就労支援で農業に特化・葡萄と梨の魅力にとりつかれて 〜農福連携20年史〜
1.はじめに
時々、B型事業、A型事業を立ち上げたいと相談がありますが、障がい者就労支援に情熱と信念をもって事業を立ち上げる気持ちがない、経営力がいつも問われますと話をすると不満な顔をして帰っていきます。就労支援は障がい者の可能性を追求すること、物や人を活かす能力がない人は事業に手を出すべきではないと思っています。新聞をにぎわしているA型事業の破綻。福井県内にはA型事業所68ヶ所、B型事業所が88ヶ所ありますが、本当にこれだけの事業所の社会的ニーズがあるのか、やはり税金の無駄使い、どこかがおかしい。
農業に特化した就労継続支援B型事業に取り組んで12年目ですが、近年「農福連携」がとても注目を浴びて、光栄にも平成30年度の農業白書にも取り上げて頂きました。
私はこの事業を始める前は、知的障害者福祉工場で、事業開拓の業務を担当していました。これまで部品加工の下請けが福祉工場の主な職種でしたが納期に追われること、折角補助金を活用して入れた設備機器も加工が変わることで使えなくなることの限界を感じていました。新規事業開拓で農業、ナシ園の栽培を企画提案して始めたところ、思ったより好調で販売収益が上がったことや売り方で収益の上がり方の差が出ることが分かり、目からウロコで懸命に取り組みました。
そんなこんなで今の事業に結びついていますが、いつも農園で作業しながらこれから何が必要か、これまでの取組を振り返りながら次のステップを考えたいとの思いを昨年から思っていました。
ピアファームの経営理念は「働くこと、学ぶこと、かかわることを大切にしていきます」で障がい者福祉・就労支援の思いを表しました。「地域の人たちと共に農業の振興、活性化を図ります」は農業に特化することの宣言です。「良質で安全安心な商品(ナシ、ブドウ、野菜等)つくりをめざします」は環境に優しい農業から良質で安全は農産物を栽培することを目標にすることです。「働くことで収入が増え生きがいと働きがいのある職場にします」は障がいのある人たちの所得保障で、工賃給与の向上をめざすことを事業のテーゼとしてきました。そして、事業スローガンは「@さりげなく あたりまえに はたらく A開墾と挑戦・エバーオンワード(たゆまざる前進)B感謝と誠意、そして謙虚に向き合う」として私たちが実践する方向性を出しました。
この場をお借りして、これまでの実践を振り返りながら、これまで耕し育んできたことを明らかにすることで、次のステップにしたいと思います。「2.通所授産施設で稲作に取り組む3.福祉工場で本格的な農業そして農業生産法人へ 4.ピアファームを立ちあげる 5.法人を立上げて分かったこと 6.ブドウに取り組む 7.次の時代へ」の項目で振り返ります。
2.その前に
1)昭和50年代には多くの障がい福祉施設で農業が取り組まれでいました。
昭和53年に知的障がい者入所施設に勤務しましたが、当時はほとんどの福祉施設で農業が取り組まれていました。施設の周りに農地がたくさんあり、生活日課に畑で野菜やスイカ、メロンを作って、収益よりは、園芸療法、生活日課で体を動かす作業として取り入られていたようです。
県内の大規模施設の授産棟では、稲作や野菜等の栽培、加工の大きな設備が導入されて、トラクターやビニールハウス等規模には小規模な福祉施設では真似できないもので、羨ましいと思ったものです。働く場の就労支援事業(通所授産施設等)が昭和50年代より増えてくると、授産工賃の稼げる委託加工等の導入が多くなり、これまで取り組んでいた農業も少しずつ授産科目から消えていきましいました。
中国や東南アジアでの委託加工等、工場移転の前の段階でしたので、電子部品加工等、色々な部品加工、組み立ての仕事は増えていき、通所授産施設が工場化してきました。その当時、勤務していた授産施設でメンバーの工賃が1ヶ月7万、8万円あり、納期に間に合わせるために必死になっていた記憶もあります。
そうした事業が中国等に工場を移すようになり委託加工の事業は減り、就労支援の職種少しずつ変化してパン等の加工販売が多くなり、お菓子、ケーキ等の製造加工販売に結びついているようです。こうした変遷のなかで、福祉施設で農業から離れて行く事業所が多くありました。そのなかでも農業を創業以来から取り組んできた事業所が今、とても注目されているようです。私は障がい者福祉に関わった40年を振りえると、障がい者の就労支援事業の内容も経済状況や地域的格差で随分変わってきたように感じています。今後、人口減少、地域格差、産業の空洞化等が進んできますが、それを就労支援事業と組み合わせていくことが今、一番必要な事なのかも知れません。
2)農福連携を進めるために
@就労支援事業所が単独で農業で収益を上げるのは難しい
就労支援事業所が農業で野菜を栽培や販売をしても、収益につなげることが殆ど難しいと思われます。イオン等の大企業の関連で野菜づくりを始めたところは今も継続が出来ていますが、ピアファームの農場近くで県の補助金を受けて大規模で野菜等の栽培と加工をしていた農業生産法人の幾つかは倒産しました。
A福井県での農福連携推進は新たな形で進められるのではないか
集落営農等の稲作が大規模に進められ個人農家の減少、メガファーム等の100ha規模の営農組織が農政として進められる一方で、中山間地域の耕作放棄地の増大、農業人口の高齢化、担い手不足が深刻になっている。また、福井県は園芸がとても弱く、スーパーマーケットなどで販売されている福井県内産の園芸農産物が少ない
農福連携はどうしても人手の課題であり、園芸振興が伸びていくと農福連携推進していくように感じています。障がい者が農業で働くことを「知られていない」「踏みだしにくい」「ひろがっていない」現状を行政側等がどのように打開する政策提言ができるかに依拠しいているようにも感じます。早い、遅いことを気にすることなく、福井県の農業に障がい者等の就労支援事業をどのように活かしていけるか、就労支援事業関係者は工賃向上、職種の拡大等を農業でどのようにしていくか、5年、10年を見据えていく議論と施策を進めていく必要があります。
福井県内のA型事業所68ヶ所、B型事業所88ヶ所が有機的に機能していく方策を京都府のノウフク推進策を参考にしていくことも必要です。