カナタチ氏の講演を聴く[2017年10月02日(Mon)]
質問に答えるジョセフ・カナタチ国連特別報告者
(2017.10.2 弁護士会館)
◆ジョセフ・カナタチ氏の講演を聴いた。
共謀罪の審議が一向に中味のない政府答弁に終始していたさなかの今年5月、国連人権理事会の特別報告者として日本政府に法案への深刻な懸念を公的な書簡として寄せ、政府の誠意ある回答を求めた人だ。それに対する日本政府の反応は感情的かつ、ニベもないもので世界をあきれさせた。
◆今夕の講演は、日弁連主催の「共謀罪に反対し、プライバシー権を守るシンポジウム」。昨日は都内で別のシンポジウム(自由人権協会主催)でも講演し、かのスノーデン氏もネット中継でインタビューに応じたそうだ。
プライバシー権の大切さ
◆冒頭、「自分として生きる自由」という椅子と、それを支える3本の脚のイラストを示した。
人間がどんな人間として生きていくか決めるには、「自己決定の椅子」を支える3つの自由・権利が必要だ、という。
表現の自由、情報にアクセスし発信する自由、そうしてプライバシーを守る権利だ。
国民を監視して上記の自由・権利を侵すのは、監視情報が集まる政府、首相官邸だ。では権力の濫用を許さない法律が日本に用意されていたか、というと、共謀罪以前にもそれは存在しなかった、と指摘する。
である以上、権力に歯止めをかける法律を持たなければならない。
しかし法律が出来れば終わり、というわけには行かない、厳格なテスト・検証作業が必要なのだ。
プライバシーは民主社会の基盤
◆プライバシーが守られていることはデモクラシーの基盤そのものであるのに、現代は、スマホによるフェイスブック、さらにはSnapchatによって膨大な量の個人情報が足跡のようにネット上に残される。そのために、それらの〈メガ・データ〉を利用したいわば「監視の黄金時代」がやって来た、とカナタチ氏は言う。米政府が日本政府に秘密裡に提供したとスノーデン氏が証言したxKeyscoreというシステムがその一例だ。膨大な量のメールや情報のやりとりがこれによって集積・分析され、市民を監視している。
「プライバシーの時代は終わった」と述べる人もいるくらいだ。
*(そういえば、昨日の記事で取り上げたSociety5.0においても「新たな価値・サービス創出の基となるデータベースの整備」「ビッグデータ解析技術」の強化がうたわれていた。
小中で行われている学力テストや、数年内に始まる「高校生のための学びの基礎診断」(基礎学力テスト)、さらにはセンター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」のデータもそこに繰り込まれていく恐れは十分にある。これらに民間が関与する以上、全く予期しないところで個人のデータが悪用される恐れがあると考えるべきだろう。)
◆講演でカナタチ氏は、プライバシー侵害を防ぐ23ものsafeguard(保護手段)を提言した。
「監視は、法が無い限りやってはならない。」
「(法があったとしても)プライバシーへの影響評価を必ず毎回やらなければならない」
「国、もしくは国際的な令状によらない監視を行ってはならない」
「当局から完全に独立した監督機関を設けなければならない」
「国家や企業の透明性(transparency)」
などだ。
「救済の手立てが市民に与えられなければならない」という提言もあった。
たとえば、捜査機関から事情を聴かれたなどの話が勤務先に伝わったりすれば、それだけで社会的信用を損なったり、時には職を失ったりする。それが根拠のない噂によるものだったとしても、一度受けたダメージは回復しがたい。
◆現在、カナタチ氏は日本政府に正式な招聘を要請しているという。総選挙後にそれが実現することを期待しているようだ。
最後に、ここまでプライバシーについて人々の関心が盛り上がりプライバシー保護の機運が高まったことはかつてなかった。それを希望として、新たな法律の制定を実現するよう、日本人への期待を述べた。そうして次のように結んだ。
〈新しい法律が出来れば戦いが終わる、とは夢見ないでください。常に新しい脅威が出てくるのですから。〉