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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


Ocean Newsletter No.449 [2019年04月23日(Tue)]
No.449が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●改正漁業法と持続可能な水産業
衆議院議員(自民党・広島7区)◆小林史明

2018年12月、適切な資源管理と水産業の成長産業化を両立させるため、
資源管理措置並びに漁業許可及び免許制度等の漁業生産に関する基本的制度を
一体的に見直す改正漁業法が成立した。
漁業資源の回復や漁業関係者の収益改善をはかる本法の適正な運用と効果的施行を通じて、
日本の水産業の再生や持続可能な漁業の実現を図り、わが国が海洋大国としての水産資源の
保全と持続可能な利用を目指し、国際社会において牽引的役割をしっかり果たしていくことを願っている。


●沖合域における海洋保護区の設定について
環境省自然環境局自然環境計画課海洋生物多様性保全専門官◆大澤隆文

わが国の沖合域において、海底地形(海山、熱水噴出域、海溝等)の特徴に応じて形成された
様々な生態系を保全するべく、鉱物掘採や海底に漁具等が接した状態での曳航行為について
規制する海洋保護区の設定を、環境省が中心になって進めている。
本稿では、それに関連する国内外の背景とともに、最新の取り組み状況を紹介する。


●築地魚がしコンシェルジュの活動
(一社)東京築地目利き協会代表理事◆佐藤篤子

魚がしコンシェルジュ認定講座は、日本の魚食文化を支えてきた魚河岸が代々受け継いできた
目利きの技を学ぶ、魚食推進活動の啓発を行っている。
市場の仲卸は、魚の目利きであり、江戸時代よりずっと伝え守られてきた職人技をもっている。
今後も「築地ブランド」を守り、持続可能な魚食推進のための水産資源保護活動に取り組んでいく。


●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹


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Posted by 五條 at 12:58 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.126 <CBD COP14滞在中の一幕> [2019年04月19日(Fri)]

 昨年(2018年)11月17日から29日にかけて、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された第14回生物多様性条約締約国会議(CBD COP14)(注1) にオブザーバーとして参加した。今回のCOPでは、2020年までを達成期限とする愛知目標(注2) の経過報告と、2020年以降の行動計画(Post 2020)を中心に議論が進められた。また、私たちの主な参加理由は、現在国連で議論されている公海域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用に係る条約(注3) に関して、CBD COP14でどのような議論が行われるかをフォローすることであった。今回のブログではCBD COP14そのものではなく、その開催地、シャルム・エル・シェイクに関して少しご紹介したい。

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シャルム・エル・シェイクの豊かなサンゴ礁(同行者撮影)
写真中のダイバーは、自然保護への熱意を感じられた地元のダイブインストラクター

 シャルム・エル・シェイクはシナイ半島南端の紅海に面するリゾート地である。現在は一大観光都市として有名だが、もとは小さな港町の一つにすぎなかった。しかし、この地を有名にした一つに、やはりその豊かな地形や生態系が関係しているのではないか。陸地は一見荒涼とした砂漠であるが、ワディ(アラビア語で涸れ川)、砂礫帯、泥地と、その地形は変化に富む。また、沿岸にはマングローブが生い茂り、沙漠、マングローブ、海へと続くコントラストが非常に美しい。そして、生命をあまり感じることのない陸地とは対照的に、海の生態系は非常に豊かである。筆者は現場視察の一環としてダイビングをしたのだが、サンゴの密度が高く、魚影が非常に濃い光景が印象的であった。短時間のダイビングに関わらず、絶滅危惧種に指定されている通称ナポレオンフィッシュ(注4) や、紅海固有種のブルーチークバタフライフィッシュ(注5) に出くわすことができた。もともとこの町の沿岸一帯は厳しく管理されており、自然の保全に対する意識が高かったそうだ。地元のダイビングインストラクターの話からは、この豊かな自然こそが、この町の収入源であるという高い認識が感じられた。大型の観光地として開発をする一方、自然保護も同時に行っていく。開発と保護の両立の在り方が、シャルム・エル・シェイクには存在することを感じた。

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荒涼とした大地に突如現れるマングローブと筆者
写真は地元の自然保護区、ラス・モハメド国立公園にて撮影

 次回のCBD COPは2020年に中国で開催される。これまでに私たちはどのように豊かな生物多様性を後世に残していくべきか。モスクから流れるアザーンの心地よい音を背景に、美しい自然に囲まれたこの町の滞在は、生物多様性を見つめなおす良い機会となった。

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地元の巨大イスラム教寺院(モスク)
滞在中は祈りの時間を告げるアザーンの音が度々聞かれた

海洋政策研究部研究員 藤井 巌


注1:会議の詳細についてはこちら
注2:2010年に愛知県で開催された第10回生物多様性条約締約国会議にて採択された、生物多様性の損失を止めるための目標。
注3:正式名称は「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全および持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下の法的拘束力のある国際文書」。
注4:和名はメガネモチノウオ。学名はCheilinus undulates。国際自然保護連合レッドリストにおける絶滅危惧種。
注5:学名はChaetodon semilarvatus。紅海およびアデン湾に生息する。

海のジグソーピース No.125 <海洋情報の発信と海洋危機ウォッチ> [2019年04月10日(Wed)]

 笹川平和財団海洋政策研究所で取り組んでいる海洋情報の発信は、例年、年始から3月末にかけて業務のピークをむかえます。2019年も「万葉集と海」という新しい元号を予感させるタイトルの寄稿を掲載した「Ocean Newsletter」新年特別号を皮切りに、2月の『海とヒトの関係学』シリーズの発行、3月の『海洋白書2019』発行まで、3回の海洋フォーラムをはさみながら取り組み、無事に新年度を迎えることが出来ました。海洋の問題は幅広く、また、様々なステークホルダーが関わることから、総合的・横断的な視点での情報発信が欠かせません。

 昨年度(2018年度)、『海洋白書2019』を企画するにあたって過去の記事を読み返したのですが、2004年の創刊号『海洋白書2004』の当時から、既に、人間活動が海洋の環境や資源に無視できないほど大きな影響を与え、私たちの生存基盤を脅かしていることが明らかになってきたことなど、海洋の危機への警鐘が鳴らされています。そして、その問題は解決するどころか、近年ますます大きくなっています。地球温暖化は、北極の海氷減少や気象の極端化、サンゴの白化といった地球規模の問題を引き起こしています。水産資源の減少や海面水位上昇による島嶼国への影響なども懸念されています。海洋酸性化やマイクロプラスチックといった新たな問題も加わり、その対策は待ったなしの状況にあります。

<海洋危機ウォッチ(プロトタイプ版)の公開>
 このような海洋環境の問題は、意外と自分ゴトとして捉えることが難しい問題でもあります。国連の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の17目標のうち海洋問題を扱ったSDG14は、関心調査で最下位となることが多いです。海洋という現場に行くことが難しいというアクセス面の課題や、科学的な予備知識を必要とする問題も多いことなどがネックとなるようです。

 特に後者に着目し、2015年度から当研究所で取り組んでいる「温暖化・海洋酸性化の研究と対策」事業の一環として、主に海洋酸性化(SDG14.3)の問題に注目し、一般向けに分かりやすく、かつ専門家にも活用可能な情報基盤として「海洋危機ウォッチ」の構築を、国立研究開発法人海洋研究開発機構の協力のもとで進めてきました。ウェブページでは、科学研究が進む海洋酸性化をはじめとする海洋環境の諸問題を最新のニュース記事を交えて紹介するとともに、将来予測シミュレーションの結果や観測データを掲載しています。

 昨年12月に公開したプロトタイプ版のウェブGISを利用して見ることが出来る、2100年の将来予測の例としてアラゴナイト飽和度Ωの分布の比較を紹介します。

角田1.png
2100年4月の海面のアラゴナイト飽和度Ωの分布
※クリックして拡大

 左の図は温室効果ガスの排出をこのまま継続した場合のRCP8.5シナリオの結果、右の図は排出削減に取り組んだ場合のRCP2.6 シナリオの結果です。海洋酸性化が進みΩが1よりも小さくなると、有孔虫や貝類など炭酸カルシウムの骨格を持つ生物が骨格を作りにくくなるのですが、RCP8.5 シナリオではΩが1より小さな赤色の海域が広がることが分かります。一方で、排出削減に取り組んだRCP2.6シナリオではΩが1より小さくなる海域を抑制できることが分かります。すなわち、温室効果ガスの排出を抑制すれば、将来の海洋酸性化の影響を最小限に出来る可能性があることが分かります。

 プロトタイプ版では、このような将来予測に加えて、日本周辺の高解像度シミュレーションモデルを活用した予測結果やモニタリングの様子をインタラクティブに見ることが出来ます。まだまだ試行錯誤をしながら構築を進めているプロトタイプ版の段階ですが、是非、活用してみてください。

<『海洋白書2019』の発行>
 最後に、冒頭で紹介した『海洋白書2019』について少し紹介をします。今回の海洋白書では、例年通り過去1年間を中心に、70年ぶりの大幅な漁業制度改正や台風と高潮などの国内外の海洋に関する出来事や動向を幅広く横断的にまとめています。また、「なぜプラスチックが海の問題なのか」と題した巻頭特集を初めて導入し、6月に大阪で開催されるG20でも議題となる海洋プラスチック問題を取り上げました。表紙や目次デザインを刷新し、図解を導入するなどの新たな試みもしています。今年も、4月15日頃から書店に並びはじめます。是非、手に取ってみてください。

角田2.png
『海洋白書2019』で初めて導入した巻頭特集ページ
※クリックして拡大

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図解:海洋モニタリング(『海洋白書2019』より)
※クリックして拡大

海洋政策研究部主任研究員 角田 智彦

Ocean Newsletter No.448 [2019年04月05日(Fri)]
No.448が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●黒潮大蛇行とその影響
(国研)海洋研究開発機構アプリケーションラボ主任研究員◆美山透

黒潮大蛇行と呼ばれる現象が2017年8月末に始まり、1年以上たった
2019年2月現在もまだ続いている。
2004〜05年の前回から12年ぶりに発生したこの黒潮の流れは、
海が日本沿岸環境に与えている影響について見なおす機会になるだろう。
黒潮予測を利用し、社会に情報を提供していきたい。


●洋上風力発電の普及に向けて〜再エネ海域利用法の成立〜
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員◆角田智彦

2018年11月、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る
海域の利用の促進に関する法律」が成立した。
この新法により、海域利用調整に関する法的な課題は概ね解消されることとなり、
今後、わが国沿岸においても本格的に洋上風力発電の導入が進む道筋ができた。
普及のためには、まだ低コスト化や地域振興の課題があり、
さまざまな検討が求められている。


●海洋政策論の新展開
山梨県立富士山世界遺産センター所長◆秋道智彌

「海とヒトの関係学」シリーズが2冊刊行された。
母体はOcean Newsletterで展開された論考であり、新規の論を加えて編集した。
海とヒトの関わりは歴史、地域を縦断してたいへん多岐で、複合的であり、
喫緊の海洋問題から、2つのテーマ「日本人が魚を食べつづけるために」と
「海の生物多様性を守るために」を選定した。
海洋政策の未来を占う上でも、本シリーズがよき入門書となることを望みたい。


●編集後記
帝京大学戦略的イノベーション研究センター 客員教授◆窪川かおる


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Posted by 五條 at 21:20 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.124 <米海軍大学校とマシュー・ペリー提督> [2019年04月04日(Thu)]

 日本が直面している周辺諸国との島嶼領土に関わる主な懸案事項としては、ロシアとの間の北方領土、韓国との間の竹島、そして中国との間の尖閣諸島が挙げられます。これらの問題に関する日本からの発信は、北方領土については内閣府の北方対策本部が、竹島と尖閣諸島については内閣官房の領土・主権対策企画調整室(以下「領土室」とします)がそれぞれ担当しています。北方対策本部は、国民世論の啓発、北方四島との交流事業、北方領土問題等に関する調査研究、強制的に引き揚げさせられた元島民等に対する必要な援護、北方地域旧漁業権者等に対する融資事業を行っています。

 これに対して、領土室は中国の海洋侵出や韓国国会議員の竹島上陸などの問題が生じたことを受けて、2013年に設立されました。また、笹川平和財団海洋政策研究所の島嶼資料センターは、その前年の2012年に設立され、島嶼領土に関する資料収集と整理のみならず、学術論文集である『島嶼研究ジャーナル』の発行、センターのウェブサイトで「Facts & Figures」として各島嶼領土の領有権に関する法的根拠を提示するなど、日本の島嶼領土問題を考える上で必要な情報を国内外に発信していました。設立後間もない領土室も島嶼資料センターの活動を参考にしたのではないかとひそかに自負しています。

 島嶼領土の問題が二国間の問題であることは、言うまでもありません。その一方、中立的な第三者に日本の立場を発信し続けることも重要です。韓国や中国はこのような対外発信の先進国であり、これまでにも世界各地で自国の立場を積極的に発信しています。日本も遅ればせながら領土室が中心となって、民間のシンクタンクに委託する形で米国、英国、ドイツ、フランス、ベルギーなどで対外発信を行うようになりました。

 筆者もこれに深くかかわり、2018年3月には米国ウィスコンシン州ミルウォーキーのマルケット大学(Marquette University)の大学院生に対して、2019年の2月には米国東海岸のロードアイランド州ニューポートにある米国海軍大学校(US Naval War College)の大学院生に対して、尖閣諸島問題についての講義を行いました。また、同じく2月にはベルギーのブラッセルで島嶼領土セミナーを開催し、EUの知識人たちと竹島や尖閣諸島についての意見交換を行いました。

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米海軍大学校の正面玄関

 米海軍大学校では大学院の国際法クラスの講義でしたが、これとは別に、古くからの友人であるクラスカ(James Kraska)教授の発案で、領土室の後援で「国際法と日本の領土」と題された会合を行うことになりました。米国各地から国際法(特に海洋法)、国際関係論(特にアジア情勢)の分野における大学教授などの有識者を招聘し、10人ほどの規模による非公開で忌憚なく意見交換するためのラウンドテーブル方式の会議で、尖閣諸島、竹島、北方領土の問題に関する理解と参加者相互の交流促進が図られました。参加した知日派研究者は、日本が抱える領土問題について、日本の立場を概ね支持していたものの、国際法上の細かい解釈などについての意見の相違や誤解が散見されました。この会合はそのような相違を是正するという意味で、良い機会であったと考えます。

 こうしたラウンドテーブル方式の会合は、講義やセミナー形式の発信と異なり、相互に質問や意見を交換するという新たな形式での対外発信であり、島嶼領土問題に関する日本の立場を外国人研究者に対して深く理解してもらえるまで説明できるという利点があります。今後、こうした発信機会を積極的に設けることによって、知日派研究者が米国内で日本の立場を積極的に発信していくといった流れを作っていく可能性を感じることができました。

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ラウンドテーブル「国際法と日本の領土」会場での1枚

 米海軍大学校が所在するニューポートは、1600年代のアーリーアメリカン調の美しい建物の街並みが続く風光明媚な港町で、日本とのゆかりが深く、静岡県下田市と姉妹都市の関係があります。このように書けばご推察の通り、ニューポートは鎖国していた日本に来航して開国を要求すべく、「黒船」を率いた米海軍のマシュー・ペリー(Matthew Calbraith Perry)提督が1794年に誕生した街です。この黒船来航がやがて明治維新へと歴史が展開する先駆けとなったことはよくご存じかと思いますが、この明治維新とともに日本は国際法を積極的に導入することとなり、島嶼領土の領有手続きが国際法に従って行われたことは良く知られています。

 ペリー提督は、若い頃から蒸気船を主力とする米海軍の強化策を提唱していましたが、オランダ人医師であったシーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold)の強い影響を受け、日本遠征の基本計画を作成したと言われています。当時のフィルモア(Millard Fillmore)米国大統領は、日本の開国と通商関係条約を締結する任務をサスケハナ号(USS Susquehanna)を旗艦とする東インド艦隊司令官のオーリック(John Henry Aulick)提督に付与し、同艦隊は1851年6月にアジアに向けて出港しましたが、オーリック提督は翌年2月に同艦隊が広東に到着した際に病気により解任されました。

 オーリック提督の後任として東インド艦隊の新司令官になったペリー提督は、同年11月に米大統領の親書を携えてミシシッピー号(USS Mississippi)でバージニア州ノーフォークを出港し、1853年5月に上海で東インド艦隊と合流すると、すぐに琉球へと向かいました。東インド艦隊は同月のうちに那覇沖合に到着し、ペリー提督は、首里城で琉球王国に大統領親書を手交すると、艦隊の一部を琉球に残して軍艦4隻で小笠原諸島に向かい、現地住民との間で米国船の補給基地の契約をしています。当時、ペルー提督が強く進言していたら、小笠原諸島は米国領になっていた可能性は否定できません。その後、6月に琉球に戻ったペリー提督は、軍艦4隻で日本に向けて出港し、7月に浦賀に到着しました。これが日本の歴史を大きく動かした「黒船」来航です。

 日本は、紆余曲折があったものの開国に同意し、ペリー提督は、半年後の1854年2月に再来航して開港された下田港に入り、6月には日米和親条約(神奈川条約)の細則を規定した下田条約を締結しています。その後、ペリー提督は琉球へ立ち寄って帰国しました。那覇市の泊港北岸にペリー上陸記念碑があり、その右奥にある泊外人墓地には、今も殉職した東インド艦隊乗組員の墓標が残っています。

 ニューポート中央部の高台でオールド・ストーン・ミル(The Old Stone Mill)があるトューロ公園(Touro Tower)の中ほどには、ペリー提督の銅像が建立されており、その台座には同提督が世界各地へ訪問した際の情景が浮き彫りになっています。日本が国際法を導入する端緒となった開国とゆかりが深い歴史的な街のニューポートで、日本の島嶼領土の領有権について、国際法の観点から米国の有識者と熱く議論したことは大変意義深いものがありました。

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ペリー提督像

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台座の訪日レリーフ

特別研究員 高井 晋

海のジグソーピース No.123 <「社会と科学を繋ぐ」海洋政策推進への貢献を目指して> [2019年03月28日(Thu)]

 当研究所は海洋政策を専門とするシンクタンクですが、シンクタンクの重要な役割として、「社会と科学を繋ぐ」というものがあります。この「社会と科学を繋ぐ」ことについて、東京財団政策研究所のウェブサイトでも紹介されていますが、当研究所が専門とする海洋政策においても「社会と科学を繋ぐ」という試みは相当な努力を要することとなります。というのは、海洋政策に関係する人々や組織は非常に多く、繋ぎ方を間違えると逆に分断しかねない要素も含んでいます。そのため、海洋政策においては「海洋の総合的管理」という考え方が提唱されており、海洋基本法にも「海洋の管理は、海洋資源、海洋環境、海上交通、海洋の安全等の海洋に関する諸問題が相互に密接な関連を有し、及び全体として検討される必要があることにかんがみ、海洋の開発、利用、保全等について総合的かつ一体的に行われるものでなければならない。(第6条)」と明記されています。

 とは言え、(当研究所がこれまでに取り組んできた「沿岸域総合管理モデルの展開に関する調査研究」事業や「島と海のネットの推進に関する調査研究」事業などはその最たるものですが)実際に現場に出かけてみると、さまざまな利害がぶつかる場面に遭遇することがあります。しかも、そのような場では我々のような研究者の意見を一蹴するような問題が山積していることも珍しくはありません。そのため、我々は地道な努力により、それらの問題を理解し、解決するための方策を提示することが求められます。これは一見すると遠回りに見えるかも知れませんが、中長期的な視点からの問題解決を目指すには、このような取り組みが必須であることは言うまでもありません。

 このような取り組みが求められるのは、これらの事業の後身であるブルーエコノミー関連事業も例外ではなく、昨年度当研究所が刊行した『2017年度沿岸域総合管理モデルの展開に関する調査研究報告書』において、世界海洋サミットや欧州連合、世界銀行、東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)などが提唱した定義を総合した「環境リスクや生態劣化を顕著に減らすことで人々の福祉と社会的均等を改善する活動」や「それを支える長期的な海洋生態系の容量、強靭性、健康度とのバランスを保った持続可能な海洋における経済活動」という考え方を示すとともに、わが国のブルーエコノミーの構造をモデル化しましたが、ブルーエコノミーを構成するさまざまな要素や利害関係を明らかにしました。

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わが国のブルーエコノミーの構造
(出典:『2017年度沿岸域総合管理モデルの展開に関する調査研究報告書』)
※クリックして拡大

 また、併せて刊行した『海のまちづくりガイドブック〜ブルーエコノミーの実現に向けて〜沿岸域の総合的管理の考え方と実践』においてはブルーエコノミー概念図を示しました。しかし、ブルーエコノミーのメカニズムや推進すべき方向性については、まだ手探りというのが正直な状況です。ですので、これから現場のみなさんの意見を伺い、モデルの実装化を進めて、「社会と科学を繋ぐ」べく、私もブルーエコノミー関連事業に携わる研究者としてこれらの取り組みに積極的に取り組みたいという思いを新たにしています(なお、当研究所が実施しているブルーエコノミーに関する調査研究の成果を取りまとめた報告書が2019年3月に刊行されますので、ぜひご期待下さい)。

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ブルーエコノミー概念図(出典:『海のまちづくりガイドブック』)
※クリックして拡大

 さて、これらの取り組みの先頭に立っていた当研究所の古川恵太主任研究員がこの3月で退任されます。(今後は特別研究員として、当研究所の事業に携わって頂けるとのことですので、引き続き教えを乞うことができるとは思いますが)古川さんから教わったことを胸にブルーエコノミーという新たな取り組みをより効果的に進めるべく、私も政治学を専門とする研究者としてこれまでの知見を(少しずつでありますが)取りまとめ、「社会と科学を繋ぐ」新たな海洋ガバナンスの確立に資するブルーエコノミーを推進したいと思いますので、今後もより一層のご協力をよろしくお願いします。

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東京湾での沿岸域総合管理に関する講義をする古川さん(中国南海研究院にて)

海洋政策研究部 小森 雄太

Ocean Newsletter No.447 [2019年03月20日(Wed)]
No.447が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●日本の新しい衛星「しきさい」の可視・赤外センサーから見た海洋
名古屋大学宇宙地球環境研究所教授◆石坂丞二
(国研)宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター研究領域主幹◆村上 浩

2017年12月に打ち上げられた日本の衛星「しきさい」のデータが、2018年12月から一般向けに公開された。
ほぼ2日に1回、地球全体の海色および海表面水温が解像度250mで取得されている。
これらのデータによって、気候変動による海洋生態系の変化が明らかになるだけでなく、
高い時空間解像度を生かして、沿岸域での実利用に供されることが期待される。


●生分解性プラスチックを用いたカキ養殖用パイプへの取り組み
(公財)海と渚環境美化・油濁対策機構業務2課長◆福田賢吾

広島湾のカキ養殖資材と漂着ごみ問題は20年以上前からあり、昨今の海洋プラスチックへの
注目より前に、2017年度までフロート対策、2018年度からカキパイプ対策に取り組むことになった。
広島湾で使用されているカキパイプは2億本以上といわれ、流出原因は船舶の衝突など
養殖作業以外にもあり、漁業者の対応だけでパイプ流出は防止できないことから、
代替素材の一つとして生分解性プラスチック製カキパイプの強度試験を実施した。


●魚庭(なにわ)の海再生プロジェクト 〜美しく豊かな大阪湾を取り戻そう〜
大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科教授◆大塚耕司

高度経済成長期の「過栄養」のイメージが強い大阪湾であるが、近年は、湾西部や南部で
むしろ栄養が減り過ぎ、ノリの色落ちなど漁業への影響が出ている。
本プロジェクトでは、かつて魚庭(なにわ)と呼ばれ、豊かで生活に密着した存在であった
大阪湾を取り戻すため、大阪湾南部を舞台に、栄養供給による漁場造成、情報技術を用いた
水産流通システムの開発、若年世代への魚食普及イベントの開催などに総合的に取り組んでいる。


●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹


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海のジグソーピース No.122 <フィンランド気象研究所でのArctic Value Tree Analysis作成ワークショップの報告> [2019年03月20日(Wed)]

 皆様初めまして。研究員の田中元と申します。大学では国際関係論と経済学を学んでいました。これからもどうぞよろしくお願いします。今回の海のジグソーピースでは、先日参加したワークショップの概要と成果について、ご紹介したいと思います。

 私は本年(2019年)2月28日から3月1日にかけて、フィンランドのヘルシンキまで出張してきました。出張の目的は、ヘルシンキにあるフィンランド気象研究所で開かれたVTA(Value Tree Analysis)作成のワークショップに参加するためです。VTAは、日本語では「価値の木分析」とも訳され、さまざまな用途が紹介されつつあるようですが、ここでは「意思決定を下すためにどのような作業が必要であるかを作業工程ごとに並べたもの」としたいと思います。

 このVTAについて、フィンランド気象研究所と米・防衛分析研究所(IDA: Institute for Defense Analyses)は、共同で北極に特化したVTAである「Arctic Value Tree Analysis(Arctic VTA)」を作成しました。今回のワークショップでは、8人の研究者が集まり、約1か月後のSAON(Sustaining Arctic Observing Networks)でのレポート発表に向けて、急ピッチでのArctic VTAの完成を目指し開かれました。

田中1.jpg
フィンランド気象研究所の建物入口

田中2.png
集まった研究者たち。コーヒーやお菓子を食べながら自由な雰囲気の中、
議論しながらValue Treeをつなげていく。

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Arctic VTA作成途中の写真。一つずつにデータを手作業でつなげていく。

 それでは具体的にArctic VTAとはどういうものなのでしょうか。それをご紹介するため、まず前段階として作られたArctic VTAのフレームワーク【図1】から説明したいと思います。左の緑の図が基本的なVTAとなり、右側の青い図は具体的な政策活用例として日本の北極政策に当てはめたものです。

田中4.png
図1:Arctic VTAのフレームワーク
(クリックして拡大)

 まず、この図は大きく上3つのボックスと、下3つのボックスに分けられます。一番上のボックスには大きな社会的便益を受ける領域(SBA:Social Benefit Area)があります。その下にその大きな社会的便益を受ける領域を構成する小さな領域(SBA Sub Area)があります。さらに下のボックスでは、カギとなる目標(KO:Key Objective)があげられます。例えば日本の北極政策にこれを応用した場合、日本の北極政策領域(SBA)→科学技術というサブの政策領域(SBA sub Area)→北極の変遷とそのグローバルな影響への理解を深めるという政策目標(KO)などが該当すると思います。

 下3つのボックスでは、上側の目標を達成するためにはどのような成果物やサービスが必要となるかを説明しています。まずカギとなるプロダクト、サービス、アウトカムの群(Key Product Service or Outcome (KPSO) Group)があり、下にはそれぞれの具体的なプロダクト、サービス、アウトカム(KPSO)があり、一番下にはそれらを作成するための地球観測インプット(EOI:Earth Observation Input)が書いてあります。例えば、右側の日本の北極政策の場合、厳密には関連付けられてはいませんが、海洋に関する必要データの整理という科学的なアウトカム(KPSO Group)を加えてみると、海洋データの科学レポートの発行という科学的なアウトカム(KPSO)→海洋に関する衛星データ構築という海洋研究活動(EOI)といったように連関できるかと思います。

 このように、【図1】のようなフレームワークだけでも、日本の北極政策のような政策意思決定の分析に利用することはできます。しかし、私はこのフレームワークだけでは「それぞれの政策目標とそのために必要な成果物の数量的な関係を明確化・可視化できていない」という問題があると思います。そしてこのような数量的な関係が見えないのが問題となってしまう理由は、「トップにいる意思決定者にとって限られた資源の中でとるべき作業の優先順位が明確にならないから」だと思います。

 例えば、もし成功すれば1年間で200万円の便益を生む「北極の科学的変遷システムへの理解を深めること」という政策目標を達成するために、科学的な知見に基づく研究報告(科学レポート)と「科学者のコミュニティづくり」が必要だとします。しかし、科学レポートはそのうちの60%ぐらい重要度である一方で、「科学者のコミュニティづくり」は40%ぐらいの重要度しかないかもしれません。また、科学レポートを書くために必要となる、1年間維持するために100万円かかる衛星データのうち、70%のデータは科学レポートを書くのに必要ですが、残りの30%のデータは必要ではないかもしれません。このような前提のもとに科学レポートのコストを計算すると、そのコストは100万円×70%×60%となり、およそ42万円のコストが1年で必要となります。

 そのため、例えば政策達成のための年間予算が50万円しかなかった場合、42万円はこの科学レポートの作成に使い、残りの8万円を「科学者のコミュニティづくり」に使うといったように、政策決定者は予算の使い方に優先順位をつけられるようになります。また、このプロジェクトが成功すれば200万円の価値がありますが、もしほかに400万円の価値のあるプロジェクトがあった場合、政策決定者は400万円のプロジェクトのほうを優先して行うことができます。以上のように、数量的な観点を含めることで、意思決定者はより効率的な意思決定を行うことが可能になると思います。【図1】にコストの概念を加えたものが【図2】です。Arctic VTAは12個のSBAを設定していますが、これはそのうちの一つHuman Healthの実現を表したものです。

 【図1】のフレームワークを横に倒し、それぞれの構成要素をコストの重みづけによってつないでいます。これにより、【図1】のフレームワークだけでは見えないKPSOとのコスト的な関係を可視化することができます。また、右側の政策関係者の部分については左側のコストの数字をまだ反映できていないため、リンクする線が細くなってしまい、見えづらくなっていますが、ワークショップ前の段階でリンク付け自体は終わらせることができました。そのため、ワークショップでは緑枠のリンク付けの部分のみが行われました。

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図2:SBAがHuman HealthのArctic VTAの図。
(クリックして拡大)

 このArctic VTAは、未完成の部分があるのではないかと私は思います。それは政策のコストがわかっても、先ほどご紹介した400万円と200万円の価値のある政策目標といったような便益の金額が実際には明確にわからないという点です。もし、便益が計算されていないと、その政策の便益から費用を差し引いた純粋な便益の金額がわからず、それぞれの政策の機会費用(別の政策をとった際に生じる純粋な便益)がわからないため、最適な政策の優先順位がつけられないのではないかと思います。こういった便益の計算が、これからのArctic VTAの課題ではないかと思います。

 以上のようにArctic VTAは北極に特化したVTAですが、このVTA自体は基本的に北極に限らず、どのような政策提言の取りまとめにも適応できる開発途上でかつ可変的な分析モデルだと思います。開発者の方もこのVTAをオープンにし、それぞれの参加者が政策目標に限らず、それぞれのEOIからそれぞれのSBAまでつなげるオリジナルのVTAを作ってほしいとのことでした。

 ですので、私はこのVTAを「政策に応用すれば、政策関係者と科学者を合理的につなげるツールとなりえる点」だと思います。政策関係者と科学者の間には、常に政策的な分断という問題があります。政策関係者は自分たちの政策を達成するための科学的なステップが理解できておらず、また科学者たちも自分たちが政策のどの部分に貢献できているのかが不明確です。このモデルを利用することで、双方の溝が埋まり、より効率的に協力し合える関係作りができるのではないかと思います。私も今後、このArctic VTAの発展に貢献するとともに、海洋政策研究のためのツールとしてVTAを利用し、海洋政策の分野での独自のOcean Policy VTAに取り組みたいと考えています。

海洋政策研究部研究員 田中 元

Ocean Newsletter No.446 [2019年03月13日(Wed)]
No.446が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●東北沖地震津波の教訓と南海トラフ地震への対応
(国研)海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター長◆小平秀一

東北地方太平洋沖地震が予測できなかった理由の1つとして、
過去の地震データに基づくモデルだけでは予測が不十分だったことがあげられる。
地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測するためにも、プレート境界の
固着状態の変化を示すデータとそれを使った数値モデルの開発が必要である。
JAMSTECでは海底での連続観察システムの開発をはじめ、観測データに基づく
数値モデル構築の実現に取り組んでいる。


●気候変動による沿岸災害の将来変化について
京都大学防災研究所気象・水象災害研究部門准教授◆森 信人

気候変動に伴い、高潮・高波の将来の変化については、強い事象の
増加と頻度の増加を示す研究予測が多く発表されている。
防波堤や防潮堤などのインフラは、計画から導入まで数十年必要であり、
このため、極端な災害が顕著になる前に長期的な整備計画を立てると共に、
温暖化シグナルを検知できるモニタリングの強化を真剣に考える時期に来ている。


●種市高等学校の潜水士育成
岩手県立種市高等学校校長◆遠藤拓見

親潮と黒潮がぶつかり合う太平洋に面した岩手県九戸郡洋野町種市に、
潜水夫が生まれて 120年の月日が経とうとしている。
日本の潜水業界に名をはせる南部もぐり。その発祥の地に立つ種市高等学校は
今も全国で唯一、 水中土木作業に従事する潜水士の養成課程をもち、
海洋開発を担う人材を世に送り続けている。


●編集後記
東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる


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Posted by 五條 at 17:28 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.121 <IARC設立20周年―北極研究のこれから―> [2019年03月13日(Wed)]

 先日(2019年3月4日〜6日)、アラスカ大学の国際北極圏研究センター(International Arctic Research Center、以下IARC)で開催された「Japan - U.S. Arctic Science Collaboration 〜 Reflections on the Past Two Decades and Future Opportunities〜」に参加してきました。この会議はIARCの設立20周年を記念し、IARCとウィルソンセンター、日本から国立極地研究所、海洋研究開発機構、そして当研究所の共催で実施されたものです。

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国際北極圏研究センター(IARC)

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Hajo Eickenセンター長(左)、赤祖父俊一初代センター長(中央)、角南OPRI所長

 IARCは1993年に発足した日米二国間協力の枠組み「地球的展望に立った協力のための共通課題(日米コモンアジェンダ)」に基づいて、地球規模の気候変動と北極圏における諸現象に関する国際的研究協力を推進するために1999年にアラスカ大学フェアバンクス校に設立された研究機関で、日米間のみならず国際的な北極研究の拠点として重要な役割を担っています。

 IARC発足当時、日本の北極研究は南極研究に比べて規模が小さく国際的な存在感も薄い状況でした。しかし、この20年で日本の北極研究を取り巻く環境は大きく変わり、2011年にはナショナルプロジェクトとしてGRENEプロジェクトが、そして2015年にはArCSプロジェクトが立ち上がり、またわが国政府は北極政策を策定し3本柱の一つに科学研究を据えるなど、資金面でも政策面でも充実したものになりました。いまこれらのプロジェクトを支える多くの研究者がIARCで研究を行ってきたことは事実であり、北極研究が下火だった20年前から若手研究者を育ててきたIARCの役割と、その創設に尽力された赤祖父俊一先生の功績は計り知れないものがあります。

 さて、これからの日本の北極研究ですが、より政策的な視点が重要となってくると思われます。ArCSプロジェクトの目的は、北極域の気候変動の解明と環境変化、社会への影響を明らかにし、北極の諸問題に関する政策判断や課題解決に資する研究成果を適切にステークホルダーに伝えることとなっていますが、要するに政策決定に資する科学的知見を提供することに重きが置かれています。今回のアラスカでの会議で興味深かったのは、IARC前センター長で現アラスカ大学のLarry Hinzman副学長が、IARCの役割として「科学的な知見を得ること、そしてそれをもとに国際的な政策に貢献すること」と述べていたことです。つまり国際的な北極研究コミュニティにおいても、政策に貢献する研究が求められているということです。ARCsプロジェクトは2019年度で終了し2020年度からは後継プロジェクトが始まるはずですが、こうした役割は今後さらに増していくでしょう。同時にそれは科学研究と政策決定との間をつなぐ政策研究の重要性が増してくることを意味します。当研究所が今回の会議を共催した理由はそこにあり、日本の北極研究が次のステージに進むにあたって政策研究が果たすべき役割とは何かを見出すためでした。

 北極研究を政策的視点から考えるうえで重要な枠組みとして北極科学技術大臣会合があります。これは米国の発案で2016年に立ち上がった始まった北極の科学研究について議論するハイレベル会議ですが、日本がオブザーバーとしての権限にとどまっている北極評議会とは異なり、非北極圏国でも積極的にアジェンダセッティングできる点が特徴です。昨年10月にドイツベルリンで行われた第2回北極科学技術大臣会合において、第3回会合を日本とアイスランドが共同でホスト国となり日本で開催することが決定しました。アジアでの開催は初めてのことで、北極研究における長年の実績と信頼のあらわれだと思われます。一方で、日本がサイエンスの分野で北極問題にどう貢献していくのか、ホスト国である日本は国際社会に対して具体的な施策を示すことが求められます。いずれにせよわが国は北極科学技術大臣会合をホストできるメリットを最大限に活かす必要があります。

 その意味で今回のIARCでの会議はこれからの北極研究における国際協力の具体像を整理するうえで大変有益な場となりました。IARCのHajo Eickenセンター長は、次回日本で開催される北極科学技術大臣会合には大きな期待を寄せておりIARCも協力したいと仰っていました。これまでの20年以上に、これからのIARCとの連携協力はより重要性を増していくものと思われます。

 ところで、2020年は北極科学技術大臣会合以外にも、日本で多くの北極関係の主要会議が予定されています。当研究所でも、北極版ダボス会議とも言われるアイスランドの北極サークルと協力して地域フォーラムを開催する予定です。これは2018年2月に北極サークル議長のグリムソン前アイスランド大統領を招待して国際会議を行った時から計画していたもので、政府レベルの北極科学技術大臣会合、民間レベルの北極サークルといった形で、日本―アイスランドが官と民の両面で連携してみようという試みです。またこれ以外にも神戸大学で極域法国際シンポジウムの開催を予定するなど学術分野でもさまざまなイベントが計画されており、2020年は日本にとって北極イヤーとでもいうべき年になるでしょう。オリンピックだけでなく北極協力の分野での世界の注目を集められるよう、当研究所も力になれればと考えています。

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IARC20周年を祝うケーキ(アメリカらしいとても甘い味でした)

海洋事業企画部長 酒井 英次

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