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一般財団法人 親学推進協会の公式メールマガジンに投稿した
「図書紹介」を画像付きで掲載します。

2019年04月15日

111号

『UCLA医学部教授が教える科学的に証明された究極の「なし遂げる力」』
著 者:ショーン・ヤング
訳 者:児島 修
発 行:東洋経済新報社、2019年

紹介者から: 大きな「夢」を語るな!?

 新しい年度が始まるこの時期、子供たち(児童・生徒・学生)は新しい
 環境で、夢や目標を立てて、進んで行こうとしています。
 また、親や教師も子供に夢や抱負・目標を定めることを求めがちです。

 ところで、その夢は実現すると思っていますか。

 毎年のように、夢や希望を叶えられずに挫折する人達がたくさん
 出ていることを知っていて、また自分たちも夢を叶えることができなかった
 にも関わらず、どうしてその子は有言実行ができると思えるのでしょう。

 大きな夢を描かなくても、着実に進む方法を親や教師は教える必要が
 あるのではないでしょうか。

 本書は、誰でも確実に、自分の目標に向かえる科学的な根拠のある
 方法を紹介しています。

 本書から:最初の一歩は、「目標を小さく刻む」こと。

  「何かをなし遂げたいなら、自分を変えろ」と、私達は教えられてきました。
  しかし、性格を変えることは簡単ではありません。でも安心してください。
  パーソナリティや性格を変えなくても、自分に合った方法を見つければ、
  なし遂げる力は高められます。

 例えば、統計によるとダイエットをはじめた4割の人が1週間以内に失敗して、
 半数以上の人が始める前よりも体重を増やしています。
 身体を動かすのが健康に良いとわかっていても、運動習慣のある人は少数派で
 す。

 このように現代では、多くの人が物事をなし遂げられずに苦しんでいます。
 どうすれば人は行動を続けることができるのでしょう。

 まず、なし遂げる力を高めるために、人間の行動のメカニズムを科学的に
 理解することが大切です。

 これまで私達は、行動が長く続かないのは、意欲や動機づけが足りないからだと
 思ってきました。しかし、人間はそれほど単純ではなく、行動を変えるにはもっ
 と繊細な方法が必要なことがわかってきました。

 その最初の一歩が、「目標を小さく刻む」ことです。あたりまえと思われるかも
 しれませんが、それは一般的に思われているよりもはるかに小さなステップに刻
 んでいく、というものです。夢を抱き意志を持てば、行動は変えられるということは
 科学的に間違っていたのです。

 具体的には1週間程度で達成できる短期目標を立てて、それを実現する
 ために2日未満のステップで構成する。長期目標でも3ヶ月を超えるものは
 設定せず、3ヶ月以上掛かるものは夢として位置づける。
 この「目標を小さく刻む力」によって、結果よりもプロセスに焦点があたり、
 行動が変わり、目標を達成しやすくなるのです。
【図書紹介の最新記事】
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2019年03月15日

110号

『胎児のはなし』

著 者:最相葉月、増ア英明
発 行:ミシマ社、2019年

紹介者から: 最新の超音波検査とDNA解析でわかった胎児の世界

この本は1983年に出版された三木成夫『胎児の世界』 (中公新書)以来の一般の読者向けに書かれたもので、最新の超音波検査とDNA解析によって明らかになってきた胎児の世界を覗くことができます。

この本は、本欄でも紹介してきたノンフィクションライターの最相葉月さんが「生徒」として、長崎大学病院長で40年間にわたって胎児の研究をしてきた増ア英明「先生」に質問を投げかけて進む「対話型」になっています。会話のように進んでいきますので、300頁を超える分厚い本ではありますが、ほとんど読みづらさを感じることはありませんでした。

本書から:父親のDNAは、胎児を通じて母親に入る。

この本を読者の皆様に紹介しようと思ったきっかけは、父親のDNAが胎児を通じて母親に入っていることがわかった、との内容に触れたからでした。もちろん母胎のDNAも胎児に入っているし、胎児のDNAも母親に入っている。そう考えると、胎児を通じて、母親と父親はDNAレベルでつながり、本当の家族になることがわかります。

増ア先生が「女は母に生まれつくのではない、母親になるのだ」というように、女性は他人のDNAを受け入れて初めて母親になることを考えると、受精の重要さを改めて考え直すことになりました。受精は個体にとっても、人類種にとっても大切な意味があるようです。

もちろん本書は、医学からの視点ですので、限界もありますが、先号でご紹介した大森先生がよく使われる「いのちのバトンリレー」は、単なる価値観の話だけではなくて、この生殖細胞のレベルで受け継がれていることになります。

また、身体の細胞は細胞分裂の回数に限りがあるために、人には死があるが、単細胞である生殖細胞には死はなく、これまでも、これからも受け継がれていくのだといいます。

増ア先生は子供向けの性教育の時間に「君たちの体は、自分だけのものと、自分だけのものではないものを持っています」と述べていますが、最新の医学研究の視点から、このようにいえるようになっていることは新しい発見でした。

現代社会は、遺伝的なつながりによらない多様な家族の在り方が認められるようになっている一方で、科学技術の成果として、「血の絆」が存在しつづけることが明らかになっています。このことは胎児に関する話題は、医学モデルだけではなく、心理・社会・倫理・スピリチュアルなど様々な視点から「いのち」について考える必要性を示しているように思いました。またそれが専門家の共働によるチーム支援やコミュニティアプローチなどによって、可能になってきていることも感じます。

なお、本書の紹介動画は、YouTubeで以下のURLからみることができます。https://www.youtube.com/watch?v=7obUhpway-0
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2019年02月15日

109号

『祖父母学 5つの心得と32の視点で考える孫とのかかわり』
著 者:大森 弘
発 行:グッドブックス、2019年

紹介者から: 祖父母は身近なカウンセラー
 当協会の元専務理事、大森 弘先生の新著をご紹介いたします。

<はじめに>
 この本には、大森先生の経験と実績に裏付けられた想いが現代
社会へのメッセージの形で著されています。帯の「気くばりしても
出しゃばりすぎない“名脇役"」とは、まさに先生のことだと、日頃の
先生をご存じの方は思われていることでしょう。

また、編集者と出版社の仕事のおかげで、読者にとっては読み
やすく感じられます。 結果として、祖父母学という、やや固い印象
だった内容は染みこむ ように入ってきました。

 では、内容の話に移りましょう。

<「コミュニケーション」の位置づけ>
 先生が現役の教師として、そしてカウンセラーとして、活躍されたのは
20世紀の半ばから21世紀にかけてでした。この時期に大きく変わった
ことの一つに「コミュニケーション」に関わる事柄があります。

例えば、英語の成績がいくらよくても外国人を前にすると全く話すことが
出来ない人は、今でもたくさんみかけます。
「話す」行為に集中してしまって、その人と気持ちや情報を共有する
ことを見落としている、と指摘できるでしょう。

このように、20世紀のコミュニケーションは情報伝達の手段でした。
どうすれば、相手に伝わるか、理解してもらえるか、に関心が向けられて
いたといえるでしょう。それが21世紀に入ると、価値や意味を共に創り、
共有するためのプロセスに関心が向けられるようになっています。
どうすれば、新しい意味を創り出せるか、その人の理解者でいられるか、
の視点です。

<大森「指南書」発刊の意義>
 この時代の変化の中を先生は、カウンセリング・マインドやスキルを身に
つけることで乗り越えられてきたことをうかがうことができます。
だからこそ、この変化に難しさを感じている世代の人たちにとっては、
まさにこの本が「指南書」となるのだと思います。

また、地方で生まれ、横浜で過ごした先生だからこそ、地方と都市の
ハイブリッドな視点から祖父母学を語ることができるのだと思います。
そして、よく似た軌跡を辿ってきた人たちは、数多くいることでしょう。

 したがって、本書は、日本の工業化・都市化を支えてきた(いる)人たちに
お薦めできます。個人を尊重しながら、家族や集団の一員としての
役割を果たすヒントが詰まっています。

<本書から受け取ったメッセージ>
最後になりますが、「相手のニーズを特定してからでないと、どんな助言も
空回りする」。私は、そんなメッセージをこの本から受け取りました。
そして、祖父母はまるで身近なカウンセラー、といっているようにも感じます。
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2019年01月19日

108号

『想定外のマネジメント−高信頼性組織とは何か−』 (第3版)
 著 者:カール・E・ワイク、 キャスリーン・M・サトクリフ
 監 訳:中西 晶
 発 行:文眞堂、2017年

 紹介者から:

 九州の地震を始めとした天災や国や企業の不祥事などの人災といった想定外」が起こった時、私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。

 不確実で想定外のことが起こった時の対応に多くの人が関心を向けるなか、組織論研究者のカール・ワイクらは想定外の問題を乗り越えることに成功した組織、失敗した組織を調査して5つの原則を見出しました。

 今月は、想定外に満ちた世界を生き抜くために必要な信頼性の高い組織を取り上げます。不確実性が高く、変化の激しい時代のなかで、柔軟に対応するヒントが見つかるはずです。

 本書から:(一部要約しています)

 事故が起こる可能性を免れた組織は、次の特徴があった。独自の文化の存在、自己デザイン能力、専門知のネットワーク、冗長性を考慮したハイブリッド構造、訓練とルーチン、状況認識、センスメイキングに関わる思考様式、関係の構築、情報処理などである。

 これらの特徴から反復しているパターンを統合すると、5つの原則に焦点を定めることができる。

高信頼性組織の5原則:
一、失敗にこだわる。
二、単純化を避ける。
三、オペレーション(実際に行われている活動を理解すること)に敏感になる。
四、レジリエンス(回復)に積極的に関わる。
五、専門知を重んじる。

 信頼性の高い組織は、不確実な世界で生じる避けがたいエラーを事前に察知し、その影響を抑制し、回復する能力を発揮する。エラーが起こらないことよりも、組織が機能不全にならないことを重視する。専門知を重んじるのは、複雑性に適応することに役立つからだ。

 専門知は、特定の誰かに存在するものではなく、プロセスのなかで創発されるものと考える。
専門家は、文脈のプロセスに細心の注意を払いながら意味形成を扱う役割を担っている。
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2018年12月25日

107号

『長寿と性格 なぜ、あの人は長生きなのか』
著 者:ハワード・S・フリードマン、レスリー・R・マーティン
訳 者:桜田直美
発 行:清流出版、2012年

紹介者から:
 健康長寿を実現した人達の人生を調べてみると、これまで常識だと思われていたことが逆効果であったり、まったく違っていたことが明らかになってきました。本書の背景には、1921年から80年間に渡って、当時10歳前後の男女1,500名を追跡調査した研究があります。これは世界的にみても稀なものです。

 この企画は、故ルイス・ターマン博士によって企画されたもので、それをフリードマンとマーティンの両博士が継承して結実しました。健康長寿を実現した人達は、人間ドックの愛好者でもなければ、サプリやジョギングとも無縁でした。むしろ生き方のパターンとその性格が健康長寿と密接に関係していることがわかったのです。しかもそれは子供の頃の性格からわかるとのことです。

 今月は、健康長寿の秘訣について取り上げます。

 本書から:

 健康長寿の秘訣:「勤勉性(conscientiousness)」という性格が、じつは健康長寿において重要なカギを握っている。子供のころ、どんな性格だった人がいちばん長生きする確立が高いのか。それは明らかに「勤勉性の高い人」であった。

「勤勉性の高い人」は慎重で、思慮分別があり、粘り強く、整理整頓が行き届き、いつも準備万端おこたりないような性格で、やや神経質なところがある。「勤勉性の高い人」はよく考えて慎重に行動する。自分の身を危険にさらすことはしない。

喫煙、深酒、ドラッグ、危険な運転を避ける傾向がある。シートベルトをキチンとするし、医者の言いつけもよく守る。自然と健康で長生きする人生を歩んでいる。
 
また、勤勉さで逆境を乗り越え、重責から逃げずに立ち向かうことは、基本的に健康リスクにならないことが、今回の調査で明らかになった。健康長寿を実現した人たちは、ストレスを避けずに仕事をしたからこそ、長生きしたのである。

 社交ネットワークを広げることから始めてみよう。
週に何時間かボランティアや趣味のグループに参加するだけで、社交ネットワークが広がり、人生を楽しむだけではなく、実際に長生きできる効果もある。もし健康になって長生きもしたいと思っているのなら、まず社交ネットワーク作りに取り組むのがいちばんだ。
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2018年11月15日

106号

『グループ・キャリア・カウンセリング-効果的なキャリア教育・キャリア研修に向けて-』
編著者:渡部昌平
発 行:金子書房、2018年

紹介者から
私たちにはグループ「で」学ぶ機会はたくさんありますが、グループ「を」学ぶ機会は意外と少ないものです。本書は、グループ実践の理論的な背景を説明しています。

 グループでは、自分以外の人の行動や考えを見聞きするので、自分の行動や考えが他の人にとっての当たり前ではないことに気づきます。他の選択肢があることに気づくと、問題解決の新しい方法を見つけやすくなるのです。他にも、自分だけが悩んでいるわけではないことに気づいたりして、安心することもあります。

 グループでの学びにつながるようにするには、実施する側のグループ管理や統制が欠かせません。グループでの学習はとても有効な方法ですが、「使える」までには技術やコツの習得が必要です。

本書はグループ・カウンセリングの本ですが、親学のグループワークでも役立つ情報が掲載されています。ぜひご活用ください。

本書から
 1.カウンセリングの4大要素:共感、尊重、純粋性、具体性(p7)
個人でもグループでも、最良の結果を生み出しているカウンセラーには共感、尊重、純粋性、具体性の特質があり、これらを満たす必要がある。

「共感」:クライエントが伝える感情や体験よりも、もっと深い水準に対して心を動かす。
「尊重」:自分の感情や体験を尊重し、他者の感情や体験も尊重する。
「純粋性」:クライエントの福祉に反しない範囲で、自分の本当の感情を表明する。
「具体性」:特定の具体的な感情や体験に、正確に完全に反応する。

2.グループワークの種類(pp11-12)
グループワークは目的によってアプローチが異なる。予防が目的の場合は教育的なガイダンスの手法をとり、予防と治療の双方を目的にする場合にはカウンセリング、治療を目的にする場合にはセラピーの手法をとる。セラピーに比べるとカウンセリングはより健常な人を対象とする。カウンセリングには教育的、支持的、問題解決的、短期的な特徴がある。

3.グループの発達と働きかけ(p83)
グループ発達の第1段階は「出会い」である。グループメンバーは少し気後れしていて、リーダーはこれから行うワークの目標や原理、技法を示す。リーダーは参加することの大切さ、この場はお互いに学び合う機会であることを強調してグループの規範をつくる。

 第2段階は「探索」である。リーダーは参加してこないメンバーへの対応を考える。
 第3段階は「作業」である。グループメンバーが自信をもって、問題を持ち込めるようになる。リーダーに頼るだけではなく、お互いに助け合えるようになる。
 第4段階は「実行」である。メンバーが自分の興味を言語化できるようになる。リーダーはそれぞれの経験を評価する機会をつくる。

 結果の評価(p80):介入の効果を示すデータを得ることを考慮する。参加者からのデータを集めて、その後の改善、効果への洞察につなげる。
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2018年10月15日

105号

『超一流になるのは才能か努力か?』
著 者:Anders Ericsson, Robert Pool.
翻訳者:土方 奈美
発 行:文藝春秋、2016年

紹介者から
 「よりよい実践のために、どうしたらいいのだろう」。親学を学び、実践に取り組む、あるいは取り組もうとする私たちが抱き続ける疑問の一つだと思います。

 ここに“deliberate practice”という言葉があります。「限界的練習」、「意図的訓練」あるいは「意図的な実践」と訳されますが、意味するところは、ただ漠然とした練習や訓練、そして実践を重ねるだけではなくて、意図的に行うということです。

では、何に気をつけて、何を心掛けて練習や訓練、実践をすればよいのでしょうか。

 今回ご紹介する著者アンダース・エリクソンは、30年以上にわたってスポーツ、音楽、科学、医療、ビジネスなどの分野で傑出した人物を研究して、超一流の人達に共通する、よりよい実践のための手がかりを発見しています。今号は、その概要をみていくことにしましょう。

本書から
「ただ努力するだけでは能力は向上しない」:努力をつづけなさい。そうすれば目標を達成できるというのは間違っている。正しい訓練を、十分な期間にわたって継続することが向上につながるのだ。では何が「正しい訓練」なのだろう。

「意識的に」実践すること:一般的に、何かを習得して許容できるレベルに達して、意識しないでも自然にできるようになってしまうと、そこから何年練習を続けても、向上にはつながらない。例えば20年の経験がある医師や教師は、5年しか経験がない人よりも劣っている可能性が高いのだ。自然にできるようになると、改善に向けた意識的な努力をしなくなるからだと考えられている。

 「目的のある練習」:この程度できれば十分、という水準で頭打ちになる一般的な訓練や練習方法を超えるには、目的のある練習が必要だ。ただ愚直に繰り返すだけの練習とは異なる、目的のある練習には4つのポイントがある。

@具体的な目標
A集中
Bフィードバック
C心地よい領域から飛び出す(楽をしすぎない)

特にCは挑戦することを意味していて最も重要なものだ。
 
それまでできなかったことに挑戦して壁にぶつかったとき、それを乗り越える方法は、「もっと頑張る」ではなくて「別の方法を試す」ことだ。なかでも「限界的練習」が効果的である。現在のレベルを少しだけ超えられるように設計された訓練を意味する。何を知っているかよりも何ができるのか(技能)が重視される。

人間の本質を表すこれまでの考え方は「ホモ・サピエンス(知恵のある人)」である。だが、練習によって自らの人生の可能性を広げて未来を切り開く人間は「ホモ・エクセサンス(練習する人)」といえるのではないだろうか。
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2018年09月18日

104号

『キャリアを超えて ワーキング心理学 -働くことへの心理学的アプローチ-』
 編 者:D.L. ブルスティン
 監訳者:渡辺三枝子
 発 行:白桃書房、2018年

紹介者から
 「仕事か家庭か」から「仕事と家庭」。そして、「働き方の二項モデル」へ。
 (From Work and Family to a Dual Model of Working.)

 仕事と家庭のバランス(ワーク・ライフバランス)は、親学の必要性のなかで取り上げられてきた話題です。「仕事か家庭か」の対立を超えて両者のバランスを目指す内容です。本書は、その先の視点を提供します。

 どこが新しいのかというと、「仕事と家庭」の枠組みを「マーケットワーク」と「ケアワーク」に置き換えているところです。 言葉の意味を詳しくみると、内容は次のようになっています。
 まず、「マーケットワーク」は報酬を得るためにする仕事と、教育機関での準備(学習)。

 次に、「ケアワーク」は他者への貢献を伴う社会的活動をさしています。ここでの「ケアワーク」は、主に「無償」のワークをさしていて、私生活のなかでケアするために無償で行っていることをいいます。報酬を伴うものは、マーケットワークに入るわけです。

そう考えると、親学のほとんどの活動は「無償」のケアワークに当たることがわかります(無償といっても、厳密には金銭以外の報酬はあると思いますが)。人々が生活するコミュニティの維持や環境などの再生産に関わるものとして、経済的生産とともに、健全で持続可能な社会には欠かせないものとなっているのです。

このようにケアワークは「経済生産性とは根本的に異なる目的をもった仕事である(p193)」として、人間の発達と人間社会には不可欠な位置を占めるようになりました。

 あらゆる人がケアの提供者であり、受け手と考えられるようになると、ケアワークはすべての人々に関わる問題になります。こうした背景から、各個人にはマーケットワークとケアワークの間で折り合いをつける能力を身につけて、適応する戦略を見出すことが求められるようになっています。

しかしながら、マーケットワークとケアワークの間で、一貫性を持たせながら環境に適応する戦略を作りあげていくのは、個人ひとりの力では難しいものです。今、親学に求められているのは、こうしたニーズに応答していくことではないでしょうか。
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2018年08月20日

103号

『技芸(アート)としてのカウンセリング入門』
著 者: 杉原保史
発 行:創元社、2012年

紹介者から

 本書は「カウンセリングに興味や関心を抱いている一般の方々に向けて書かれたカウンセリングの入門書」です。実際の現場で役立つことを優先した実用書といえるでしょう。

 本書における著者(杉原先生)の立場は明確です。カウンセリングの実践を学問や科学ではなく、技芸(アート)として捉えています。アート、特にパフォーミング・アートだからこそ、音楽や演劇の学校のように演奏できること、演じられることが重視されるのです。先生の見本をマネながら、自分のスタイルを確立していく習得方法だといえるでしょう。

 同様のことは親学にもいえるはずです。理論と実践の関係は非常に複雑ですが、どちらも何のためにやっているのかについて考えてみることで、一人ひとりのなかで意味づけられていくのだと思います。

 第二章「カウンセラーの聴き方」から特に印象的だった部分を要約して紹介します。

本書から
 カウンセラーは、クライエントのつらい体験などを聴いても、すぐには慰めません。慰める代わりにすることは、「目覚めさせる体験」(awakening experience)に向かって共に歩もうとします。

 実存的心理療法家のアーヴィン・ヤーロム(2008)が使ったこの言葉(目覚めさせる体験)は、死に直面した人が人生の有限性を深く自覚して、それまでの生き方を根本的に見直して、大きな成長的変化を遂げるときのきっかけ(契機)になる体験を指します。

 一例を挙げます。教育実習に行ってうまく行かなかった学生に対して、ある教授は「そんなことは気にする必要はない。僕にもそんなことがあったけど、こうしてやっているから大丈夫だ」と慰めたことがありました。しかしながら、その学生は退学を選択しました。

 この場合、失敗した体験を追い払ってしまうことではなくて、挫折を「体験し尽くす」ことを通して、自分に何が不足していて、どのように補っていけばいいのかを考え、理解する契機とすることで、多くのことを学ぶ機会にすることができます。

 クライエントがつらい体験を語るとき、「目覚めさせる体験」にまで高めようとするカウンセラーは、共にそちらに向かって歩んでいこうとします。もちろんこの姿勢は、突き放した冷ややかな態度で眺めることを薦めるものではなく、つらい体験をみつめて、率直に語るという大変な仕事をサポートしながら、共に問題を味わおうとする態度です。

熟達したカウンセラーは、問題のなかで落ち着いて身を置くことをみせることによって、モデルを示しているのです。
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2018年07月15日

102号


『脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方』

 著 者:ジョン・J・レイティ/エリック・ヘイガーマン

 訳 者:野中香方子

 発 行:NHK出版、2013年

紹介者から
 運動でやる気や集中力を生み出すことができる。
取材で訪れたある幼稚園の話です。登園した子供達は、到着するやいなや身体を使って遊び始めました。運動した後に集中が訪れることを、この幼稚園は知っていたのです。しばらく運動した後でチャイムが鳴ると、整列を始めて静かに園長先生のお話を聞いていました。

 本書は、運動することで脳が鍛えられることを様々な角度から実証的に根拠づけています。著者のレイティは「運動の第一の目的は、脳を育ててよい状態に保つことにある」というのです。どのような運動が、どのような症状に影響を与えるのか。ストレスや不安、うつや女性ホルモン、加齢などへの影響について読み応え十分のボリュームで語られています。

 一例を紹介すると、アメリカ・シカゴにある高等学校では、一定以上の成績に満たない生徒は希望すれば0(ゼロ)時間目が設けられます。1時間目が始まる前に集合して、心拍計をつけてランニングを終えてから授業に臨むのです。

これには、参加しない生徒よりも成績が向上するという科学的な根拠があるからです。日本でも授業前に校庭で運動する小学校があるように、学習前の運動は理に適っていると言えそうです。

 では、どのような運動がよいのでしょうか。例えば30分のジョギングを週に二から三回、12週間続けると頭のキレを保つ機能が向上することが確認されています。肝心なのは何かをすることで始めることが大切なのだと強調しています。

 有酸素運動以外の運動では、例えば筋力トレーニングが紹介されています。
脳に及ぼす影響を研究したものには、有酸素運動のように記憶や学習に影響を与えるものよりも、気分や不安、自信などの精神面での健康が増進することを扱うものが多いようです。

 統計によると、運動を習慣にしようとした人の約半分は、半年から一年以内に諦めてしまっています。その最大の理由はいきなり高強度の運動を始めることなのだそうです。身体にも心にも無理は禁物です。やめてしまうよりは、低強度でも続けていた方がはるかにいいのです。

 著者は、次のメッセージで本書を締めくくっています。

「私たちは動くように生まれついている。動いているとき、あなたの人生は燃え始める」。

やる気スイッチの入れるコツは、運動にあるのかもしれません。
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