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2016年12月15日

83号

大人になることのむずかしさ.jpg
『大人になることのむずかしさ』(2)
 著者:河合隼雄
 編者:河合俊雄
 発行:岩波書店, 2014年

本書より:母性社会日本の「永遠の少年」たち---------------------------

1.父性と母性の両原理のバランスによって、社会や文化の特性がつくられている。

2.母性原理「わが子はすべてよい子」「わが子であるかぎりすべて平等に可愛い」。子どもの個性や能力は問われない。「包含する」機能。しかし、「子どもが勝手に母の膝下を離れることは許されない。「場」の倫理。

3.父性原理「よい子がわが子」
「切断する」機能。強いものをつくりあげていく建設的な面と、切断の力が強すぎて破壊に到る面がある。個人の欲求を充足して、成長に価値を与える「個」の倫理。

4.日本型の「場」倫理では、どこに属するかが大切になる。
場の中に「いれてもらっている」かぎりは、善悪の判断を超えて救済の手が差し伸べられるが、場の外にいるものは「赤の他人」になる。

5.日本の「タテ」社会の背景には「場」の倫理が働いている。
場の倫理では、平衡状態を保つ方策として、場の中の成員に完全な順序づけを行う。全体の意思決定が行われるときに、個々の成員が欲求を述べ立てると場の平衡が保てないので、順序の上のものから発言することによって、それを避けようとする。
しかし、この順序は、あくまで場の平衡状態の維持の原則から生じたため、個人の権力や能力は関係がない。これが日本の「タテ」社会の背景にある。

6.「場」の倫理では全員が被害者意識を持つ
「タテ社会」は、下位にいる人が犠牲になると考えられがちだが、実は、上の立場にいる人も犠牲になっている。つまり、場全体の平衡状態の維持をするために、その人も自分の欲求を抑えなければならないことが多い。したがって、日本では上も下も全員が被害者意識に苦しんでいる。

7.「場」と「個」の倫理が求める態度の違い
場の倫理によるときは、その場に入れてもらうために、「おまかせ」する態度を必要とするし、個の倫理に従うときは、個人の責任や契約を守るなど態度を身につけていなければならない。ところが、この二つの倫理観の間を縫うようなあり方には、まったくの対処の方法が考えられない。

8.「個」の倫理では資格が求められる
これに対して、父性原理に基づく社会は、西洋の近代社会のように、上昇を許すけれど、そこは「資格」に対する強い制度があり、能力差、個人差の存在を前提としている。このため、各自は自分の能力の程度を知り、自らの責任においてその地位を獲得してゆかなければならない。

紹介者コメント------------------------------------------------------

 本書(1983)から30年以上が経った現在では、すでに日本も資格社会になっています。それは、欧米が経験してきた「個」の倫理を基盤とする資格社会ではなく、日本型「場」の倫理の上に築かれた新しい型だといえます。親学を考えるときに見逃すことができないのは、ほとんどの親がこのような時代に雇用されて中年期を過ごしているということです。

 かつて、日本では終身雇用などを特色とした「場」の倫理が働く日本型経営によって、安定した経済を築くことができました。その一部は今でも残っているものの、ほとんどは過去のものとなりました。現在の日本社会は、この日本型の「場」の幹の上に「個」の倫理が接ぎ木されたといえそうです。混乱が起こるのも無理はありません。

 河合は、1983年の日本を「場」にも「個」にも属さない、母性原理を基礎にもった「永遠の少年」型の社会といいました。そして、アメリカはそれまでに切り捨ててきた母性を取り戻すことを課題にしているのに対して、日本では、母性といかに分離するかが問題だといっています。

 翻って現在は、どうでしょうか。終身雇用が崩れて期間契約型の雇用が増え、今では正社員になることが子どもの夢として語られるようになっています。昨年(2015)アメリカで発表された報告では、アメリカ人は18歳から48歳までの間に平均で10回以上の転職をしているといいます(US Department of Labor, 2015)。

 こうした状況のなかで、21世紀の日本の子育て支援や親支援はどのようにあるべきなのでしょうか。

 環境の変化に晒されて、これまでの生き方が通じないと感じるとき、私たちのアイデンティティは「揺れ」を経験します。それは混乱ともいえますが、その時に求められるものはアイデンティティの書き換え、改訂作業、ヴァージョン・アップです。

 これまでは、一人で内省して自己に反省することで次のステップが見えましたが、現代はスピード化と多様化によって、すばやい書き換えと、高い頻度が求められるようになりました。一人、部屋に籠って考え込む時代から、援助者と語りながら、共に自分の人生を形づくる時代に入りつつあるようです。これをライフ・デザイン・カウンセリング(Savickas, 2011)といいます。

 本年、紹介者は、シカゴ(アメリカ)と東京でライフ・デザイン・カウンセリングの研修・研究会に参加して、人の生き方を援助する、世界の最前線を体験することができました。今は、日本で、ライフ・デザインが日本人に及ぼす影響を調査しています。

 これまでにも述べてきました通り、我が国の子育て支援は、これまで母子保健のガイダンスと、親の在り方を伝える親教育に重点が置かれてきました。学問の世界を見渡してみると、これは数年前までにキャリア・カウンセリング心理学が辿ってきた道と重なります。

 キャリア・カウンセリング心理学は、職業ガイダンスやキャリア教育に並ぶ第三の柱として、ライフ・デザイン・カウンセリングを設置することに成功しつつあります。21世紀の、日本の、親学や子育て支援を考えるにあっても、「個別」に来談者の「人生」を「共に」「設計」していくことが求められています。
 親学に新たな風を吹かせるべく、来年も研究を重ねて参りますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。本年も拙稿をお読みくださいまして、ありがとうございました。
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posted by oyagaku at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 図書紹介
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