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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.36 <海に向かって上る坂道> [2017年06月28日(Wed)]

 吹く風も次第に夏めいてきて、いよいよ海開きの季節です。そこで、私の前回のブログに引き続き今回も浜辺に関する話題を一つ。今回のタイトルは、「海に向かって上る坂道」です。

 違和感のある日本語のようにも聞こえますが、実際に海水浴などの際に海に向かって歩くときに注意深く観察するならば、浜辺に近づくにつれて道が少し上り坂になっていることに気づくことがあるかもしれません。また、WEBで「“海に向かって上る坂道”」と入力して検索を行うと、NHKの人気の地形番組がヒットしますので、あながち間違った日本語表現でもなさそうです。そして、もし浜辺に向かう坂道を見つけたら、あなたが立っているその場所は、かつて砂丘が存在していた場所かもしれません。

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写真1:海に向かって上る坂道(若狭和田海水浴場、福井県高浜町)(著者撮影)
※写真の奥側が海岸で、民宿街から海に向かうなだらかな上り坂。

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写真2:砂丘を造成して整備した駐車場(若狭和田海水浴場、福井県高浜町)(著者撮影)
※写真の奥側が海岸で、砂浜に降りるまでは急な下り坂。

 国内で砂丘(Sand Dune)といえば、「鳥取砂丘」を思い浮かべる方が多いと思います。砂丘は、戦後まもない頃までは日本でも比較的いろいろな地域で見られた自然地形でしたが、戦後の食糧増産・工業化に対応して沿岸部の耕地化や開発が進んだ結果、消失が続いて今日ではその存在すら危ぶまれています。

 砂丘を擁する鳥取県では砂丘条例が制定され、京都府では府のレッドデータブックに久美浜砂丘(京丹後市)が絶滅危惧地形として指定されるなど、砂丘の保護に向けた様々な取り組みが進められています。また、砂丘保全の問題はわが国だけでなく、米国カリフォルニア州のオセアノ砂丘(Oceano Dunes)やフランス大西洋岸のピラ砂丘(La Dune du Pilat)などでも同様にあり、土地トラスト運動や自然保護区化を進めたり、開発規制、外来植物の侵入による草原化を防ぐなどして、海岸から風で陸地に吹き上げられた砂が自由に移動できる砂丘環境を保つための努力が、地道に続けられています。

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写真3:海に向かって上る坂道(鳥取砂丘入口、鳥取県鳥取市)(著者撮影)
※写真の奥側700m先が海岸で、海岸まで上り坂が続く。

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写真4:砂丘の頂上(鳥取砂丘、鳥取県鳥取市)(著者撮影)
※頂上は海抜50〜60m程度あり、海側は急斜面の下り坂。

 さて、日本に目を転じ、戦後復興を遂げたわが国の砂丘をとりまく政策の流れを振り返ると、戦後の農業生産や防災を目的とした農地森林政策(海岸砂地地帯農業振興臨時措置法:1953年制定、1971年失効)や、工業化を支える工場・港湾・高速道路・住宅地の整備など国土開発政策が進められる中で、多くの砂丘が消失してきたことが過去の航空写真や文献などからもわかります。また、ダムや港が造られたことによって、本来、山・川・海を通じて陸地に吹き上げられるはずの砂の供給が極端に減少したことも見逃すことができない潜在的な原因となっています。

 しかし、砂丘を形成する力である「波と風」は、昔とまったく変わらず今も陸に向かって働き続けています。このことから冒頭で紹介したような「海に向かって上る坂道」がある町を見つけた際には、途中で止まらずに是非とも波打ち際まで歩き続けてみてください。山や川が削られて海岸に流れついたごくわずかな砂が、今も昔と変わらずに働く波と風の力によって陸地に吹き上げられ、汀段(後浜)や小さな砂丘を形成している場所を発見できることでしょう。またそこでは、砂浜固有の植物(砂草)、昆虫、風紋(風が作る砂の模様)や、極まれに上陸したウミガメの足跡などを見られるかもしれません。

 今回のブログでは、記事のネタに悩みながらも、「海に向かって上る坂道」から「砂丘」をテーマに、海洋政策を考える上での「海と陸」を一体的に捉える重要性について迫ってみました。文末におすすめの海岸砂丘のリスト(Google Mapリンク)を記しました。衛星写真やストリートビューモードでご覧いただくことで、砂丘・自然の波と風の様子を感じていただければと思います。また、この夏のお出かけの際に、もし機会があれば、砂丘にも足を運んでみてはいかがでしょうか。今までとは一味違った自然の姿を感じることができるかもしれません。それではみなさま、よい夏をお迎えください。

■砂丘の形成がみられる代表的な海岸
1) 中田島砂丘:静岡県浜松市
www.google.com/maps/place/34°39'39.5"N+137°44'36.2"E
2) 鳥取砂丘:鳥取県鳥取市
www.google.com/maps/place/35°32'28.1"N+134°13'44.6"E
3) 久美浜砂丘:京都府県京丹後市
www.google.com/maps/place/35°38'43.1"N+134°55'02.8"E
4) 辻堂海水浴場(砂丘跡地):神奈川県藤沢市
www.google.com/maps/place/35°19'07.0"N+139°27'10.3"E
5) 若狭和田海水浴場(砂丘跡地):福井県高浜町
www.google.com/maps/place/35°29'30.6"N+135°34'27.2"E
6) オセアノ砂丘自然保護区:米国・カリフォルニア州
www.google.com/maps/place/35°03'56.3"N+120°37'13.6"W
7) ピラ砂丘:フランス・ジロンド県
www.google.com/maps/place/44°35'48.4"N+1°12'33.6"W

■砂丘・海岸林・砂浜について考える上で役立つ書籍・論文
1) 小田隆則「海岸林をつくった人々〜白砂青松の誕生〜」(北斗出版、2003年)
2) 太田猛彦「森林飽和〜国土の変貌を考える〜」(NHK出版、2012年)
3) 宇多高明「海岸侵食の実態と解決策」(山海堂、2004年)
4) 重見之雄「海岸地域の利用と変貌」(古今書院、2000年)
5) 寳金敏明「里道・水路・海浜〜長狭物の所有と管理〜」(ぎょうせい、2003年)
6) 塩入同「海水浴場の汚水処理に取り組む地方自治体に見る縦割り行政の総合化に関する研究」『沿岸域学会誌』第29巻第3号29‐43頁(2016年)

■参照したウェブサイト
1) 塩入同「海のジグソーピースNo.12<湘南海岸の冬支度―海岸管理という仕事―>」2016年
https://blog.canpan.info/oprf/monthly/201612/1
2) NHK「ブラタモリ#45〜新潟は“砂”の町!?〜」2016年
http://www.nhk.or.jp/buratamori/map/list45/fullscreen_all.html
3) 鳥取砂丘情報館「とっとり砂丘王国〜砂丘みどころ完全ガイド〜」2016年
http://site5.tori-info.co.jp/p/sakyu/guide/spots/find/
4) 京都府「京都府レッドデータブック」2015年
http://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/
5) 鳥取県「鳥取沿岸の総合的な土砂管理ガイドライン」2005年
http://www.pref.tottori.lg.jp/73976.htm
6) 神奈川県「相模湾沿岸海岸侵食対策計画〜美しいなぎさの継承をめざして〜」2011年
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f160298

海洋政策チーム 塩入 同