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樹の詩ふたつ[2014年11月30日(Sun)]
忘れがたい詩

観音堂14113019440-b.jpg
横浜・東俣野の観音堂前のイチョウ
このあと吹いてきた風で惜しげもなく葉を散らせた


歩道に落ち葉が散り敷く季節。
決まって思い出すリルケの詩がある。

*******

  リルケ (茅野蕭々・訳)

葉が落ちる、遠くからのように落ちる、
大空の遠い園が枯れるように、
物を否定する身振で落ちる。

そして重い地は夜々に
あらゆる星の中から寂寥へ落ちる。

我々はすべて落ちる。この手も落ちる。
他を御覧。総てに落下がある。

しかし一人いる、この落下を
限なくやさしく支える者が。


*******

三年生に『近代詩抄』としてごく簡単なアンソロジーを印刷して配ったことが何回かある。
このリルケの詩を収めるのが常だった。
受験前の生徒たちに「我々はすべて落ちる」とは縁起でもないが、ちゃんと神の救いの手がさしのべられているのが良い。

*******

『明星』の青春とその後

訳者の茅野蕭々(ちの・しょうしょう1883〜1946)は、『明星』同人となった詩人・ドイツ文学者だが、同じく『明星』に集った歌人・増田雅子を熱烈に恋しその愛を射止めた。
雅子は、与謝野晶子・山川登美子と三人で歌集『恋衣』を出した人。

しかし晩年、茅野夫妻は東京大空襲で被災して負傷、夫・蕭々は翌46年に病で不帰の人となり、妻・雅子もその四日後に後を追うように亡くなるのだ。

親の勧めに従って嫁いだ山川登美子は結核で早世、晶子の盛名に埋もれたような鉄幹の後半生の焦燥…など思い合わせれば、青春をともにした3組の男女の人生の転変に驚かざるを得ない。

◆◇◆◇◆◇◆

「秋」の第1連3行目の「物を否定する身振で」を「いやいやをするように」とした翻訳があったように思う。
風に吹かれて葉裏を見せながら散る落ち葉を擬人的に表現したもの。

茨木のり子の訳した『韓国現代詩選』11月6日の記事参照)の冒頭、「かぶりを振る」という言い方を連想する。

   
   姜恩喬 (カンウンギョ 1945.12.13生まれ )  

一本の木が揺れる
一本の木が揺れると
二本目の木も揺れる
二本目の木が揺れると
三本目の木も揺れる

このように このように

ひとつの木の夢は
ふたつめの木の夢
ふたつめの木の夢は
みっつめの木の夢

一本の木がかぶりを振る
横で
二本目の木もかぶりを振る
横で
三本目の木もかぶりを振る

誰もいない
誰もいないのに
木々たちは揺れて
かぶりを振る

このように このように
いっしょに


*******

ハングルでも縦書きにした場合は同様ではないかと想像するのだが、
縦書きの日本語訳でこの詩を眺めれば、題名の通り何本もの木々が肩を並べて林をかたちづくる、そのリズムの美しさにいざなわれる。

詩人は木々を対象物として眺めているのではない。
「誰もいない」とは、本当にその通りなのだ。
「誰が見ているのでもないのに」とふと気づき、やがて木と我との息するリズムが重なるにつれて《見る・見られる》という関係は消えていく。
人間としての自分はかき消えて木々と一緒に自分も揺れてかぶりを振るので、「誰もいない」のだ。
「このように このように」とは、主客の区別が無意味となって、次第に強くなる共鳴りの中にいる状態だろう。

地上を動くことはかなわない木でありながら、全身を揺らし、隣の木へと伝える。
木が風に揺れるのでなく、むしろ木の方がそのようにして風を起こし、大地全体に劫初(ごうしょ)からの夢を伝えて行く。
樹というもののふしぎ。
名詩名訳だと思う。

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