海のジグソーピース No.147 <気候変動と海洋について考える1週間―国連気候行動サミットとIPCC第51回総会―>
[2019年09月25日(Wed)]
今週(9月23日)、国連で「気候行動サミット」が開催され、16歳のグレタ・トゥンベリさんが演説したことが話題になっています。この演説は、心のどこかに「何十年も先には自分は生きていないから」という気持ちがあった私たちに対して、改めて次世代のことを思い、地球温暖化の課題に向き合う契機を与えてくれたように思います。これに先立つ9月22日には、世界気象機関(WMO)が、最近5年間(2015~19年)の世界の気温が観測史上最高であったことを報告していますが、地球温暖化は私たちが実感できるレベルになってきました。
飽和水蒸気の変化を示すクラウジウス-クラペイロンの式を御存知でしょうか。【図1】のような中学の理科で習うグラフですが、気温が30℃から2℃上昇するだけで、飽和水蒸気量が1割以上も増えることが分かります。気候学者の眞鍋淑郎博士は、「このグラフが直線ではなく曲線であるため、少し気温が高くなっただけでも飽和水蒸気量が増大し、その結果として雨の降り方が激しくなることが分かる」と2年前に海洋政策研究所で開催した講演会でお話しされました。豪雨の増加など、地球温暖化は私たちの生活でも切実な課題になってきました。
海洋も地球温暖化の大きな影響を受けることが知られています。資料によって多少ばらつきはありますが、海洋は1970年代以降に上昇した熱の93%を吸収し、1750年以降に排出された二酸化炭素の28%を吸収し、氷山から融け出た淡水を事実上すべて受け入れています。海洋への熱や淡水、二酸化炭素の蓄積は、近年では海水温や海面水位の上昇、海洋酸性化のかたちで科学的に検知可能なレベルに達しており、海洋環境への影響は無視できない状況になってきています。昨年(2018年)に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃特別報告書は、サンゴ礁の減少や絶滅の危険性が高いことを示すなど警鐘を鳴らしています。水産資源への影響も懸念されており、生息域の減少や移動により、赤道太平洋域での漁獲が将来大幅に減少すると言われています。また、南極の氷床融解の影響などを考慮した、海面上昇の将来予測値の見直しも必要となってきました。
このような海洋環境の課題に対して、今週、世界中の科学者が集まった会議がモナコで開催されています。IPCCの第51回総会です。この総会を経て、海洋を対象とした初めてのIPCC海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)が公開されます。海洋政策研究所(OPRI)では、この公開を受けて、作成に携わった科学者たちを招いたSROCC公開記念シンポジウムを10月15日(火)に環境省との共催のもとで開催します。SROCCで示されたメッセージを受けた課題や対策について、熱く議論します。また、具体的な対策としては、日本の科学技術を活かしたイノベーションの活用も検討し、まさに「ホット」で「クール」な議論を、12月にチリで開催される「Blue COP」に向けて展開したいと考えています。どうぞ足を運んでみてください。
海洋政策研究部主任研究員 角田 智彦