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夜は劫々と更けまする[2017年12月24日(Sun)]

DSCN4974.JPG

◆電車乗り換えでホームで待つあいだ、湘南台駅裏の通りを眺めていたら白い物が積まれているのが見えた。目をこらすと牡蠣の殻のようだ。
海鮮居酒屋の看板に気づくのと同時に、中原中也「サーカス」の一節が浮かんで来て、ビールジョッキを手にのどを鳴らすお客の姿を思い浮かべた。未だ昼前だというのに。

観客様はみな鰯
  咽喉(のんど)が鳴ります牡蠣殻(かきがら)
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

     屋外(やがい)は真ッ闇(くら) 闇の闇
     夜は劫々(こふこふ)と更けまする
     落下傘奴(らくかがさめ)のノスタルジアと
     ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

       
        中原中也「サ−カス」より(『山羊の歌』所収。1967年版全集によった。)

◆今年出た本に佐々木幹郎「中原中也 沈黙の音楽」(岩波新書、2017年8月発行)という本があるが、その中で佐々木は、「劫々」を中也自身は「ゴウゴウ」と読んでいただろう、と推定している。新編の中也全集(2000〜04年。同じく角川書店)に関わった佐々木であるから証拠固めは手堅い。
詩集「山羊の歌」が刊行される直前の1934年の11月初旬に、詩人たちの朗読会が麻布の「龍土軒」で行われ、中也自身も自作を朗読した。その時の出演者の一人、声楽家の照井瀴三(てるい ゆうぞう)が1936年に出した「詩の朗読」という本に中也の「サーカス」を紹介し、そこで「劫々」に「ごうごう」と振り仮名を付けているのだという。この照井の本の出版記念会(1936年6月27日)に中也も出席しており、そのとき振り仮名を確認しただろう、と述べた上で、佐々木幹郎は《おそらく中也自身は「ごうごう」と読んでいただろう。》と結論づけている。

◆「サーカス」は高校の教科書にも載っていて、朗読される機会も多い。この佐々木の本が登場した以上、「ごうごう」という読み方が優勢になるものと予測するが、無論それ以外の読みが否定されるわけではない。従来の読み「こうこう」は、同音の「皓々」や「耿々」あるいは「煌々」の連想を誘い、外の闇と対照的なサーカス小屋の灯りをイメージさせる点で捨てがたい。

◆1967年版の「全集」では「劫々」に中也が刊行時に振った振り仮名と区別して( )書きで(こふこふ)と振っていて、「koukou」と読む立場を採用し、編注に「果てもなく」の意味であることを記している。しかしその注にはさらに、【ただし、「ケフケフ」と読めば、汲々と勉め励む意となる】と付記してもいるのだ。この「kyoukyou」という読み方を採用すればさらに感じが違って来る。
同音の「恐々」「兢々」「恟々」などが連想され、ハラハラしてブランコ乗りを見上げる観客の様子が想像される。

◆詩集「山羊の歌」刊行は1934年だが、「サーカス」が最初に発表されたのは1929年の秋である。彫刻家・高田博厚の紹介で「生活者」9月号および10月号に中也の初期詩篇群が掲載されたのであった。

◆前年1928年には5月に済南事件(陸軍第二次山東出兵)、6月に張作霖爆殺事件(満州某重大事件)があり、一方では28年11月に控える昭和天皇即位の大典を口実に、治安維持法改正(28年6月。死刑・無期刑を追加)によって思想弾圧が強化される中、29年に入って山本宣治代議士が暗殺されるなど国会をめぐる不穏な事件があり、この年、29年の秋には世界恐慌が始まる。議会政治の機能不全は軍令部の暴走を許し満州事変、日中戦争へと拡大されて行く。

◆そうした時代に作られた中也の詩は、サーカス小屋の熱狂に対するに、戦雲の闇が支配する外界の不穏を暗示する。幼年期の日露戦争の記憶と昭和の戦争との間、すなわち戦間期が中也の詩群を生み出す青春であったことになる。

*******

DSCN4953昭和3年11月大典記念碑-A.jpg
昭和三年十一月の刻印がある昭和天皇の大典(即位)記念碑
(町田市原町田の町田天満宮)

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