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藤田嗣治「戦意昂揚」画への疑問[2018年10月15日(Mon)]

藤田自画像1943-a.jpg
藤田嗣治「自画像」1943年

◆左下に「1・1・2603」と、「紀元」による制作年月日が記されている。
裏には、元日に宮中参内後の「試写」(描き始め)と記されているという。

藤田の数多い自画像の中では、1940年の帰国後トレードマークであったおかっぱ頭を丸刈りに改めヒゲも落とした自画像であるというだけでなく、左後ろからの逆光で陰影の濃い絵になっている点でも珍しいだろう。

◆1939年9月のドイツ軍のポーランド侵攻で始まった第二次世界大戦勃発当時、藤田は3度目の渡仏で妻・君代とともにパリにいたが、翌年5月、パリが陥落する直前に脱出して帰国した。おかっぱ頭を丸刈りにしたのはその時である。

戦争の道をひた走る日本に身を沿わせ自分を鼓舞する生き方はそれ以前からのものだが、父・嗣章は陸軍軍医総監まで務めた人物であった。その子であり画家として声望高かった嗣治に国策協力の話が持ち込まれ、彼もまた熱意をもってそれに応じたことは自然な成り行きだったろう。

1938年の秋には海軍省の嘱託として藤島武二らと漢口攻略戦に従軍、作品も発表している。
従軍記である「聖戦従軍三十三日」には、たどり着いた朝日新聞の臨時支局で林芙美子に遇い、彼女の漢口一番乗りをみな口々に賛嘆する様子を記しているが、その支局の門の傍らには、「支那兵の遺骸が二つも顔を地面にすりつけた儘(まま)放棄されている」ことを書き留めながらも、気分の中心は戦勝した高揚感である。

従軍記は次のように結ばれている――

私の食膳に上った白米は私には余りにもマブシクて面をそむける程勿体ない気がした。大根一切れのあの美しさにも、豆腐一ツのあの肌の白さにも塵と汗に浸る吾が勇士を想うて手が下せなかった。遥かに北支南支の忠勇無比の勇士の武運長久を祈り、これから愈々私は絵筆をとって、根の続く限り戦わねばならぬ。
(「聖戦従軍三十三日」*近藤史人・編『腕一本・巴里の横顔 藤田嗣治エッセイ選』所収。 講談社文芸文庫、2005年)

◆藤田の戦争画(戦争記録画)は他の作家の戦争画とともに戦後進駐軍によって集められ、一時期東京都美術館に置かれていたが1951年にアメリカに移され、その後1970年にアメリカから「無期限貸与」されて東京国立近代美術館に収蔵されたという経緯がある(今回の展覧会を監修した林洋子の解説「藤田嗣治――失われた時を求めて」)。
2015年の同美術館の収蔵作品展は藤田の作品を特集し、その戦争画を一度に展観するとして話題になったものの、正面から取り上げた論考がどれだけあったろうか。
そうした中で、批評家・椹木野衣(さわらぎ・のい)と「戦争画RETURNS」シリーズなどの作品もある画家の会田誠による「戦争画とニッポン」(講談社、2015年)は考えさせる一冊だ。

その中に、1942年の『大東亜戦争 南方画信』に載った従軍画家たちの座談会が再録されており、藤田嗣治の熱を帯びた発言も収められている。幾つか写しておく。

●僕は今まで支那の戦線へもノモンハンの戦跡への出かけた経験があるが、今度大東亜戦争が始つて南方へ従軍してみると、今までと全然気組みが違ふね。勿論、今までだつて決していゝ加減な仕事をして来た訳ぢやないが、今度こそは、というふ気がする絵を描くのにもずつと気持が締まつてくる。

●百万(注:「聖戦美術展」を観た人の数)なんて数は問題ぢやないよ。いゝ戦争画を後世に残してみたまへ。何億、何十億といふ人がこれを観るんだ。それだからこそ、我々としては尚更一所懸命に、真面目に仕事をしなければならないんだ。

●矢張り戦争の時にはいゝ戦争画を作る、それが画家の仕事だと思ふ。記録画を残すといふことだけでなく、どんどん戦争画を描く。それが前線を偲ばせ、銃後の士気を昂揚させる。これは大事なことだ。


「戦意を昂揚させる」ことが大事だと言い切り、信念をもって戦争画に全力を投入して行った藤田の作品は、実際その目的を果たしたであろうけれど、そのように片付けて、その先は考えない習慣の泥沼になずんだまま、我々は怠けていないだろうか?
深く考え直す必要があるのではないか?――そんな疑問が頭を去らない。

実物を見るまでは予想もしなかった疑問なのだけれど。




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