CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る
« 本郷新「奏でる乙女」像/「父と暮せば」(2) | Main | 明日6月10日は国会前へ »
<< 2019年08月 >>
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
日別アーカイブ
「父と暮せば」(3)えんぺつ[2018年06月08日(Fri)]

父と暮せば.jpg


鉛筆(えんぺつ)

井上ひさし「父と暮せば」第2場は夏休みおはなし会で子どもたちのために語る話の原稿を書いている美津江(伊勢佳世)の姿から始まる。

戯曲のト書きには「電球の下、文机(ふづくえ)の上で、白ブラウスにモンペの美津江が鉛筆でなにか書いている」とある。

手にした鉛筆を懐かしげに見る美津江のまなざしが印象に残った。
その鉛筆は美津江にとって特別な意味を持つものであることが第4場で明らかになるのだが、その予感を観客の胸にフッと小さく波立たせて物語の先へといざなう表情。

役者さんはセリフがあるところだけで演じているのでないというのは当たり前の話ではあるけれど、それを自然になしうるかどうかは役者によるだろう。
前に2回観た「父と暮せば」では気づかなかったワン・ショットである。

◆この鉛筆のいわれは、芝居の終局となる第4場で、明らかになる。

美津江 そいは大事な鉛筆(えんぺつ)じゃけえ、うちに戻してや。昭子さんとのお揃いなんじゃ。ピカのときにモンペの隠しに入れとったけえ、生き延びた鉛筆なんじゃ。

だが、竹造はその鉛筆を美津江の手からもぎ取り、折ってしまう。

その時、美津江が「申し訳なー(申し訳ない)」という思いで硬く鎧ってきた心の薄皮が切り開かれる。
その苦痛の極点のシーンとつながってゆくのである。

セリフのないところでの役者の仕草、視線や表情が、幾層もの「申し訳なー」を抱えた娘の再生の物語を大きな弧として描いてゆく、一つ一つの点描であることを知る。

◆第2場にあった竹造の次のセリフを思い出す。

竹造 おまいがしよるんはおはなしじゃけえ、言うそばから風がおまいのことばを四方八方へ散らばしてくれる。よい子たちのこころの中を通り抜けたおまいのことばは風に乗って空へのぼり虹になる。証拠はのこらん。比治山を吹き抜ける広島の風がおまいの味方なんじゃ。

占領軍の検閲を気にかける美津江を励ますセリフだ。

◆芝居もまた後に残らない。しかしこころを通り抜けたことばや表情は風にのって大きな虹を架けわたす。
役者の「えんぺつ」が描いてくれたこの虹は、いつまでも消えないばかりか四方八方に広がってゆく。

父と暮せばチラシ裏.jpg


この記事のURL
http://blog.canpan.info/poepoesongs/archive/885
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました
 
コメントする
コメント
検索
検索語句
最新コメント
根来珠青
銃剣道 歴史に目をふさぐおぞましさ (03/29) 当ブログ管理人
ジャーナリスト・安田純平さん解放との報【追記】 (10/26) 3億円で買える銃と弾
ジャーナリスト・安田純平さん解放との報【追記】 (10/25) マキシミリアナ・マリア・コルベ
コルベ神父のこと その2 (06/23)
若き音楽家リュカ・ドウバルグ (06/09)
タグクラウド
プロフィール

岡本清弘さんの画像
http://blog.canpan.info/poepoesongs/index1_0.rdf
http://blog.canpan.info/poepoesongs/index2_0.xml