
霧のつめたさが拳につたわるだけであった
  谷川雁「ゲッセマネの夜」


◆詩はイエス・キリストがゲッセマネで捕縛される直前を描く。
詩の中の「彼」の孤独に「JR上野駅公園口」のカズの孤独が重なる。

谷川雁の「ゲッセマネの夜」は4つの連から成る。柳が谷川の死を悼みつつ書き写したのはその2連目である。

◆上に続く3番目の連を書き写しておく。
この世界から存在しない者にされようとする者を悼み(傷み)つつ、言葉によって在らしめようとする人の「苦痛」は、描かれる者の苦痛と重ならずにはいない。

泥土のような観念がめざめた
このうえもなく暗い形象に
ほんのすこし罅(ひび)が入った
肉を破ろうとして新しい歯は
さらに深く苦痛を埋めねばならなかった

柳美里言葉は静かに踊る.jpg



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