CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る

海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


Ocean Newsletter No.401 [2017年04月20日(Thu)]
No.401が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************

●海洋資源開発に係る環境評価のあり方
(一財)エンジニアリング協会石油開発環境安全センター副所長・総務企画部長
◆那須 卓

(一財)エンジニアリング協会石油開発環境安全センターは、
1991(平成3)年の設立以来、海洋石油・天然ガスの開発に係る
保安と環境保全に関する調査研究を行ってきた。
本稿では、海洋資源開発に係る環境評価のあり方を考える上で
参考となる、海洋石油・天然ガス開発先行国である米国等における
環境影響評価制度の概要と、実際の開発プロジェクトで作成された
環境影響評価書等を収集し比較・分析した概要について紹介する。

●神話を生んだ島根半島の魅力と国引きジオパーク構想〜
島根大学教育学部教授・島根大学くにびきジオパーク・プロジェクトセンター長
◆野村律夫

島根半島と宍道湖・中海が一体となった地域は、古代出雲文化の創生地であった。
その地に伝わる『出雲国風土記』には、人々の生活と自然が密接に関わった
神話伝説を生み出すのに十分な背景があったことが示されている。
その背景とは、この地域が新生代地球史のなかで地質学的大変動を起こした
日本を代表する場所のひとつであったからである。

●企画展「クリオネと海洋酸性化」開催について
北海道蘭越町貝の館学芸員◆山崎友資

海洋の温暖化と酸性化問題は、社会と密接な関係にあるにもかかわらず、
その過程やリスクについて広く知られておらず、緩和策や適応策について
全体で考える段階にない。
そこで、貝類専門博物館であるミュージアムの主旨を生かし、
話題性があるキーワードを入口として、緩和策や適応策について考える
機会の提供を目的に、海洋酸性化に関する企画展「クリオネと海洋酸性化」を
開催した。

●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

ご購読のお申し込みはこちら
Posted by 五條 at 20:09 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.27 <安全保障問題分析に必要な学際的な眼> [2017年04月19日(Wed)]

 前回の記事(2016年11月02日付)で、私は東アジアの海洋安全保障環境を経済学のゲーム理論の代表選手である「囚人のジレンマ」モデルを使って分析する手法をご紹介しました。同モデルによれば、二国間に特定の利害関係が生じている場合、両国とも結果推論から導かれる合理的判断によって「利己主義的」な判断を下してしまうがゆえに、全体としては損をするという非合理的な結果を招くというものでした。このように、国際関係や安全保障問題は、政治学的な分析だけでなく、学際的にも分析することが可能です。そこで今回も、経済学・経営学的な知見を借用した分析手法をご紹介したいと思います。

 近年、国際関係や安全保障問題の研究で「リアリズム(現実主義)」という考え方が注目を集めています。リアリズムとは、世界全体を統治する政府が存在していない(無政府状態)という現状認識を基盤としています。そして、各国家の至上命題はその存続にあるがゆえに安全保障が最優先となることから、国家はパワーを行使するのだと説明します。これは、国際協調や国際法を重視する楽観主義に懐疑的な立場とも言えます。

 このリアリズムから派生した国際政治学の考え方の一つに、「攻撃的現実主義(Offensive realism)」があります。東アジアの海洋安全保障問題に関する論考を多く発表しているジョン・ミアシャイマー(シカゴ大学政治学部教授)は、この考え方の主要論者の一人です。彼は、リアリズムの基本原則に則り、無政府状態や国家の合理的行動などを前提とし、南シナ海問題に関して、中国をはじめとする関係各国の行動や背景となる海洋安全保障環境を分析しています。ミアシャイマーによれば、中国は生き残りをかけ自国に有利な形での世界秩序構築(変革)の追求を合理的に選択することとなるため、米国は、中国との間において、戦争の潜在性が相当存在する安全保障上の激しい競争状態に置かれることになります。実は、こうした考え方は、何も政治学に限ったことではありません。

 経済学では、リアリズム的な考え方を「SCPパラダイム(モデル)」と呼びます。このモデルは、「構造(Structure)が、各行動主体の具体的行動内容(Conduct)を決定し、それが結果・成果(Performance)を決める」という考えに基づいています。これは、各国の政治・経済システムや資源といった構造が、当該国企業の具体的な行動内容を決定し、その結果として各企業の経済的なパフォーマンスが生じていることを意味します。

SCPパラダイム.jpg
SCPパラダイム(筆者作成)

 一方、経営学では、SCPパラダイムの考え方を援用し、市場構造が必然的に企業の行動や業績を決定することを前提に経営戦略を構築すべきだとする「ポジショニング派」が存在します。彼らは企業間競争における市場分析(ファイブフォース分析と言います)などにSCPパラダイムの考え方を用い、市場内競合他社や異業種市場参入などの脅威を明らかにします。例えば、市場構造上の隙間が有るのであれば、我が社はそこに進出すべき(ニッチ戦略の構築)ということになります。

 皆さんは、こうした「攻撃的現実主義」「SCPパラダイム」「ポジショニング派」の考え方についてどのような感想を持たれるでしょうか?これらの理論に共通するのは、「構造が結果を必然的に決する」という立場です。「同じ環境に置かれた国家や人間は、合理的判断の結果として同じ行動を選択するのだから最終的には同じような結果が生じるのだ」という考え方の持つ、明快な筋道と因果関係を基にした論理性は確かに大きな魅力であり、海洋安全保障問題におけるリアリズムの考え方の重要性・必要性を裏付けるものです。

 では最後に、こうしたリアリズム的な主張に反対する立場をご紹介します。その一つが、経営学の「資源ベース論(Resource-based view)」です。「ポジショニング派」が、市場構造やライバル企業の存在を背景として市場分析を行い、経営戦略を構築すべしと主張するのに対し、この理論は、「自社の持つ独自の強み(能力)は何か」に着目して戦略を構築するものです。私の専門領域で言えば、「自国の持つ海洋安全保障上の独自の強み(能力)は何か」と言い換えることが可能です。これは、既存構造という現状を打破し、自国の強みを伸長するだけでなく、弱みをカバーするために、対立だけでなく戦略的な協調をも希求する考え方です。したがって、ミアシャイマーらのリアリズムとは異なる未来像を描きます。日本の持つ海洋安全保障上の独自の強みはどこにあって、それをどうやって伸ばしていけば良いのだろうか、弱みがあるとしたらそれをどうカバーしていけば良いのか。「資源ベース論」の考え方は、我々にこう問いかけてきます。こちらも魅力的だと思いませんか?

 どちらの主張が正しいというものではありませんが、いずれにしても、安全保障を深く理解する上では、上述したような学際的な知識と分析が欠かせないということをご理解頂ければ幸いです。

海洋安保チーム長 倉持 一

海のジグソーピース No.26 <ユーラシアブルーベルトの安全保障とシーパワー> [2017年04月12日(Wed)]

 1492年、スペインのパロス港を出帆したコロンブスはアメリカ大陸に到達しました。コロンブスが大西洋を西に進んだのは賢明でした。当時のヨーロッパでは地球が丸いなど論外、北には燃える海が広がっているとの言い伝えすらあったのです。迷信を打ち砕くべく、コロンブスが北に進んでいたら、燃えるどころか凍てつく氷の海に行く手を阻まれていたでしょう。日本はもうすぐ春を迎えますが、地球温暖化が進む中で北極海を閉ざしていた海氷が縮小した結果、北極海がは今、航路として活用されはじめています。

 北極海が航路として拓かれることが何を意味するのか。例えば、日本の港を出た船が太平洋を北に向かい、ベーリング海から北極海に入って西に進み、大西洋に出て南下し地中海に入り、スエズ運河を通ってインド洋を西行して、マラッカ海峡を経て日本に戻る。同じ船が再びベーリング海に向かい、今度は北極海を東に向かって大西洋に出て、アメリカ大陸東岸を南下し、パナマ運河を通ってアメリカ大陸西岸を北上した後に太平洋を西行して日本に帰る。アフリカや南米に寄港する必要があれば、スエズやパナマ運河ではなく、喜望峰やマゼラン海峡を回る選択肢もある。そのようなエンドレスな航海が可能となるはずです。前者の航路を“ユーラシアブルーベルト”、後者の航路は“リムアメリカ・パシフィックブルーベルト”と呼称しておきましょう。港と港の間を表現する“シーレーン”という言葉は、地球を周回する“シーサークル”と呼称する方が適切となるでしょう。環状線のように地球をぐるぐる回るコンテナ定期船や、宅急便のように荷物を配送しつつ、世界を周回するバラ積み船も現れそうではないですか。

 当研究所では、“シーサークル”のうちの“ユーラシアブルーベルト”に焦点を当て、2015年度から3年計画で「ユーラシアブルーベルトの安全保障とシーパワー」と題する調査研究を実施しており、毎年国際会議を開催しています。上記のような“シーサークル”が出現すれば、海洋安全保障環境はどのように変化するのであろうか、航行安全を如何にして確保すればよいのか、“シーパワー”の概念にはパラダイムシフトが生じるのではなかろうか、古典地政学は根本的な見直しをせまられるのではないか、日本と国際社会はどのように対応すれば良いのであろうか、その解答を見つけ出すのが本調査研究の目的です。

ユーラシアブルーベルト2.jpg
ユーラシアブルーベルトの概念図(著者作成)

 研究初年度の2015年度は、東・南シナ海からインド洋にかけて、翌2016年度は地中海から北大西洋に掛けての海域を対象として、それぞれの海域に影響力を持つ代表的な国から専門家を招聘して国際会議を開催し、@安全保障環境、Aグローバリゼーションの進展と地政学的考察、B航行の安全確保とシーパワーのあり方、C海洋安全保障環境の安定化方策、について検討しました。

 最終年度となる2017年度は、北極海から北太平洋にかけての海域を対象とする国際会議を開催して調査研究するとともに、3年間の調査研究の成果を取りまとめ、ユーラシアブルーベルトの航行安全の確保とそのためのシーパワーのあり方について提言を作成する計画です。当研究所はこれからも、先見性とオリジナリティーのある調査研究を推進していく所存です。

特別研究員 秋元 一峰

Ocean Newsletter No.400 [2017年04月07日(Fri)]
No.400が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************
【400号記念】

●北太平洋漁業委員会の誕生
北太平洋漁業委員会事務局長◆Dae-Yeon Moon

北太平洋の海洋生態系を保護しつつ、条約水域における漁業資源の
長期的な保存および持続可能な利用を確保することを目的として
北太平洋漁業委員会(NPFC)は誕生した。
漁業に関わるあらゆる国連総会決議に従いつつ、科学的側面および
法規的側面を含む作業計画の策定、対象魚種の資源量評価の実施、
データ管理システムの構築、他の機関との協力推進等によってこの
目的の達成を目指す。

●"海のプロフェッショナル"体験の有効性
〜「B&G東京湾海洋体験アカデミー」の取り組み〜

(公財)ブルーシー・アンド・グリーンランド財団事業部事業課◆林 未来

B&G財団では、海を舞台に活躍するプロフェッショナルの現場を訪問し、
4泊5日の体験学習を通じてその仕事の魅力と重要性を理解させ、
将来的に海を目指す子どもたちを育てること等を目的に、小中学生を対象に
「B&G東京湾海洋体験アカデミー」を開催している。
参加者の「海の仕事」に対する参加前後の興味の変容等に対する調査結果を踏まえ、
業種横断的な体験学習が海の次世代人材育成に効果的であることを提案する。

●世界最古の釣り針が語る沖縄旧石器人の暮らし
国立科学博物館研究員(元沖縄県立博物館・美術館主任)◆藤田祐樹

今まで謎につつまれていた沖縄旧石器人の暮らしぶりが、サキタリ洞遺跡の
発掘によって明らかになってきた。
それは、川でモクズガニやオオウナギを捕え、海に出かけて魚を捕り、
貝殻を集めて道具や装飾品を作り上げる、思いがけない旧石器人の姿だった。
私たちの想像を超えて、彼らは水産資源に親しんでいたらしい。

●編集後記
公益財団法人笹川平和財団海洋政策研究所長◆寺島紘士
山梨県立富士山世界遺産センター所長◆秋道智彌
(公財)日本海洋科学振興財団会長◆山形俊男

ご購読のお申し込みはこちら
Posted by 五條 at 10:36 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.25 <海の水が運びつなぐもの> [2017年04月05日(Wed)]

 当研究所ブログのコンテンツ「海のジグソーピース」が開始されて、半年が経ちました。ご愛読いただいている方々に深く感謝いたします。初めてご覧になる方に改めてご説明しますと、「海のジグソーピース」は、当研究所の研究員が持ち回りで各自の研究の紹介や、その中で見つけたカギとなるピースをご紹介しています。さまざまなピースをご覧いただくことで、当研究所の目指す研究の姿をご想像いただこうという、読者参加型のコンテンツです。

 さて、今回は、私が専門としている水の流れの話をします。沿岸域を含む海の環境と陸の環境の特徴を分けているのは、水の存在です。水は、空気の約1000倍重く、約50倍粘っこく、約4倍暖まりにくく冷めにくい性質を持ち、100gの水があれば約200gの糖類を溶かすことができます。即ち、1㎥あたり1tの物を浮かすことができ、わずか毎秒30cmの水の流れは、秒速10mの風速と同じ運動エネルギーを持ち、1ℓの水に、2.5人分の成人男性の1日の必要摂取カロリーを溶かすことができるのです。

 この性質により、水は海と陸のあいだを循環する中で、山から川や地中を通り、一部は人間に利用された後、海に戻る過程で熱や、栄養、土砂などさまざまなものを吸収し、溶かし、浮かして運んでいきます。形あるもの無いものを含めて「運ぶ」力の強さが水の特性です。そして、さまざまなものが「運ばれる」ことにより、水を介して物質が循環し、生態系としての強いつながりを持っているために、海や沿岸域の環境のことを考えるときに、より広い範囲、長期間の影響を総合的に考える必要があるのです。

古川1.png

沿岸域における水の循環によるつながりの模式図(著者作成)

 水の流れによって運ばれるものの中には、生き物も含まれます。生き物によってつながれている場を生態系ネットワークと呼びます。これは、海や沿岸域の生態系を保全・再生するときの鍵となる考え方です。

古川2.jpg

推定されたアサリ幼生ネットワーク
(赤矢印:同じ干潟内のつながり、青矢印:異なる干潟間のつながり、
数字:相対的なつながりの強さ、Hinata & Furukawa (2005)より)

 国土交通省国土技術政策総合研究所が中心となって行った東京湾でのアサリ幼生のネットワークの研究*では、漁業者(調査協力、アサリ資源の情報提供)、水産の研究者(アサリ幼生の判別)、海洋学の研究者(海流・湾内流動の解析)、通信技術の研究者(海洋レーダによる湾内流動の観測)、生態系の研究者(アサリ生活史、捕食関係のチェック)、調査・分析の専門家(調査・分析)など分野を超えた人々のつながりによってアサリのネットワークの図が描かれました。この図からは、東京湾の北〜西南にかけて(東京、神奈川側)のつながりが1方向に偏っており、そのネットワークを強化するためには、小規模でも良いから干潟を多く配置していくことが大切であるという示唆が得られました。こうした成果を受けて、2003年に策定された「東京湾の再生のための行動計画(2013年に第2期計画を策定済み)」では、東京湾奥から西岸側に再生施策の「重点エリア」が設定されました。

 当研究所の実施する「沿岸域総合管理モデルの展開」事業においても、干潟の再生は重要なものです。志摩市の英虞湾では、干拓地を作るために設置された締め切り堤防の水門を開けることで4つの干潟が再生されました。そうした干潟が沿岸域の流れの中で、さまざまなつながりを持ち、生態系ネットワークの核として、また人々のつながりの拠点として機能していくことが期待されます。そのためにも、今後とも水の動きに気を配り、その「運ぶもの」に注目し、総合的な視野を持って、さまざまな関係者との協働で取り組んで参りたいと考えています。

海洋研究調査部長 古川 恵太

*詳細についてはこちらをご参照ください:アサリの幼生調査について.pdf

参考文献:

Hinata & Furukawa (2005) Ecological network linked by the planktonic larvae of the clam Ruditapes philippinarum in Tokyo Bay, in The Environment in Asia Pacific Harbours, Editors: Wolanski, Eric (ed.)
http://www.springer.com/jp/book/9781402036545

粕谷ら(2003)、夏季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動、国総研報告第8号
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/rpn/rpn0008.htm

粕谷ら(2003)、秋季東京湾におけるアサリ(Ruditapes philippinarum)浮遊幼生の出現密度の時空間変動、国総研報告第12号
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/rpn/rpn0012.htm

東京湾再生推進会議(2003)東京湾再生のための行動計画
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/TB_Renaissance/

海のジグソーピース No.24 <江田島も桜の季節> [2017年03月29日(Wed)]

 当研究所は、太平洋島嶼国に関する調査研究や島嶼関連情報の収集・発信といった「島」に関する事業も実施しています。今回は、私が毎月1〜2回訪問する「島」を紹介したいと思います。

 そこは、東京から新幹線で4時間、更にローカル線に乗り換え30分、そこからフェリーに乗って20分、瀬戸内海の広島湾に浮かぶ「江田島」です。江田島は、牡蠣や柑橘類、またオリーブといった特産品の他、某旅行口コミサイトによる2014年の「行ってよかった!無料観光スポット」ランキングで3位を獲得した「海上自衛隊第1術科学校」などで知られています。自衛官の知識・技能の向上を目的とした教育訓練を行う海上自衛隊第1術科学校は、海上自衛隊の幹部自衛官を養成する海上自衛隊幹部候補生学校とともに、旧海軍兵学校跡地にあります。海軍将校養成の場として、イギリスのダートマス、アメリカのアナポリスと並ぶ世界三大兵学校と称された旧海軍兵学校の跡地は、凛とした校舎の佇まいや、整然とした庭、まっすぐに伸びた松など、過去から現在まで脈々と引き継がれる海軍の伝統と清廉な精神が感じられる場所です。

吉川1.jpg

左:第1術科学校、右:幹部候補生学校、
後方:旧海軍兵学校の生徒が鍛錬の場としていた古鷹山

 第1術科学校は構内の見学ができ、見学で訪問する際は正門で受付をして構内に入りますが、第1術科学校の正式な出入り口は、実はこの正門ではありません。正式な出入り口、いわば表玄関は、広島湾に面した「表桟橋」です。要人はここから第1術科学校を訪問し、また、幹部候補生が訓練課程を修了して江田島を離れる時もこの表桟橋から旅立ちます。

吉川2.jpg

表桟橋と広島湾

吉川3.jpg

卒業した幹部候補生は沖合の練習艦まで小型艇に分乗し向かう。
この後、幹部候補生は国内巡行を行った後、約6カ月の遠洋練習航海に出る。

吉川4.jpg

第1術科学校や幹部候補生学校の入校式や卒業式が行われる大講堂。
NHKドラマ「坂の上の雲」の撮影にも使われた。

 例年、3月の終わりから4月初旬にかけて、江田島は島全体が満開の桜で覆われ、第1術科学校も歴史的建造物と桜のコラボレーションが楽しめます。桜の開花予想によれば、この週末は5分咲きとのことです。ぜひ出掛けてみてはいかがでしょうか。

海洋環境部 吉川 祐子

海のジグソーピース No.23 <「モアナと伝説の海」を観て、島の将来と移転問題について考えました> [2017年03月22日(Wed)]

 「私たちは、風と空を読む。お日様が高いときには、海の長さにあわせて船をこぐ。海にそよ風が吹いてるときは、夜空の星ぜんぶの名前を言える。私たちには分かる、今どこにいるかが♪」

 最近、公開されたディズニー映画「モアナと伝説の海」の中で、主人公の16歳の少女「モアナ」が海に出るときに流れる曲、「自らの進む道を知っている」“We know the way”の一節です。モアナは、ハワイ語で「海」という意味。勇敢なモアナは、島と海と愛する島の人々を守るために大海原へ航海に出ます。

 モアナの故郷は、南太平洋のサモアという火山島と環礁からなる島嶼国家という設定です。そして、“We know the way”を作曲したOpetaia Foa’iという男性アーティストは、南太平洋のニュージーランド自治領・トケラウ諸島の出身。彼の父母はそれぞれトケラウとツバルの出身です。実は、このトケラウ諸島とツバルに加えて、マーシャル諸島共和国、キリバス共和国の4つの島嶼国家・自治領は、いずれも太平洋の環礁というサンゴ礁の隆起・沈降によりできた標高の低い環状の陸地と、それが取り囲む水面(ラグーン)からなり、地球温暖化とその結果によって起こる海面上昇によって、沿岸域の海水による浸食、さらには国土存続の危機に瀕しているのです。

 今後30から50年の内に、キリバス共和国(人口:92,000人)、マーシャル諸島共和国(人口:52,000人)、ツバル(人口:9,000人)では、気候変動による海面上昇で国土の大半が水没してしまうことが予想されています。迫りくる国家の危機に対して、これらの国々は主に3つの手段を講じて対応しようとしています。一つ目は、防潮堤の建設や国土の埋め立てというハードのアプローチ、二つ目は国内での移転、三つ目は国外への移転です。例えば、キリバスの前大統領アノテ・トン氏は、「尊厳ある移住(Migration with dignity)」政策を掲げ、キリバス国民が、将来スムーズに国外移転できるように、先手を打ってフィジーに土地を購入し、移民先で困らないよう職業訓練プログラムの充実を図るなどの施策を実施していました。

 2016年7月に私自身、現地調査でキリバスの首都タラワがある環礁を初めて訪れました。キリバスの平均海抜は約2mという非常に低い陸地なのです。飛行機の上空から見ると、サンゴ礁の輪から成る指輪のような国土が目に入り、降り立ってみるとその細長い土地に一本道が走り、島をほぼ一周しています。その道を走ると両側に海とラグーンが見えます。土地の横幅は、500m程度のところもあったかと思います。寝ている間に波の音が聞こえると、ホテルごと波をかぶってしまうのではないかと、正直少し怖かったのを覚えています。

 現在のところ、「気候変動難民」に関する国際法上の定義や支援の枠組みは未整備です。今後、移転を余儀なくされると予想されている島嶼国の住民の国際的な移転、移転先のホストコミュニティーとの融和、生活再建などの方法論を確立することは、国際社会にとって実は火急の課題なのです。また、パリ協定などの新しい国際的な枠組みを踏まえて、 移転問題を、気候変動対策の適応策の一環としてしっかりと位置づけ、太平洋島嶼国の地域計画や国家計画に組み込んでいく必要もあるでしょう。当研究所は、東京大学や環境法研究所(アメリカ)、国際自然保護連合(IUCN)オセアニア事務所(フィジー)などと協力して、気候変動と環境避難民問題に関わる課題と支援策についての議論を進めており、2016年12月6-8日に当財団で開催された第2回「島と海のネット(IOネット)」総会・専門家会合でもこの問題を取り上げ、活発な意見交換を行いました。

前川1.jpg

IOネット総会・専門家会合「気候変動と環境避難民問題に係る課題と
事業形成の可能性について」参加メンバー

キリバス全景.jpg
キリバス共和国の空撮写真(著者撮影)

 「モアナと伝説の海」では、一人の少女の勇気ある行動によって、命の女神テ・フィティは「心」を取り戻し、偉大なる海と島の自然、そして島の人々は救われました。(これから観る方は、ごめんなさい!)

 果たして、私たちは、自らの進むべき道を知っているのでしょうか? ♪♪♪

海洋政策チーム主任研究員 前川美湖

海のジグソーピース No.22 <公法学との出会い> [2017年03月15日(Wed)]

 わたしが現在専門にしている公法学との「出会い」はいつかということからお話ししますと、常に「出会い」の連続なので、特定の時点を挙げるのは難しいのですが、興味をもち始めたという意味では、大学法学部の学生の頃、偶然に手に取った憲法の教科書の裏表紙に書かれていたニーチェの言葉を見た時が初めての「出会い」だったような気がします。もう20年近く前のことなので、どなたが書いた教科書だったかは忘れてしまいましたが、そこには「怪物と戦おうとするものは、そのために、自らも怪物と化さぬよう心せよ」という言葉が引用されていました。その解釈は人それぞれでしょうが、当時、その言葉を初めて目にしたわたしは、ナイーブにも、その中に自分の私生活における教訓を見出すとともに、民主主義を標榜し、抑圧的な政府の打倒を目指して戦ってきたはずの人たちが、自らが権力を手にすると途端に、同じくまたはそれ以上に抑圧的な政治を行ってきた歴史的事例(程度の差こそあれ、今でも多く見られる事実かもしれませんが)を思い浮かべました。その時から、漠然と、公法とは何を規律し、それを研究対象とする公法学とはなにを目指すものなのか、真に知りたいと思うようになったと記憶しています。

 公法とは、国家とその国民との関係を重要な規律対象の一つとする法分野です。その中には人間が生まれながらにして有しているとされる基本的人権の保障も含まれています。よく私人の間でも人権侵害が問題とされることがありますが(例えば、雇い主からの不当な解雇や近隣の住民からの住環境の侵害等)、原則として、公法は私人間には適用されません。ただし、国家と国民といった権力関係を前提としなくとも、実際に他人の生活や意思決定に影響を与える立場にある私人の行為を公法の側からも規律しようとする流れが、憲法学における人権の私人間効力論に見られるように、近年多くの法領域で見られるようになってきているように感じます。そのような発見が、わたしと公法学との新たな「出会い」と呼べるかもしれません。

 わたしの専門は国際公法ですが、それは伝統的に「平等な」主権国家間の関係を規律してきたという意味では、わたしは私法的性格が強いのではと考えていますが、あらゆる国家とその国民との関係に関する規律が拡大してきている点で、やはり公法の一分野なのだろうと思います。特に21世紀に入って、情報技術が発達し、グローバル化が進行する中で、主権国家以外のアクターが私人に対して直接・間接に一定の権力を行使する場面が増えてきています。その代表的なものが国際機関で、特に世界銀行をはじめとする国際金融機関の政策は、具体的なプロジェクトを通じて、現地の先住民族の人権や環境といった利益に大きな影響を与えます。現在、スタンダードな国際法の教科書では国際機関は一般的に取り上げられており、近年では国際機関と私人の関係についての研究も進んできていると思われます。

 他方で、例えば、NGOのような私的団体が、利益追求という目的にかかわらず、環境や人権という価値に基づいて、製品の認証を行うというように、従来国家が行ってきた任務を私人が行うという現象もいたるところで見られます。いわゆる「海のエコラベル」等のような、持続可能な形で生産された産品の購入を促すために実施される認証制度は、世界中で400以上あるといわれています。そのような私人による事実上の規制の結果、影響を受ける人たちの救済をどのようにはかることができるか、それが今のわたしの主たる関心です。

 以上、雑駁ですが、公法学との「出会い」にはじまり、わたしの最近の関心についてお話ししました。

村上さん1.jpg

国際的な法律問題に判断を下すICJの法廷 (出典:国際司法裁判所(ICJ))

海洋政策チーム 村上 悠平


海のジグソーピース No.21 <国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)をめぐる外交交渉の現状とその展望> [2017年03月08日(Wed)]

 現在、海洋政策研究所が取り組んでいる事業の一つに「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)に関する国際動向の調査・研究」があります。当研究所がこれまで実施・関与してきた活動については、当研究所ホームページにて紹介されておりますのでそちらを参照いただければと思いますが、今回は、自身の研究及び外交交渉を含む実務での経験を踏まえ、BBNJをめぐる外交交渉の現状とその展望に関して若干の解説をしたいと思います。

 現在、国連ではこの「BBNJの保全と持続可能な利用」に対応するため、国連海洋法条約(UNCLOS)の下に新しい国際条約を作るべく交渉が続けられております。BBNJに関する問題のため国連(総会)が決定したことは次の3点です。(1)政府間の条約交渉に先立ち、国連の下に準備委員会を設置し、2016年から2017年末にかけて、新条約案の要素(elements)を検討すること。(2)準備委員会の進捗を踏まえ、国連総会の第72会期(2017年9月〜2018年9月)の終了までに、実質的な条約交渉を行うための政府間会合の開催の可否・日程を決めること。そして(3)交渉のパッケージとして、@海洋遺伝資源(利益配分を含む)、A区域型管理ツールのような措置(海洋保護区を含む)、B環境影響評価、C能力開発及び海洋技術移転のトピックを総合的に検討することです。

 2017年3月現在は、(1)にあるBBNJ準備委員会の第3回会合を控えた状況であり、残すところそれも2017年7月に開催予定の第4回会合の1回となりました。その後は、国連総会での決定を受け、2018年早々には条約交渉のための政府間交渉会合が設置されるのではないかと考えられております。そのBBNJ交渉の論点と外交交渉における主な構造は以下のとおりとなります。

 @の海洋遺伝資源(利益配分を含む)に関して、国連海洋法条約は、「(海洋)遺伝資源」及びその「利益配分」に言及をしていないことから、新条約における資源の定義と法的位置づけが論点とされています。やや乱暴に整理をすれば、魚類等と同じく基本的には誰でも自由に利用できるのか、それとも深海底の鉱物資源のように「人類の共同財産」として国際的に管理されるべきか、ということです。この点をめぐっては、深海底の鉱物資源と同様に人類の共同財産であるとして、その利益配分と国際管理を主張する途上国グループ(G77+中国)と、海洋遺伝資源に対する人類の共同財産原則の適用を否定する主要海洋先進国、並びに、人類の共同財産への言及は避けつつも、海洋遺伝資源の利益配分に肯定的な見解を示すEU等との間で意見が対立しています。

 Aの区域型管理ツールのような措置(海洋保護区を含む)とは、特定の活動を規制するためにより高い保護措置を講じることを目的とした空間管理や特定の活動規制などの手段のことを指し、「海洋保護区」はその代表的な手段の一つとされています。問題は、その管理措置の対象や基準、管理・監視の方法であり、公海や深海底に誰が、何を基準に設置し、どのように管理をしていくのかが論点とされています。この点をめぐっては、EUや豪州、ニュージーランド、米国等が海洋保護区の要素を積極的に支持していますが、G77+中国や漁業先進国は、海洋保護区を全面的に否定はしないものの、漁業規制を目的とした海洋保護区に対しては否定的な立場を取っており、地域漁業管理機関(RFMOs)といった既存の枠組みの下での取り組みを尊重すべきであると主張しています。

 Bの環境影響評価に関しては、新しい要素ではなく、既に国連海洋法条約の第204条から第206条において言及されていますが、国家管轄権外区域の活動に対する環境影響評価についてはその評価の基準や方法が確立していないため、BBNJに関連していずれの活動が対象となるのか、その実施主体、事前事後の実施を含め多くの点が不明確なままです。環境影響評価に関しても、既に国連海洋法条約に根拠があることから正面から反対を主張する国はいないものの、BBNJ新条約が全ての枠組みに優先すべきであると主張するEU及び一部の途上国と、既存の枠組みの下での取り組みとの重複を避けるべきであるとして、あくまで補完的役割を主張する一部の先進国との間で意見が分かれています。

 Cの能力開発及び海洋技術移転に関しては、既存の枠組みでの取り組みが不十分であるとして、主に途上国(G77+中国)が強く要請している要素でありますが、どの範囲までの能力開発・海洋技術移転を言うのか(BBNJに限定されるのか否か)、財政支援も含めるのか、知的財産権の保護との調整をどのように図るのか等含め、未だ意見は収れんしていません。

 このように、4つの主要論点をめぐる各国(各グループ)の立場は多様であり、様々な取引(deal)が成立しうる状況にあります。また、これら主要論点以外にも、新しい条約の組織事項や遵守メカニズム、紛争解決手続きといった「分野横断的事項(cross-cutting issues)」についても多数の論点が挙げられており、BBNJ交渉をめぐっては、未だ条約の文言交渉に入れる程には議論が収れんしていないように思われます。

 BBNJ条約交渉の今後の展望ですが、実際のところは、4回の準備委員会会合での議論の結果、どのような条約案の要素が採択されるかによるため、現時点では何とも言えないというのが実際のところです。2017年3月現在、2回の準備委員会での議論を踏まえて作成された非公式のテキスト案では100ページ以上、1000個以上の要素が提起されており、これを条文案として精緻化するのは容易なことではないことが予想されます。なお、合意形式や参加国の数、交渉背景が異なるため、単純に比較はできませんが、国連海洋法条約や生物多様性条約といった関連条約の採択に要した時間を考えると、近年の傾向からは、たとえ長い条文案であったとしても比較的短い期間で条約が採択される可能性もあります。

(参考:条約交渉期間の比較)
・国連海洋法条約
 交渉期間:1973年から1982年の約10年間、計11回の会期、延べ93週間の交渉
・深海底実施協定(第11部実施協定)
 交渉期間:1990年から1994年の約5年間、計16回の非公式協議(非公式協議のため延べ
 日数は不明)
・公海漁業実施協定
 交渉期間:1993年から1995年の3年間、計6会期、延べ12週間
・生物多様性条約
 交渉期間:1988年から1992年の5年間、計13会期、延べ18週間(政府間交渉会合のみで
 言えば、1991年から1992年までの2年間、計5会期、延べ10週間。)
・名古屋議定書
 交渉期間:2008年から2010年の3年間、12回の関連会合、延べ約13週間(条約案が提示
 された2010年3月からの場合、わずか1年足らず、約5週間。)
(※いずれも、条約案の構成要素の作成段階を基準に算定。)

 海洋の科学的調査や漁業、鉱物資源開発含む、公海や深海底の積極的な利用を進める我が国にとって、このBBNJ交渉の影響は決して小さなものではありません。他方で、海洋空間や海洋資源の管理強化が主流となっている現在、かつてのような自由放任を主張することはもはや受け入れられない状況にあります。今後は、利用・管理・規制のバランスを考慮しつつ、「BBNJの保全と持続可能な利用に関する新しい条約」の策定という国際立法によって何を実現するのか、具体的かつ現実的な提案をしていくことが必要になるでしょう。その意味で、当該分野における技術、知見、実行を有する数少ない国として、我が国の役割が期待されます。

海洋政策チーム 本田 悠介


Ocean Newsletter No.398 [2017年03月06日(Mon)]
No.398が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************
●大震災から持続可能なまちづくりを目指して
宮古市議会議員◆橋本久夫

東日本大震災や台風10号からの復興に向かって、震災の歴史を「正しく伝える」
努力を継続しながら、今後のまちづくりの中で地域文化の創出に取り組むことが重要である。
地域の歴史・文化は風土に根ざし、人々の暮らしと関わることで形づくられてきた。
社会の変化、災害からの復興の中で歴史の重層性を踏まえて、さらなる文化振興につなげていきたい。

●共生の可能性を問う〜東日本大震災の記録と津波の災害史〜
リアス・アーク美術館学芸係長◆山内宏泰

リアス・アーク美術館常設展示『東日本大震災の記録と津波の災害史』では、
津波災害を被災地域の歴史的、文化的、社会的要因によって被害規模が変化する
人災的災害と認識する必要性を説いている。
「自然災害との戦い」という意識を捨て「地球環境と分け合う」生き方、
防災構造物に頼らない生き方を学び、新たな価値観として定着させ、
文化を進化させる方法を考えるための展示とはいかなるものか、その可能性を問う。

●三陸から水産業に革命を起こす
(一社)東の食の会事務局代表 ◆高橋大就

東北地方の水産業は、震災で壊滅的な被害を受けた。
岩手、宮城、福島の水産業者が地域の枠を超えて連携する「フィッシャーマンズ・リーグ」は、三陸を復興させ、水産業全体を自ら変えようと、次世代を担うリーダーたちの育成と
「三陸ブランド」の確立を目指している。

●編集後記
ニューズレター編集代表
山梨県立富士山世界遺産センター 所長◆秋道智彌

ご購読のお申し込みはこちら
Posted by 五條 at 17:15 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
| 次へ