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相澤等『築地魚河岸』ほか[2018年10月21日(Sun)]

◆東京都の豊洲市場移転、築地解体強行が波紋を呼んでいる。
食が暮らしを支える文化であることを改めて思い知らされる。

相澤等(1906-2000)という詩人に『築地魚河岸』という詩集がある。
昨日の清水正一同様に、詩人としては変わった経歴の人物だ。

神奈川県鎌倉郡中川村阿久和(現・横浜市瀬谷区)に生まれ、1927年、京都市立絵画専門学校(現在の京都市立芸術大学)に学んで卒業後は横浜市保土ヶ谷尋常高等小学校に就職するも結婚を機に1939年に商工省(戦後は通産省=現在の経産省)に転職、戦後はGHQの労働組合設立推進方針のもとで労組書記長も務めたが、1949年に財団法人・商工会館が設立されるや通産省を退職して商工会館の理事となった。(日本現代詩文庫「相澤等詩集」の〈自画小伝〉による。)

職歴だけを見れば堅実にキャリアを積んでいった人生に見えるが「転石苔むさず」の生き方にも見える。その間、続けていた詩作で独得なのは、『築地魚河岸』という、築地の風物・魚介類を詠んだ詩集があることと、『道具魔館周遊』(〈ドグマ〉に引っかけてあるのだろう)という、団扇や鉈、鉋など、我々が手にする道具を素材にした詩群があることだ。

◆詩集『築地魚河岸』は次のように朝の景から始まる――

東京午前六時五十一分  相澤 等

電動鋸で切断され、鮪がその牡丹いろの股をひらかれると、きめこまかに紡がれた脂肪と蛋白質のあけぼの。6時51分、東京・七草の日の出。莢のある動植物の蔓の紐が解け、群がる目にさらされる。男たちは複数のゴム長靴を着装し、肩幅を広くもち、一様に太陽に背を向けて歩み去る。そのあとへ、素肌に木綿のきみが通りかかる、柳庖丁を手にして。気だるく寒い鮪の蕊の背後から。

   (第1連)


場外店舗

ヤニのつまった喫煙具で呼吸しながら、他者の町で吐く痰の、咳と共に町を出ていったらもう戻らないでほしいのだ。必需品を買い求めるところは、掻捨てにする恥や見栄、万引、放火のうろつけるところか。ここは煮つめるものが煮つまるまで、分解が酔いを誘いだすまで、小エビや貝の身に醤油のしたたりがしみとおるまで。先祖からうけ継ぐ創業の意志を掲げる彫りの深い看板に、飯田屋の屋号はなんと「江戸一」なんだ。矜恃はひそかに今までも、これから先も。買う心であきなうのは大福帳の和紙に部厚く綴じこんであるものだ。桜が散り、艦上機が河岸の屋根をかすめて日比谷公園は爆弾を落された。焼け野が原の東京でここは焼け残った。取り払った遮光幕を、三度と取りつけさせる習慣は、ここにはないんだ。 



築地遠近法

人と車と人の織り目を縫って、踏まれたゴム長に文句をつけなくてよかった。きみを踏んづけたのはきみのゴム長なんだ。海幸橋際で手をあわせる波除神社に、つかまえた季節はずれの蚊が一匹、血にふくれたまま放してやる信心、信仰は排泄作用といれかわりに、きみの精神の棚卸しをしてくれる段取りだ。木偏に神をつけた植物を、きみは懐具合とかかわりなく手に入れる。精一杯生きている真っ当さを竹杓に一杯の水を汲んで。水は、江戸湾に臨む林泉に鯉の泳ぐ、築山の松に雪つりの縄の光る二百年前、天明飢饉のあと、湿地帯を埋立て東北の大名が将軍から与えられた閑雅な景観はここだったと。錨印の学校や病院も撤収していき、日本橋から魚市場が引越してきた一九二三年以来、雪の下の自生する行きどまりの露地の、藍いろの空の遠近法はさえぎられて、いまはまったく消滅したか。
 


◆食材も人も信心も歴史も雑多に重畳する築地の詩が生まれた理由は、相澤がここに毎朝食材を仕入れに来ることを日課としていたからだ。
商工会館は霞が関官庁街にある。その常務理事であった相澤等は、会館利用者のために食堂も経営していた。そこで供する新鮮な食材を、自ら調達していたというのである。

そうした事情を知って、今春、霞が関に出向いたついでに、その商工会館を訪ねて見た。
虎ノ門駅から霞が関ビルの裏手に回ったところに立つ、洒落たデザインのビルである。

DSCN6309商工会館-A.jpg

DSCN6305商工会館ビル-B.jpg

現在の商工会館ビルには残念ながら食事処が無い様子であった。

*******

『道具魔館周遊』の詩群から2編。
道具とは人間の手が働くことで用をなすものたちである。
道具が手の延長として使いこなされる場にこそ、自然も人間社会も初めて見えるものとして立ち現れる。
  

蚊 帳   相澤 等

霜のきつい夜は、アバラヤに蚊帳こそふさわしい
のだ。すき間だらけの、人生に吹きこむ風をふせ

ぐ。この緑いろの障壁の外にむらがる夏。防備は
蚊柱をたてて襲いかかる刺客たちへのそなえだ。
精霊などはくらやみに溶け、純粋なものにとりつ

かれて、蚊帳のなかに立てこもる。しなやかな織
物をへだてて、思いあがりの真理を、ひとり抱い

て眠ろうとする。稀薄になる酸味におびえるよ
り、いまです、むしろ、刺客たちのすべてを、閉
塞の世界へ迎いいれて、いれかわりに、展けた未

知の外へ出よう。

***



あぐらをかいた足が、しっかりと、木を押えこ
む。木材にかくされている仏を探り当てるといえ

ば、ひとりは木理の中へ、魂を刻みこむという。
信仰の薄いタタミイワシを肴に、コップの向うの

みえる焼酎をくらい、木材に加える銘の力学に、
酔いがまわってくれば、ひとは断橋の上にいるの

を忘れる。打ち下ろした、そいつを引き抜いた隙
に、刃こぼれを生んだ。仏の首筋にあたるところ

に悲哀の重さがのこり、木を押え込む足の裏
はそれでも表情をかえていなかった。
 


 *詩はいずれも『相澤等詩集』によった(土曜美術社出版販売、日本現代詩文庫、1995年)。



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