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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.126 <CBD COP14滞在中の一幕> [2019年04月19日(Fri)]

 昨年(2018年)11月17日から29日にかけて、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された第14回生物多様性条約締約国会議(CBD COP14)(注1) にオブザーバーとして参加した。今回のCOPでは、2020年までを達成期限とする愛知目標(注2) の経過報告と、2020年以降の行動計画(Post 2020)を中心に議論が進められた。また、私たちの主な参加理由は、現在国連で議論されている公海域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用に係る条約(注3) に関して、CBD COP14でどのような議論が行われるかをフォローすることであった。今回のブログではCBD COP14そのものではなく、その開催地、シャルム・エル・シェイクに関して少しご紹介したい。

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シャルム・エル・シェイクの豊かなサンゴ礁(同行者撮影)
写真中のダイバーは、自然保護への熱意を感じられた地元のダイブインストラクター

 シャルム・エル・シェイクはシナイ半島南端の紅海に面するリゾート地である。現在は一大観光都市として有名だが、もとは小さな港町の一つにすぎなかった。しかし、この地を有名にした一つに、やはりその豊かな地形や生態系が関係しているのではないか。陸地は一見荒涼とした砂漠であるが、ワディ(アラビア語で涸れ川)、砂礫帯、泥地と、その地形は変化に富む。また、沿岸にはマングローブが生い茂り、沙漠、マングローブ、海へと続くコントラストが非常に美しい。そして、生命をあまり感じることのない陸地とは対照的に、海の生態系は非常に豊かである。筆者は現場視察の一環としてダイビングをしたのだが、サンゴの密度が高く、魚影が非常に濃い光景が印象的であった。短時間のダイビングに関わらず、絶滅危惧種に指定されている通称ナポレオンフィッシュ(注4) や、紅海固有種のブルーチークバタフライフィッシュ(注5) に出くわすことができた。もともとこの町の沿岸一帯は厳しく管理されており、自然の保全に対する意識が高かったそうだ。地元のダイビングインストラクターの話からは、この豊かな自然こそが、この町の収入源であるという高い認識が感じられた。大型の観光地として開発をする一方、自然保護も同時に行っていく。開発と保護の両立の在り方が、シャルム・エル・シェイクには存在することを感じた。

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荒涼とした大地に突如現れるマングローブと筆者
写真は地元の自然保護区、ラス・モハメド国立公園にて撮影

 次回のCBD COPは2020年に中国で開催される。これまでに私たちはどのように豊かな生物多様性を後世に残していくべきか。モスクから流れるアザーンの心地よい音を背景に、美しい自然に囲まれたこの町の滞在は、生物多様性を見つめなおす良い機会となった。

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地元の巨大イスラム教寺院(モスク)
滞在中は祈りの時間を告げるアザーンの音が度々聞かれた

海洋政策研究部 藤井 巌


注1:会議の詳細についてはこちら
注2:2010年に愛知県で開催された第10回生物多様性条約締約国会議にて採択された、生物多様性の損失を止めるための目標。
注3:正式名称は「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全および持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下の法的拘束力のある国際文書」。
注4:和名はメガネモチノウオ。学名はCheilinus undulates。国際自然保護連合レッドリストにおける絶滅危惧種。
注5:学名はChaetodon semilarvatus。紅海およびアデン湾に生息する。