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一般財団法人 親学推進協会の公式メールマガジンに投稿した
「図書紹介」を画像付きで掲載します。

2015年02月16日

61号

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『夫婦げんかと子どものこころ 健康な家族とはなにか』(2)

 著者:川島亜紀子
 発行:新曜社, 2014年

<紹介者より> 
 夫婦げんかをしてしまったとき、どのような対応をしていますか。
 自分が我慢する、子どものいないところで話し合う、時の過ぎるのに任せる、自分の気持ちを伝える・・・いくつもの方法が思い浮かびますね。

 これまでの研究をまとめると、結婚年数にかかわらず、夫婦でうまくいかないときや、折り合いがつかないときに7割以上の人は「積極的に自分の気持ちを伝えている」ことがわかっています。それと同時に7割程度の夫婦は、時々以上の頻度で「自分が我慢」しているようです。
 今月は、「夫婦げんか」研究の移り変わりをみていくことにしましょう。

 1960年代以降、アメリカで盛んになった夫婦げんかの研究によって、いくつかのことがわかってきました。例えば、お互いの意見が不一致であるとき、その行動を観察することは「将来の夫関係を予測する」のに有用であることがわかりました。
 また、どういう方法が夫婦げんかの解消に関係するのかを調べるために、わざとケンカをしてもらった夫婦にいくつかの方法を試みてもらいました。ところが、結局のところどれもうまくいかなかったのです。上手な話合いの方法、つまり上手な夫婦げんかのやり方を訓練するだけでは効果がみられなかったのです。

 次に注目されるようになったのは、お互いをどのように捉えているかという側面でした。1980年代に検討されはじめたこの研究によって、相手をどのようにみているのかが重要だと考えられ始めたのです。今では夫婦げんかは、目に見える行動(顕在的な葛藤)と、感情や認知などの潜在的な葛藤が組み合わさったものとして定義されています。
 
 夫婦げんかでは、自分の行動が相手に影響を与え、相手の行動によって自分の行動が変わる体験をします。こうした「原因-帰属」の考え方によると、自分の行動の原因は、状況のせいであって、相手の行動の原因は、相手の意思によるものだと考えやすくなります。
 したがって、相手が「ああする」「こう言う」から、私はそうしたと、お互いに思いあうことになるのです。

 アメリカのゴットマンらは、夫婦のやりとりのパターンを3種類に分類しました。お互いに攻撃しあうパターン、一方が責めて一方が逃げるパターン、両者が歩みよるパターンです。アメリカでは、要請−回避型の「妻が責めて夫が逃げる」パターンが多いといいます。

 筆者によると、夫婦げんかの翌朝に「あいさつをする」といった、人としての礼儀が守られていることが後をひかないコツなのだそうですよ。
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2015年01月15日

60号

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『夫婦げんかと子どものこころ 健康な家族とはなにか』(1)

著者:川島亜紀子
発行:新曜社, 2014年

<紹介者より>
 本書は、子育て中の夫婦関係、とくに「葛藤」に焦点をあてて追跡調査したデータをもとに夫婦関係と子どものこころの関係を紹介しています。夫婦げんかが、子どもに何らかの影響を与えることは自明のことですが、具体的にはどのようなことなのでしょうか。著者の博士論文を基に書き下ろされた説得力のあるレポートです。
 子どもに見せなければいいのだろうと読み進めていくと・・・どうも違うようです。

<本書より>
・「妊娠出産は夫婦のきずなを強める」は思い込み
 大学生に「出産によって夫婦げんかは増加する」と話すと、男女ともほとんどの学生が驚き、ショックを受け、自分の結婚・出産・子育てイメージとのギャップを感じるという。一般には妊娠出産が「自然で、努力することなく」夫婦の絆を強め、夫婦関係をワンランクアップしてくれるように期待されているが、現実は異なることを結婚前に伝えることが有効ではないだろうか。

・夫婦げんかの種「家事・育児の分担」
 家事・育児の分担による夫婦関係満足度には、夫婦の性役割観が関わっている。欧米の調査では、妻が夫婦平等の対等な性役割観をもつことは、夫婦関係の質を低めるが、夫が平等主義の場合には夫婦関係の質を高めることが知られている。つまり、役割や家事のバランスだけでなく、それに対する認知や態度が重要になる。夫は、一様に家事や育児をすればよいという問題ではなく、相手の期待(価値観)に沿うようなサポートができていることが大事だといえる。

・夫が家事・育児に参加したいのに実際にはできない理由
 一つは、物理的に家庭外の役割に拘束されている場合で、もう一つは、母親(妻)による家事・育児の抱え込み(Maternal gatekeeping)である。これは、母親(妻)の性役割観(平等派、伝統派)に規定されており、父親(夫)との役割観と一致していない場合に阻害するような行動につながり、不満を増加させることになっているのかもしれない。

・サポートしてほしい、サポートしてあげたい、という気持ちは肯定的であるものの、相手の気持ちに配慮しないと、否定的な影響をもつ可能性もある。サポートが必要だというシグナルを上手に出すことができるか。そのシグナルを上手に読み取り、適切に対処することができるかということは、夫婦関係維持の重要な鍵である。
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2014年12月15日

59号

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 『やさしいみんなのピアレント・トレーニング入門:ACTの育児支援ガイド』
(原書:The Joy of Parenting: An Acceptance and Commitment Therapy Guideto Effective Parenting in the Early Years)

著者:リサ・W・コイン,アミー・R・マレル
監訳:谷 晋二
発行:金剛出版,2014年

<紹介者より>「ピアレント・トレーニングでもマインドが扱えるようになりました」
 本書は、「悩むのはごく当たり前」とする立場から、不安や恐れの感情を抱えながら親が大切にしている価値観に基づいて子どもを育てる方法を紹介しています。親学に関心をもつ多くの皆様がご存じの通り、これまでピアレント・トレーニングでは、親が子どもの行動を変化させることに焦点を当てていました。最新の行動理論に基づく本書では、子育て中の親の価値観・マインドを扱います。エクササイズが充実していて、体感しながら読み進めることができます。
 ACTとは、行動理論に基づく心理療法のことで「受け入れる(Accept)、選ぶ(Choose)、行動する(Take action)」の原則を示しています。

<監訳者より>
 ACT(Acceptance and Commitment Therapy)は、たとえ不快な考えや感情があったとしても、自らの価値に基づいた行動を可能にすることを目的としています。
 メンタルヘルス上の課題を抱えている人のための心理療法であるだけでなく、健康やWell-beingに関するモデルでもあります。子育ての知識や技術を紹介する本はたくさんありますが、マインドとの付き合い方を紹介した本は限られています。悩み、不安になることはとても当たり前の人間のありようなのです。その当たり前の出来事とうまく付き合っていく方法をこの本で学び、子どもとの大切な時間を作っていただきたいと思います。

<序文より> 
 本書は、多忙を極めるときでも私たちが子どもを観て、感じて、感謝する時間を設けるための現実的な方法を教えてくれます。オープンになること、受け入れること(アクセプタンス)は私たちの「時間感覚」を変え、子どもと過ごすひとときを私たちにとっても大切なものとしてくれます。私たちの子どもは、マニュアル通りにはなりません。それでも、時にはちょっとした知識や方法が役立つこともあるのです。
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2014年11月17日

58号

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『私をギュッと抱きしめて 愛を取り戻す七つの会話』(2)
 著者:スー・ジョンソン
 監修:岩壁 茂
 発行:金剛出版、2014年

<紹介者より>
 研究のため、数名の親学アドバイザーに面接調査を実施したところ、どの方も夫婦関係に言及されていました。口をそろえて「切ってもきれない関係」とのこと。本書では、夫婦関係と親学の関わりを次のように紹介しています。

<本書より>
・幸せな家庭が幸せな夫婦関係から始まるのは周知の事実だ。親の不仲が子どもに良くないのは疑う余地もない。それだけでなく、配偶者から心が離れると、子どもからも心が離れてしまうことが多い。ロチェスター大学のメリッサ・スタージ=アプルの研究で、とくに父親に当てはまることがわかった。

・逆にいえば、夫婦の間に安定した愛着があれば、子どもに安全な基地を与える良い親になりやすいということだ。

・私(筆者)の経験によれば、子ども時代に環境のせいで情緒的困難が残っていても、カウンセリングを受けたことがなくても、良い夫婦関係が築ければ良い親になれる。

・アイオワ州立大学ランド・コンガ−らは青年期のいる193家族を四年間観察し、夫婦の間の温かさや支持の程度、子育ての質によって、五年後子どもが恋人とどのように関わるかを予見できるという。配偶者を愛す人は幸せな夫婦関係の手本を次世代に示すのである。
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2014年10月15日

57号

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『私をギュッと抱きしめて 愛を取り戻す七つの会話』
 著者:スー・ジョンソン
 監修:岩壁 茂
 発行:金剛出版、2014年

<紹介者より> 
「意図せずに綻んだ互いの糸を糾(あざな)い直すケアの手法」
 今回ご紹介するのは、感情に焦点を当てたカップルセラピーです。北米ではすでに7割以上の夫婦にその効果が現れており、世界の注目を集めています。
 身体性の部分で日本の文化に馴染むか疑問がありますが、その点は改良されながら広まっていくと思います。

<本書より>
「悪魔の対話」:夫婦の結びつきを感じなくなって、時間が経つほどに二人の会話はネガティブなものになる。悪魔の対話には3つの種類があるがその内の「抗議のポルカ」はよく見られる。
「抗議のポルカ」とは、どちらかが攻撃的になり、もう一方がよそよそしくなるというもので、結婚して二、三年でこのパターンに入ってしまった夫婦は四、五年の内に離婚する確率が80%以上にのぼる。
 これまでの心理療法では、この根底に愛着不安がからんでいることを見逃していた。情緒的に飢えている現実を見据えて、その結びつきに対する根本的な欲求や不安に目を向けない限り、従来のケンカをやめる方法やコミュニケーション・スキルなどのテクニックでは効果がない。例えば、クライエントのサリーは次のように言っている。

「夫との間で恐ろしい沈黙が続いているときに、夫婦カウンセリングで教わったテクニックを思いだそうとするのは、飛行機から投げ出されて落ちている最中にパラシュートの取り扱い説明書を読もうとするようなものです」
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2014年09月16日

56号

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『母性の喪失と再生 事例にみる「母」としての愛と葛藤』(3)
  著者:東山弘子
  発行:創元社、2006年

<本書より>
女性のライフサイクルと母性の発達(括弧内は紹介者)

1.ユングは、
「全ての母は自らのうちに娘を含んでおり、すべての娘は自らのうちに母を含んでいる。すなわち、あらゆる女性は母にさかのぼり、娘に伝えられていく」と述べている。

2.臨床家のわれわれが、母娘関係(を扱ううえ)で困難を感じるのは、この混沌を含んだ女性のライフサイクルゆえではないかと思われる。

3.臨床家には、輪(=サイクル)の中のダイナミズムを読む感性や直感が必要であろうし、(それらを)輻輳的(=一カ所に集まること)に捉える視点が求められる。

<紹介者より>
 上記3にあるように、女性の心理発達は段階的に進むというよりは、もっと混沌を含んだモデルが必要だといいます(発達イメージは p80)。もう少し詳しくみてみましょう。

・「女性は自分のなかに子宮という「小宇宙」を抱え込んだ「個の歴史を超越した、宇宙的なつながり」を生きると同時に「原初的なところのつながり」をも生きている」

・「対立するようにみえるものを矛盾せずに同時に可能にするような多様な含みをもっている(中略)母になっても娘性を捨てるわけではなく(中略)終わりと始まりが同時に円を描くようにつながりながら前に進んでいくようなイメージである」

 1で挙げたユング母娘の関係性が女性の発達を理解する鍵になるといいます。
親学では親が変わることを強調してきました。その親を男性女性の発達のなかで捉え、特に女性は直線的な発達イメージとは異なることを確認しました。では、男性のライフサイクルはどのような図を描けるのでしょうか。特に父親像に焦点を当てて次の課題と致します。
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2014年08月18日

55号

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『母性の喪失と再生 事例にみる「母」としての愛と葛藤』(2)
  著者:東山弘子
  発行:創元社、2006年

<本書より>(小見出し:紹介者)
1.選択肢の多い時代
 今までは、子どもを産むことは自然なことであった。今、女性たちは、どのような意思のもとに、子どもを作り、身ごもり、育てるかを意識的な課題とするようになった。

2.母性性と女性性の葛藤のなかで
現代の女性は「子どもを産み育てることの中でこそ女性は成長する」という 伝統的な価値観と、「子どものために家庭に閉じこもれば、女性としての人間的な成長は止まる」という新しい価値観が、ともに存在する混迷の状況に生きている。

3.愛着形成の三年と、それ以降の生き方
「いつも家にいる母親」=「よい母親」という世間一般のイメージは、実は子どもが特定の個人と強い絆を必要とする発達段階にある時にのみ妥当性をもつ。それはせいぜい三年である。

4.必要な援助を求めることは、自立の必要条件
自立と孤立は異なる。特に女性の自立が強調されてきた。しかし、比較的自立して、夫もいるし子どももいるけれど、国際的に活躍したり、時代の壁を乗り越えて活躍したりしてきた女性たちには、意外に甘え上手の人が多い。

自立しようとするあまり孤立する人々が増えている。

5.孤立、依存に陥らないために
地域が子育てに関わっていた時代は、子育ては今よりずっと容易だった。自立と孤立、依存と自立の質を考える時に来ているようである。

<紹介者より>
 自立の質が問われる時代、家族集団の関係性に目がいきます。筆者によれば日本は古くから夫婦の関係を中心とした家族というより、母子の関係を重視してきたといいます。相撲や旅館業で「女将さん」の存在が重要なように組織の調整役として要だったのです。メンバーをまとめるには「対話」する力が必要です。ただの情報伝達に止まらず、感情の共有や集団の凝縮性までも視野にいれたダイアローグの場が時代の要請と考えられます。
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2014年07月15日

54号

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『学校が変わるスーパーテクニック−アメリカの人格教育からのアプローチ』
  著者:M.W.バーコビッツ
  監訳:中山 理
  発行:麗澤大学出版会、2014年

<紹介者より>
 正月休みのほとんどを使って訳した本が6月30日に出版されました。
著者のマーヴィン先生は、アメリカのミズーリ大学セントルイス校人格教育学の教授で、昨年から一緒に仕事をさせていただいています。

 この先生のところで学んだ小・中・高校教員は、赴任校で問題を次々と解決していきます。本書はその実例をもとにして、学校を変えるテクニックをつめこんだエッセイ集です。

<本書より>
 著者のメッセージは非常にシンプルで、学校を変えるには、教員が変わる必要がある。教員が変わるためには、学校の雰囲気が変わる必要がある。学校の雰囲気が変わるには、校長が雰囲気をつくる必要がある。校長のリーダーシップは教育委員会が支える、というものです。

 学校版の「主体変容」論だとは思いませんか。アメリカの人格教育の事情と具体策が示されています。アメリカの子供は、随分とわんぱくで元気にあふれているんだなぁと思いながら訳していました。
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2014年06月16日

53号

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『母性の喪失と再生 事例にみる「母」としての愛と葛藤』
  著者:東山弘子
  発行:創元社、2006年

<紹介者より>
 本書は、臨床心理士40年以上のキャリアをもつ筆者が、京都大学に提出した博士論文がもとになって出版されました。読みやすさと中身の濃さを併せ持っています。

 前半の理論編は、「母性」についてこれまでの研究を概観することができます。後半は7つの事例「現代日本女性の葛藤と個性化」が紹介されています。今号では、まず序文から。

<本書より>
 序文を寄せた河合隼雄(当時:文化庁長官)は「母性」について、次のように述べています。
・「母」を生きることに重心がかかりすぎると、自分の「個」が生きられていないと感じる。それでも思い切って「個」を生きようとすると、その「個」のなかに実は「母性」も存在するのではないかと感じはじめる。

・これは簡単に割り切って考えられない大変な問題である。それぞれの個人によって、条件があまりにも異なっている。一人ひとりの個性やそれを取り除く環境に従って、個別的に実際に生きる道を選ばねばならないのである。ほんとうにきめの細かい配慮を必要とするのだ。

・「母性」は肯定、否定の両面を持っており、それはそのときの時代精神と関連して、どちらかが強調されるような傾向がある。しかし、ほんとうのところはその両面を意識していきることが大切なのである。

・このように矛盾をはらむものを理論化するのは困難であることも作用して、これまで人間のライフサイクルを論じるときは、男性のためのものが多く、女性のライフサイクルについて決定的な論はまだ出ていないといってもいいのではなかろうか。

・著者が示唆している、女性の人生の循環性に注目した考えは、実に注目すべきものである。
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2014年05月15日

52号

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家裁調査官のこころの風景-人が一歩を踏み出すとき』(3)
 著者:中村桂子
 発行:創元社, 2006年
<本書より>
調整官研修所の養成部にいたとき、「ストライク」という言葉を学んだ。面接のなかで相手の心に響いた言葉とでも言えばいいだろうか。発した言葉に相手が「うーむ」と考え込んだときをそう表現できる。この逆が「アウト」である。相手の心に響かず、反発されたり、無視されたり、話をそらされたりする。

あるとき、妻に連れられてきた男性の相談を受けた。妻は夫が変人であると口早に話し、離婚するしかないと訴えた。夫の方は呼びかけても返事がなく、まったく無反応だった。私は妻に席をはずしてもらったがそれでも表情は凍りついたままであった。困った私は養成所で習ったことを懸命に思い出した。浮かんできた言葉は「何を言っても理解してもらえないと思っているのですか」(アイヒホルン『手に負えない子』誠信書房)という言葉だった。

すると夫がはっきりと首を縦に振ったのである。それを境にポツポツと話しをしてくれるようになったその男性は、のちに精神障害が疑われることがわかりそのことを妻に説明して相談は終わった。借り物の言葉が役に立つことは滅多にないが、言葉の大きな力が強く印象に残った。
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