CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る

2017年04月17日

87号

jikokeisei.jpg
『自己形成の心理学――他者の森をかけ抜けて自己になる』
 著者:溝上慎一
 発行:世界思想社,2008年
 紹介者より-----------------------------------------------------------

・自己を二種類に分ける、という考え方
 私たちは社会のなかにうまれて、成長の過程で他者と出会い、ほかの人は違う自分を発見し、私らしさを形づくります。副題の「他者の森をかけ抜けて自己になる」が主旨をよく表現しているといえるでしょう。
 
 自己をあつかう心理学研究は、主体の私と、見られる側の客体の私の区別からはじまりました。その後は、おもに見られる私(客我)を対象にした研究を進めてきています。

・心理学に違和感を覚えたことはありませんか
 ヒトの心に関心を持って、心理学の本を紐解かれた方も多いかと思います。私もその一人で、特に大学生のころによく読んでいました。が、よく違和感を覚え、それをうまく言葉にできずに、もやもやとした気持を抱いていたことを思い出します。
 
 その違和感とは「私が読みたい内容が書かれていない」というものです。思い返せば、図書館で心理学の棚におかれていた本の多くは、客観的に観察したヒトの心理を研究したものばかりでした。

・人生の主人公の「私」を育てる
 私が学びたかったのは、イキイキとした人間像、自分らしく、よりよく生きる術でした。そのため、学生の頃は、こうしたことは心理学では学ぶことができないのだと残念に感じていました。
 
 それもそのはずで、私が学生のころは、実証主義の立場から「観察する」研究がまだ盛んだったからです。研究者は、できるだけ自分の気配を消して、対象を客観的に捉えようとしていました。もちろんその限界も唱えられはじめてはいましたが、今ほどメジャーではなかったように思います。
 そして、私が学びたかったものもまた、観察された自己ではなくて、人生の主人公としての自己でした。

・自己形成の心理学には、求めているものに近いものがありました
 そのような時代の流れなかで、「自己」研究をつづけてきた分野が自己心理学です。なかでも魅力を感じた考えかたに自己対話による自己形成論があります。
 
 主役の私と外から見られる私は対話を通じて自己を形づくっている、という考え方です。この考えは、自己は「関係のなかで発達する」ものとしてとらえることを基礎においています。
 
 もちろん、発達といっても、いくつものパターンがあって一括はできませんし、今回は紹介しきれませんが、「時間の経過とともに変化する」くらいの意味で考えてよいかと思います。

・自己形成論と「親学」
 そうなると、単なる自己の研究ではなくて、「自己を形成する」ことが対象になります。次に、そこで形成された「結果の自己」をみるか、形成される「プロセスにある自己」をみるか、また形成する過程の援助を扱うかどうかで、自己の心理学はさらに細分化されますが「他者との関わりのなかで自分が自分と対話を通して自分らしさを作り上げていく」、という考え方は、大学生の頃の私に教えてあげたくなるようなトピックでした。

・「親学」と自己形成論

 私は親学に関心をもって研究しています。そのせいか自然と、自己の形成プロセスとその援助に目が向きます。本書は、ジェームズの自己論(自己を主と客に分ける)から、エリクソンのアイデンティティ論(自己は発達する)、ハーマンスの対話的自己論(主と客は対話して自己をつくる)まで、いくつかの理論から自己形成を解いています。
 比較的薄い本ですが、何度も読み返すことができる内容の濃いものです。

・親学の視点からは、エリクソンの自己形成論が参考になります
 親学からは、とくにエリクソンが参考になります。
 エリクソンは、人は生まれてからself-development(自己発達)の時期を経て、青年期にはidentity forming(アイデンティティを形づくる)時期に進むと述べています。これはとても大切な区別です。教育に応用するときに、前者と後者では親や教師の関わり方のポイントが変わってくるからです。

・自己形成論を学ぶ意義

 たとえば、小学校に入って読み書き算もそこそこに、すぐに考える授業をはじめることや、青年期に入った学生をいつまでも児童(小学生)のように扱うことは、発達の段階を踏まえない例といえます。

 さらに、大人を対象にした生涯学習の場面でも時に目にしますが、まるで高校の授業のような一斉教育で、一方的に知識を伝達教授する教育者側の態度や、まるで学校時代の授業のように、セミナーを受講する学習者の態度にも、おとなの発達段階を踏まえない実像をみることができます。
 こうした姿勢や態度は、自己形成論を学ぶことによって変わっていくのではないかと考えられます。

・まとめ
 子供も大人も、どの発達の段階にあっても、自分が自分らしく生きるために時宜を得た教育と学習の態度を身につけることが求められます。そのためには、自己や私というものがどのように形成されて、育つものかを知ることは価値あることだと思います。
 
 とくに私のように、学生のころ心理学って数字ばっかりで面白くないなぁと感じたことがある方には、お勧めしたい一冊です。
【図書紹介の最新記事】
posted by oyagaku at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 図書紹介
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.canpan.info/tb/1264909
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック