一般財団法人 親学推進協会の公式メールマガジンに投稿した
「図書紹介」を画像付きで掲載します。 |
『技芸(アート)としてのカウンセリング入門』
著 者: 杉原保史
発 行:創元社、2012年
紹介者から
本書は「カウンセリングに興味や関心を抱いている一般の方々に向けて書かれたカウンセリングの入門書」です。実際の現場で役立つことを優先した実用書といえるでしょう。
本書における著者(杉原先生)の立場は明確です。カウンセリングの実践を学問や科学ではなく、技芸(アート)として捉えています。アート、特にパフォーミング・アートだからこそ、音楽や演劇の学校のように演奏できること、演じられることが重視されるのです。先生の見本をマネながら、自分のスタイルを確立していく習得方法だといえるでしょう。
同様のことは親学にもいえるはずです。理論と実践の関係は非常に複雑ですが、どちらも何のためにやっているのかについて考えてみることで、一人ひとりのなかで意味づけられていくのだと思います。
第二章「カウンセラーの聴き方」から特に印象的だった部分を要約して紹介します。
本書から
カウンセラーは、クライエントのつらい体験などを聴いても、すぐには慰めません。慰める代わりにすることは、「目覚めさせる体験」(awakening experience)に向かって共に歩もうとします。
実存的心理療法家のアーヴィン・ヤーロム(2008)が使ったこの言葉(目覚めさせる体験)は、死に直面した人が人生の有限性を深く自覚して、それまでの生き方を根本的に見直して、大きな成長的変化を遂げるときのきっかけ(契機)になる体験を指します。
一例を挙げます。教育実習に行ってうまく行かなかった学生に対して、ある教授は「そんなことは気にする必要はない。僕にもそんなことがあったけど、こうしてやっているから大丈夫だ」と慰めたことがありました。しかしながら、その学生は退学を選択しました。
この場合、失敗した体験を追い払ってしまうことではなくて、挫折を「体験し尽くす」ことを通して、自分に何が不足していて、どのように補っていけばいいのかを考え、理解する契機とすることで、多くのことを学ぶ機会にすることができます。
クライエントがつらい体験を語るとき、「目覚めさせる体験」にまで高めようとするカウンセラーは、共にそちらに向かって歩んでいこうとします。もちろんこの姿勢は、突き放した冷ややかな態度で眺めることを薦めるものではなく、つらい体験をみつめて、率直に語るという大変な仕事をサポートしながら、共に問題を味わおうとする態度です。
熟達したカウンセラーは、問題のなかで落ち着いて身を置くことをみせることによって、モデルを示しているのです。