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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


Ocean Newsletter No.460 [2019年10月10日(Thu)]
No.460が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●洋上風力発電に伴う環境影響の調査と評価〜欧州の事例をもとに今後を展望する〜
長崎大学名誉教授、三洋テクノマリン(株)海洋再生エネルギー研究所長◆中田英昭

洋上風力発電など再生可能な海洋エネルギー資源の利用は、2000年代後半から
欧州でめざましく進展しており、環境影響の調査と評価についても、
すでに十数年にわたって様々な知識やノウハウが蓄積されている。
そのような欧州の状況を踏まえながら、今後、日本周辺海域で洋上風力発電を
推進していく上で、それに伴う海洋生物とその生息環境に対する影響の検討を
どのように進めていくべきかを考えてみる。


●海洋pH観測のセンサー開発と海洋酸性化研究への応用
(国研)海洋研究開発機構研究プラットフォーム運用開発部門技術研究員◆中野善之

水素イオン濃度指数(pH)は酸性、アルカリ性の性質を示す化学指標である。
海水の性質からそのpHを正確に測定することは難しい。
筆者らは新しいコンセプトのpHセンサーを開発し、2013年から開催された
pHセンサーの国際コンペティションへ参加して3位に入賞した。
開発したpHセンサーは北極から南極まで海洋酸性化の研究推進に貢献中である。


●海女、海の魅力と女性たち
海女、漁業体験民宿「Guest House AMARGE」女将◆佐藤梨花子

近年、持続可能な漁業のモデルとして注目されている海女。
筆者は、結婚を機に名古屋から鳥羽市石鏡町へ移住し未経験から海女を始めた。
慣れない海女の仕事は苦労の連続だが人としての生き方や海の面白さを知った。
海女の魅力、そして海女として生きるとはどういうことなのかを語る。


●インフォメーション
第12回海洋立国推進功労者表彰


●編集後記
帝京大学戦略的イノベーション研究センター 客員教授◆窪川かおる


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Posted by 五條 at 22:19 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピースNo.149 <BBNJ第3回政府間会議での議論を振り返って> [2019年10月09日(Wed)]

 本年(2019年)8月19日から30日にかけて、「国家管轄圏外区域の海洋生物多様性(BBNJ:marine Biological diversity Beyond areas of National Jurisdiction)」の保全と利用に係る新しい条約策定に向けた第3回政府間会議がニューヨークの国連本部で開催されました。海洋政策研究所では、BBNJに関連する能力構築、海洋技術移転の議論を中心に情報収集を行うとともに。会期中に開催された能力構築に関心のある関係者が一堂に会した非公式会合「Friends of Capacity Building」に前川美湖主任研究員が登壇するといった活動を行いました。そこで、今回はこれらの活動を踏まえたBBNJの能力構築の議論の今をご紹介したいと思います。

 BBNJをめぐる議論では、今回の政府間会議から条約の草案となる「Draft Text of an Agreement」をもとに進められることとなりましたが、文章をもとに交渉を進めることを求めてきた各国にとって、これは大きな一歩と言えます。一方、議論の中身に関しては、依然として各国の対立が多く見られました。その対立の構造は、主に途上国対先進国というものですが、これは能力構築・海洋技術移転の議論においても同様の構図となっています。例えば、BBNJの保全と利用に向けて具体的な取組みを行う際、それには技術や知識が要求されます。その際に、それらを有する国(主に先進国)による途上国への能力構築が必要となりますが、途上国はこれを「先進国の義務」としてBBNJ新条約に盛り込むべきと主張しています。これに対して、先進国は能力構築があくまでも任意的なものと捉え、途上国の主張に反対しています。少しでも交渉を有利に進めたい途上国と新条約によって自国の負担となり得る可能性を最小化したい先進国との溝は、根深いものがあると感じられました。

 その一方、非公式会合ではスピーカーや参加者(各国政府代表や政府間機関、民間機関)から、改めて能力構築や海洋技術移転の重要性が主張されました。また、こうした非公式の場で異なる立場にある代表が集まり、互いの情報・知見の共有や公共・民間のリソースの活用方法等に関する情報提供等を行ったりすることが政府間会議における議論をさらに深化させていく上で重要であることが強調されました。海洋政策研究所からも、「民間・公共両セクターの資金提供における協同をどのように図っていくのか」という問題提起を行うとともに、「能力構築ではフォローアップを含めた一連の段階が必要である」ことや「能力構築提供者間の協力体制構築が必要である」ことを表明しました。このような非公式の場は、各国の利害に焦点が当たりがちな政府間会議とは異なり、政府代表を含めたそれぞれの代表の意見が忌憚なく発せられます。その点で、BBNJ交渉のある種の潤滑油になるのではないかと感じられました。

 現在のところ、次の第4回政府間会議が、BBNJに関する最後の交渉の場とされています。しかし、ある政府代表の見解では、交渉の期間はさらに伸びる可能性があるとのことでした。能力構築・海洋技術移転が真の意味で、BBNJの保全と利用に貢献し得るものとなるのか、今後とも議論の行方を追っていく必要があると思います。私も海洋政策研究所の研究員として、引き続きBBNJをめぐる議論に注目したいと思います。

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非公式会合「Friends of BBNJ Capacity Development」の開催の様子(筆者撮影)

海洋政策研究部 藤井 巌

海のジグソーピースNo.148 <イルカさまを考える> [2019年10月02日(Wed)]

 イルカがジャンプした瞬間の、息を飲むほどの躍動感と笑っているような表情に魅せられて、子供の時から何回チケットを手に握ってショーの列に並んだか分かりません。日本、アメリカ、カナダで観た回数を合わせたら20回を優に超えるでしょう。直近に観たのは、今年(2019年)の7月にアクアワールド茨城県大洗水族館での「イルカ・アシカオーシャンライブ」でした。週末のため、海が見える大きな室内アリーナに入る列は長かったのですが、飛んでくるしぶきがかかるタンク際の席に急ぐ子供たちと後列を求める賢いリピーターの大人たちですぐ満席になりました。景色もよし、音響も気温もよし、生き物の素晴らしい技も期待した以上のものでした。やはり、何回観ても途中で思わず歓声を上げてしまう自分はこどもだなと思いながら、なんだか浄化される気もします。これは大自然の力に接して起きることでしょうが、調教師の指示を素直に聞いてそれを楽しそうに実行するイルカのパフォーマンスを観て喜ばない人は果たしているだろうか、想像しにくいです。

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飛び跳ねるイルカの様子(著者撮影)

 そういう人に実際に会ったことはないのですが、今回のショーに行く1週間前に観たドキュメンタリー映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』(2016年)と終了後のトークイベントに刺激されて色々と調べたら、こういった催物にイルカを登場させることには問題があると切実に思っている人がいることを初めて知りました。その映画で取り上げていたのはイルカのショーではなく、『ザ・コーヴ』(2009年)という反捕鯨色の強い映画とそこに登場した人たちの活動でした。『おくじらさま』では捕鯨に対する賛否両論が丁寧に紹介されていましたが、その狙いは関わる人間の思想や価値観そのものより、具体的な行動を見つめることにあると思います。

 その中で紹介される一人として、1960年代のテレビ番組『わんぱくフリッパー』の主役であったイルカの調教師リック・オバリーがいました。彼が手をかけていた1頭のイルカの死によってイルカ解放運動家に転じ、興行用のための捕鯨に反対するようになりました。本人が関わっているかどうか分かりませんが、現にアメリカではドルフィンショー大手のシーワルドに対して「動物の倫理的扱いを求める人々の会」(PETA)がイルカショーを中止するように働きかけているそうです。シャチショーは数年前にも実際中止になりました。活動家の動機は動物愛から来ているには疑いありませんが、私個人としては考えるところもあります。

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ステージで踊るイルカの様子(著者撮影)

 アクアワールド大洗水族館での「イルカ・アシカオーシャンライブ」では、イルカのジャンプやアシカとの仲良しポーズだけではなく、啓蒙につながるストーリーもありました。タイムマシンを想定して海の環境がひどい状態になっている未来から戻った探検隊とのやりとりでイルカやアシカの力を借りてハラハラドキドキのシーンを経ながら改善に成功する、という運びです。子供向けのSFの話でしたが、共生の理想も間違いなく含まれています。我々人間がイルカショーによって自然の貴さに目を向けられ、クロス・スピシーズ(異種間)のコラボレーションも一つの方法ではないかと思います。

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『おクジラさま』のチラシ(出典:cinemoウェブサイト

海洋情報発信課 ジョン・A・ドーラン

海のジグソーピースNo.147 <気候変動と海洋について考える1週間―国連気候行動サミットとIPCC第51回総会―> [2019年09月25日(Wed)]

 今週(9月23日)、国連で「気候行動サミット」が開催され、16歳のグレタ・トゥンベリさんが演説したことが話題になっています。この演説は、心のどこかに「何十年も先には自分は生きていないから」という気持ちがあった私たちに対して、改めて次世代のことを思い、地球温暖化の課題に向き合う契機を与えてくれたように思います。これに先立つ9月22日には、世界気象機関(WMO)が、最近5年間(2015~19年)の世界の気温が観測史上最高であったことを報告していますが、地球温暖化は私たちが実感できるレベルになってきました。

 飽和水蒸気の変化を示すクラウジウス-クラペイロンの式を御存知でしょうか。【図1】のような中学の理科で習うグラフですが、気温が30℃から2℃上昇するだけで、飽和水蒸気量が1割以上も増えることが分かります。気候学者の眞鍋淑郎博士は、「このグラフが直線ではなく曲線であるため、少し気温が高くなっただけでも飽和水蒸気量が増大し、その結果として雨の降り方が激しくなることが分かる」と2年前に海洋政策研究所で開催した講演会でお話しされました。豪雨の増加など、地球温暖化は私たちの生活でも切実な課題になってきました。

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【図1】クラウジウス―クラペイロンの式
(縦軸:飽和水蒸気量(g/㎥)、横軸:気温(℃))

 海洋も地球温暖化の大きな影響を受けることが知られています。資料によって多少ばらつきはありますが、海洋は1970年代以降に上昇した熱の93%を吸収し、1750年以降に排出された二酸化炭素の28%を吸収し、氷山から融け出た淡水を事実上すべて受け入れています。海洋への熱や淡水、二酸化炭素の蓄積は、近年では海水温や海面水位の上昇、海洋酸性化のかたちで科学的に検知可能なレベルに達しており、海洋環境への影響は無視できない状況になってきています。昨年(2018年)に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃特別報告書は、サンゴ礁の減少や絶滅の危険性が高いことを示すなど警鐘を鳴らしています。水産資源への影響も懸念されており、生息域の減少や移動により、赤道太平洋域での漁獲が将来大幅に減少すると言われています。また、南極の氷床融解の影響などを考慮した、海面上昇の将来予測値の見直しも必要となってきました。

 このような海洋環境の課題に対して、今週、世界中の科学者が集まった会議がモナコで開催されています。IPCCの第51回総会です。この総会を経て、海洋を対象とした初めてのIPCC海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)が公開されます。海洋政策研究所(OPRI)では、この公開を受けて、作成に携わった科学者たちを招いたSROCC公開記念シンポジウムを10月15日(火)に環境省との共催のもとで開催します。SROCCで示されたメッセージを受けた課題や対策について、熱く議論します。また、具体的な対策としては、日本の科学技術を活かしたイノベーションの活用も検討し、まさに「ホット」で「クール」な議論を、12月にチリで開催される「Blue COP」に向けて展開したいと考えています。どうぞ足を運んでみてください。

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モナコ公国にあるグリマルディ・フォーラムで開催されたIPCC第51回総会
(吉岡渚OPRI研究員撮影)

海洋政策研究部主任研究員 角田 智彦

Ocean Newsletter No.459 [2019年09月20日(Fri)]
No.459が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●全地球の海底地形解明を目指す 〜国際コンペティションでGEBCO-日本財団チーム優勝〜
(公財)日本財団常務理事◆海野光行

海底探査技術の国際コンペティション「Shell Ocean Discovery XPRIZE」で、
GEBCO-日本財団フェローによるチームが2019年5月に優勝した。
メンバーは別々の国に住むため全員が同じ場所で作業できず、実務上の困難はあったものの、
彼らの「多様性」は勝利の要因でもあった。
参戦するにあたり、チームは優勝よりも大きな目標を見据えていた。
優勝賞金はすべて、2030年までに海底地形図の100%完成を目指す「日本財団-GEBCO
Seabed 2030 プロジェクト」の目標達成のために活用される予定だ。


●サンゴ礁のトワイライトゾーン 〜白化で衰退するサンゴの避難地となるか〜
琉球大学熱帯生物圏研究センター准教授◆波利井佐紀

トワイライトゾーン(水深30〜40mから150m程度)には豊かな生態系が広がっている。
この海域は、白化を引き起こす高水温からのサンゴの避難地(レフュジア)として
重要な海域と考えられている。
実際にこの深場サンゴ礁が避難地となり、幼生の供給源として衰退した浅場のサンゴの
回復に貢献するのだろうか。
本稿では、沖縄においてその可能性を検討する取り組みを紹介する。


●漁業・養殖業の持続性と2020東京オリンピック・パラリンピック
東京大学大学院農学生命科学研究科助教◆石原広恵

2020東京オリンピック・パラリンピックでは選手村などで提供される水産物について
持続可能な調達基準が定められた。
スーパーマーケットチェーンなどでも木材や水産物などの調達基準を定める動きが
広まっており、漁業や養殖業の持続性を担保する仕組みとして認証制度が注目されている。
日本でこれらの動きを普及させるには様々な課題が存在するが、東京オリンピック・パラリンピックは、
消費者がこのような取り組みを知る機会になりうる。


●インフォメーション
日本財団-GEBCO Seabed 2030プロジェクト The Nippon Foundation-GEBCO Seabed 2030 Project


●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹


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Posted by 五條 at 17:27 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピースNo.146 <RESASを用いた漁業に特化した市町村の特定> [2019年09月18日(Wed)]

 前回の記事では、フィンランド気象研究所が主催したArctic Value Tree Analysis作成ワークショップで用いられた「Value Tree Analysis(VTA:価値の木分析)」をご紹介しましたが、今回はRESASのデータを用いた日本の各市町村における漁業の近年の概況について分析した結果をご紹介したいと思います。RESASとはRegional Economy Society Analyzing System(地域経済分析システム)の略称であり、内閣府のまち・ひと・しごと創生本部が運用している地方経済のビッグデータを集約・可視化したシステムです。

 RESASのウェブサイトからはさまざまなデータをダウンロードできますが、その中でも今回は特化係数を用います。特化係数とは、ある地域の特定の産業の相対的な強みを見る指数です。1より大きければ、全国水準と比較して大きいとなります。付加価値額、労働生産性、従業者数の三つのカテゴリーがありますが、今回は2016年の付加価値額の特化係数を用います。付加価値額とは総売上高から総費用をマイナスしたものです。そして付加価値額の特化係数は、以下のような式で計算されます。

「特化係数(付加価値額)」=(域内における当該産業の付加価値額÷域内における全産業の付加価値額)÷(全国の当該産業の付加価値額÷全国の全産業の付加価値額)
付加価値額の計算式
(出典:『地域経済分析システム基本調査マニュアル』(2016年)8頁)

 以下の図1は漁業の特化係数(付加価値額)を地図に表したものです。全体的に、沿岸部ほど特化係数の高い緑の市町村が多い印象を受けます。また一方で特化係数=0の灰色の地域は内陸を中心に、特化係数がマイナスの赤い色の地域も沿岸部にいくつか見られます。これは付加価値額が売上高から費用総額をマイナスしたものであるため、これらの地域ではそもそも漁業が行われていないか、行われていても漁業にかかるコストが漁業からの売り上げを相殺あるいは超過し、赤字になってしまっていることを表していると考えられます。

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図1:漁業の特化係数(付加価値)(2016年)(筆者作成)

 特化係数とはいわば、その地域の経済のある産業への依存度ですので、数値が低いからと言って純粋にその地域の漁業が弱いということにはなりません。例えばその地域には漁業以外にも得意な産業があって、相対的に漁業に依存していないだけかもしれません。ですが、こういったマクロの情報を活用すれば、ブルーエコノミーを発展させる地域研究の一端になりえると思います。

 今後もこういったオープンデータを用いて、さまざまな可能性を秘めたブルーエコノミーをさらに発展させるべく、ブルーエコノミーの経済メカニズムに関する調査研究にアプローチしようと思います。

海洋政策研究部 田中 元

海のジグソーピースNo.145 <露領漁業を知っていますか?> [2019年09月11日(Wed)]

 島嶼資料センターでは『島嶼研究ジャーナル』を年2回発行するとともに、ウェブサイトの情報ライブラリーに尖閣諸島や竹島、北方領土に関する事項を1.領有権―法と歴史、2.地理、3.海洋・気象、4.生態系、5.産業、6.環境に分けた「Facts & Figures」という項目を設けて、日本の島嶼領土の理解を促進するための情報発信を行っていますが、これらの活動のためには資料調査が欠かせません。資料調査には、事前調査の後で目当ての資料の所在を確認し、所蔵先で資料調査を行う場合と、資料調査に出向いた先で、偶然の出会いが縁となって、これまで知られていなかった資料を発見する場合があります。2019年7月には函館市立博物館へ資料調査に行きましたが、思いがけなく露領漁業の資料を発見することができました。

 第2次世界大戦後、現在は北方領土と呼ばれる南千島では、島民が日本兵の武装解除目的で上陸してきたソ連兵と僅かな期間を一緒に暮らしていましたが、やがて本土へ強制的に引き揚げさせられることになりました。手提げカバン一つでソ連の貨物船に積み込まれた挙句、樺太島の真岡(現クリルスク)の国民学校と高等女学校にそのまま約2年間収容されて多くの餓死者や凍死者を出し、艱難辛苦の末にようやく函館港へと帰還したのです。当初、函館市立博物館に赴いた目的は、北方領土の旧島民に函館税関を経由して北海道へ到着した際に持ち込まれたと思われる資料の調査でした。また、札幌や根室で調査しても所在不明だった戦前の北方領土の貴重なフィルム資料が同博物館に所蔵されていることを突き止めたことが函館出張の理由の一つでした。

 同博物館での資料調査に係る意見交換の場で、島嶼資料センターの活動を紹介したところ、「北方領土の関係資料を調査するなら、函館市内で活動している『択捉島水産会』の代表者をぜひご紹介したい」と申し出てくれました。函館は、明治・大正期に進められた北海道開拓の玄関口であり、小樽とともに日本銀行が支店を構える物流の中心地で、小樽は農産物、函館は海産物が中心で、大きな水産会社のほとんどが函館に本社を置いていた歴史があるとのことでした。

 翌日、学芸員の方にご同行いただき、択捉島を中心としたサケ・マスの漁業関連の資料を準備して待っていて下さった、御年86歳の択捉島水産会の代表の方とお会いしました。代表は、「函館こそが北方領土への漁業基地であり、どこよりも縁の深い土地で、多くの資料が残されているのに、政府関係者が札幌と根室にしか足を運ばなかったため、まだまだたくさんの資料が自宅や友人宅に保管してきたので、函館の資料を調査に来て下さる方をずっとお待ちしていました」と大変喜んで協力を約束してくれました。代表がご存命の間に、なるべく早くこれらの資料調査の必要性を痛感しました。

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日魯漁業経営漁区(昭和7年)
(出典:サーモンミュージアム

 北方領土関連の資料の中で特に興味を惹かれたのは、多くの「露領漁業」の写真と一次資料でした。1875に日本とロシアは樺太千島交換条約を締結し、樺太はロシア領、千島列島は日本領となりました。そして、千島列島からさらに北方のカムチャッカ半島はロシア領のままでした。1905年に結ばれたポーツマス条約(日露戦争の講和条約)で樺太南部は日本領となりましたが、日本は1907年に日露漁業協約が締結し、カムチャッカ半島周辺海域におけるサケ、マス、カニ等の経営漁区を獲得しました。当時のロシアは漁業技術が未発達だったため、日本人に漁区を貸すかたちで操業を許可して収益を確保したわけです。これを「露領漁業」と言い、露領漁業の資料が充実している函館市北洋資料館には、当時の日本政府が発給したA4用紙大のパスポートや露領漁業の契約書等が陳列されていました。

 サケ・マスは産まれた河に帰る習性があり、季節になると故郷の河の河口沖合いに集結するので、そこが絶好の漁場となります。マルハ・ニチロのウェブサイト(サーモンミュージアム)によると、カムチャッカ半島の各河川に日本の水産各社の経営漁区が連なり、獲った魚も当初は塩蔵で保存していましたが、1914年から大型船上に缶詰工場施設を載せた母船式サケ・マス漁業が始まって、函館は前代未聞の好景気に沸きかえったそうです。日魯漁業株式会社は、露領漁業で得たサケやカニを曙印の鮭缶やカニ缶として輸出し、外貨獲得に大きな貢献をしました。当時、函館は人・物・金・情報が集まる、露領漁業に支えられた北海道経済の中心基地だったのです。

 現在、日ロ両国は北方領土の返還を視野に入れた対日平和条約の締結に向けて交渉を行っていますが、具体的な内容については秘密裏に進行していることでしょう。報道によるとロシアは1956年の日ソ共同宣言で日本に引き渡されると規定した「歯舞群島及び色丹島」(第9項)について、「島を返すが主権は返さない」と主張しています。この文言の趣旨は不明だったのですが、今回、露領漁業の資料を調査してこの主張に込められたロシアの狙いが推察できたように思います。

 ロシアは「露領漁業」の経験を旨味として学んでいて、歯舞諸島と色丹島の領土権を返還せずに経済活動を認める租借地にする方式を考えている可能性があります。租借地というのは、租借条約を締結して領土権を保有したまま自国領域の一部の統治権を外国に認める国際法上の方式です。北方領土の返還実現には実に多くの課題があります。日本は、租借方式を受け容れるか不明ですが、平和的な解決を目指して努力を継続していくしかありません。

特別研究員 井 晉

Ocean Newsletter No.458 [2019年09月05日(Thu)]
No.458が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●外航海運会社による世界初のグリーンボンドについて
日本郵船(株)財務グループ統轄チーム課長代理◆白根佑一

企業の長期成長のためには、リターンだけでなくESGの観点が必要だという
風潮が世界的に広まっており、日本郵船(株)では、2018年5月、
海運会社では世界初となるグリーンボンドを100億円発行した。
グリーンボンドとは、「環境改善効果のある投資に限って」発行できる社債である。
当社の活動が、広く一般にグリーンボンドのメリット、ノウハウ等の理解を進める
小さなきっかけとなり、企業にとってはコストの掛かる環境投資を少しでも後押しできることを願う。


●「貝リンガル」で海の異変を察知する
(株)ミキモト ミキモト真珠研究所副所長◆岩橋 徳典

真珠養殖発祥の地として知られる三重県の英虞湾に、1990年代前半、
アコヤガイを殺す新種のプランクトンによる「ヘテロカプサ赤潮」が突如現れた。
この恐ろしい赤潮への対策として、ミキモト真珠研究所は二枚貝の開閉を
測定する装置を発案し、世界初の生物センサーによる海洋環境観測システム
「貝(かい)リンガル」を共同開発した。
これからも(株)ミキモトは真珠を育む海を守り、自然との共生を目指したい。


●日本の海洋技術の発展とジョン万次郎
高知工科大学名誉教授◆草柳俊二

日本の航海技術と造船技術は明治時代に入ると急速に向上し、
日清、日露戦争時には世界レベルに達していた。
迅速な技術向上は基礎となる知識と技術を修得するしっかりした
教育システムなくして達成できない。
ジョン万次郎の足跡を辿っていくと、日本の海洋技術の教育システムは
彼によって構築されたことが明らかになってくる。


●編集後記
帝京大学戦略的イノベーション研究センター 客員教授◆窪川かおる


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Posted by 五條 at 13:57 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.144 <消防の水難救助隊が活動する範囲とはどこまで?> [2019年09月05日(Thu)]

 お盆も過ぎて、夏休みも終わりましたが、今年も各地で痛ましい水難事故が多く発生してしまいました。そこで、今回は消防の水難救助隊(※1)について、少し考えてみたいと思います。

 誰か溺れた人がいた場合、公の機関としては、海上保安庁(118番)か、地元自治体の消防(119番)が人命救助にあたることとなります。海上保安庁の活動範囲は、「海上において(海上保安庁法第1条)」とあり、河川・湖沼は含まれていません。また、市町村の消防の活動範囲は、その市町村の範囲(市町村は、当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任を有する(消防組織法第6条))そのものであり、河川・湖沼は、市町村の範囲として地図上にも境界線が示されているので、消防がそこでの救助にあたることとなります。

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パトロール中の救助艇(出典:藤沢市消防局ウェブサイト)

 1990年代、水のレジャーの多様化による事故の増加に対応するため、水のアクティビティーが盛んな地域を抱える基礎自治体では、消防組織に水の事故に特化した水難救助隊が各地で創設されました(※2)。例えば、内陸の埼玉県川口市消防局では、市内を流れる荒川での事故に対処するために1993年に、九州でも複数の自治体を跨ぐ球磨川を抱える熊本県の八代広域行政組合消防本部では1995年に、それぞれ水難救助隊が創設されています。また、海に面する沿岸自治体でも同様に、マリンレジャーの盛んな神奈川県の湘南地域にある藤沢市が1992年に、茅ヶ崎市が1994年に、平塚市が1999年において、水難救助隊が創設しています(※3)。

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水難救助隊の装備(出典:茅ヶ崎市消防本部ウェブサイト)

 これらのことを考えていると、ふと一つの疑問が頭をよぎります。「川であれば、水面にも自治体境界線が引かれているので、どこの消防が救助を担うかは明確である。しかし、海には自治体を分ける境界線が引かれていない。沿岸自治体の消防はいったいどのぐらい沖合まで救助に行かなければならないのであろうか?」と。

 消防の責務は市町村にあるので、この答えは国も持ち合わせていません。そこで、水難救助隊を有するいくつかの基礎自治体の消防本部に問い合わせてみたところ、あくまでもここで聞いた限りの自治体ではありますが、その答えは2海里まで、もしくは遠くても5海里までというものでした。また、この理由は、消防が保有する救助用の小型船舶の機材(水上バイク:2海里)と免許種類(二級小型船舶操縦士:5海里)の航行区域が、一つの規定要因になっていることもわかりました。ただし、海上保安庁(118番)と消防(119番)は相互に情報共有・連携しているため、人命最優先で、状況に応じた柔軟な救助が展開されるとのことだとのことだそうです。

 このように、さまざまな消防による取り組みが進められていますが、水難事故予防の第一が些細な不注意や無謀な行動をしないことであることは言うまでもありません。このような取り組みを通じて、痛ましい水難事故が少しでも無くなることを願ってやみません。

(なお、今回は沿岸域総合管理に関する個人的な研究の資料を取りまとめ、ブログにしてみたものです。問い合わせに快く問い合わせに応じてくださいました各地の消防本部のみなさまには、心より感謝申し上げます。)

海洋政策研究部主任研究員 塩入 同

※1:水難救助隊は本稿で紹介するもののほかにも、秩父市、さいたま市、埼玉県南西部消防本部、新潟市、北九州市、沖縄県ニライ消防本部(嘉手納町・北谷町・読谷村)など、各地の消防に設けられている。また、水難救助隊としての組織がなくても水難救助要員を配備している自治体や、一般の救助隊員が救助にあたる自治体など、それぞれの地域の必要性に応じた体制がとられている。
※2:なお、東京都の東京消防庁は1966年の羽田全日空機墜落事故を一つの契機として、その後、都下全域をカバーする水難救助隊を1974年に発足させ、その後、都市型水害、国際支援にも対応する独自の発展を遂げている。
※3:横浜市は港湾・河川での救助に対応するため、1999年に水難救助隊を発足させている。

海のジグソーピース No.143 <TICAD VIIにおける海洋政策研究所の取り組み> [2019年08月28日(Wed)]

 今日(2019年8月28日)は、3年ぶりに開催されるアフリカ開発会議(TICAD:Tokyo International Conference on African Development)の初日です。このTICADは1993年から日本政府が主導し、アフリカの開発をテーマとして国連や国連開発計画(UNDP)、世界銀行およびアフリカ連合委員会(AUC)が共同で開催する国際会議で、今日から開催される会合が第7回(TICAD VII)となります。そこで、今回は当研究所によるTICAD VIIにおける取り組みと成果を現地(パシフィコ横浜)からご紹介したいと思います。

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TICAD VII公式サイドイベント「アフリカにおける持続可能なブルーエコノミー推進の
ための協働可能性」に登壇する角南篤所長

 当研究所ではTICAD VII公式サイドイベントとして、「アフリカにおける持続可能なブルーエコノミー推進のための協働可能性(共催:東京海洋大学)」を首脳会合に先立って昨日(8月27日)開催し、70名を超える各界のみなさまにお越し頂きました。お越し頂きましたみなさまには、改めまして御礼申し上げます。また、昨日は当研究所主催で「アフリカにおけるブルーエコノミーに関するハイレベル円卓会議」というアフリカ各国の首脳や有識者をお招きした国際会議も開催しました。この国際会議では、2018年11月にケニアで開催された「持続可能なブルーエコノミー国際会議」の成果を踏まえ、より具体的にブルーエコノミーを推進するために必要な経済交流を維持・発展させるための取り組みについて、熱心な議論が交わされました。さらに、今日(8月28日)もTICAD VII公式サイドイベント「ブルーカーボン生態系の保全、再生と持続可能な利用:成功事例の共有と日アフリカ間での協働に向けた議論(後援:横浜市温暖化対策統括本部)」を開催し、60名を超える各界のみなさまにお越し頂きました。こちらにご参加頂きましたみなさまにも、改めて御礼を申し上げたいと思います。

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円卓会議終了後の記念写真

 今回の一連の会議を通じて、当研究所がこれまでに取り組んできたブルーエコノミーやブルーカーボンに関する調査研究をより具体的な政策へと実装化するための課題や方策に関する理解や展望を共有することができました。また、アフリカ諸国における取り組みの成果を共有することにより、今後の調査研究をより発展させるための新たな視点を得たことも今回の会議の大きな成果であると言えます。ちなみに、これらの会議については、当研究所初の試みとして、TwitterFacebookを通じたリアルタイムでの開催報告を行いましたので、もしかしたらご覧になった方もいらっしゃるかも知れませんが、今回の会議の成果については、後日当研究所のウェブサイトでも掲載致しますので、ぜひご一読下さい。

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熱心な議論が繰り広げられたTICAD VII公式サイドイベント「ブルーカーボン生態系の
保全、再生と持続可能な利用」パネルディスカッション

 なお、明日も当研究所の小林正典主任研究員が登壇するケニア政府主催TICAD VII公式サイドイベント「持続可能なブルーエコノミーに関するサイドイベント」が予定されております。ぜひお越し頂き、当研究所が取り組むブルーエコノミーの最新動向へのご意見、ご感想をお寄せ頂けますと幸いです。

海洋政策研究部 小森 雄太

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