CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る
« 幻のイサム・ノグチ《広島原爆慰霊碑》 | Main | やく火いまぞ熾りつ »
<< 2019年11月 >>
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
日別アーカイブ
若松英輔「夏の花」[2018年08月06日(Mon)]

◆朗読劇「少年口伝隊一九四五」を観ての帰り、街をたたくように急に降り出した雨をしのごうと寄った本屋で、若松英輔『幸福論』という詩集に出会った。

評論家として名前は聞いたことがあり、先日TVでやっていた「100分de名著」の《~谷美恵子「生きがいについて」》にも出ていた人だった(未見)。

◆詩集『幸福論』は、ギュウギュウ詰め込むのではない、石や白砂、そして時間というものも素材にして石庭を作ってゆくような言葉の置き方で、言葉と言葉の間もこせつかぬ間合いを生み出しながら、連ねるというよりは心の中で反芻しながら置いて行く、という感じだ。

帯に〈第二詩集〉とあったので、では第一詩集は、と探したら、昨2017年に『見えない涙』というのを出している。

どちらも亜紀書房から同じ判型、ほぼ同じ厚さで造られた詩集だった。
装丁はどちらも名久井直子という人。この人に装丁を委ねるまでの経緯は『見えない涙』のあとがきに記されていて、若松氏の人となりと仕事への真摯な姿勢も伺うことができ、それは詩作品から受ける印象と同じ=同じ呼吸をしていると感じさせるものだ。

◆その第一詩集『見えない涙』は、「喪(も)」のいとなみから生まれた詩集である。
巻頭に置かれた「燈火」という詩が伝えているのは、「喪(も)」は亡き人への対話によってもたらされる生の深まりである、ということだ。
(初めは答えが返ってこないのだが、「死者たちの/語らざる声」に気づき、その声に耳を傾けることで生者と死者との対話が始まる(2編目の詩「風の電話」)。

◆小説「夏の花」を書いたヒロシマの人、原民喜との対話もそのようにして始まった。

8月6日である。
若松英輔の詩「夏の花」全行を写しておく。

夏の花    若松 英輔

はじめて
広島の街を訪れたのは
会社勤めをしていた
四半世紀以上前のこと
営業マンだった私は
商談のために来た

緑色の路面電車に乗り
あなたの詩碑が立つ
原爆ドームを遠目に見つめ
地面を踏んだとき
なんともいえず懐かしい
そう感じた

ある時期 あなたは
文藝雑誌を作っていて
編集部近くの部屋で暮らしていた
その場所から一分ほどのところに私は
もう長い間 暮らしている
越してきたとき
かつてあなたがいたことは知らなかった

亡くなるときあなたは
自宅から遠くない
西荻窪と吉祥寺の間にある
線路に身を横たえた
あなたも何度となく歩いただろう
その街に 私は
十余年も居をかまえていた
その頃は
かつてあなたがいたことなど知らなかった

でも 飢えを満たすように
あなたの言葉を読み始めたのは
三月に起こった あの
大きな禍(わざわい)を経験してから

どうしても あなたに会いたくて
「夏の花」に記されているとおり
生家から東照官までの道を
八月に 秋に 肌寒い冬にも歩いた
回数を重ねると
遺書のような詩であなたが
何度となく
祈りを
よみがえる青葉を
謳わずにいられなかった気持が
少し 感じられてくるようにおもう

願うとき人は
大いなるものに
自らの思いを
伝えようとする
だが 真に祈るとき人は
まず 自らに沈黙を強いる
あなたのいう祈りは
何かを語ることではなくて
言葉を奪われた者たちの
声ならぬ声を聞くこと
生者が死者たちの呼びかけに
耳を傾けること

母と話していたとき
あなたの故郷を
懐かしく感じるというと彼女は
驚きもせずこう言った
あなたのおじいさん
広島の人だから

知命に近くなるまで
まったく知らされなかったけれど
あなたが生まれ 愛した
あの場所の血脈が
私のからだにも
流れているようなのです


若松英輔詩集見えない涙.jpg
若松英輔『見えない涙』(亜紀書房、2017年)


この記事のURL
http://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/947
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました
 
コメントする
コメント
検索
検索語句
最新コメント
根来珠青
銃剣道 歴史に目をふさぐおぞましさ (03/29) 当ブログ管理人
ジャーナリスト・安田純平さん解放との報【追記】 (10/26) 3億円で買える銃と弾
ジャーナリスト・安田純平さん解放との報【追記】 (10/25) マキシミリアナ・マリア・コルベ
コルベ神父のこと その2 (06/23)
若き音楽家リュカ・ドウバルグ (06/09)
タグクラウド
プロフィール

岡本清弘さんの画像
http://blog.canpan.info/poepoesongs/index1_0.rdf
http://blog.canpan.info/poepoesongs/index2_0.xml