日本財団公益コミュニティサイト CANPAN CANPANブログ:公益法人,NPO,CSR,社会貢献活動のための無料ブログ

世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


プロフィール


Google

Web サイト内

カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
△小泉純一郎前首相の医師久松篤子
英米関係は共通の理念に支えられる (10/08)
最新トラックバック
リンク集
月別アーカイブ
http://blog.canpan.info/okazaki-inst/index1_0.rdf
米国経済の大停滞 その1 [2012年01月16日(月)]
米ジョージ・メイソン大学のTyler Cowen教授が、その著書「The Great Stagnation」で、米国経済の不振は、過去米国経済の発展を支えてきた、無償の土地、イノベーション、十分教育を受けていない賢い子供たち、という3つの「容易に収穫できる果実」がほぼ食べ尽くされてしまったためだ、と論じています。

すなわち、19世紀末まで米国には自由に利用できる肥沃な土地がふんだんにああったし、20世紀前半までは、電力、モーター、自動車、航空機、家電製品、電話、医薬品、大量生産システム、テレビ等、目覚しい新技術が次々に現れて生活に取り入れられた。しかし今日では、インターネットを除いて、我々の生活は物質面で1953年とあまり変わっていない。また、20世紀前半には、適切な教育を受けられない才能ある若者が大勢いて、彼らを高校に通わすことで生産性を大幅に向上させることができた、

こうした時代が1970年代頃に終ったことを示す数値の一つが、世帯所得の中央値の伸び率だ。1947年から1973年までの26年間は2倍以上伸びた($21,771からから$44,381)のに、その後2004年までの31年間は22%弱しか伸びていない、

もう一つの数値は人口当たりのイノベーション件数で、19世紀後半まで増えたあと減少に転じ、1955年頃から大きく落ち込み始めた。また、近年のイノベーションの多くは「公共財」ではなく、「私的財」であり、恩恵を受ける人々は必ずしも多くない、

そうした中で、最も革命的なイノベーションはインターネットで、我々の生活と思考に大きな影響を及ぼしている。しかしインターネットが上げる収入は比較的少なく、雇用創出力も大きくない。20世紀前半、フォードとGMは何百万もの雇用を生み出したが、今日のインターネット関連企業は数万人の雇用しか生んでいない。しかも、富裕層がダイヤを買う代わりにインターネットを楽しむなど、人々が大挙して物質主義から離れる傾向があり、それによる打撃も大きい、

また、最近の米国経済は生産性が向上し、GDPが増えているのでさほど心配ないという議論があるが、中身をよく吟味する必要がある。例えば、政府、医療、教育の3大重要部門についてみると、@政府支出は、大きくなればなるほど、核心的部門ではなく、選択的、周辺的部門に支出され、その価値は下がるのに、全ての政府支出は同じに計算され、GDPの一部となる。従って、政府の役割が大きくなればなるほど、GDPはわれわれの生活水準の向上を過大評価する、A米国はGDPの17%と、どの国よりも多額の金を医療サービスに使っているが、米国人の平均寿命は日、豪、仏などより低く、医療支出の増大が、国民をより健康にしているとは思えない、B米国はGDPの約6%を教育に使っているが、権威ある調査によれば、17歳の読解力は1971年とさして変わらず、数学力は1973年とほぼ同じだ、

つまり、これら3部門は米国のGDPの25%を占め、最も急速に成長している分野だが、その質と成果は過大評価され、出費に見合っていない、と述べ、

要するに、我々は、生産性やGDPの指標が示すよりよほど貧しいということかもしれない、と言っています。


昨年発売されてベストセラーとなった“The Great Stagnation”は、米主要メディアから絶賛され、大きな波紋を呼んでいます。その一つの大きな理由が、米国人の生活水準は1973年頃をピークに、その後伸び悩んでいるが、それは技術革新が停滞したためだという議論です。

これに対しては、米国経済は1973年以降も成長しているし、IT技術革命、インターネットも出現している、という反論がありますが、コーエンは、@確かにGDPは伸びているが、政府、医療、教育部門を分析すれば明らかなように、それは生活水準の伸びに反映されていない、Aインターネットは、国家経済に対する付加価値が少なく、雇用効果も限られている、と説明、世帯所得の中央値1973年以降伸び悩んでいることが何よりの証拠だ、と言っています。

米国では中流階級の不満が高まっていると言われていますが、それは高所得者優遇という相対的理由だけではなく、世帯所得の中央値の伸び悩みという絶対的理由によるものであることが明らかにされています。

全体として米国経済の現状の問題点を独自の視点から鋭く分析した、興味深い議論です。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:26 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イスラエルの「レッドライン」 [2012年01月15日(日)]
エルサレム・ポスト1月10日付で、同紙軍事特派員で防衛アナリストのYaakov Katsが、またハアレツのウェブサイト1月15日付で、同紙特派員のAvi Issacharoffと軍事防衛専門家のAmos Harelが、イスラエルと米国の間で、イラン攻撃に踏み切る「レッドライン」に関する考え方に違いが出てきた、と言っています。

すなわち、エルサレム・ポストの論説は、従来、「レッドライン」は、査察官の追放、兵器級ウラン濃縮の開始、核爆弾の製造開始等、イランが核兵器開発の最終段階に来た時だとされてきた。これが明日起きれば、6-18カ月後にイランの核爆弾の製造が完了することになる、

ところが、1月に入って、イランがフォルドウ核施設の稼働を発表したことで、情勢は一変した。同施設は数千の遠心分離機を備え、1-2トンの濃縮ウランを貯蔵出来るほか、地下深くにあって、通常兵器による攻撃に耐える能力があるため、他の施設が破壊されてもフォルドウは残ってしまう。そのため、イスラエルが攻撃計画を早める可能性が出てきた、

対するに、米国は、核兵器の開発能力ではなく、開発が「レッドライン」だとしている、

もっともイスラエルも、フォルドウの稼働だけで攻撃計画を始めるとは言っておらず、おそらく欧米による経済制裁の効果を見極めようとするだろう。また、イランは近く西側と核問題についてトルコで協議することになっており、その前に影響力を高めようとしてフォルドウを稼働させた可能性もある、

問題は、イランが核兵器の製造を始めた時に、米国やイスラエルはそれを知りうるかだ、と言っています。

また、ハアレツの論説も、イスラエルと米国とでは、予測される事態の進行とレッドラインに関して見解の相違がある。イスラエルは、大部分のウランが防御された場所で濃縮されるようになった瞬間、イランは攻撃が効かない次元に行ってしまい、少なくともイスラエルによる軍事攻撃の選択肢はなくなるとしている、

しかし、米国の「レッドライン」はもっと先で、核兵器能力を獲得した時ではなく、実際に核弾頭を作れるようになった時点であり、この線はまだ越されていない、と言っています。


二つの論説で明らかなことは、イスラエル側が核兵器製造能力をイランに持たせないことを重視しているのに対し、米は能力ではなく、核兵器の開発自体をレッドラインと考えているということです。

ただ、イスラエルも、世論はイラン攻撃に踏み切るべきだとの声が強いものの、軍事・安全保障専門家の多くは、攻撃に伴う中東での戦火の拡大や、攻撃しても核開発を止められない(遅らせることはできる)ことを考えれば、単独攻撃は得策ではないと見ています。

確かに、濃縮施設がフォルドウに移ってしまえば、イスラエルには軍事攻撃の選択肢がなくなりますが、限定的攻撃では、イランの核開発を遅らせることはできても、止めることはできないのであれば、攻撃の選択肢がなくなる方がよいのかもしれません。

イランのような国がどうしても核兵器を保有すると決心すれば、北朝鮮の例を見ても、それを止めさせることはほとんどできないと考えるべきでしょう。後は抑止で対応するしかありません。

幸い、イランはまだNPT条約にとどまっており、西側と話し合う姿勢も示しているのであるから、交渉を継続するより手はなく、対話と圧力のバランスを良く考えて対応するしかないでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 11:33 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
馬政権は経済に集中せよ [2012年01月15日(日)]
台北タイムズ1月15日付の社説が、馬英九の当選を受けて、馬は公約通り北京との政治対話を避けて、経済に集中すべきだ、と論じています。

すなわち、馬英九を応援してきた北京は、馬が再選されたことで、今度は馬が北京との政治的話し合いを進めると期待しているだろう。しかし、馬は、選挙中、北京との政治的対話には入らないと言ってきたのだから、台湾のメディアと国民は、馬がこの公約を守るよう監視しなければならない、

台湾国民が期待しているのは、今後4年間に馬が経済を振興し、生活水準を上げてくれることであり、馬は経済に専念すべきだ、と言っています。


台湾総統選挙が終わって馬が再選された今、誰しもが一番関心を持つのは、今後4年間に中台関係に政治的進展があるかどうかでしょう。馬は、政権第一期には、中国本土と政治協定を結ぶことを公約に掲げながら、実施できませんでした。理由は、それをすることが世論で評判が悪く、民主主義の台湾では再選の妨げになるからでした。

他方、中国側には、馬が再選されず、民進党政権になった場合も、これまで通り台湾政府に経済的優遇措置を与え続けてよいのか、というディレンマがありましたが、馬の再選でその問題は無くなりました。しかし、4年後の選挙で国民党が再び勝つ見通しがかなり低くなっている今、中国は、当然、今後4年の間に政治関係を進展させようと思っており、これが今後の最大の課題となるでしょう。

振り返ってみると、4年前の選挙で国民党が勝った時は、北京が軍事的、政治的圧力を動員して中台間の政治関係を進めると予想され、巷間、「オリンピックの後に危機が来る」、また、オリンピックが過ぎると、「上海万博の後に危機か」、と言われましたが、結果的に何事も起きませんでした。 

それをもたらしたのは、一つは、中国の軍備増強は目覚ましいとはいえ、米国が介入してきたら、それに勝つ力はまだないという客観的情勢であり、もう一つは、台湾の民主主義でした。つまり、本土との政治的接近は、国民の評判が悪く、次の選挙に悪影響を及ぼすことが明白だったので、馬政権はそれ以上先に進めなかったのです。

今後4年間もまた同じ様な状態が続くと予想して良いのではないかと思われます。それを打破するには、中国が、@米国に外交的に働きかけて米国の説得で台湾に統一を納得させるか、A直接武力を以って脅迫するしかありませんが、どちらも可能性は低いでしょう。

とすると、今後の見通しは、第二期馬政権の間に、中国接近の方向に更に微調整することはあっても、大体現状通りで4年後の選挙を迎えるということではないかと思われます。

要するに、台湾は民主国家であり、国民の総意が無い限り、中国と接近する方向に引っ張って行こうとしても限界があるということでしょう。中国がそうした現実を認めて、現状維持を正式の政策として認めること(武力解放を放棄すること)こそが、台湾問題の長期的解決策かもしれません。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 10:49 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
サイバー戦能力をめぐる米中パワーバランスの模索 [2012年01月12日(木)]
National Interest のウェブサイト1月12日付で、David Gompert米海軍大学教授とPhillip Saunders米国防大学中国軍事問題研究センター長が、中国が開発しているサイバー攻撃能力・衛星破壊能力は核を無能化しうるものであり、これは米国や米国の同盟国に新たな戦略的挑戦を突きつけている、と言っています。

すなわち、@中国が開発しているサイバー攻撃・人工衛星破壊能力は、他国の防衛能力だけでなく経済活動全体を麻痺させ得る、しかもAそうした攻撃は殺傷を伴わず、かつ僅かの費用ですむ、ただし、B中国自身がサイバー・人工衛星攻撃を受ければ多大の被害を蒙ることになる。なぜなら、技術的にサイバー攻撃能力はサイバー防衛能力に勝るので、サイバー能力を開発し、それへの依存が高まるほど自らの脆弱性も増す(パワーのパラドックスが生じる)からだ、と現状を分析し、

それに対し、米国は、@戦略核ミサイルの分野で対中優位を持っているので、これを足掛かりに米中双方が核の先制攻撃やサイバー先制攻撃はしない(第一撃を控える)という合意を結ぶことができよう。その合意は日本、韓国のような同盟国も当然カバーする、また、E中国がこの合意によって、米国からの核攻撃はなくなったと考え、アジア諸国を武力で脅迫することがないよう、通常兵力を増強すべきだ、

以上は中国に不必要に敵対することを意味しない、双方が自分の持つ力に対して責任感をもって臨み、アジア及び世界に害を及ぼさないということだ、と言っています。


ゴンパートは、キッシンジャー長官下の国務省、ランド研究所、AT&T、国家情報局第一副長官を務めた経歴から見て、中国のサイバー戦能力を最も正確に評価できる一人でしょう。その彼がここまで書くということは、中国が仕掛けるサイバー攻撃に対して米国が有効な対抗手段を持っていないことを意味すると思われます。

だとすると、核ミサイルが無力となる(飛翔中の誘導を妨害される)新時代が到来したことになりますが、それにも関わらず、論説は、戦略核分野における対中優位をバックに、サイバー攻撃抑制の合意を中国から引き出そうとしており、矛盾します。

それに、中国政府は縦割りの弊害がひどく、人民解放軍を軍縮・軍備管理の交渉に引き出すのでさえ大変だと思われるのに、担当部署が分散しているだろうサイバー攻撃の問題は、中国政府、まして中国外交部の手には負えないのではないかと思われます。

いずれにしても、サイバー攻撃によって核ミサイルの攻撃力が相対化されてしまうのなら、米国による「核の傘」の有効性も相対化します。元々アジアでは、中国が多量に保有する中距離核ミサイルが優勢であり、これに対して米国は爆撃機、潜水艦搭載ミサイル程度の抑止力しか持っていません。

こうした状況下、日本では日本の核武装、独自の抑止力の整備を求める声が以前より大きくなってきています。しかし、この論説の示唆するところは、サイバー戦能力、人工衛星破壊能力が核を無力化し得るということであり、こちらの方が日本に適した方向ではないかと思われます。サイバー戦に対処する能力の開発を、MDへの利用も考えて強化するべきでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:35 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
台湾は中国の未来のモデル [2012年01月12日(木)]
ニューヨーク・タイムズ1月12日で蘇起・元台湾国家安全会議秘書長が、馬政権の下で中国との関係を安定化させた台湾は、米国の同盟国であると同時に、中国にとって民主主義のモデルとなる地位を得た、と言っています。

すなわち、台湾は米国を米中対立に捲きこむのではないかと心配されていたが、馬政権になってから両岸関係は落ち着いて来た。中台の経済関係は進み、台湾はむしろ中国にとって、市場改革、ポップカルチャー、報道の自由の手本になっている。中国人は自国の腐敗にうんざりしており、また、台湾の言論の自由や選挙制度などを見て、台湾が中国の伝統と近代化の両立に成功したことも知っている、

台湾の人々は、台湾の民主主義が自分たちに地域的責任をも与えていることを認識して、南シナ海の問題等に発言すべきだ。中台間には十分な信頼関係ができているのだから、台湾は、米国の同盟国として、そして中国の将来にとってのモデルとして、米中台の関係に新たな道を拓くべきだ、と論じています。


蘇起は、馬政権の下で国家安全会議秘書長を務めた、国民党のイデオローグです。彼の主張は、この論説から察すれば、中台関係は現状維持のままで、台湾は、民主主義を達成して中国政治社会の将来のモデルとなり、中国本土と米国の双方と友好的な関係を維持して、国際問題についもより強い発言力を持つ国になろう、ということのようです。

この議論は、民進党政権8年間と国民党政権4年間に、米国の指導層が描いていた両岸関係の目標とほぼ一致し、米国でも賛同者は多いと思われます。NYTがこれを取り上げたのも、その論旨に違和感を持たないからでしょう。

ただ、この論では、中国が台湾の武力解放の建前を捨てず、台湾は常にそれに備えねばならないという問題は解決されません。また。中国の軍事力が増大し、中国の脅威が単に台湾にとどまらず、全東アジアの安全保障上の関心事となって来ると、台湾問題は、両岸関係だけの問題ではなくなってきます。その時は、台湾の戦略的価値はそうしたグローバルな観点から見直されることになるでしょう。

ともあれ、総統選挙で国民党が勝利を収めた現在、この蘇起のような考え方が国民党政府の主流となると予想されます。こうした考え方が実現するかどうかは別にして、考え方自体はバランスの取れたものと評価できます。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 10:48 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ホルムズ海峡封鎖と石油供給 [2012年01月11日(水)]
Bloombergのウェブサイト1月11日付が、イランは自殺行為となるホルムズ海峡封鎖は実行しないだろうが、封鎖の脅し自体がリスク要因を高め、石油価格を上げることになると指摘、万一の場合に取り得る対応策を列挙しています。

すなわち、石油はイランのGDPの20%、輸出の80%、政府収入の70%を占めており、イランにとってホルムズ海峡封鎖は自殺行為になる。また、そうした挙に出れば、米国と戦争になり、取引相手の中国などからの外交的支持も失う可能性がある、

ただ、イランは実行するつもりはなくても、封鎖の脅しだけでも、今のように密接につながりあい、かつ投機手段があふれている世界では、大変な実質的悪影響を及ぼすことになる。特に、湾岸地域から9パーセントしか輸入していない米国よりも、中国、インド、日本などアジア各国や欧州が大きな影響を被るだろう、

そこで対策としては、@パイプラインによる輸送を増やす、A国際エネルギー機関(IEA)加盟各国が戦略備蓄を放出する、Bサウジが数十億ドルを投資して新たなパイプラインを敷設する等の措置をとること等が考えられる。石油高騰がこのまま続けば、パイプラインの新設はさほど痛い投資ではなくなるだろう、

もっとも、IEA加盟国による備蓄石油の放出は、中国やインドなどの非IEA諸国が買いだめをしないことで合意しなければ上手く行かず、そうした合意の形成は、前例のない広範な政策的協調を必要とする。また、アジアにおける将来のオイル・ショックを緩和する一つの方法は、もっと多量の石油を地域の貯蔵所に置くこと、海上備蓄の利用を増やすことかもしれない、と述べ、

最初のオイル・ショックから40年経つのに、世界は相変わらずペルシャ湾の石油が途絶える脅威に対して非常に脆弱なままだ。湾岸地域の安定維持とホルムズ海峡の安定的通行の確保のために、膨大な金が費やされており、その費用が価格に組み込まれている石油に比べて、代替エネルギーが安く思えてくる、と言っています。


この記事は、イランによるホルムズ海峡封鎖の脅しをめぐってあり得ること、またそれに対し、どのような対策を講じることが可能かを具体的に列挙していることに価値があります。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:04 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
日米印3カ国協商 [2012年01月10日(火)]
Project Syndicate1月10日付で、在ニューデリーの政策研究センターのBrahma Chellaney教授が、米印日3カ国による戦略対話の開始と共同海軍演習を行うとの決定は、これら3国が協商関係を結ぼうとしていることを示している、と言っています。

すなわち、アジアが移行期にあり、様々な安全保障上の問題がある中で、日米印のこうした動きは、第1次大戦前、ドイツの台頭に対した作られた仏英ロ「3カ国協商」を思い出させる、

しかし、今回は中国の台頭が動機だが、目的は中国の封じ込めではなく、相互依存的な国際体制の中に中国を統合することで中国の覇権追求を止めさせることだ。つまり、3カ国の意図は軍事同盟ではなく、中国が傲慢になるのを抑止し、この地域にリベラルなルールを尊重する安定した地域秩序を作ることにある、

ただ、意味ある協力をするには、日米印の戦略はそれぞれ変わる必要がある。例えば、日本はインド海軍とも相互運用性を持つ必要がある。また、財政難から、オバマ政権は米軍のスリム化や同盟国、パートナー国への依存の拡大を打ち出しているが、これは冷戦時代の「ハブとスポーク」体制を越えることが求められる、

この「ハブとスポーク」体制は、日本を米の保護国の立場におくのには適していたが、日本の対米依存を減らし、防衛力増強を促す方が、むしろ日本は均衡維持に貢献できるようになる。こうした変化は、第二次大戦後の安保体制に根本的変化をもたらすことになろう、

もっとも日米印は、広い戦略目的では一致していても、例えばビルマ政策やイラン政策では不一致があるというように、全ての案件で合意するとは言えず、パートナー関係の限界も理解しなければならない、

また、武器の共通運用性も簡単には達成できないが、この協商の目的は政治的なものであり、この方がより重要だ。日米印3カ国協力の深化は、インド・太平洋地域での海洋安全保障の強化とアジアのおけるパワー・バランスを作りだすのに役に立つだろう、と言っています。


チェラニーの論説は、日米印間の協力が軍事的な中身は薄くても、政治的には重要で有意義であることを指摘するとともに、この協力関係を本当に意味あるものにするには、戦後のアジアの安全保障体制を根本から考え直す必要があるのではないかと問題提起しているものです。

特に、従来の体制は、日本を米の保護国にしておくのには適しているが、日本の自立した防衛力強化にはつながらないとしています。これは、アジアで地殻変動のような変化が起こっており、従来受け入れられてきた考え方もよく吟味してみる必要があるということなら、その通りでしょう。

第2次大戦後、アジアの平和のためには、軍事的に弱い日本がよいと言う考え方がありました。新憲法、日米安保、日本が自ら課した安全保障上の制約、ASEAN諸国歴訪の際に軍事大国にはならないと言明するなどは、皆こうした考えの反映です。また、ソ連、中国、韓国は軍事的に弱い日本を望んでいました。

しかし中国の台頭で状況は変わってきています。それを踏まえ、日本の安全保障政策についても、考え直す時期に来ています。最近の武器禁輸緩和は重要な動きでしたが、惰性から、あるいは反対の強さを予見して、例えば集団的自衛権について従来の方針を続けるようなことは問題でしょう。

また、日米印の対話の開始は、日米印協力から何を期待し得るかなど、日本側に新しい考え方が出てくるきっかけにもなりうると思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:49 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米新国防戦略と国防費削減 [2012年01月06日(金)]
ワシントン・ポスト1月6日付で、米ブルッキングス研究所のMichael O’Hanlonが、二つの大戦争に備える態勢から後退するのはよいとしても、米国は今後一つの大戦争と二つの有事に同時に備える態勢が必要だ、と言っています。

すなわち、たしかに、北朝鮮は核を獲得したと言っても、通常兵力では韓国の方が優位であり、イランや中国からの脅威は、少なくとも短期的には、海空軍や特殊部隊主力で対抗することになろう。しかしそうは言っても、陸軍や海兵隊の削減は、15-20%を超えるべきでない。それによって節約できるのは1500億ドル程度であり、1兆ドルもの削減のほんの一部にしか貢献しない。
 
米国は、やはり一つの大きな戦争の他に、二つぐらいの小さくても持続性のある他の紛争に備えるようにすべきだろう。今の米国は疲弊し、経済的にも破綻しているので、一つの大戦争に対して備えるのでさえ過剰だという者もいる。また、反乱対策は過去のもので、地上戦は時代遅れだと言う者もいる。しかし、米国はベトナム戦争後、これと同じ議論に一人合点してしまい、その結果、四半世紀後、イラクとアフガニスタンに対処する用意が出来ていない事態に陥った。新たな地上戦はありそうもないかもしれないが、国防は、「ありそうもない事態」にも備えなければならない。朝鮮半島でもイランでも最悪のシナリオはあり得る、

結局のところ、戦略というのはリスクの除去ではなく、リスクの最小化を目指すものだ。同時期の2つの地上戦よりも、西太平洋やペルシャ湾における不測の事態や、米国の財政的脆弱さから脅威が来る可能性の方が高いのが今の現実であり、米国の国防予算もそうした現実に合わせて調整されるべきだ、と言っています。


米国の新国防戦略は、@二つの大きな戦争に備える態勢はやめる、しかし、A国防費の削減は西太平洋の防衛に影響を及ぼさない、ことを宣言しており、豪州議会でオバマが宣言した米国のアジア復帰が、基本戦略の中に確固たる地位を占めることが明らかになったことは、日本にとって喜ばしいことです。

ただ、オハンロンの論文は、軍事現実主義者として、その新しい戦略が、予定されている国防費の大幅削減の中でいかに実現可能かを論じています。と言うよりも、4000億ドルの削減ならともかく、1兆ドルの削減では、こうした新戦略が実現可能か疑っています。

しかし、1兆ドル削減をいかに調整するかという問題は、民主、共和の党派争いが続く限り、解決は困難な問題ではないかと思われます。アイオワ州の予備選でロムニーが勝ったことが、あるいは米国の世論における穏健派のカムバックを意味するものではないかと、一縷の希望を抱かせてくれているのが今の状況です。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:17 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米新国防戦略による大西洋同盟空洞化の懸念 [2012年01月06日(金)]
在ワシントンのシンクタンク、 Atlantic Council のウェブサイト1月6日付で、Julian Lindley-Frenchオランダ国防大学教授が、米国の新しい国防戦略が欧州に及ぼし得る影響について論じています。

すなわち、米新国防戦略は、米国が早晩超大国の地位を失うことを言外に認めており、米国の戦略的認識の変化を表している。米国はそれに基づいて、ポスト冷戦時代からの大規模な情勢安定化戦略は止めて、今後は輪郭のはっきりした「クリーン」な戦争しか戦わないことになるだろう、

欧州にとってこれは何を意味するか。NATOは米国の庇護の下にすっかり空洞化しており、その軍事力は「アイスクリーム・コーン程度の強さ」になってしまっているが、そうした甘やされた時代は終わりになるということだ、

では、今後欧州はこうした事態を受けてどう動くだろうか。米国は今後も東欧についてはとかく問題を起こしがちなロシアからの防衛を保証するだろう。軍事テクノロジーがそれを許してくれるし、いずれにしても、当面、モスクワがNATO=EU国を侵略することはない。しかし大陸欧州となると話は別で、欧州は独仏、とりわけドイツを中心として中核グループがまとまり、ますます欧州に関心を集中させていくことになろう。他方、英国は、「豪州、カナダ、日本、そして多分インドを含む米国主導のグループに加わることを選ぶだろう」、と述べ、

NATOは残りの時間を、戦略観が異なり始めた加盟諸国間の軍事的相互運用性の維持に費やすことになるだろう。しかし、米国の新国防戦略が内包する世界観は、大陸欧州のそれとは非常に異なり、同盟関係はそうした不一致の下では長く存続できない、と言っています。


新国防戦略によれば、米国の新たな国防姿勢は、確かに欧州からはほとんど両足を、中東からは片足を抜くものであるかに見えます。欧州の覚醒を促すこの論説のようなコメントが出てくるのは当然でしょう。それにしても、中央アジアから中東に至るホットスポットが、東に向かう米国、そして内向きになる欧州の狭間に落ちてしまうことが懸念されます。

また、論説は今回の米国の戦略的転換によって、大陸欧州と英国の間にある古い断層がより明確化すると見ています。やはり英国は大陸欧州とは異質の存在と見られていることがここから伝わってきます。

なお、英国に現実にその意思と覚悟、そして人的・資金的裏付けがあるかどうかはともかく、日本にとっては英国がアジア事情にお節介を入れてくれるのはむしろ望むところでしょう。実際、英国政府は近年、大英帝国の遺産とも言うべき「五カ国(英、豪、NZ、マレーシア、シンガポール)防衛取り決め」に対して関心を払い直しつつあります。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:59 | 欧州 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
北朝鮮不安定化のシナリオ [2012年01月05日(木)]
米AEIのウェブサイト1月5日付で、同研究所のMichael Mazzaが、朝鮮半島の安定が重要とされているが、北朝鮮情勢、北東アジア情勢は急速に悪化する可能性があるとして、北朝鮮が不安定化する5つのシナリオを挙げています。

すなわち、今後北朝鮮で起きうる事態として、@継承の成功:これは、核開発を進め、戦争行為・拡散・麻薬取引を行ない、テロ組織とも関係を持つ北朝鮮が続くことを意味する。世界の指導者はこんな安定は望んでいないだろう、A親族内の対立:とりあえず張成沢が摂政の役割を果たすが、金正恩が間もなく自己主張を始めて張成沢と対立、それに金敬姫も巻き込まれ、軍や労働党も割れる、B軍によるクーデター:軍が金正恩の支配に抵抗する、C韓国への挑発と報復:金正恩が強者として軍の信頼を獲得するために韓国を挑発、韓国は北の思惑に反して北の基地を攻撃するなど報復に踏み切る。そうなったとき、金正恩には全面戦争を阻止する権威はない、D中国軍の侵入:北朝鮮からの難民流入を懸念する中国は、北が国境閉鎖と難民流出防止に失敗した場合、人道的危機を理由に北朝鮮に軍を派遣する、という5つのシナリオが考えられる、と言っています。


マッザの指摘するシナリオはいずれも可能性があるものです。こういうシナリオを分析し、各ケースについて対応を大ざっぱにでも考えておくことは、いざという時に適切に対応する可能性を高めてくれます。その意味でこういう論説は役に立ちます。

ただ、マッザも指摘するように、金正日死去後、朝鮮半島の「平和と安定」の維持が関係国の一つの標語のようになっていますが、中国と日米韓はこの標語をそれぞれ違う意味で使っているのではないかと思われます。

たとえば、中国は盛んに半島の「平和と安定」を強調していますが、これは要するに、金正恩への権力継承がうまくいくよう応援する立場、現状維持を願う立場からの「平和と安定」です。

他方、日米韓は、金正恩への権力継承が上手くいくように応援する必要はありません。日米韓は、北の暴発は困るが、北が良い方向で変化することを希望すべきであり、それが朝鮮半島の「平和と安定」につながるという立場をとるべきでしょう。

また、中国は難民への心配からだけではなく、事態がマッザの言う第2、第3、第4のシナリオのように展開した場合も、介入し、安定化を図る可能性が高いと思われます。北の政府あるいはその一部の要請を受けて、軍を北朝鮮に入れることはありえますし、中国には北にそうした要請をさせるぐらいの根回し能力はあるでしょう。歴史的にも、そうやってソ連がハンガリーやチェコに介入した例があります。

そうなった場合、このままでは日米韓は手をこまねいていることになるのではないかと思われます。朝鮮半島の「平和と安定」について、中国のイメージと日米韓のイメージには差異があることを認識して、対応することが肝要でしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:00 | 東アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
| 次へ