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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.8 <「森川海の総合診断」の開発について> [2016年11月22日(Tue)]

 当研究所では、海洋政策研究財団として活動していた2000年に沿岸域の生態系の安定性と物質循環の円滑を指標に海の環境状況を測定する「海の健康診断」手法を開発しました。この手法を用いて、2001年より全国88ヶ所の閉鎖性海湾の「生態系の安定性」と「物質循環の円滑」についての診断(第1回)、2006年より全国71ヶ所の閉鎖性海湾に対しての診断(第2回)を実施しました。その結果、「海の健康診断」手法の実施を通して明らかになった沿岸海域の環境状況における諸問題の要因は、その海域とつなぐ陸域における人間社会の諸活動から由来するものであることを明らかにしました。

 一方、国の政策としては、2007年に制定された海洋基本法第25条で「沿岸域の総合的管理」において、「自然的社会的条件からみて一体的に施策が講ぜられることが相当と認められる沿岸の海域及び陸域について、その諸活動に対する規制その他の措置が総合的に講ぜられることにより適切に管理されるよう必要な措置を講ずる」と定められています。そのため、沿岸域における自然環境と人間社会を一体的に考え、施行される政策も総合的に検討・評価すべきであると考えられます。そこで、2015年に当研究所において、沿岸海域と沿岸陸域を含める沿岸域の範囲を森から川や海へと拡大し、「沿岸域総合管理」における計画や施策の取り組み状況を評価する新たな診断手法、名づけて「森川海の総合診断」手法を開発しました。

 「森川海の総合診断」手法では、「海の健康診断」手法で採用されていた生態系の安定性と物質循環の円滑という2つの評価軸に加え、社会科学の観点から沿岸域における人間の社会・経済活動の状況をもう1つの評価軸として取り入れました。さらに、自然科学と社会科学の両面から5つの目標(ゴール)、22個の具体的な項目を設定し、それを評価する34項目の定性的あるいは定量的な指標を提案しました。これがこの政策の評価手法開発の第1段階であります。次のステップにおいては、具体の地方公共団体のデータを用いて実際に診断を試行し、沿岸域総合管理を実施している場合と、そうでない場合の比較などを通して、「森川海の総合診断」による評価の有効性や指標の特性の確認、評価手法の確立を行っていきたいと考えております。

 今後、この「森川海の総合診断」手法が政策評価のツールとして沿岸地域で行われる計画策定に有益な示唆を提供するための一助となることを願っております。

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森・川・海のつながり(出典:環境省『里海づくりの手引書』)

海洋政策チーム 高 翔

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