リパダス(アバカ)[2007年10月16日(火)]
さて、アバカである。
今でもしっかり動くハゴタンが存在し、今でも活用され続けているというのであるから、アバカは存在するはずである。
と、勇んでアバカを見せてください、とMさん家族にお願いしたところ、
「これですよ」
と、ハゴタンの裏手にそれはごく自然にあった。

<アバカ林(2007年10月現在)>
アバカは、一見したところバナナの木とほぼ一緒である。これまでいまいちどのように見分けをつけたらよいのかわからなかったのだが、わかりやすいところで、茎の根元の部分が赤いとアバカ、そうでないとバナナだ、とMさんが教えてくれた。
まさしくそのとおりだった。
そのMさんのちょっとしたアドバイスで、私の視界には、明確にアバカ林が広がっていった。
近年、外国からの巨大資本によって作られた、うっそうと茂るバナナ園に比べると、かなり可愛い規模であるが、そこにはしっかりとしたアバカ林があった。
私は、カリナンにある、フィリピン・日本歴史資料館の庭に1本だけ生えているアバカの木を見たことがある。それは、ほぼ記念樹的存在となっており、商業価値はなく、有機物、無機物の区別をしなければ、そのアバカの木も資料館内にある見世物用のハゴタンと同類である。
しかしながら、リパダスのMさん家族の裏手に広がるアバカたちは、Mさん家族の家計を助ける重要な役割を担っており、人間の生命と直結する存在である点、資料館の庭にあるアバカとは意味が違う。
ダバオ日系人会館周辺は、いわゆるダバオ市の中心部にあたり、このあたりに住むフィリピン人や、それどころか日系人会の職員にアバカのことを聞いても、「アバカなんてダバオにもうないよ。」という答しか得られず、ある種絶望的な思いであったのだが、ダバオの奥地に住む身元未判明残留日本人Mさんの導きによって、モダナイズされすぎたダバオ住民が忘れかけた、ダバオの産物を見ることができた。
人そのものを疑うべきではないが、人から人へ流れる情報が本当に真なのかどうか見極めるのに力を入れることは、大切だと思った。
たしか大岡昇平の『野火』か『ミンドロ島ふたたび』だったかの中に、
「ミンドロ島にはかつてタマラウという戦闘的なカラバオよりも大きな水牛がいたが、現在はほぼ絶滅している」
というようなくだりがあったのを記憶している。私も在ミンドロ中、実際見たことがなく、もういなくなっているのでは、と懸念していたのだが、町に下りてきた山の奥地に住むマンニャン族の知人が、「山奥だけど最近みたよ。カラバオよりも獰猛で怖かった。」という話しをきいたときにつながるような喜びを、今回のハゴタン、アバカとの出会いのときに感じた。ただし、私自身はタマラウを見たことがないので、その点においては実際に見ることができた、今回のリパダスでの経験のほうがより一層深いものかもしれない。
私は、今回の経験で、以前から思っていたのだが、まだまだミンダナオ島、もしくはフィリピンには秘められた可能性がたくさんある、ということを再認識した。そして、その可能性は、フィリピンに生まれ育った身元未判明残留日本人にも勿論存在し、あらゆる角度からその可能性を拡大させ、できるだけ多くの未判明の「未」を取り除きたい、と日本人移民によって一時ミンダナオを覆いつくそうとした、アバカの末裔たちに囲まれながらそう思った。
PNLSC事務局(S.S 在ダバオ)


