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一般財団法人 親学推進協会の公式メールマガジンに投稿した
「図書紹介」を画像付きで掲載します。

2016年10月17日

81号

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『10代の脳 反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』(2)
著者:フランシス・ジェンセン
訳者:野中 香方子
解説:渡辺久子
発行:文芸春秋, 2015年

紹介者より-----------------------------------------------------------
 
前号に続き、渡辺久子先生(児童精神科医)が解説する本書です。先生ご自身の著書には、『子育て支援と世代間伝達』(2008)、『新訂増補 母子臨床と世代間伝達』(2016)(共に金剛出版)があります。いずれ本稿でもご紹介いたしますが、渡辺先生の研究から私たちが学べることは、母子保健の「ガイダンス」に当たります。

紹介者は、親学を大きく3つの領域で考えています。一つは保健の「ガイダンス」。これは母子の心身の健康を目的とするものです。二つ目が「教育」。いわゆる「親学」ですね。最後に、家族・保育・子育て「カウンセリング」です。今号でとりあげる本書はこのなかのガイダンスに当たるものでサイエンスによる知識の伝達を目的としています。

私たちは本書から得られる情報によって、固定観念から逃れて自由で余裕のある子育て、自分育てに向き合うことができます。

本書より-------------------------------------------------------------

「悪いのは、親でも子どもでもない。10代の脳は未完成」

・脳は、後ろから前に成熟する。したがって、10代では行動の計画や決定、判断、衝動をコントロールする「前頭葉」が未成熟なのだ。20歳になってもつながりの弱い領域は20パーセントも残る。つまり、前頭葉とほかの領域をつなぐ配線が完成していないのだ。

・10代へアドバイスをするときは、何度も繰り返すことが大切になる。特に10歳から14歳では、これからすべきことを覚えておく記憶能力が他の領域の成長に追いついていない。それだけでなく、複数のことを同時にする「マルチタスク」をやりたがるが、つながりが完成していないこの時期の脳にとっては、危険ですらある。

「タバコ、お酒がダメな科学的理由」
・喫煙はIQに影響する。一日にひと箱以上吸う若者のIQは、特に低くなっていた。10代は中毒になりやすい時期でもあるため、月に1本のタバコだけで中毒が始まることがわかった。それは、おとなの脳よりも強くニコチンに反応するためだと考えられている。

・10代でタバコを始めた人は飲酒にもつながりやすく、吸わない人よりもお酒を飲み始める割合が3割高いことが報告されている。アルコールは、記憶に使うシナプスの反応を弱めるため、泥酔すると記憶をなくす一因となる。アルコールによる記憶障害は、おとなよりも10代に起きやすい。どちらも長期記憶をつくる海馬の能力を損なってしまうからだ。

・たとえ頻繁でなく、たまの飲酒でも、大量の飲酒は記憶力テストの成績を悪化させる。10代の女子は計算や運転、スポーツなどの能力が低下し、男子では集中力が大きく下がり少しでも退屈になると注意を向けられなくなってしまう。

 「女子脳、男子脳の神話と事実」

・男女の脳には小さいが無視できない違いがある。13歳の時点では、女子の方が単語を思い出すテストが得意であった。言語処理とすばやい意思決定の領域は、女子の方が脳のつながりが強い。また、この性差は「段取り能力」に現れる。

・段取りをつけるには、単なる頭の良し悪しではなく、脳の各領域がしっかりと統合されている必要がある。脳におけるこの統合機能は、30歳近くになってようやく完成するため、青年期では男女差がはっきりと認められるのだ。近年の高校は、カリキュラムの過密化によって、すぐれた注意力、企画力、段取り能力が求められる。しかしながら、男子はそのいずれも成
長が遅い。

・結局のところ、脳の成長については、発達やホルモンなどが複雑に絡み合っていてはっきりとした性差を断定することはできない。今のところ、科学者にわかっていることは、とりわけ青年期においては、脳は生まれと育ちの両方の産物だということだ。そして、育ちには、環境による刺激や
ストレスのすべてが含まれている。確かなのは、良いことであれ、悪いことであれ、私たちが学び、経験することが私たちの脳を変化させていくということだ。
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2016年09月15日

80号

 10代脳.jpg 
 『10代の脳 反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』(1)
 著者:フランシス・ジェンセン
 訳者:野中 香方子
 解説:渡辺久子
 発行:文芸春秋, 2015年

紹介者より-------------------------------------------------------------
 
 解説の渡辺久子先生(児童精神科医)は、『親学のすすめ』(モラロジー研究所、2004)で「子供の心はどのように成長するか」をテーマに執筆されるなど、親学の初期から関わりがあります。先生は、長年慶応義塾大学医学部にお勤めになられ、世界的なご活躍されました。現在は、渡邊医院副院長です。

 今回は、本書巻末にある先生の解説「親が対応できる問題、専門機関に相談すべき問題」から、本書の読みどころをご紹介いたします。本文は、来月号で詳しく取り上げますので、ご関心のある方はそれまでに手に取ってみてください。

解説(渡辺久子)より----------------------------------------------------

・この本は思春期の子どもをもつ親にとって、目からうろこの本と言えるでしょう。
思春期、反抗期にこれまで親子仲良く順調に暮らしてきたはずのわが子が豹変し、暴言を吐き、タバコや飲酒に走り、信じられないような無軌道なことをしてけがをしたりする。

 「死ね」とわが子に言われ、これまでの自分の子育てや人生はいったいなんだったのか、と途方に暮れる。それが反抗期、思春期の子どもを持った親の深刻な悩みです。

 しかし、この本は、最近10年間に急速に進んだ10代の脳に関する研究を紹介し、そもそも、脳が完全に完成するのは30歳になったぐらいであることを紹介しています。

 それまで脳はゆっくりと成長します。最後に成長が完成するのは、様々な感情のコントロールを抑制する前頭葉です。つまり、ガードが外れた状態で10代の脳は急速に成長するのです。この時期は、反復練習が重要な技術の習得(スポーツ)や学習に適している一方で、様々な刺激に中毒になりやすく、怒りをつかさどる扁桃体の制御がうまくいかないために問題行動が起きるのです。

 こうした因果関係がわかるだけでも、わが子がまったく別人になってしまったと嘆く親は冷静さを取り戻すことができるでしょう。そして目の前の問題に落ち着いて対処する気持ちになれる。この本は、そんな本なのです。

・本書の優れているところは、タバコや飲酒などの嗜好品がなぜ10代によくないのかということをはっきりとデータで示しているところです。若い時期の飲酒や喫煙はのちのIQ低下につながるなどの信頼すべきデータを提示し、だからこそ遠ざけておく必要を語っています。

・では、医療機関の介入なしに親の力で解決できる思春期の問題と、相談した方がよい問題は、どう見分ければよいのでしょうか。そのひとつの基準は、子ども自身がその行動や症状によってどれくらい困っているかということです。偶発的に手がでてしまう場合には様子をみますが、何度も繰り返し、エスカレートする暴力は相談機関の介入が必要です。

・ぜひ家庭医やかかりつけの小児科医を持っていただきたいと思います。子どもの心は体と一体です。現在の健康状態は小さいころから身近に診てきた小児科医が一番適切な診断をするものです。そして、もしも専門的な対応が必要な兆候があれば、家庭医から専門医を紹介してもらうのが一番よいでしょう。
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2016年08月15日

79号

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『経済は「競争」では繁栄しない 信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学』

 著者:ポール・J・ザック
 訳者:柴田裕之
 発行:ダイヤモンド社, 2013年

紹介者より-----------------------------------------------------------
 道徳の教科化が迫るなか、紹介者の所属する「道徳科学」研究センターにも世間の注目が集まりつつあります。道徳科学とは、社会や国家がどうあるべきかといった価値論から個人の生き方を問うだけではなくて、科学的な知見からも研究を進めています。「子供の発達を保障する」親学もまた主義・主張の「べき論」に偏らず、実証的な知見を積み重ねることによって、道徳的な社会づくりに貢献できるといえるでしょう。

 さて、今回取り上げるのは、そんな道徳科学の本です。「人は生来、道徳性が備わっているといえるだろうか、その理由とその場合の道徳は何を指すのだろうか」そんな問題意識を持って読み進めていきたいと思います。
 なお、本書原題は、Paul J. Zak「The Moral Molecule;The Source of Love and Prosperity」です。TEDでも視聴できますので、これから御覧になる方は著者名で検索してください。

本書より-------------------------------------------------------------
 
 化学伝達物質「オキシトシン」こそ、道徳的な行動のカギである。
 オキシトシン・レベルが上がると、赤の他人に対してさえも、気前のいい、思いやりのある対応をするようになることを示しました。そして、この「道徳的な分子」を始動させるには、信頼の合図を送るだけでよいのです。

 信頼を込めて人と接すると、相手のオキシトシンが急増し、関与をためらったり、人を騙したりしなくなります。こうした道徳は、めぐり巡って自分に還ってきて、いつしか「善の循環」になっていきます。そして、ついには道徳にかなった社会が誕生すると考えられるのです。したがって「信頼できる人が多い国家ほど繁栄する」といえるのです。

 もちろん、話はそこまで単純ではありません。体内の化学物質は単独で機能することはありませんし、本人の人生経験に由来する他の要因も絡んできます。しかし、人間の絆や相互作用の性質を正確に認識して、それに反応するオキシトシンの能力に焦点を当てることには大いに価値があると考えられます。

 オキシトシンは、信頼の合図を示されたときと、共感を何かによって引き起こされたときのどちらか、あるいは両方の場合にどっと分泌されます。オキシトシンが急増すると、人はいつもより優しく、寛大で、協力的で、思いやりのある行動をとることがわかりました。その恩恵は、健康や幸せの増進だけではなく、信じられないかもしれませんが、経済の繁栄にも影響を及ぶすのです。
これまで、経済の結果を決めるいちばん重要なものは、天然資源の有無や教育、医療の優劣や国民の勤労意欲などと考えられてきました。しかし、すでに実証されているように、これらの要因は幸福の直接の原因ではないことがわかっています。実際にそのカギを握っているのが、信頼性であり、道徳なのです。そしてこの信頼性に影響を与えているのがこのオキシトシンで道徳分子として私たちの幸福感に大きく関与しています。
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2016年07月15日

78号

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 『しなやかに心をつよくする音楽家の27の方法』(2)
 著者:伊東 乾
 発行:晶文社, 2014年

紹介者より------------------------------------------------------------
 先月からご紹介している本です。読み返すたびに気づくことや考えることが多くて、このごろ寝不足ぎみです。今号ではどこを紹介するか、いくつか迷いましたが「失敗することの価値」を気づかせてもらえたところを取り上げることにします。
 翻って、子育てではどうでしょうか。子育てに正解はありそうですか。あるいは、子育てに失敗はあるのでしょうか。学校教育と卒業後の社会とを比べながら考えてみましょう。

本書より:(小見出しは紹介者)----------------------------------------

(1)現実は正解のない世界
「勉強」というと、とたんに目の輝きが失われる傾向は、古くから学校とか受験という制度が作り出した、大いなる錯覚なのでしょう。実際に社会に出れば正解のある問題なんてめったにお目にかからない。仕事でやってくるあらゆる案件には、模範解答など存在しない。その場で解決策を考え、現場を乗り切っていく必要があります。

(2)正解主義が先例主義へ
 学生時代に失敗する経験をしてこなかった人が、特に優等生の中には多く、社会に出たときに「正解」に変わるものを探して「先例」「前例」などの慣習を重視していきます。そうして、創造性がなくなっていくのです。

(3)正解をなぞるな
 そうならないように、学生たちにはこんなことを強調しています。
「あらかじめ約束された正解をなぞること、これくらい非生産的で人生を無駄にすることはない。予定調和は厳密に避けなければ、何一つ意味のあることはできない。」

(4)失敗経験は、教育の王道
 失敗や修羅場の経験ほど人間を確実に大きく成長させるものはない。たくさん転ぶ経験をすれば、それを通じて、転ばぬ先に鮮やかなステップが踏める大人になれる。失敗を重ねて、そこでしたたかな足さばきをみにつければ、少しは気の利いた大人になれるだろう。たぶん、一般の学校では教えていないこんなことが、音楽家の観点からすればタフなミュージシャンを育てる一番の王道
になります。
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2016年06月15日

77号

しなやかにこころを.jpg

『しなやかに心をつよくする音楽家の27の方法』

著者:伊東 乾
発行:晶文社,2014年

< 紹介者より>
 東大家庭教師友の会(2015)によると、東大生の2人に一人はピアノを習っていたのだそうです。そんな話を聞くと「わが子にもピアノを習わせよう(習わせておけばよかった)」と情報に流されてしまいそうですが、その前に本書に目を向けて頂きたいのです。お受験のための学力向上の域を超えて、生き方や職業人としての心構えに話が及んでいます。

 著者は、東大・東大院卒、作曲家・指揮者で東京大学の准教授です。音楽家としては出光賞を取っていて、TV番組「題名のない音楽会」の音楽監督をしていたこともあるそうです。昨年は『聴能力!』(ちくま新書)が話題になっていましたね。

 幼いころから音楽に触れ、東大で博士号をとり、音楽家としても実績をあげている肩書きをみれば世の教育ママたちも納得でしょう。筆者には、どんな世界がみえているのでしょうか。この立場に立たないと言えないようなことをサラリ、チクリと語っていますが、内容は至極真っ当です。

<本書より>

(1)「のため」病を克服する

「どうしていい高校に入りたいの?」

「東大に合格したいから」

こういう人がいたら、私たち東大教官にとっては最も要注意の志願者なんですね。というのも、彼、彼女の「目的」は「東大に<合格>」することで、入ってしまうとその究極目的が達せられてしまって、伸びきったゴムのようになる。これが困るのです。企業に入った直後にコレにかかる人もいるようです。

<ほかのもののため>の「のため」病を克服するにはそれ自体に目的や満足があること、これがポイントではないでしょうか。

(2)「バカのふりをする」

 子供にとっての親は、少しくらい抜けていた方がいいと思うのです。というか、親としては「ここにバカな面があるよ」と小出しに見せていく方が子供は伸びる。「お母さんは何々が苦手だから、私がなんとかしなくっちゃ」と思えるようにする。上がバカにみえないとやる気を削ぐんですね。「お母さんはダメなんだから」くらいに思わせておいて、上手にやる気や主体性を伸ばしてやるのが、親としては正解なのではないかと思うのです。そこそこ抜けたフリをすることで勝手に伸びていく。そういう面が大切だと思っています。

参考:東大家庭教師友の会『頭のいい子が育つ習い事』角川書店(2015)
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2016年05月16日

76号

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『カップルが親になるとき』(2)

 著者:キャロン・コーワン、フリップ・コーワン

 訳者:山田昌弘、開内文乃

 発行:勁草書房, 2007年



<本書より>
1.社会的なサポート

 結婚したカップルが親になっていく過程で、次のような人たちからのサポートを望んでいることがわかった。

1)友人。2)自分たちの家族。3)社会的にサポートしてくれるグループ。4)健康に関する専門家。

 新米の親たちは、「自分に対して良い感情を持つ」ことを支え、「二人で暮らしつづけていかれる」ための「サポート」が必要だという。具体的に社会的なサポートをする人たちに求めていることは、「満足」、「挑戦」、「理解」、ときには「直接的なアドバイスやサポート」であった。それらを通して、特別な問題の解決に役立てたり、親としての自分の責任を心配すぎなくてもよいように援助してほしいという。

2.結婚の「質」と子どもへの影響
 結婚生活における夫婦間の葛藤は、子どもの成長を助けるものではないことがわかった。両親の葛藤は直接的に子供に影響を及ぼすからである。一例をあげると、学校の教室で子供が作業に集中しにくくなる結果がでたのだ。親の幸せやうっ憤は、子育てスタイルや子供の成長に影響している。

 妊娠からはじまる家族の門出の時期を研究することでわかってきたことは、カップルが親になり、家族づくりをはじめる初期段階に教育的な指導が必要だということである。両親の疲弊が子供に影響しないためにも、カップル研究から学べることは多い。
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2016年04月15日

75号

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『カップルが親になるとき』(1)

 著者:キャロン・コーワン、フリップ・コーワン
 訳者:山田昌弘、開内文乃
 発行:勁草書房, 2007年

訳者解説より
 「子どもが生まれたら夫婦関係はどうなるんだろう?」
かつては、日本でもアメリカでもこんな疑問を持つ夫婦はいなかった。
赤ちゃんは、結婚した夫婦が待ち望み、夫婦をさらなる愛情で結びつけるものと考えられていたからだ。
 
 しかし、今では様子が違っている。子どもが生まれるのは、喜びには違いなかろうが、それと同時に夫婦間で解決しなければならない問題も運んでくる。これらの問題は、たんに「お金」や「家事分担」の心配事として処理されるわけではない。夫婦の愛情関係に響いてくるのだ。現代は、子どもが生まれることによって、夫婦関係が試される時代になっている。

 本書は、アメリカの夫婦が直面している選択とそれに伴う問題を長期的なインタビュー調査を通じて見事に描き出している。「妊娠を知ったとき」、「子育てを始めるとき」、「母親が仕事を再開するとき」などで夫婦がどのように感じ、どこに期待や不満を持ち、時間やお金をやり繰りして、かつ夫婦関係を考えながら、子どもを育てていったかを詳細に考察している。

「出産―子育て」は、様々な要因がからんだ一連のプロセスである。どこかを切り離して分析するには不向きである。ある状況に対して、夫婦のそれぞれが意見・期待・欲求を持ち、交渉・取引、時には不満をぶつけ合ってやっと一つの決定にたどり着く。それが何度も繰り返される。トータルな支援が求められる所以である。
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2016年03月15日

74号

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『エピゲノムと生命 DNAだけでない「遺伝」のしくみ』
 著者:太田 邦史
 発行:講談社, 2013年

紹介者より
 今月は、「遺伝」から親学を考えます。選書のきっかけは、ある研究会でした。この飽食の時代に「現代の日本女性は、飢餓を体験している」というのです。それは中高生を中心とした若い女性たちの過剰なダイエットを指していました。最近の遺伝学の研究によると、過剰な食事制限は、本人だけではなく孫の代にまで影響することが明らかになっています。今を健やかに生きることが、即、次世代育成につながることを再確認したいと思います。

本書より<オランダ飢饉の世代を超えた健康への影響>
 
 第二次世界大戦末期におけるドイツによる西オランダ地方への食糧封鎖は、著しい飢饉をもたらしました。1940年の調査によると、当時の成人女性が一日に必要とする標準的な摂取カロリー「2500」キロカロリーに対してわずか「400」キロカロリーしか摂取できませんでした。この時に母親の胎内にいた子が成人して中高年になったとき、統合失調症や肥満、心臓病、糖尿病などのメタボリック症候群、乳がんになりやすいことが明らかになりました。さらに、女性については、孫の世代で出生児の身長が低く、肥満度が高くなるというのです。つまり、「おばあちゃん」が経験した栄養飢餓は孫の世代にまで影響を及ぼすのです。

 親がどのような生活をしたかで、子供の人生に影響が及ぶということが科学的な根拠を持って語られる時代になっています。今をどう生きるかが、人類の将来を決定するかもしれないのです。
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2016年02月15日

73号

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『東工大講義 生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか』
 著者:最相 葉月
 発行:ポプラ社, 2015年

紹介者より
 
 本書は、ノンフィクション・ライターの最相葉月(さいしょう はずき)さんの東工大での講義をまとめたものです。入場を制限するほど学生が集まったこの人気は、皮肉にも、現代の理系重視の風潮に疑問を投げかけることになりました。紹介者なりに理解した筆者のメッセージを二つ紹介したいと思います。
 
 まず、肝心の学生がテーマ選びでつまずいていて、将来の方向性を見定められずにいることです。彼らは、生き方のロールモデルを見いだせずにいます。その迷いや戸惑いが、彼らを教室に向かわせたのではないでしょうか、というものです。

 次に、テーマを選べないことの背景には、巷でいわれるような分野の細分化ばかりが問題なのではなく、結果を重視しすぎる時代の風潮にあるのではないか、というものです。その影響を受けて、テーマを探求するプロセスを「軽」くみることにつながっているといいます。
 
 本書は、12章に分かれていて、半分はゲストとの対談です。「このテーマを選んだワケ」に答えることは、それぞれが自分の歩みに触れることになります。生涯で一つのテーマを貫いた人、途中で道を変えた人、偶然の出会い、異端といわれてきた人など、その分野で一流といわれる人たちの迷い、苦しみ、出会い、決意に至る道を知ることで、きれいごとばかりではない人生の実質が
みえてきます。筆者は、持ち前の取材力で私たちにロールモデルを示そうとしているのです。ちなみに私は星新一の発想法に大変興味を持ちました。ぜひ、ご一読ください。
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2016年01月15日

72号

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『カウンセラーのためのパフォーマンス学―信頼を確立するための基本スキル』(2)

 編著:佐藤綾子
 発行:金子書房, 2015年

<本書より>
 相談の場面で出会うクライエントが、「明るくて」、「楽しい」話をすることはほとんどありません。どちらかというと、ネガティブな感情(腹を立てていること、哀しいこと)を話したい気持ちが強いものです。
 
 しかし、相談を受ける私たちには、その方とのやり取りを終えるまでに少しでもプラスの方向にクライエント自身の自己理解を深めて、勇気づけられるように援助することが求められます。たとえば「自分の今の状況が理解できた」、「自分のやり方でも大丈夫」というようにするには、どうすればいいのでしょうか。

 パフォーマンス学で重視しているのは、「非言語表現」と呼ばれるものです。それは私たちの存在が醸し出す、温かで安心できる「雰囲気」を指します。話やすい雰囲気をどのようにつくるかということは避けられない課題です。

 本書を読んで、まずは知的な理解から始めて、身体が反応できるレベルまでには、相当の訓練が必要になります。このパフォーマンス学は、ただのスキル集ではなく、納得できる根拠と哲学があります。本書の事例にあるような先生を探して、その立ち居振る舞いから、実体験を補強することが私たちに求められている研修のあり方ではないでしょうか。
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