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空の深みへ降り立つ[2019年08月16日(Fri)]

DSCN1433.JPG
遠く西海を北上した台風の余勢で、かぶりを振り続けるコスモス

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化石の夏   金時鐘(キム・シジョン)

石とても思いのなかでは夢を見る。
事実ぼくの胸の奥には
はじけた夏のあのどよめきが
雲母のかけらのようにしこっている。
石となった意志の砕けた年月だ。
羊歯が印刻を刻んだのは
石にかかえられた古生代のことだ。
軍事境界とかのくびれた地層では
今もって羊歯が太古さながら絡んでいる。
見る夢までが そこでは
化石のなかの昆虫のように眠っている。
その石にも渡る風は渡るのである。
そうしてある日 それこそ不意に
炭化した種が芽吹いたオオオニバスのそよぎとなって
積年の沈黙をひと雫の声に変える風ともなるのである。
かげる季節は だからこそ
風のなかでだけにじんでゆくのだ。

もっとも遠くて立ちつくす一本の木に
一日は音もなく尾を引いて消えていった。
鳥が永遠の飛翔を化石に変えた日も
そのように暮れて包まれたのだ。
何万日もの陽の陰で
出会えない手があたら夕日を国訛りでかざし
口ごもる者の背後で
海は空とひっそり出会った。
もはや滅入の時をわれらは持たない。
一切の反目が火と燃えて
うすべに色にうすれる闇のしずもりをわれらが知らない。
くろぐろとあきらめは石に帰り
石にこそ願いは
ひとひらの花弁のように込もらねばならぬのだ。
思い至れば星とて石の仮象に過ぎないもの。
火口湖のように降り立った空の深みへ
ひとりひそかに胸のきららを埋めに行く。


森田進・佐川亜紀 編『在日コリアン詩選集 一九一六年〜二〇〇四年』
(土曜美術社出版販売、2005年)より

◆石にひとひらの花弁のように願いを込める。
その石は化石となって火口湖の深い底に埋められることで、湖水に余すところなく映る空の星と釣り合うかたちで太古からの時間の中に眠るのである。

宇宙大の気宇と化した石。

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