CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る

海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.36 <海に向かって上る坂道> [2017年06月28日(Wed)]

 吹く風も次第に夏めいてきて、いよいよ海開きの季節です。そこで、私の前回のブログに引き続き今回も浜辺に関する話題を一つ。今回のタイトルは、「海に向かって上る坂道」です。

 違和感のある日本語のようにも聞こえますが、実際に海水浴などの際に海に向かって歩くときに注意深く観察するならば、浜辺に近づくにつれて道が少し上り坂になっていることに気づくことがあるかもしれません。また、WEBで「“海に向かって上る坂道”」と入力して検索を行うと、NHKの人気の地形番組がヒットしますので、あながち間違った日本語表現でもなさそうです。そして、もし浜辺に向かう坂道を見つけたら、あなたが立っているその場所は、かつて砂丘が存在していた場所かもしれません。

写真1..JPG
写真1:海に向かって上る坂道(若狭和田海水浴場、福井県高浜町)(著者撮影)
※写真の奥側が海岸で、民宿街から海に向かうなだらかな上り坂。

写真2..JPG
写真2:砂丘を造成して整備した駐車場(若狭和田海水浴場、福井県高浜町)(著者撮影)
※写真の奥側が海岸で、砂浜に降りるまでは急な下り坂。

 国内で砂丘(Sand Dune)といえば、「鳥取砂丘」を思い浮かべる方が多いと思います。砂丘は、戦後まもない頃までは日本でも比較的いろいろな地域で見られた自然地形でしたが、戦後の食糧増産・工業化に対応して沿岸部の耕地化や開発が進んだ結果、消失が続いて今日ではその存在すら危ぶまれています。

 砂丘を擁する鳥取県では砂丘条例が制定され、京都府では府のレッドデータブックに久美浜砂丘(京丹後市)が絶滅危惧地形として指定されるなど、砂丘の保護に向けた様々な取り組みが進められています。また、砂丘保全の問題はわが国だけでなく、米国カリフォルニア州のオセアノ砂丘(Oceano Dunes)やフランス大西洋岸のピラ砂丘(La Dune du Pilat)などでも同様にあり、土地トラスト運動や自然保護区化を進めたり、開発規制、外来植物の侵入による草原化を防ぐなどして、海岸から風で陸地に吹き上げられた砂が自由に移動できる砂丘環境を保つための努力が、地道に続けられています。

写真3..JPG
写真3:海に向かって上る坂道(鳥取砂丘入口、鳥取県鳥取市)(著者撮影)
※写真の奥側700m先が海岸で、海岸まで上り坂が続く。

写真4..jpg
写真4:砂丘の頂上(鳥取砂丘、鳥取県鳥取市)(著者撮影)
※頂上は海抜50〜60m程度あり、海側は急斜面の下り坂。

 さて、日本に目を転じ、戦後復興を遂げたわが国の砂丘をとりまく政策の流れを振り返ると、戦後の農業生産や防災を目的とした農地森林政策(海岸砂地地帯農業振興臨時措置法:1953年制定、1971年失効)や、工業化を支える工場・港湾・高速道路・住宅地の整備など国土開発政策が進められる中で、多くの砂丘が消失してきたことが過去の航空写真や文献などからもわかります。また、ダムや港が造られたことによって、本来、山・川・海を通じて陸地に吹き上げられるはずの砂の供給が極端に減少したことも見逃すことができない潜在的な原因となっています。

 しかし、砂丘を形成する力である「波と風」は、昔とまったく変わらず今も陸に向かって働き続けています。このことから冒頭で紹介したような「海に向かって上る坂道」がある町を見つけた際には、途中で止まらずに是非とも波打ち際まで歩き続けてみてください。山や川が削られて海岸に流れついたごくわずかな砂が、今も昔と変わらずに働く波と風の力によって陸地に吹き上げられ、汀段(後浜)や小さな砂丘を形成している場所を発見できることでしょう。またそこでは、砂浜固有の植物(砂草)、昆虫、風紋(風が作る砂の模様)や、極まれに上陸したウミガメの足跡などを見られるかもしれません。

 今回のブログでは、記事のネタに悩みながらも、「海に向かって上る坂道」から「砂丘」をテーマに、海洋政策を考える上での「海と陸」を一体的に捉える重要性について迫ってみました。文末におすすめの海岸砂丘のリスト(Google Mapリンク)を記しました。衛星写真やストリートビューモードでご覧いただくことで、砂丘・自然の波と風の様子を感じていただければと思います。また、この夏のお出かけの際に、もし機会があれば、砂丘にも足を運んでみてはいかがでしょうか。今までとは一味違った自然の姿を感じることができるかもしれません。それではみなさま、よい夏をお迎えください。

■砂丘の形成がみられる代表的な海岸
1) 中田島砂丘:静岡県浜松市
www.google.com/maps/place/34°39'39.5"N+137°44'36.2"E
2) 鳥取砂丘:鳥取県鳥取市
www.google.com/maps/place/35°32'28.1"N+134°13'44.6"E
3) 久美浜砂丘:京都府県京丹後市
www.google.com/maps/place/35°38'43.1"N+134°55'02.8"E
4) 辻堂海水浴場(砂丘跡地):神奈川県藤沢市
www.google.com/maps/place/35°19'07.0"N+139°27'10.3"E
5) 若狭和田海水浴場(砂丘跡地):福井県高浜町
www.google.com/maps/place/35°29'30.6"N+135°34'27.2"E
6) オセアノ砂丘自然保護区:米国・カリフォルニア州
www.google.com/maps/place/35°03'56.3"N+120°37'13.6"W
7) ピラ砂丘:フランス・ジロンド県
www.google.com/maps/place/44°35'48.4"N+1°12'33.6"W

■砂丘・海岸林・砂浜について考える上で役立つ書籍・論文
1) 小田隆則「海岸林をつくった人々〜白砂青松の誕生〜」(北斗出版、2003年)
2) 太田猛彦「森林飽和〜国土の変貌を考える〜」(NHK出版、2012年)
3) 宇多高明「海岸侵食の実態と解決策」(山海堂、2004年)
4) 重見之雄「海岸地域の利用と変貌」(古今書院、2000年)
5) 寳金敏明「里道・水路・海浜〜長狭物の所有と管理〜」(ぎょうせい、2003年)
6) 塩入同「海水浴場の汚水処理に取り組む地方自治体に見る縦割り行政の総合化に関する研究」『沿岸域学会誌』第29巻第3号29‐43頁(2016年)

■参照したウェブサイト
1) 塩入同「海のジグソーピースNo.12<湘南海岸の冬支度―海岸管理という仕事―>」2016年
http://blog.canpan.info/oprf/monthly/201612/1
2) NHK「ブラタモリ#45〜新潟は“砂”の町!?〜」2016年
http://www.nhk.or.jp/buratamori/map/list45/fullscreen_all.html
3) 鳥取砂丘情報館「とっとり砂丘王国〜砂丘みどころ完全ガイド〜」2016年
http://site5.tori-info.co.jp/p/sakyu/guide/spots/find/
4) 京都府「京都府レッドデータブック」2015年
http://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/
5) 鳥取県「鳥取沿岸の総合的な土砂管理ガイドライン」2005年
http://www.pref.tottori.lg.jp/73976.htm
6) 神奈川県「相模湾沿岸海岸侵食対策計画〜美しいなぎさの継承をめざして〜」2011年
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f160298

海洋政策チーム 塩入 同

海のジグソーピース No.35 <「海洋を知ること」の大切さについて〜ICP-18 参加を通じて〜> [2017年06月21日(Wed)]

 「海洋はA4の紙である」。ある教授の大学の講義での話が、今でも印象に残っています。海洋の表面積をA4サイズの紙と考えると、約4000mの水深は0.05mm程度に相当し、まさに紙のような薄さになります。しかし、たとえA4の紙であっても4000mの海底にすら辿り着くことは容易ではなく、そこには未知なことが多いという趣旨で、逆説的に「海洋を知ること」の重要性を伝える内容だったと記憶しています。

 この「海洋を知ること」の重要性は、2008年に閣議決定された海洋基本計画でも強調されています。すなわち、「海洋について科学的に未解明な分野が多いこと、海洋における諸現象が相互に密接な関連を有していること等を踏まえ、(中略)、「海洋を知る」「海洋を守る」「海洋を利用する」のバランスと連携に配慮することが重要」と総論に記されているように、海洋政策の基盤のひとつでもあります。

 2017年5月15〜19日に、国連会議「海洋と海洋法に関する国連非公式協議プロセス第18会期(ICP-18)」が開催されました。この会議に参加したことは、「海洋を知ること」の重要性を改めて考える機会にもなりましたので、印象に残った2つの講演とともに紹介したいと思います。

角田1.jpg

ICP-18の開会の様子(Peter Thomson国連総会議長挨拶、筆者撮影)

 この会議は、1999年の国連総会決議(54/33)により導入されたもので、国連総会以外では唯一と言ってよい海洋問題を議論する貴重な場です。第18回目の今回の会議のテーマは「気候変動が海洋に与える影響」で、「海洋の温暖化」「海洋酸性化」「海面上昇」「海洋生態系」「水産資源」「沿岸防災」など、まさに科学的な知見を踏まえて国際社会が取り組むべき課題について議論が行われました。

 まず1つ目に紹介したいのは「海洋酸性化」についての米国大気海洋局(NOAA)のLibby Jewett博士の講演です。海中に溶け込んだ二酸化炭素が、その化学変化を通して海洋を酸性化させるこの課題について、「What you don’t measure, you cannot manage(測らなければ管理できない)」という言葉を使って、「知ること」の大切さが訴えられました。海洋生物にどのような影響が出るのかについての研究や、全球海洋酸性化観測ネットワーク(GOA-ON)などの海洋酸性化の現状をモニタリングする取組の重要性が示されました。

 2つ目は、インドネシア気象気候地球物理庁(BMKG)のAndi E. Sakya氏による、沿岸域の住民の方々への情報伝達についての講演です。BMKGでは、高潮などの沿岸での災害の被害を軽減するため、気象や気候の早期警告システムを構築したのですが、それらは、受け手となる方々の理解を伴わないと実際には役に立たないという課題に直面しました。その解決のために、CFS(Climate Field School)の取組を推進し、文字通り学校(school)のように精力的に住民の理解増進が行われ、被害軽減に貢献するとともに、一次産業の収益増という副次効果をもたらしました。Sakya氏は、この成功事例を、同様の沿岸災害を受ける太平洋島嶼国などにも伝えていきたいと強調されました。

 前述の海洋酸性化は、私たち海洋政策研究所でも事業とし、行動に向けて取り組む重点課題なのですが、このインドネシアの例のように「知ること」に加えて「伝えること」を積極的に行えば、しっかりと解決策を見つけて対応していけると強く感じた次第です。

 来年のICP-19のテーマは「水中雑音」です。この課題は昨年の生物多様性条約締約国会議(COP13)でも取り上げられた国際的に注目されている課題ですが、日本では、まだまだ十分には知られていません。「海洋白書」「Ocean Newsletter」「海洋フォーラム」などの「知ること」「伝えること」のツールを使って発信していきたいと思います。

角田2.png

「海洋教育パイオニアスクールプログラム」の一環で、
海洋酸性化の課題に取り組む神奈川県立海洋科学高等学校の校訓碑(筆者撮影)。
第1期海洋基本計画と同様の文言になっています。


謝辞:
冒頭の「ある教授」は、海洋政策研究所の特別研究員でもある東京大学名誉教授の山形俊男先生です。2004年10月から今年3月までの12年余、「Ocean Newsletter」の編集代表を秋道智彌先生(総合地球環境学研究所名誉教授)とともにつとめられ、「海洋を知ること」「伝えること」に対して、長きにわたり私たちを先導して頂きました。ここに、あらためて感謝を申し上げます。

海洋政策チーム長 角田 智彦

Ocean Newsletter No.405 [2017年06月20日(Tue)]
No.405が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************
●科学的助言を生かした国際ルール作り
〜第13回生物多様性条約締約国会議を振り返って〜

科学ジャーナリスト◆瀧澤美奈子

2016年12月、国連の生物多様性条約第13回締約国会議が
メキシコ・カンクンで開催され、筆者もこの会議に参加した。
各締約国が生物多様性の「主流化(Mainstreaming)」に向けた努力を
強化することが議決された会議を振り返り、海洋の保全と利用に関して
国際ルール作りにおける科学と政策の橋渡しについて考えたい。

●お台場海浜公園での環境教育の取り組み
特定非営利活動法人海辺つくり研究会理事◆森田健二

東京都港区環境課からの協力要請から始まったお台場海浜公園での
自然回復・環境教育活動は、海苔の育成を機に、官民連携と地域に
根差した持続的な枠組みへと発展した。
港区長の発する『泳げる海 お台場!』のスローガンの下、
活動はさらに枠組みを広げて、都市臨海部の持つ機能と魅力を世界に
発信していくだろう。

●木製サーフボード作りに込めた想い
(公財)環日本海環境協力センター主任研究員◆寺内元基

海の環境を良くするために、海の中で人間ができることは限られており、
背後にある陸地に目を向けないといけない。
地元の木でサーフボードを作り、その土地の山を流れる川の先にある
海で波に乗ることによって、森・川・海のつながりを体で感じ、感謝する。
このようなスピリットを持つ仲間が増えることも、沿岸環境の保全・改善に
向けた一歩であると信じる。


●編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

ご購読のお申し込みはこちら

Posted by 五條 at 13:25 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.34 <海面上昇が小島嶼国に提起する国際法上の問題について> [2017年06月14日(Wed)]

 下の写真は、筆者が昨年の夏(2016年)に出張で太平洋に浮かぶ小島嶼国キリバスを訪れた際に、「ニッポン・コーズウェイ」を渡ったときに撮った写真です。これは国際港が位置するベシオ島と住民が多く居住するバイリキ島とを結ぶ唯一の道路として、1980年代に日本の政府開発援助(ODA)によって整備されたものです。しかし、近年高潮などの影響により大規模な崩落が生じるようになり、日本政府は昨年7月にこの道路の改修のために約38億円の無償資金協力を行うことをキリバス政府と約束しました。波が穏やかな状態でも、海が両側から迫ってきそうなところを車が走っていることが分かるでしょうか。
       
0002.jpg
日本のODAにより建設されたキリバスの「ニッポン・コーズウェイ」(筆者撮影)

 気候変動がもたらす影響は様々ですが、とりわけキリバスをはじめとする小島嶼国(またはそれを維持しようとする日本を含む国際社会の努力)に対する最大の脅威は、海面上昇といえるでしょう。国連事務総長の報告の中では、現在の温室効果ガスの排出レベルが維持されれば、上昇は今世紀末までに0.5mから1.4mに達することも予想されています。数十センチの海面上昇が数kmにわたる海岸の後退をもたらしうるという試算があることに照らすと、この数字は小島嶼国にとってかなりの部分の国土の浸水または将来的な国自体の消滅を意味するものと捉えられてもおかしくはありません。しかし、小島嶼国の多くは複数の島から成っており、より現実的かつ喫緊の課題は、国自体の消滅(国を構成するすべての島の水没)よりも、まず個々の島とその周辺海域が海面上昇の結果受ける影響から生じる問題にどのように対処するか検討するということのように思います。以下では、国連海洋法条約(UNCLOS)の関連規定を参照しつつ、島と周辺海域の保全のためにどのような解決法が提示されうるかを見たいと思います。

 UNCLOSの関連規定に即して考えると、ある陸地について、それがUNCLOSの定義する「島」とみなされると、その陸地に対して主権を有する国は、その周囲に領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、および大陸棚を主張することができます。UNCLOS第121条1項によると、「島」とは「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるもの」と定義されます。ただし、「島」であって人間の居住または独自の経済的生活を維持することのできないものは「岩」とみなされ、それに関しては領海と接続水域しか主張できません。また、この陸地が、低潮時には水面上にあるものの高潮時には水没するようになった場合(低潮高地)、UNCLOS第13条2項にしたがえば、それが本土または他の「島」から領海の幅(原則として海岸から最大12海里)を超える距離にあるならば、それ自体の領海をもつことができなくなります。

 「島」が、海面上昇のために、最悪の場合、完全に水没するにいたるシナリオに沿って考えると、@領海をはじめ各海域を測定するための起点となる基線は、海岸が浸食された場合に変動するのか、A「島」はどのような条件で「岩」となるのか、B「島」または「岩」が完全に水没した場合、領海、接続水域、EEZまたは大陸棚のいずれも主張できなくなるのか、が少なくとも問題になると思われます。

 歴史的に、海域に対する一定の権原の存在は、領土主権を基に主張されてきました。例えば、もっとも初期の海域の領有の主張は、国家は海岸から大砲の弾が届く範囲の海域に主権を有するという、領土の安全保障上の目的からのものでした。1958年の領海条約の規定を引き継ぎ、UNCLOSも基線と海岸線の密接な関係を規定しているように読めます(第5条、7条)。国家慣行は様々ですが、基線は海岸線とともに変動することを宣言するいくつかの国内裁判例や、公表された基線が実際の海岸線と相当程度乖離する場合には、法的に争うことができるとする国際法委員会(ILC)の見解等があります。以上に照らすと、基線は海岸が浸食された場合にともに変動する(一般的には陸地側への後退)という考えが有力であると思われます。

 「島」がどのような条件で「岩」となり、領海と接続水域しか主張できなくなるかについては、昨年与えられた南シナ海仲裁判断が参考となります。これはUNCLOS第121条3項の「人間の居住」を定住者の居住と解釈し、「独自の経済的生活」を地形自体の周囲に起源を有する活動(専ら海域や海底で行われるもの、居住者が関与せず他所の住民の利益のために行われる資源採集等は除く。)と解釈しました。このような判断に照らすと、海面上昇の結果、定住者が移住を余儀なくされる(それとともに「独自の経済的生活」も縮小する)につれて、それまで「島」とみなされていた陸地も「岩」とみなされる可能性が高まるといえるでしょう。

 そして、海面上昇が進行し、「島」または「岩」が完全に水没する場合、基線が変動するという立場に立てば、海岸とともに基線も消滅するので、いずれの海域も主張できなくなるということになりそうです。ただし、200海里を超える大陸棚辺縁部の外縁は、沿岸国が所定の情報を大陸棚限界委員会に提出し、その勧告に基づいて沿岸国が設定する限界が「最終的なもの」となり、かつ「拘束力を有する」と規定するUNCLOS第76条8項、自国の大陸棚の外縁が「恒常的に」表示された海図および関連情報の国連事務総長への寄託義務を定める同9項から、基線の変動や消滅とは無関係に「島」の大陸棚は維持されるという見解もあります。

 上の若干の検討から、島自体とその周辺海域の保全という点で小島嶼国は実質的に海面上昇の影響を受けやすい立場にあるといえます。このような立場にあり、興味深い自己保全策を提示しているのが、モルディブの人工島であるフルマーレです。モルディブは将来的に、この人工島を6万人の国民が生活する都市へと発展させる計画を掲げていますが、その背後には、海面上昇からの避難地としてのこの島への期待があるようです。このような試みには、他の小島嶼国が参考にすべき点が多いように思われる一方、そのような人工島のUNCLOS上の地位は、「島」や「岩」と同様に保障されるか、特に、「自然に形成された」という「島」の定義との関係で問題となります。小島嶼国の特に脆弱な立場を十分に考慮し、現行法の改正も含めた国際社会の対応が必要な問題を多く含む、今後とも注目すべき課題といえるでしょう。

0001.jpg
キリバスの海岸と子供たち(筆者撮影)

海洋政策チーム 村上 悠平

海のジグソーピース No.33 <世界海事大学(WMU)笹川奨学生日本研修> [2017年06月07日(Wed)]

 今回は「WMU笹川奨学金プログラム」事業の一環で、先月5月14日(日)から21日(日)に実施した「WMU笹川奨学生日本研修」をご紹介したいと思います。

 日本財団の支援により当財団で事業運営を行っている「WMU笹川奨学金プログラム」は、1987年よりWMUに学ぶアジア太平洋地域出身海事関係者を主な対象者として奨学金を提供しており、その奨学生の総数は600人(本年度入学者30名含む)を超えました。

 そして本奨学事業の一環として、毎年奨学生(在校生)を日本に招へいし、我が国海事・海洋の現状の理解を深める機会を提供しており、今年は5月14日(日)から1週間、27名(23ヵ国)のWMU笹川奨学生ならびに大学からMaia Nilsson女史が引率者として来日しました。

 奨学生一行は14日(日)に成田空港に到着し、海上保安庁海洋情報部、日本財団笹川陽平会長、国土交通省羽尾一郎海事局長を表敬し、その後1週間かけてJXTGエネルギー(株)根岸製油所、新江東清掃工場、三浦工業(株)、(株)三和ドック、大阪港視察、海技大学校、川崎重工業(株) などを訪問しました。また、日本文化にふれるべく、京都の東寺や清水寺を訪れるとともに、彼らの奨学金のいわば財源元であるボートレース場、今年はボートレースびわこを訪れ、ボートレースのしくみや舟券の購入方法などを説明してもらい、実際に奨学生も舟券を購入し、レースを楽しみました。

image001.jpg
日本財団笹川会長表敬訪問

image004.jpg
株式会社三和ドック(広島県尾道市因島)

 毎年実施している本研修ですが、訪問先の選定にはいつも気を遣っております。というのも、WMUには7つの海事・海洋における専攻コースがあり、それらのコース内容に沿った訪問先の選定が必要となるからです。来日した奨学生それぞれが興味を引く訪問先を選定することで、少しでも彼らの専門分野における知識の向上に寄与できればと考えております。同時に「奨学生」とは言え、自国に戻れば国の一端を担う行政官という重要なポストに就いている者も多いため、訪問先である国内舶用メーカーなどは自社製品を宣伝する良い機会として捉えていただいております。今回、日本舶用工業会が主催するセミナーに招待していただき、 (株)マツイ、神奈川機器工業(株)、かめもプロペラ(株)、 (株)ササクラ、ダイハツディーゼル(株)、 (株)帝国機械製作所、ナカシマプロペラ(株) 、(株)浪速ポンプ製作所、日本無線(株) 、阪神内燃機工業(株) 、富士貿易(株) 、(株)ヤマトメタル、ヤンマー(株)など、13社の国内舶用機器メーカー関係者と交流する機会を与えていただきました。日本舶用工業会をはじめ、ご参加いただいた各企業からの関係者にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

image006.jpg
ボートレースびわこ(舟券を購入しているので皆かなり本気・・・)

 奨学生を招へいするにあたり、もう一つ気を遣わなければならないのが食事手配です。今回来日した奨学生は23か国27名で彼らのほとんどは食事の制約(宗教上の理由や菜食主義、グルテン等のアレルギーなど)があり、食事内容への要望は年々高まっているように感じます。先進国である我が国日本ですが、グローバル社会に対応した食事制約への対応はまだまだ遅れているのが現状です。東京都内ですらハラールを扱うレストランや食品店は少なく、また、欧米ではすでに常識となっているグルテンフリー食品も日本では残念ながら手に入る店がまだまだ少ない状況です。奨学生らの滞在期間中は常に細心の注意を払わなければなりません。

 今回来日した奨学生のほとんどは日本を訪れるのが初めてということもあり、大変楽しんでいた様子でWMUのあるスウェーデンへと帰っていきました。毎年、研修スケジュールがタイトなので奨学生からはもう少し自由時間が欲しいという要望をいただくのですが、やはり私の性格なのか、空いている時間を見つけると、つい予定を埋めてしまいたくなるのです。しかし来年はもう少し緩やかな予定にするように努力してみることにします。

海洋教育チーム長 市川 慎一

Ocean Newsletter No.404 [2017年06月06日(Tue)]
No.404が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************
●砂層型メタンハイドレートの商業化に向けた取り組み
日本メタンハイドレート調査(株)取締役企画部長◆阿部正憲

砂層型メタンハイドレートについては、将来の商業化に向けて、
着実な研究開発が実施されて来ている。
2017年4月から第2回海洋産出試験が実施されているが、
まださまざまな課題が残されていることから、今後、段階的に
規模を拡大した産出試験の実施が不可欠である。


●3万年前の大航海を再現する実験プロジェクト
国立科学博物館人類研究部人類史研究グループ長、
「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」代表◆海部陽介

最近の研究から、最初の日本列島人は3万年以上前に海を越えて
この地へやってきたことがわかってきた。
祖先たちの大航海の謎に迫るために、私たちはクラウドファンディングでの
資金獲得による、科学と冒険を融合させたプロジェクトを開始した。
2016年には与那国島で草舟の実験航海を行ったが、
今年より活動の舞台を台湾に移し、竹や木の舟の可能性を探るなど、
さらに研究と実験を続けていく。
そして2019年頃に、台湾から黒潮を越えて与那国島を目指す大航海を
再現することが最終目標となっている。

●「本物の力」が子どもたちの目を輝かせる
〜大日本水産会が取り組む魚食普及活動「おさかな学習会」〜

(一社)大日本水産会魚食普及推進センター◆甲斐将大

(一社)大日本水産会では小学生を対象に平成17年度より「おさかな学習会」を始めた。
「おさかな学習会」は主に関東近県で毎年、数校から十数校で開催し、
おさかなゼミ、タッチプール、模擬漁体験、PTAおさかな料理教室
(希望者のみ)の構成で成り立っている。
学校の授業時間を利用して行い、「海と魚」に親しみを持ってもらうことで、
子どもたちにも保護者にも魚を好きになってもらえるように魚食普及活動を実施している。



●編集後記

東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる

ご購読のお申し込みはこちら

Posted by 五條 at 20:27 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.32 <国際会議「公海のガバナンス:ギャップと挑戦」@シンガポールへの参加> [2017年05月31日(Wed)]

 当研究所は世界の海洋政策の発展に貢献すべく、国際会議などの国際的な議論の場に積極的に参加し、世界の議論動向の調査やネットワークの強化を行っています。先月(2017年4月24-25日)もシンガポールで開催された国際会議「公海のガバナンス:ギャップと挑戦」へ参加してきました。

樋口1.png
会場となったホテル。シンガポールは都会でかつ南国感がありどこもオシャレでした

 この国際会議においては、以下の8つのテーマが扱われました。順番に述べますと、(1)公海における敏感海域(Sensitive Marine Areas)、(2)特別敏感海域(PSSAs)の保護と特定に関する国際海事機関(IMO)のはたらき、(3)油と危険・有害物質(HNS)による海洋汚染について、(4)公海における原子力汚染への対応、(5)公海における非国家主体の行為に対する管轄権およびコントロール、(6)ジオエンジニアリング(地球工学)、(7)漂流ごみ(marine debris)、(8)深海底およびその上部海域における海洋生物資源の保護、の8つです。

 ざっと見ただけでも広範なテーマですが、この国際会議では「公海」におけるガバナンスや規律の「ギャップ」、すなわち不十分な部分を明確にし、これから議論すべき問題と解決策を探るというのが共通テーマとされていました。

 ここでは、(1)公海における敏感海域、(5)公海における非国家主体の行為に対する管轄権およびコントロール、(6)ジオエンジニアリングの3つについて論点をご紹介します。
 (1)公海における敏感海域について、現在多くの国際機関や国際文書において、環境保全等を目的とした海域指定基準が策定されています。主なものを列挙すると以下の表のようになっています。会議では、下の表に整理されている全ての保全メカニズムを合わせても、南米沖や北西アフリカ沖大西洋などの対象とされない海域が存在してしまうことや、指定海域において行われる規制のばらつき、統一的な実施確保の困難などが指摘されていました。

環境保全等を目的とした主な海域指定基準の一覧.jpg
環境保全等を目的とした主な海域指定基準の一覧(著者作成)

 次に、(5)公海における非国家主体の行為に対する管轄権およびコントロールに関する法律的な議論もご紹介します。UNCLOSにおいて、公海における私人(国家ではない、民間企業など)に対する国家の管轄権およびコントロールは、「国籍」と「実効的コントロール」の2重の結びつきによって及ぼされています。たとえば、多くの漁船などは私人の持ち物で私人によって運用されていますが、国家との関係でいえば、船舶登録を通じて旗国となり国籍という結びつきを得、また操業ライセンスの発給や船舶の装備の基準を定めたりすることで実効的コントロールを及ぼしています。

樋口2.png
イメージ図:UNCLOSにおける旗国と私人との関係(筆者作成)

 UNCLOSにおいて、国家は公海における私人の活動が条約等の求める基準を満たすよう、適切な国内法令や行政的措置をもって規律を行う義務があり、このような義務は「確保する義務」などと呼ばれています。最近(※一般的な責任の概念に由来しているので、元を辿ると非常に昔から使用されてきた概念です。)、国際海洋法裁判所(ITLOS)ではこのような「確保する義務」の履行の方法(要件・様式・基準)を「相当の注意(due diligence)」あるいは「『相当の注意』義務(obligation “due diligence”)」と呼んでいます。

 ITLOSによれば、国家は私人に対して一定の注意を及ぼし続けなければならず、活動の規模や危険度等を考慮し、違法行為(特にUNCLOS§194等で禁止される環境汚染行為)を事前に防止するための措置、および必要に応じて環境影響評価(EIA)などの手続的措置をとるものとされています。このような措置は一般にその国の能力に応じて行うものとされていますが、基準の程度は国際的な基準(最良の環境慣行)に依拠すべきとされます(2011年ITLOS勧告的意見Case No.17)。

 「『相当の注意』義務(obligation “due diligence”)」の考え方は、以前は非常に限定的な越境環境損害に限定して使用されていましたが、最近のITLOSの勧告的意見等を通じて公海・深海底への適用が示されるようになりました。

 この会議では、今までITLOSで意見が出された、船舶(漁船)や深海底採掘企業に関する活動から発展して、今後海洋の科学的調査を行う調査船や海底ケーブル、パイプライン、洋上施設に関する私人の活動に「相当の注意」が適用される可能性について検討がなされておりました。

 最後に、(6)ジオエンジニアリング(※海洋肥沃化(Ocean Fertilization)等、気候変動を緩和するために気候システムを意図的に改変する幅広い手法や技術) について。観測科学として発展してきた気象・気候科学が、地球規模の気象・気候現象に対して実験を行うことに対し、その社会的な影響や他の環境影響が懸念されていました。UNCLOSやロンドン条約(※1972 年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約)との関係では、鉄の粉末を海に投げ入れるような実験が、海洋投棄に当たるのではないかという論点が存在します。

 生物多様性条約(CBD)では、第9回の締約国会合(2008年)において、このような海洋肥沃化実験の活動が正当化されるまで、各国に当該肥沃化を行わないよう求める決定を行いました。しかし科学技術の発展は、各国が気候変動へ対処するにあたって不可欠な営みであり、一概に禁止すべきとも言い切れません。そこで2013年、ロンドン条約の議定書がこの問題に対処する形で改定され、議定書の附属書の定める評価に基づいた「正当な科学的研究(Legitimate Scientific Research)」ならば、許可を得た上でジオエンジニアリングが可能になりました。ただしこの規制はロンドン条約の締約国のみに及ぶものであって、これ以外の条約との関係では未だ議論の余地があるとのことです。

 今回の国際会議を振り返ると、既存の事例を元にして、解釈の可能性やこれから生じうる法律的問題について議論を行うことができ、非常に実り多い経験でした。シンガポール国立大学国際法センターのウェブサイトに国際会議の全スライドがアップされていますので、ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。

海洋政策チーム 樋口 恵佳

海のジグソーピース No.31 <先住民の方々との歓談から垣間見える北方圏の先住民問題> [2017年05月24日(Wed)]

 雪氷科学、極地工学をテーマに勉強してきたことから、国際会議や委員会で訪れる国も北方の国々がほとんどで、北欧、ロシア、アラスカ、カナダ、グリーンランドなどの北極圏に暮らす先住民の方々との出会いがありました。とりわけ、カナダでは、1984年から1986年まで、日加科学技術協力協定締結に係る互恵条項の策定と確認のため、カナダ各地を巡る機会があり、その地の先住民の方々にお目にかかることができました。日本でも北海道を頻繁に訪れたことから、アイヌ問題にも関心を抱くようになり、北海道の二風谷(にぶたに)で萱野茂さんにいわゆる「アイヌ新法」のお話を伺うこともありました。また、海外生活経験の1つがカナダのニューファンドランドであり、州都セントジョンズの国立研究所での研究生活の間、先住民の友人と懇親するようになりました。

 このような体験から総じて言えば、1990年出版のJ. Burger『FIRST PEOPLES: A Future for the Indigenous World』(Gaia Book Ltd.)に書かれているような「先住民族たちは、いまや彼らの個人的な戦いを超えて未来を思い描き、共通の問題を定め、一体となって共有し得るゴールを目指している。」という点については違和感を覚えました。例えば、1990年代の初めでは、ニューファンドランドの先住民の多くは、それぞれの集落での日々の暮らしが切迫していない限り、遠方のカナダ先住民と何故一体感を持たねばならないのか理解できないと話していました。一方で、総人口の多いサーミの方々は独自の大学も有していますが、同族であるフィンランドのイナリでは自治権を獲得すべき段階にあるとの主張や、自治権という概念そのものが既に同化策の1つであり、現代社会の仕組みに合わせてたくましく生き抜くより将来はないとの現実主義的な話も聞きました。また、ロシアのレナ川流域に暮らす方からは、観光客のマナーに苦言を呈され、2007年の「先住民族の権利に関する国際連合宣言」も「ロシア北方民族協会(RAIPON)」も知らないと言われ、ネット社会からの隔絶を痛感しました。

 「Indigenous people」の和訳としては、先住民、先住民族の両者が混用されていますが、「Race」としての民族定義が通用する限り、安易に先住民族を使うことは避けるべきでしょう。政府定義の同一民族の中でも、生活様態も社会感もさまざまなのが実状だからです。

 先住民の伝統的文化の保護も、生活環境が変わり、従来の暮らし振りや用具では暮らしが立たなくなれば、伝統的なものが捨て去られるのが当然であり、近代社会に住まいする人達の価値観をもって、保存云々は迷惑であるという考え方もあります。バンクーバーで出会った先住民の方からは、都会人は真空管ラジオを伝統的文化遺産として保存しているのかと反論があり、勝手な保護要請は世迷い言であると厳しい指摘を受けたことを覚えています。また、上述の国連宣言とは裏腹に、国連における先住民関係機関は、先住民の反対を押し切って「先住民作業部会(WGIP)」を2006年に廃止し、「先住民族の権利に関する専門家助言機関(Expert Mechanism on the Rights of Indigenous Peoples)」に置き換えられました。先住民の権利保護や自治権確立を目的としたNPOは、「先住民問題のための国際作業グループ(IWGIA)」など世界にかなりの数の組織がありますが、その連携は強力ではありません。

 先住民の自治権についても、自治が意味する実態を考えたとき、管理組織や法制を持ち、組織としての自活が容易ではないことを考えれば、イナリの方のように、これは一種の同化策ではないかとの反論にも頷けます。自らが決定した事項以外には責務要件のない自決権は必須ですが、生活環境が悪化し疾病危惧が高まる中、医療適用への配慮や、高等教育への道を開く配慮も必要です。従って、国際社会において、先住民問題について高邁な理想を掲げて邁進することは否定しませんが、より身近な事柄での先住民が望む物事への対応が先決という現実主義にも妥当性があると思われます。先住民の知る権利を確立し、それぞれの先住民の社会観、人生観に寄り添った先住民問題の解決が望まれます。

 デンマーク本国から遠く離れ、自治権確立が地政学的に容易にも見えるグリーンランドでは、規模・機能は小さいながらも自治政府があり、現在独立に向けての憲法制定委員会が発足しています。しかしながら、カナダとデンマーク(グリーンランド)間にあるハンス島帰属問題の行方や、汚職体質を払底し、米国基地の案件を独自に外交解決できるのか、社会の維持発展はできるのか、自立や自律の達成度に対岸のカナダ先住民の先進的な方々の眼差しが注がれています。

Canadian indigeous craft 1.jpg
サーミ(カナダ)のおみやげ品(タペストリー)(著者撮影)

客員研究員 北川 弘光

Ocean Newsletter No.403 [2017年05月22日(Mon)]
No.403が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 
********************************

● 南極ロス海、世界最大の海洋保護区に─その本当の意味
東京海洋大学教授◆森下丈二

2016年10月、南極のロス海に世界最大の海洋保護区(MPA)を
設立することが合意された。
漁業の永久全面的禁止というMPAをめぐるイメージが存在するが、
ロス海MPAは漁業を通じた科学データの収集、MPA設立後の管理計画や
調査モニタリング計画、その定期的なレビューなどを含む。
ロス海MPAが本来のMPAの目的である科学的情報に基づく海洋生態系の
保存と持続可能な利用のための管理を達成できるかが注目される。

●トランプ大統領誕生と日米の海洋安全保障協力
笹川平和財団特任研究員◆渡部恒雄

大統領選挙中に「アメリカファースト」(自国民優先)を掲げ、
日本の米軍の駐留費用負担に不満を表してきたドナルド・トランプが
米国大統領になったことで、日米の海洋安全保障協力への懸念が高まっている。
アジア太平洋地域の安定が崩れてしまえば、日米だけでなく、
中国も含むすべての経済に莫大な損害をもたらすことになる。
海洋秩序維持のための日米の海洋安全保障協力は、現在の日本の最大の
戦略課題といっても過言ではない。

●気仙沼発「海洋教育こどもサミットin東北」─を考える
気仙沼市教育委員会学校教育課副参事(指導主事)◆谷山知宏

東日本大震災からの復興途上にある気仙沼市で「海洋教育こどもサミット
in東北」が開催された。
気仙沼市教育委員会と岩手県洋野町教育委員会双方の海洋教育推進に
向けた思いを形にしたものである。
東北各地で行われている海洋教育の実践を子どもたちが発表し、
意見交換や交流を通して相互理解を深めた。
海に学ぶその豊かさを再認識し、海洋教育推進のヒントを得ることができた。

●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

ご購読のお申し込みはこちら
Posted by 五條 at 11:11 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.30 <第2期海洋基本計画の評価作業> [2017年05月17日(Wed)]

 本ブログをご覧のみなさまはよくご存じのこととは思いますが、当研究所は我が国のみならず、世界の海洋政策の発展に貢献すべく、所長以下の役職員が日夜調査研究に励んでいます。この調査研究の中には、「新しい知見を発見・提示するもの」だけではなく、「現在(あるいは過去)行われている取り組みを(再)評価するもの」も含まれており、より良い調査研究を推進するためには、後者も極めて重要な取り組みです。と言うことで、当研究所も今後の調査研究の道しるべとすべく、2017年1月に現在の海洋基本計画(以下「第2期海洋基本計画」とします)に関する評価作業を実施しました。

 本作業では、当研究所が実施している研究委員会(総合的海洋政策研究委員会、沿岸域総合管理モデルの展開に関する調査研究委員会、島と周辺海域の持続可能な開発の推進に関する調査研究委員会、『Ocean Newsletter』編集委員会および『海洋白書2017』編集委員会ならびに北極の未来に関する研究会)の委員をお願いしている有識者(65名)のみなさまに評価シートを送付し、評価作業をお願いしたところ、その内28名の方々から回答をいただきました。年度末にもかかわらず、ご協力いただきましたみなさまには、この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

 さて、調査結果をグラフにまとめたものが下記の図表ですが、前述の12の基本的施策について、「4 海上輸送の確保」や「9 沿岸域の総合的管理」、「10 離島の保全等」では、専門家のみなさまから高い評価をいただきましたが、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」や「7 海洋科学技術に関する研究開発の推進等」、「8 海洋産業の振興および国際競争力の強化」については、専門家のみなさまから厳しい評価をいただきました。一方で、専門家のみなさまから厳しい評価を頂いた施策に対し、専門家ではないみなさまからは高い評価をいただいており、それぞれの施策に対する認識や評価のギャップに担当者としては非常に興味深い(と言うか驚いた)というのが正直な感想です。ちなみに、この評価作業では、第2期海洋基本計画に規定されている12の基本的施策(および第3部の規定)について、有識者のみなさまに「専門家である」、「専門家ではないが関心がある」、「専門家ではなく関心もない」という設問に回答を求めた上で、評価作業に取りかかっていただいたという特徴があり、その結果として、このような認識の差異を明らかにすることが可能となりました。


第02期海洋基本計画評価の2次解析.jpg
施策毎の達成度の評価
(出典:『2016年度我が国における海洋政策の調査研究報告書』より加筆修正)

 また、評価シートには自由記述欄を設けたのですが、「全体として各省庁の施策を束ねた印象は避けられない。施策構想段階からの海洋基本法や国連海洋法条約の考え方に基づいた施策は、まだ十分には成熟していない。」や「海そのものの理解を多くの人々に求めたい。そのためには海洋基本計画が国民に共有・共感されることが重要。しかし、それは感じられず、海洋立国が国民生活とは遠い言葉になりつつある。」などの第2期海洋基本計画に対する厳しいコメントが寄せられた一方で、「充実した海洋基本計画を、より広く一般に知っていただき、海洋に関する関心や議論を高める取り組みは、一層充実されるべき。」という今後の課題や展望に関するコメントも寄せられ、私も海洋政策の調査研究に携わる者として、気持ちを新たにした次第です。

 この第2期海洋基本計画の評価作業の詳細については、当研究所が取りまとめた『2016年度我が国における海洋政策の調査研究報告書』に記載されておりますので、ぜひご覧いただき、今後の海洋政策に関する調査研究の参考としていただけると幸いです。また、当研究所も有識者のみなさまから寄せられたご意見をもとに、政策提言を取りまとめ、新たな海洋基本計画の策定に貢献したいと考えておりますので、今後ともご指導ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます!!

海洋政策チーム 小森 雄太

| 次へ