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モネの描いた霧のロンドンと2人の日本人[2018年09月18日(Tue)]
2018091513190横美前新宮晋.jpg
新宮晋「風の音符」(1989年)横浜美術館。
天候の具合にもよるのだろうが、美術館左翼の窮屈なスペースに置かれていて風の訪れもないので動きを楽しむことができなかった。残念。

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モネの描いた霧のロンドン

◆横浜美術館で開催中の「モネ それからの100年」展は、モネと現代アートとの対比や交響を呈示する卓抜な企画だった。
ただ、会場の都合か、作品の全体を見るにはスペース不足のところが目立った。岡崎乾二郎の2点組作品(「山の中腹のちっぽけな村は〜」および「自分の暮らした村がこんなに小さく思われたことはない。〜」と始まる散文詩のような長いタイトルをそれぞれ持つ縦180×横130cmの2作品)や、その近くにあった丸山直文「puddle in the woods5」(227.3×181.8cm)などだ。

◆一方、モネ自身の作品では、1899年に始まるロンドン連作群から、滞在したホテル、サヴォイからみて南南西に見えるテムズ河上のチャリング・クロス橋と、反対方向の東南東に架かるウォータールー橋(「霧の中の太陽」)とを背中合わせに展示し、不思議な場が演出されていた。
2枚の周りを何度かめぐって光の変幻を味わうことが出来た。

モネ「テムズ川のチャリング・クロス橋」(1903年)_0002.jpg
クロード・モネ「テムズ河のチャリング・クロス橋」(1903年)

展示室の入り口正面にあった。
太陽の位置と橋の影から正午近い時間の景とされるが、名にし負うロンドンの霧が全体を覆っている。右奥に霞んで見えるのは国会議事堂。
モネは霧のヴェールが生み出す神秘的な静かさと空間の広がりをことのほか好んだようだ
深谷克典氏の作品解説による。次の作品についても同氏の解説を参照した)。

モネ「霧の中の太陽」1904年_0001.jpg
「霧の中の太陽」(1904年)

まるで夕景のようだが、深谷氏の解説によれば、太陽の位置と方角からして、実は午前中の光景であるそうだ。未だ上って行く途中の太陽が水面を鮮やかな色に照らしている。

展示された2枚の絵を順に眺めることは、一日の中でいえば時間を溯ることになる。
幻惑された鑑賞者の足元にも霧が立ちこめてくるかのようだ。
  (*モネの作品、いずれも同展図録より)


◆モネが連作のためにロンドンに滞在して制作に集中したのは1899年の9月半ばから10月末まで、翌1900年の2月から4月まで、そして1900年1月から4月にかけてであるが、上の2枚の年記は順に1903および1904である。ジヴェルニー(池を持つ庭により「睡蓮」の連作が生まれていったところ)に戻ってからこれらの作品を完成させたことになる。

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霧のロンドンに2人の日本人

◆モネがロンドンで新世紀を迎えた頃、ロンドンには夏目漱石が留学していた。イギリスに着いたのは1900年の10月28日。1902年の12月5日にイギリスを発つまで、呻吟の2年余りを過ごした。
のちに次のように振り返っている。

倫敦(ロンドン)に住み暮らしたる二年は尤も不愉快の二年なり。余は英国紳士の間にあって狼群に伍する一匹のむく犬の如く、あわれなる生活を営みたり。(「文学論」序)

神経衰弱に陥り、転居を繰り返すが身を包む霧は晴れず、引きこもり同然の留学生活。
モネと街角ですれ違うことはなかったかと思うが、当時すでに世評の高かったモネの絵を観る機会があったかどうか。

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◆漱石が帰国の準備を進めていたころに、アメリカからロンドンにやってきた若き日本の詩人がいた。ヨネ・ノグチ(野口米次郎 1875-1947)である。そのイギリス到着は1902年11月20日。二人のロンドン滞在は2週間だけカブっている。

アメリカに続いてロンドンでも詩集を出そうと意気込んでやってきた青年ヨネ・ノグチだが、引き受けてくれる出版社は見つからず、やむなく自費出版で小詩集『東海より』(From the Eastern Sea)を出し、これが評判となる。
英米で詩人として盛名を馳せたヨネ・ノグチが再び日本の地を踏んだのは1904年の9月。18歳で飛びだしてから実に11年ぶりのことだった。
彼もまた、モネの描いた霧のロンドンを同じ頃に味わったわけである。

 *星野文子「ヨネ・ノグチ 夢を追いかけた国際詩人」(彩流社、2012年)によった。

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