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2016年11月15日

82号

大人になることのむずかしさ.jpg
『大人になることのむずかしさ』(1)
 著者:河合隼雄
 編者:河合俊雄
 発行:岩波書店, 2014年

紹介者より-----------------------------------------------------------

 私たちが対人援助の場面で行っていることは、アイデンティティの再構成だといえます。自己やアイデンティティ形成は、「場の倫理」に足場を構えやすいことが指摘されています。それは日本の良さでもあるのですが、行き過ぎると真綿で首を絞めるような一面が顔を出します。

 本書が出版されたのは1983年ですが、河合の指摘は現代にも当てはまります。
文庫版で再版されていますので、この機会にお手に取られてはいかがでしょうか。
 来月は本書後半の「母性社会日本の「永遠の少年」たち」を取り上げます。

土井隆義(筑波大学教授)の解説より-----------------------------------

 今日の生徒にとって、教師からの評価は自分の大きな自信にはつながらず、むしろクラスメイトからの評価のほうが圧倒的な重さを持つ。かつて、学校の教師は、社会的な価値観のコンセンサスを体現した存在だった。だからその教師からの評価は、生徒にとって大きな自信の根拠となりえた。それは社会に認められたことに等しかった。

 しかし、今日では価値観があまりに多元化し、そこにコンセンサスを見出すことが難しくなっている。教師は乱立する価値観のごとく、一部を体現するにすぎず、相対的にクラスメイトからの評価が重みを帯びてくる。現代において大人になるとは、相対化の力を修得することであると本書は協調している。

 安易に善悪を判断せず、それらを相対化する眼差しを身に着けること。それが大人の条件だとするなら、特定の世界観を人びとに押し付けることなく、様々な価値観の併存を許容するようになった現代社会は、さしずめ大人の社会といってよいだろう。

 ところが、社会が成熟すると個人が成熟するのは難しくなる。現代の青年が大人になりづらいのは、価値観の多元化した現代社会で「単層的な人生観や、イデオロギーに絶対的に頼るようなことができなくなっている」ことがあげられる。

本書より:「大人になることのむずかしさ」-----------------------------

大人になるといえば、「自我の確立」ということを条件のひとつとして、誰しも考えるであろうが、実のところ、「自我」ということが西洋人と日本人では異なっていると筆者は考えている。

西洋人の自我は他と切り離して、あくまで個人として確立しており、それが自分の存在を他に対して主張してゆくところに特徴がある。それに対して、日本人の自我は、あくまで他とつながっており、自分を主張するよりも他に対する配慮を基盤として存在しているところがある。何もいわなくても相手の気持ちを「察する」ことができる人間になることが、大人になることなのだ。

日本人はその自我をつくりあげてゆくときに、西洋人とは異なり、はっきりと自分を他に対して屹立(きつりつ)しうる形でつくりあげるのではなく、むしろ、自分を他の存在のなかに隠し、他を受け入れつつ、なおかつ、自分の存在をなくしてしまわない、という複雑な過程を経て来なくてはならない。

しかし、その間において、他に対する配慮があまりにも優先すると、常に「他の人はどう考えているのか」、「他の人に笑われないようにしなければ」ということが強くなりすぎて、西洋人からいわせれば「自我が無い」というようなことになってしまいかねないのである。

われわれにとっても今もっとも大切なことは、従うべきモデルが無いことをはっきりと認識することではなかろうか。モデルが明確に存在するとき、ある程度ハウ・ツー式のことがいえるはずである。現在「大人になること」について、これほど語ることが難しく、ハウ・ツー式のことが述べにくいのも、結局はモデルが無いからである。昔からの日本流でも駄目だし、西洋流も駄目なの
である。

モデルが無いことを認識し、モデルの無いところで自分なりの生き方を探って行こうとし、それに対して責任を負える人が大人である、といえるのではないだろうか。大人になるという決められた目標があり、そこに到達するというよりは、自分なりの道をまさぐって苦闘する過程そのものが、大人になることである。

筆者としては、むしろ、世界観を明確にもつことによって大人になるというよりは、既成のモデルに頼らずに、自分なりの世界観を築こうと決定し、その過程を進み続けつつあることによって、大人になると考えるべきだと思うのである。
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posted by oyagaku at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 図書紹介
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