• もっと見る

海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.28 <女川(おながわ)での震災復興と海洋教育> [2017年04月26日(Wed)]

 先日、熊本地震から1年を経て、復興へ向けての取り組みの様子がニュースなどで報道されていました。一方、東日本大震災で特に大きな被害を受けた東北地方もまだまだ復興の途中で、復興へのさまざまな取り組みが現在も行われています。

 少し前の話になりますが、2017年2月11日から12日にかけて、「先生のための海の学び旅 防災の視点からの海洋教育を考える 〜復興のトップランナー女川を舞台にして〜」(主催:日本財団、共催:東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター・笹川平和財団海洋政策研究所)という教員研修が行われました。当研究所は、海洋教育に関する取り組みを長い間行ってきたこともあり、私も実際に学校を訪問し、海洋教育に対する実施状況について、調査を行ったことがあります。その際、よく聞かれたのが、東日本大震災の経験を踏まえ、防災教育、特に津波についての学習をしている(もしくは今後取り組んでいきたい)というお話でした。

 実は私はこれまでの人生の中で、大きな地震を経験したことがありません。東日本大震災の時は、震災の全く影響しない地域に住んでいたこともあり、テレビでその様子を見て情報を得ることしかできませんでした。そのため、今回、この教員研修に引率という立場ですが、参加することができ、実際に津波で大きな被害を受けた場所を見たり、復興に対する人々の思いや当時の様子を聞いたりすることで、実際に現場に行くことでしかわからないことを学ぶことができました。

 本当にさまざまなお話を聞き、学んだ教員研修でしたが、ここでは、海の防災教育に関連し、1つだけご紹介します。すでにご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、震災後、女川中学校の生徒達が「いのちの石碑プロジェクト」という活動を始めました。これは、女川町内21か所の浜の津波到達地点より高い場所にいのちの石碑を立てるというもので、1000年先の未来まで伝えることを目指し、子供たちが自ら考えたプロジェクトです。

 この石碑には、生徒たちが考えた震災についての俳句も刻まれています。この活動は、今後さまざまな学校が海洋教育、特に海の防災教育を行っていく上で、大いに学ぶことのできるプロジェクトであると思います。

 ちなみに、震災云々は抜きにして、女川町はとても素晴らしい場所でした。出会った方々は皆さん穏やかで優しい方々ばかりでしたし、なにより海産物がとてもおいしく、自分で作って食べた女川丼は絶品でした(写真を撮る間もなく我慢できずに食べてしまったことにちょっと後悔しています)。

 女川駅の前にあるテナント型商店街シーパルピア女川の遊歩道は、その真ん中から初日の出が上ってくるように設計されたというお話も聞きました。ご興味のある方は、おいしい海産物と初日の出を見に行ってみてはいかがでしょうか。

上里1.jpg
津波対応型冷凍冷蔵庫(MASKAR)から見た女川湾

海洋政策チーム 上里 理奈

Ocean Newsletter No.401 [2017年04月20日(Thu)]
No.401が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************

●海洋資源開発に係る環境評価のあり方
(一財)エンジニアリング協会石油開発環境安全センター副所長・総務企画部長
◆那須 卓

(一財)エンジニアリング協会石油開発環境安全センターは、
1991(平成3)年の設立以来、海洋石油・天然ガスの開発に係る
保安と環境保全に関する調査研究を行ってきた。
本稿では、海洋資源開発に係る環境評価のあり方を考える上で
参考となる、海洋石油・天然ガス開発先行国である米国等における
環境影響評価制度の概要と、実際の開発プロジェクトで作成された
環境影響評価書等を収集し比較・分析した概要について紹介する。

●神話を生んだ島根半島の魅力と国引きジオパーク構想〜
島根大学教育学部教授・島根大学くにびきジオパーク・プロジェクトセンター長
◆野村律夫

島根半島と宍道湖・中海が一体となった地域は、古代出雲文化の創生地であった。
その地に伝わる『出雲国風土記』には、人々の生活と自然が密接に関わった
神話伝説を生み出すのに十分な背景があったことが示されている。
その背景とは、この地域が新生代地球史のなかで地質学的大変動を起こした
日本を代表する場所のひとつであったからである。

●企画展「クリオネと海洋酸性化」開催について
北海道蘭越町貝の館学芸員◆山崎友資

海洋の温暖化と酸性化問題は、社会と密接な関係にあるにもかかわらず、
その過程やリスクについて広く知られておらず、緩和策や適応策について
全体で考える段階にない。
そこで、貝類専門博物館であるミュージアムの主旨を生かし、
話題性があるキーワードを入口として、緩和策や適応策について考える
機会の提供を目的に、海洋酸性化に関する企画展「クリオネと海洋酸性化」を
開催した。

●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

ご購読のお申し込みはこちら
Posted by 五條 at 20:09 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.27 <安全保障問題分析に必要な学際的な眼> [2017年04月19日(Wed)]

 前回の記事(2016年11月02日付)で、私は東アジアの海洋安全保障環境を経済学のゲーム理論の代表選手である「囚人のジレンマ」モデルを使って分析する手法をご紹介しました。同モデルによれば、二国間に特定の利害関係が生じている場合、両国とも結果推論から導かれる合理的判断によって「利己主義的」な判断を下してしまうがゆえに、全体としては損をするという非合理的な結果を招くというものでした。このように、国際関係や安全保障問題は、政治学的な分析だけでなく、学際的にも分析することが可能です。そこで今回も、経済学・経営学的な知見を借用した分析手法をご紹介したいと思います。

 近年、国際関係や安全保障問題の研究で「リアリズム(現実主義)」という考え方が注目を集めています。リアリズムとは、世界全体を統治する政府が存在していない(無政府状態)という現状認識を基盤としています。そして、各国家の至上命題はその存続にあるがゆえに安全保障が最優先となることから、国家はパワーを行使するのだと説明します。これは、国際協調や国際法を重視する楽観主義に懐疑的な立場とも言えます。

 このリアリズムから派生した国際政治学の考え方の一つに、「攻撃的現実主義(Offensive realism)」があります。東アジアの海洋安全保障問題に関する論考を多く発表しているジョン・ミアシャイマー(シカゴ大学政治学部教授)は、この考え方の主要論者の一人です。彼は、リアリズムの基本原則に則り、無政府状態や国家の合理的行動などを前提とし、南シナ海問題に関して、中国をはじめとする関係各国の行動や背景となる海洋安全保障環境を分析しています。ミアシャイマーによれば、中国は生き残りをかけ自国に有利な形での世界秩序構築(変革)の追求を合理的に選択することとなるため、米国は、中国との間において、戦争の潜在性が相当存在する安全保障上の激しい競争状態に置かれることになります。実は、こうした考え方は、何も政治学に限ったことではありません。

 経済学では、リアリズム的な考え方を「SCPパラダイム(モデル)」と呼びます。このモデルは、「構造(Structure)が、各行動主体の具体的行動内容(Conduct)を決定し、それが結果・成果(Performance)を決める」という考えに基づいています。これは、各国の政治・経済システムや資源といった構造が、当該国企業の具体的な行動内容を決定し、その結果として各企業の経済的なパフォーマンスが生じていることを意味します。

SCPパラダイム.jpg
SCPパラダイム(筆者作成)

 一方、経営学では、SCPパラダイムの考え方を援用し、市場構造が必然的に企業の行動や業績を決定することを前提に経営戦略を構築すべきだとする「ポジショニング派」が存在します。彼らは企業間競争における市場分析(ファイブフォース分析と言います)などにSCPパラダイムの考え方を用い、市場内競合他社や異業種市場参入などの脅威を明らかにします。例えば、市場構造上の隙間が有るのであれば、我が社はそこに進出すべき(ニッチ戦略の構築)ということになります。

 皆さんは、こうした「攻撃的現実主義」「SCPパラダイム」「ポジショニング派」の考え方についてどのような感想を持たれるでしょうか?これらの理論に共通するのは、「構造が結果を必然的に決する」という立場です。「同じ環境に置かれた国家や人間は、合理的判断の結果として同じ行動を選択するのだから最終的には同じような結果が生じるのだ」という考え方の持つ、明快な筋道と因果関係を基にした論理性は確かに大きな魅力であり、海洋安全保障問題におけるリアリズムの考え方の重要性・必要性を裏付けるものです。

 では最後に、こうしたリアリズム的な主張に反対する立場をご紹介します。その一つが、経営学の「資源ベース論(Resource-based view)」です。「ポジショニング派」が、市場構造やライバル企業の存在を背景として市場分析を行い、経営戦略を構築すべしと主張するのに対し、この理論は、「自社の持つ独自の強み(能力)は何か」に着目して戦略を構築するものです。私の専門領域で言えば、「自国の持つ海洋安全保障上の独自の強み(能力)は何か」と言い換えることが可能です。これは、既存構造という現状を打破し、自国の強みを伸長するだけでなく、弱みをカバーするために、対立だけでなく戦略的な協調をも希求する考え方です。したがって、ミアシャイマーらのリアリズムとは異なる未来像を描きます。日本の持つ海洋安全保障上の独自の強みはどこにあって、それをどうやって伸ばしていけば良いのだろうか、弱みがあるとしたらそれをどうカバーしていけば良いのか。「資源ベース論」の考え方は、我々にこう問いかけてきます。こちらも魅力的だと思いませんか?

 どちらの主張が正しいというものではありませんが、いずれにしても、安全保障を深く理解する上では、上述したような学際的な知識と分析が欠かせないということをご理解頂ければ幸いです。

海洋安保チーム長 倉持 一

海のジグソーピース No.26 <ユーラシアブルーベルトの安全保障とシーパワー> [2017年04月12日(Wed)]

 1492年、スペインのパロス港を出帆したコロンブスはアメリカ大陸に到達しました。コロンブスが大西洋を西に進んだのは賢明でした。当時のヨーロッパでは地球が丸いなど論外、北には燃える海が広がっているとの言い伝えすらあったのです。迷信を打ち砕くべく、コロンブスが北に進んでいたら、燃えるどころか凍てつく氷の海に行く手を阻まれていたでしょう。日本はもうすぐ春を迎えますが、地球温暖化が進む中で北極海を閉ざしていた海氷が縮小した結果、北極海がは今、航路として活用されはじめています。

 北極海が航路として拓かれることが何を意味するのか。例えば、日本の港を出た船が太平洋を北に向かい、ベーリング海から北極海に入って西に進み、大西洋に出て南下し地中海に入り、スエズ運河を通ってインド洋を東行して、マラッカ海峡を経て日本に戻る。同じ船が再びベーリング海に向かい、今度は北極海を東に向かって大西洋に出て、アメリカ大陸東岸を南下し、パナマ運河を通ってアメリカ大陸西岸を北上した後に太平洋を西行して日本に帰る。アフリカや南米に寄港する必要があれば、スエズやパナマ運河ではなく、喜望峰やマゼラン海峡を回る選択肢もある。そのようなエンドレスな航海が可能となるはずです。前者の航路を“ユーラシアブルーベルト”、後者の航路は“リムアメリカ・パシフィックブルーベルト”と呼称しておきましょう。港と港の間を表現する“シーレーン”という言葉は、地球を周回する“シーサークル”と呼称する方が適切となるでしょう。環状線のように地球をぐるぐる回るコンテナ定期船や、宅急便のように荷物を配送しつつ、世界を周回するバラ積み船も現れそうではないですか。

 当研究所では、“シーサークル”のうちの“ユーラシアブルーベルト”に焦点を当て、2015年度から3年計画で「ユーラシアブルーベルトの安全保障とシーパワー」と題する調査研究を実施しており、毎年国際会議を開催しています。上記のような“シーサークル”が出現すれば、海洋安全保障環境はどのように変化するのであろうか、航行安全を如何にして確保すればよいのか、“シーパワー”の概念にはパラダイムシフトが生じるのではなかろうか、古典地政学は根本的な見直しをせまられるのではないか、日本と国際社会はどのように対応すれば良いのであろうか、その解答を見つけ出すのが本調査研究の目的です。

ユーラシアブルーベルト2.jpg
ユーラシアブルーベルトの概念図(著者作成)

 研究初年度の2015年度は、東・南シナ海からインド洋にかけて、翌2016年度は地中海から北大西洋に掛けての海域を対象として、それぞれの海域に影響力を持つ代表的な国から専門家を招聘して国際会議を開催し、@安全保障環境、Aグローバリゼーションの進展と地政学的考察、B航行の安全確保とシーパワーのあり方、C海洋安全保障環境の安定化方策、について検討しました。

 最終年度となる2017年度は、北極海から北太平洋にかけての海域を対象とする国際会議を開催して調査研究するとともに、3年間の調査研究の成果を取りまとめ、ユーラシアブルーベルトの航行安全の確保とそのためのシーパワーのあり方について提言を作成する計画です。当研究所はこれからも、先見性とオリジナリティーのある調査研究を推進していく所存です。

特別研究員 秋元 一峰

Ocean Newsletter No.400 [2017年04月07日(Fri)]
No.400が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************
【400号記念】

●北太平洋漁業委員会の誕生
北太平洋漁業委員会事務局長◆Dae-Yeon Moon

北太平洋の海洋生態系を保護しつつ、条約水域における漁業資源の
長期的な保存および持続可能な利用を確保することを目的として
北太平洋漁業委員会(NPFC)は誕生した。
漁業に関わるあらゆる国連総会決議に従いつつ、科学的側面および
法規的側面を含む作業計画の策定、対象魚種の資源量評価の実施、
データ管理システムの構築、他の機関との協力推進等によってこの
目的の達成を目指す。

●"海のプロフェッショナル"体験の有効性
〜「B&G東京湾海洋体験アカデミー」の取り組み〜

(公財)ブルーシー・アンド・グリーンランド財団事業部事業課◆林 未来

B&G財団では、海を舞台に活躍するプロフェッショナルの現場を訪問し、
4泊5日の体験学習を通じてその仕事の魅力と重要性を理解させ、
将来的に海を目指す子どもたちを育てること等を目的に、小中学生を対象に
「B&G東京湾海洋体験アカデミー」を開催している。
参加者の「海の仕事」に対する参加前後の興味の変容等に対する調査結果を踏まえ、
業種横断的な体験学習が海の次世代人材育成に効果的であることを提案する。

●世界最古の釣り針が語る沖縄旧石器人の暮らし
国立科学博物館研究員(元沖縄県立博物館・美術館主任)◆藤田祐樹

今まで謎につつまれていた沖縄旧石器人の暮らしぶりが、サキタリ洞遺跡の
発掘によって明らかになってきた。
それは、川でモクズガニやオオウナギを捕え、海に出かけて魚を捕り、
貝殻を集めて道具や装飾品を作り上げる、思いがけない旧石器人の姿だった。
私たちの想像を超えて、彼らは水産資源に親しんでいたらしい。

●編集後記
公益財団法人笹川平和財団海洋政策研究所長◆寺島紘士
山梨県立富士山世界遺産センター所長◆秋道智彌
(公財)日本海洋科学振興財団会長◆山形俊男

ご購読のお申し込みはこちら
Posted by 五條 at 10:36 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.25 <海の水が運びつなぐもの> [2017年04月05日(Wed)]

 当研究所ブログのコンテンツ「海のジグソーピース」が開始されて、半年が経ちました。ご愛読いただいている方々に深く感謝いたします。初めてご覧になる方に改めてご説明しますと、「海のジグソーピース」は、当研究所の研究員が持ち回りで各自の研究の紹介や、その中で見つけたカギとなるピースをご紹介しています。さまざまなピースをご覧いただくことで、当研究所の目指す研究の姿をご想像いただこうという、読者参加型のコンテンツです。

 さて、今回は、私が専門としている水の流れの話をします。沿岸域を含む海の環境と陸の環境の特徴を分けているのは、水の存在です。水は、空気の約1000倍重く、約50倍粘っこく、約4倍暖まりにくく冷めにくい性質を持ち、100gの水があれば約200gの糖類を溶かすことができます。即ち、1㎥あたり1tの物を浮かすことができ、わずか毎秒30cmの水の流れは、秒速10mの風速と同じ運動エネルギーを持ち、1ℓの水に、2.5人分の成人男性の1日の必要摂取カロリーを溶かすことができるのです。

 この性質により、水は海と陸のあいだを循環する中で、山から川や地中を通り、一部は人間に利用された後、海に戻る過程で熱や、栄養、土砂などさまざまなものを吸収し、溶かし、浮かして運んでいきます。形あるもの無いものを含めて「運ぶ」力の強さが水の特性です。そして、さまざまなものが「運ばれる」ことにより、水を介して物質が循環し、生態系としての強いつながりを持っているために、海や沿岸域の環境のことを考えるときに、より広い範囲、長期間の影響を総合的に考える必要があるのです。

古川1.png

沿岸域における水の循環によるつながりの模式図(著者作成)

 水の流れによって運ばれるものの中には、生き物も含まれます。生き物によってつながれている場を生態系ネットワークと呼びます。これは、海や沿岸域の生態系を保全・再生するときの鍵となる考え方です。

古川2.jpg

推定されたアサリ幼生ネットワーク
(赤矢印:同じ干潟内のつながり、青矢印:異なる干潟間のつながり、
数字:相対的なつながりの強さ、Hinata & Furukawa (2005)より)

 国土交通省国土技術政策総合研究所が中心となって行った東京湾でのアサリ幼生のネットワークの研究*では、漁業者(調査協力、アサリ資源の情報提供)、水産の研究者(アサリ幼生の判別)、海洋学の研究者(海流・湾内流動の解析)、通信技術の研究者(海洋レーダによる湾内流動の観測)、生態系の研究者(アサリ生活史、捕食関係のチェック)、調査・分析の専門家(調査・分析)など分野を超えた人々のつながりによってアサリのネットワークの図が描かれました。この図からは、東京湾の北〜西南にかけて(東京、神奈川側)のつながりが1方向に偏っており、そのネットワークを強化するためには、小規模でも良いから干潟を多く配置していくことが大切であるという示唆が得られました。こうした成果を受けて、2003年に策定された「東京湾の再生のための行動計画(2013年に第2期計画を策定済み)」では、東京湾奥から西岸側に再生施策の「重点エリア」が設定されました。

 当研究所の実施する「沿岸域総合管理モデルの展開」事業においても、干潟の再生は重要なものです。志摩市の英虞湾では、干拓地を作るために設置された締め切り堤防の水門を開けることで4つの干潟が再生されました。そうした干潟が沿岸域の流れの中で、さまざまなつながりを持ち、生態系ネットワークの核として、また人々のつながりの拠点として機能していくことが期待されます。そのためにも、今後とも水の動きに気を配り、その「運ぶもの」に注目し、総合的な視野を持って、さまざまな関係者との協働で取り組んで参りたいと考えています。

海洋研究調査部長 古川 恵太

*詳細についてはこちらをご参照ください:アサリの幼生調査について.pdf

参考文献:

Hinata & Furukawa (2005) Ecological network linked by the planktonic larvae of the clam Ruditapes philippinarum in Tokyo Bay, in The Environment in Asia Pacific Harbours, Editors: Wolanski, Eric (ed.)
http://www.springer.com/jp/book/9781402036545

粕谷ら(2003)、夏季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動、国総研報告第8号
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/rpn/rpn0008.htm

粕谷ら(2003)、秋季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動、国総研報告第12号
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/rpn/rpn0012.htm

東京湾再生推進会議(2003)東京湾再生のための行動計画
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/TB_Renaissance/