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2017年05月15日

88号

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自己形成の心理学――他者の森をかけ抜けて自己になる』(2)
著者:溝上慎一
発行:世界思想社,2008年

【本書より】
<自己が否定的になるメカニズム>
青年期になると、自己への評価が否定的になりやすくなるのは「自己の置かれる環境が変化することによって、数多くの新しい経験をする」からです。

これらの経験によって、私達はそれまで持っていなかった、新しい価値や理想像を取り込みます。しかし、新しい価値や理想を取り込んだとしても、それをすぐに現実に結びつけることはできません。

現実の自己は、理想の自己のように思うようにならないので、結果的に自己は否定的になりやすくなります。どうしても理想の自己から現実の自己をみる視点は、否定的になってしまいやすいのです。

経験は、それまでの自己概念や価値を「揺さぶるもの」として機能するとき、自己から自己への評価は否定的になります。理想の自己は、現実の自己の立場からみて、目指している場合には目標になりますが、その逆は自己への否定的な評価につながりやすくなるのです。

<他者を通して自己になる>
 このように私たちは「他者を学習し、他者の視点に立って世界をみて」います。「その世界観が折り返されて自己に向けられるとき、自己像は把握され」ます。しかし、青年期になると、「反省的な思考能力が発達して、自己形成のダイナミクスが変わって」きます。

つまり、「人は他者の世界観にもとづいて形成したさまざまな「私」を、今度は自分なりの世界にもとづいて形成し直し」ます。「自分なりの世界観」といっても、結局は、他者を通して獲得されることに変わりはなく、その意味では、「他者を通して自己になる」基本法則は、人生のいつでもどこでも有効です。

※紹介者より:このように「他者の森を駆け抜けて自己」になる、とする本書のサブタイトルは説明されています。問題は、他者に反映された自己をまとめている自己側はどのような働きをしているのか、ということです。これは、次回以降にアイデンティ形成と自己構成の話題として取り上げることにいたします。
posted by oyagaku at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 図書紹介