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「ニホニウム」はスカタン命名だ[2016年12月01日(Thu)]

「ニホニウム」はないよなあ

◆日本の理化学研究所グループが発見して命名権を与えられていた113番元素の名前が「ニホニウム」(元素記号はNh)に決定したと発表された。6月ころに有力候補として報じられた時に、コレはあり得ないよネと思っていた。選りに選ってこれに決定だとは!。

これがスカタン・ネーミングであると感じた人は結構いるはずだ。
まず発音しにくい。ニホン人でさえ言いにくいのに、h音が苦手だというイタリアやフランスあたりではどうだろうか?(外国人の発音のつごうなど知るもんか、という勇ましい人が増えたのなら御慶至極だが。)

◆歯の抜けたようで全くシマラない。
鼻にかかる「n」音で始まり、たった5音の中にもういちど「n」。
計2つの「ni」の間に「ホ」が挟まっていることもよろしくない。

◆単語の最初でなく、途中や語尾に置かれたハ行の音は「かげろふ」のようにはかなく、時に発音されない憂き目をみることもある。
「カゲロフ」が実際の発音は「カゲロー」となったり、源氏物語冒頭の「いづれの御時にか」の「御時」が、書かれた当時は「オホムトキ」と発音されていたであろうに、後世には「オントキ」となって、「ホ」は見る影もなく消えてしまったりしたのがその例である。
まあ、「なほものはかなきを思へば、あるかなきかの心地する、かげろふの日記といふべし。」(「蜻蛉日記」)のように、作ることもその存在を確認することも極めて難しい元素にふさわしいことではあるが、それにしても悔やまれる。

◆発見した研究グル―プの方々は、ニホン発であることを印象づけたかったのであろうが、ならば黄金なす「ジパング」を使うか、「ジャポニウム」というあたりで良かったのではないか。
「ジャポニウム」がボツになったのは、日本人への蔑称Japを気にしたのだという観測もあるが、戦中戦後じゃあるまいし。
(「今は戦前だ」と危ぶむ人は多いけれど。)

聞こえは大事

◆命名で大事なのは耳にどう響くかであって、あとは二の次三の次だ。
その点で「ニホニウム」は残念ながら「スカ」だ。
かくも語感がマヒしているのは、「平成」と唱えて「平静」でいられる神経ばかりが平成の御代で培われ、増殖を繰り返しているからだろうとにらんでいる。

1989年の年頭に昭和が終わって新しい元号が当時の小渕恵三官房長官によって発表された。麗々しく「平成」の二文字を掲げた写真にTVや教科書で出くわすが、そのたびに目を伏せる。語感や聞こえに無神経な時代に突入したことを思い知らされて気鬱になるからだ。

「平成」の世で消えた品格


◆何と言ったって、好色漢を表す二字の俗語の「×平」の「平」が臆面も無く顔をさらしている。
「ヘイ」は品格と無縁だ。
実際の発音は丁稚の返事と同じ「ヘエ」だ。気取りがない、というのが唯一の取り柄か。
(思い出したが、新宿東口にある「三平食堂」は昭和の爆笑王・林家三平と同じ名前ゆえかメニューも客層も庶民的な店で、しばしば寄った。今も健在だろうか。)
庶民に親しまれる元号を目指した結果「平成」に決めたとは思えない。見た目ではずいぶんエラそうであり、聞こえより見え(見栄)を重視した結果だと思える。

◆「成」の字は、毛筆で書けば「戈」でビシッと形を決めて書き終えられる勇ましい文字なのだが、いかんせん「戈」は「矛(ほこ)」の意味で、武器を表す。「成」は武器を用いて平らげるということであり、「平」にしてもこの字が属する部首「干」は、刺股(さすまた)状の武器の形が起源だ。
二つを続けた「干戈」は武器、転じて戦争の意味であることは言うまでもない。
「統帥権干犯(トウスイケンカンパン)」という言葉もあったな、と連想が働く。

◆ともかく口にして品格無縁、文字に書いて物騒な「平成」の世が始まったのを機に、僕自身は年賀状、書類その他、可能な限り西暦を使うことになった。この元号がもたらした最大の恩沢である。

◆作家・丸谷才一(1925〜2012)が、「元号そして改元」というエッセイのなかで、「平成」という命名の「格の低さ」について書いている。

(……)この数十年間で最悪の名づけは平成といふ年号だつた。不景気、大地震、戦争とろくなことがないのはこのせいかも、と思ひたくなる。元号懇談会の委員のなかの一人、東洋思想が専門の某碩学(せきがく)が猛反対したのに押し切られたといふ噂を耳にしたけれど、本当に惜しいことをした。
中国の年号では平の字が上に来るものは一つもない。日本では、これ以前はただ一つ平治があるだけで、平治と定めるとき、中国の例を引いてもめたのだが、多勢に無勢だつた。果せるかなあの戦乱が勃発。翌年一月、改元。碩学が異を唱へた論拠はおそらくこれではないか。
しかしわたしが平成をしりぞけるのはこのためだけではない。日本語ではエ列音は格が低い。八世紀をさかのぼる原始日本語の母音体系は、a、i、u、öといふ四つの母音から成つてゐたと推定される(大野晋『日本語の形成』)。大野さんの説によると、このため後来のエ列音には、概して、侮蔑的な、悪意のこもつた、マイナス方向の言葉がはいることになつた。アハハと笑ふのは朗らかである。イヒヒとは普通は笑はない。ウフフは明るいし、オホホは色つぽい。しかしエヘヘは追従笑ひだ。エセとかケチとかセコイとか、例はいくらでも。なかんづくひどいのがへで、例のガスを筆頭に、押されてくぼむのはヘコム、疲れるのはヘコタレル、言ひなりになるのはヘーコラ、上手の反対はヘタ、御機嫌とりはヘツラフ、力がないのはヘナヘナ、厭らしい動物はヘビ、と切りがない。ヘイセイ(実際の発音はヘエセエ)はこのエ列音が四つ並ぶ。明るく開く趣ではなく、狭苦しくて気が晴れない。これでは『史記』の「内平かに外成る」、『書経』の「地平かに天成る」にもかかはらず世が乱れるのは当り前だつた。原案を考へたのは例の宏池会の命名者と聞くが、この人は日本語の現実に暗かつた。そして懇談会には、メディア関係の大物や大学総長(専門はそれぞれ刑法学と病理学)などよりも、日ごろ言葉の使ひ方で苦労してゐる、語感の鋭い、詩人、劇作家、小説家を入れればよかつたのに。昔の学者や貴族は詩歌のたしなみが深かつたから、程度の高い年号制定会議ができたのである。
元号のせいで凶事がつづくなどと言ふと、縁起をかつぐみたいで滑稽かもしれない。しかしあれはもともと呪術的な記号である。その呪術性に気がつかないのは、フレイザー、デュルケーム以後の文化人類学的思考に対する無知にすぎない。縁起ものだからこそ、平治のときのやうに、これはいけないとなると改元した。一世一元と定めた法律は、古代の慣行を捨てかねずにゐながら、しかも古人の知恵を無視して、生半可に近代化してゐる。早速、法律を手直しして改元すべきだらう。
本当のことを言へば、これを機会に年号を廃止し、西暦でゆくのが一番いい。尺貫法からメートル法に移つたと同じやうに、普遍的な制度にするのだ。たとへば岩波書店、講談社、新潮社などの本の奥付はみな西暦で書いてあつて、まことに機能的である。


元号「平成」の考案者:政界に隠然たる影響力をもった陽明学者・思想家の安岡正篤(1898〜1983年)の発案だとする説があったことを言う。現在は東洋史学者の山本達郎(1910〜2001年)の命名だとされる。

丸谷才一袖のボタン表紙 元号そして改元_0004-A.jpg
丸谷才一「袖のボタン」(朝日新聞社,2007年.朝日文庫,2011年)

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