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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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イスラエルの核と中東の秩序 [2010年08月24日(火)]
国家安全保障会議の中東・南アジア部長を務めたBruce Riedelが、National Interest誌で、イスラエルによるイラン攻撃を阻止するには、米国がイスラエルに核の傘を提供する等、イスラエルの抑止力を強化し、イスラエルが中東での核兵器独占の維持に固執しないようにする必要がある、と論じています。

すなわち、イスラエルが自国の安全保障の重要な要素と見てきた中東での核兵器独占が、今イランから重大な挑戦を受けている。イスラエルは、@右派も左派もイランの核兵器は国家存続への脅威と見ている、A外交や制裁が効果を上げるとは思っていない、B米国が武力行使するとも思っていないため、核兵器独占を維持しようとイラン攻撃に踏み切る可能性がある、

しかしこれは大惨事につながる。イランは米国も攻撃を支持したと考えて、米イスラエル両国に報復するだろう。しかも、攻撃はイランの核開発を遅らせるだけで、撤廃はできず、イランは侵略の犠牲者として、おそらくNPTを脱退するだろうし、対イラン制裁への支持も消えるだろう、

米国には先端軍事技術の提供をやめるなど、イスラエルへのテコを持っており、それを使うべきだ。しかし、イスラエルに攻撃をやめさせるということは、中東での核兵器独占を断念させるということであり、それを説得するには、イスラエルの抑止力を強化するしかない、

他方、イランの行動には問題があるが、イランは1979-81年の人質危機の時も、カーターが軍事的対決の姿勢を示すと後退、1988年のペルシャ湾での米イラン海軍の対決でも停戦に応じており、イラン・イラク戦争でも大量破壊兵器を使わなかったように、破局につながる行動は避けてきた。イランを抑止することは可能だ、

そこで、2000年のキャンプ・デービッドで提起された、米イスラエル相互防衛条約をもう一度検討できよう。イスラエルの核は抑止力になるが、イスラエルを攻撃すれば米国から報復されるとイランが知れば、もっと抑止されるだろう。ワシントンが今行動して、イスラエルの核能力を強化することだけが、イスラエルによるイラン攻撃を抑止し得る、と言っています。


米・イスラエル安保条約は2000年のキャンプ・デービッド会談後、イスラエル政府内で検討されましたが、イスラエル人の「民族的体験は他民族の安全保障約束など信用できないことを示している」として反対論が強く、成立しませんでした。ライデルがこの間の経緯を知らないはずはなく、なぜこういう提案を今イスラエルが受け入れると思っているのか、謎です。

イスラエル人はホロコーストの経験ゆえにイランの核への警戒感は強く、イラン攻撃に踏み切る可能性はあります。現在の弱い制裁や外交の行き詰まりにイスラエルが苛立ちを強めていることは間違いありません。

イスラエルのイラン攻撃は石油輸送の大動脈、ホルムズ海峡の通行をかく乱し、世界経済、日本経済に重大な影響を与えます。イスラエルにイラン攻撃を断念させるためには、イスラエルの懸念を真剣に受け止めた措置を考える必要がありますが、なかなか良い知恵がないのが現状です。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:09 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中パ核協力への懸念 [2010年08月20日(金)]
ニューヨーク・タイムズ8月20日付で、カーネギー国際平和財団のMark Hibbsが、中国の対パキスタン原発建設協力について、中国と対立するのではなく、話し合いによって規制を実現することを提唱しています。

すなわち、中国が原発2基の建設でパキスタンに協力しようとしているのは、原子力供給国グループ(N.S.G.)の協定(核拡散防止条約に加盟していないパキスタン等への核爆弾開発への転用の恐れのある原発関連機器・技術の輸出を禁じている)に違反するものだ、

しかし、中国をN.S.G.から排除すると、最悪の場合、N.S.G.に拘束されなくなった中国が、核開発をどんどん押し進め、闇市場が生じることになりかねない。つまり、中国にはN.S.G.の中に留まってもらう必要がある、

そこで米国は、米国自身がインドについて行なったように、この件をN.S.G.協定の例外扱いとし、今後のパキスタンへの輸出については規制する方向で中国と交渉すべきだ。また、中国にしても、現在、世界で作られる原発の60%以上を建造しようとしているが、それには外国企業の助けが必要であり、中国側も原発輸出についてフリーハンドは持っていない、と述べ、

10年後には中国は米国に次ぐ世界第二の原子力発電大国、さらには、世界のプルトニウム取引の主要拠点となっている可能性があり、中国が核拡散防止の重要プレーヤーになるのは間違いない。米国はそうした中国の核開発を孤立させるのは避け、関与していかなければならない、と結んでいます。


中国の対パキスタン原発協力は、南アジアにおけるインド・中国・米国・ロシア間の長年の勢力争いの文脈の中で見る必要があります。今回の中国の動きは、米印原子力協定の締結で米印関係が大きく前進し、さらに、米軍のアフガン駐留の先が見えてきた中で、中パの提携がいっそう強化されることを意味しています。つまり処理はそれだけ複雑になり、うっかり仲介に乗り出せば、米中印パキスタンのいずれ、もしくは全てから恨みを買うことになりかねません。

しかし、経済不振に苦しむ米国は、中国に対するバーゲニング・パワーが落ちています。他方、中国の方は、2012年の首脳部交代を控えて、毅然たる対米姿勢を求める国内の圧力に抗しがたい状況にあるでしょうから、米国との対立をぎりぎりまで許す可能性があります。

従ってこの問題は、双方が譲歩しにくくなる公開の場ではなく、内輪の話し合いで解決するのが適当と思われます。中国側も、パキスタンが核開発を進めれば、核がウィグル系テロリストの手中に落ちる可能性があることを認識すべきでしょう。

なお、ロシアもパキスタンとの関係推進に腐心しており、ロシアの技術で原発建設に協力するなど、ロシアがジョーカー的役割を果たす可能性もあります。ロシアは、長年の準同盟国インドが米国に傾いたため、インドの準敵国パキスタンとの関係を強化することで、南アジアで政治的影響力を保つとともに、経済的利益も上げようとしているのでしょう。中ロは、表面的には友好関係を維持していますが、根底には対抗関係・警戒心があり、南アジアにおけるロシア外交の活発化は撹乱要因になり得ます。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:07 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国の限界と友好国の負担増 [2010年08月18日(水)]
ロサンジェルス・タイムズ8月18日付で、米Center for American ProgressのLawrence Korbと、米レキシントン研究所のLoren Thompsonが、米国には海外で単独の軍事活動を行う余裕はない、費用と予算赤字増大に伴い、米国は海外での軍事的コミットメントを再考すべき時だ、と論じています。

すなわち、米国にとって問題は、防衛費を削減するか否かではなく――これは必至だ――、米国の経済力の減退によって米国の役割が縮小する中で、どうグローバルな安全保障を維持するかだ、

脅威はますます多様化してきたが、今やワシントンは安全保障のコミットメントについてもっと選択的にならなければならない。そして、選択的になっても侵略者を勇気づけない唯一の方法、つまり、国際的な安全保障を確保する唯一の方法は、ドイツ、日本、インドなど同盟国や友好国により大きな役割と負担を担ってもらい、米国の退却で生じる戦略的空白を埋めるしかない、と言っています。


コルブは進歩的なCenter for American Progressの軍事分析官であり、トムプソンは保守的なレキシントン研究所の軍事分析官です。政治的傾向の異なる二人が連名でこの論説を書いたことは、米国内でこうした意見がかなり広く共有されてきていることを示唆しています。

また、論説にも書かれていますが、ゲイツ国防長官がF-22など高額の武器の調達を中止し、軍事費を削減しようとしているのも、こうした議論と軌を一にしています。

日本やNATO諸国の安保「タダ乗り論」は昔からありますが、昨今の米経済の相対的な減退によって、米国が過剰な負担感を感じる度合いは以前とは比較にならないほど強くなっています。昔とは状況が違ってきたわけです。

また、政治的にもオバマ政権は、対外コミットメントよりも国内経済や国内福祉の改善重視であると思われ、そうした傾向はアフガン戦争の失敗でなおさら助長されるでしょう。

日本は、米国が対外コミットメントを縮小していく蓋然性が高いことに十分な注意を払う必要があります。実際には、様々な事情から米国の対外コミットメントが縮小するスピードはそう速くはないかもしれませんが、日本が防衛費を削減し続け、集団的自衛権問題など安保に関わる改革を進めていない現状は憂慮すべきことです。中国が台頭する中で、日本は東アジアの軍事バランスの回復のために応分の責任を果たす意思を固め、諸政策を展開していくべきでしょう。米国も疲れてきていることを認識すべきです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:10 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
「南北統一税」構想 [2010年08月17日(火)]
ウォール・ストリート・ジャーナル8月17日付社説が、韓国の李大統領が統一税を示唆したことについて、まだ詳細は不明であり、統一に備える方策としては、企業減税による景気刺激策の方がよいのかもしれないが、統一のコストの問題に取り組む現実主義的な姿勢を示したことは評価できる、と称賛しています。

すなわち、韓国はこの10年間、北朝鮮は脅威でなく、統一はコストがかかり過ぎる、という考えをエスカレートさせてきたが、李大統領は統一税構想を示唆して、閑却されてきた統一コストの議論に一石を投じた。北朝鮮はこれを挑発と受け止めるかもしれない。しかし、韓国政権はこれまでも密かにではあるが、避難民の受け入れの準備などは考えて来た、

あるいは、これは増税で解決できる問題ではないかもしれず、むしろ企業減税によって韓国経済を繁栄させて統一のショックを吸収する能力をつける方が早道からもしれない。しかし、とにかく、この問題を閑却せずに、考えておくことは良いことであり、同じことは韓国の友好国についても言える、と言っています。

確かに、かつては民族の悲願だった朝鮮半島統一は、金大中、盧武鉉両政権の10年間で後退してしまいました。その始まりは、金大中政権初期に訪韓したヘルムート・シュミットが、東西ドイツ統一の教訓から、「統一の際の無条件な経済合体は問題がある、しばらく別々の経済主体のままで、漸次統合すべきだ」と述べたことにあったように思います。シュミットは統一に反対したわけではなかったのですが、この発言が大きなインパクトを与え、そのため一部には、先ず日朝正常化をさせ、日本の援助で北の経済が立ち直ってから統合を、という案さえ出たように思います。その後、盧武鉉政権になると、統一は完全に閑却され、北との平和共存、対北援助路線となりました。
 
それが李政権となって、昔の民族の悲願路線に戻ったわけです。特に、金正日の後継を巡って情勢の不安定化が予想される現在、当然、統一の可能性が浮上して来るので、統一コストの問題に目をつむることは許されない状況だと言えるでしょう。

また、社説も言うように、当然日本も負担分担の要求が来ることを覚悟しなければならないでしょう。日朝正常化の際の日本側の負担については、日本政府は数字に言及したことはありませんが、巷間1兆円ぐらいと言われています。この社説は、統一のコストを数年間で5兆〜50兆円と予想しています。勿論、主たる負担は韓国にかかって来ますが、日本に対する要求も厳しいものがあるでしょう。しかし、鴨緑江までが自由民主主義国となるという戦略的利益を考えれば、日本が相当の負担をする価値はあると思われます。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:19 | 東アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国の対中朝政策 [2010年08月17日(火)]
米AEIのウェブサイト8月17日付で、同研究所のMichael Mazzaが、北朝鮮問題で中国の協力を得ようとして、中国の不興を買うことを避けてきたブッシュ、オバマ両政権のやりかたは効果が無かった、今や、米国は中国に強い圧力を掛けて協力を勝ち取るべきだ、と論じています。

すなわち、中国は自らの思惑から、この8年間一貫して北朝鮮の核問題で何の進展も起きないよう行動してきたが、最近は、天安艦事件の国際調査の妥当性に疑問を唱え、地域の安定を乱すとして韓米の全ての対抗措置に反対するなど、露骨に北朝鮮を擁護するようになってきた、

中国の関心は、北朝鮮の体制が維持され、朝鮮半島で米軍とのバッファーとして機能し続けることだけなので、中国をはずし、米韓日で問題解決を図るべきだという意見もあるが、これら3国には金正日を直接動かす手段がない。現に、天安艦事件でも、韓国は軍事報復に踏み込めず、韓米による制裁や共同演習等の措置はとられたが、効果があるとは思えない、

結局、北朝鮮に影響力を持つ国は中国しかない。中国は、北への支援は自国の安全と経済的利益を害すると判断すれば、@経済関係の断絶、A1961年の友好協力相互援助協定の終了、B脱北者の韓国への移送促進、C金正日の後継者への支持拒否などで、北に脅しをかけることができる。問題は、どうすれば中国に影響力を行使させることが出来るかだ。中国の協力を得るには、米国は、中国が自らの利害関係を再評価せざるを得ない状況に追い込む必要がある、

それには軍事・経済の両面での圧力戦略が考えられる。中国は黄海での米韓合同演習や航空母艦の演習参加に強く反対しているので、それを実施し、さらに、黄海での海上監視行動の強化や地域へのミサイル防衛の配備も検討すべきだ。また、北の違法活動や制裁逃れに関与した中国企業・金融機関に制裁を課し、他国での業務を困難にすべきだ。国内の不安定化を怖れる中国指導部は、自らの行動がもたらす経済的影響には極めて神経質だ、

米国は、余りにも永い間、中国が北朝鮮の敵対行為を抑止しようとする同盟国の足を引っ張るのを許してきたが、見返りは無く、やり方を変えるべきだ。中国に厳しく当たることによって、米国は初めて次の天安艦事件の防止を期待できる、と言っています。


マッザの指摘通り、このところ、中国の北朝鮮擁護の姿勢が露骨になってきたので、そうした見境のないやり方はコストを伴うことを中国に理解させるのは有益でしょう。もっとも、中国にとっては北朝鮮の体制維持が至上命題なので、北に圧力をかける手段は限られていますが、少なくとも北朝鮮が更なる挑発行為に出ることがないよう、中国が影響力を発揮することは期待したいところです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:49 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アラブ民衆のイラン観の変化 [2010年08月14日(土)]
ロサンジェルス・タイムズ8月14日付で米メリーランド大学のShibley Telhami教授が、メリーランド大学等が行った世論調査によれば、この1年でアラブ民衆の見方は親イランへと大きく変わったが、これは、オバマの中東政策に失望した結果だ、と言っています。

すなわち、先月の世論調査では、アラブ人の大半がイランは核兵器を開発する権利があり、さらに、イランの核武装は中東にとって好ましいと言っている、

2009年の世論調査ではイランの核武装を好ましいと答えた回答者は29%に過ぎず、51%が米国の中東政策を楽観視していた。ところが、現在、楽観論者はわずか16%に減り、63%は悲観していると答えている。また、どの国を最大の脅威と思うかという質問に対しては、88%がイスラエル、77%が米国と答えており、イランと答えたのはわずか10%だった、

このように1年でアラブ人のオバマ政権に対する態度が劇的に変わったのは、米国の中東政策に失望したためだ。回答者の61%が米国のアラブ・イスラエル紛争に関する政策に最も失望したと述べている、

そうした中で、米国が、地域の最重要課題はイランの核武装だと言っても、アラブの民衆の同情や同意は得られない。彼らはイランの影響力を抑えるよりも、イスラエル=パレスチナ和平の実現が先決だと思っている。もっとも、大多数のアラブ人は交渉によるイスラエル・パレスチナ二国家共存の解決を受け入れる考えだが、そうした解決は実際には無理だとも思っており、そのために、米国への怒りを募らせる一方、イランをより肯定的に見るようになっている、と言っています。


論説の基になった世論調査は、メリーランド大学と米国の大手調査会社Zogbyが共同で行ったもので、ブルッキングス研究所が発表していることもあり、信憑性はあると思われます。

イランの核開発について、一般に言われてきたのは、第三世界はイランの濃縮の権利は認めるというものでしたが、この世論調査は、アラブの民衆が原子力の平和利用の権利を超えて、イランの核武装を是認していることを示しています。また、彼らの大半がイランの核武装は中東にとって好ましいと言っているというのは、驚きです。

勿論、こうした見方はアラブ民衆のものであり、アラブ諸国では世論の影響力は限られています。それに対して、ほとんどのアラブ政府はイランの力の増大を憂慮しています。従って、世論調査の結果の政治的重要性は割り引いて考えるべきで、オバマ政権の中東政策がこうした世論に影響されるとは思えません。

ただ、この世論調査の結果自体は注目に値します。オバマ政権は各国に対する世論工作を手がけていますが、その際この調査の結果は参考になるでしょう。





Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:23 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国海軍増強への"concern" [2010年08月11日(水)]
ウォール・ストリート・ジャーナル8月11日付で、米AEIのMichael Auslinが、南シナ海の領海問題に関するクリントン国務長官の厳しい発言に対する米軍太平洋司令部の反応を中心に、中国海軍の増強に対する米国の態度が変わったことを歓迎しています。

すなわち、太平洋司令部は、今までは中国に対して「対話」を重んじて来たが、今年から違ってきた。年初の議会証言でウィラード司令官は、「中国の軍備増強には、米国の(アジア太平洋における)行動の自由に挑戦する意図がある」と述べ、マレン統合参謀本部議長も先月、中国のしていることに対する自分の見方は、”curious” から“concerned”に変わったと言った、と指摘、

自分が会った太平洋軍司令部の人々は、皆そうした意見に賛同していたし、日本、豪州、台湾もこれらの発言を歓迎している。ただ、彼らは、米国が海軍の予算を削減していることを心配している。同盟国の心配を解消する一つの方法は、米国が伝統的な二国間アプローチを見直して、緊密な同盟国である日本、韓国、豪州等と3‐4カ国間の安全保障協議を推進することだ。 同時に、中国の台頭に不安を抱き、地理的に重要な位置を占めるインドネシア、ベトナム、マレーシア等とも戦略的関係を結ぶべきだ、と述べ、

クリントンの発言は、米国の新たなリアリズムを表すものであり、困難な課題に立ち向かうための第一歩だ。次は、発言を行動に移すことだ、と結んでいます。


中国の脅威の増大に合わせて21世紀の米国の国家戦略を構築する、というのが保守派の態度であり、これは当然、外交面では地域諸国と連合しての中国包囲網の形成、軍事面では海空軍力の増強につながります。これに対して、外交面では対話路線、軍事面ではテロ対策中心のいわゆる新しい戦争論を標榜するのがリベラル路線ですが、ここ数カ月は保守派が勢いを増す傾向にあります。

これは、オバマ政権が昨年末のオバマ訪中までは、台湾武器供与やダライラマ訪米などの案件を先送りしたものの、訪中が終わると、何時までもそのままというわけにいかず、今年になって次々に案件を実施、それに対して中国が拙劣とも思えるほど不必要に強く反応した、ということが一時的な原因になっている面もあるでしょう。しかし、今後長期的には、リベラルの捲き返しがあったとしても、中国脅威論の方が次第に強くなってくるのは避けがたいように思われます。

なお、curious からconcernedに変わったと言うマレンの発言は、20世紀初頭のドイツの建艦競争に対する英国の反応が、「concern からnightmareに変わって、第一次大戦に向かった」、という歴史家グーチの言葉を思い出させます。裏から言えば、中国脅威論はまだconcern の段階にあるということですが、時間が経つにつれて――例えば、中国が空母機動部隊を完成したりするにつれて――、これがnightmare に変わって行くことは十分予想できます。ただ、そのテンポは、20世紀初頭の英独関係が1年単位の変化だったのに比べて、数年単位の変化だろうと言えるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:51 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
対中警戒感の高まり [2010年08月08日(日)]
ファイナンシャル・タイムズ8月8日付で、米シカゴ国際問題評議会のThomas Wrightが、米国には地政学的考慮に基づく新たな対中戦略が必要だと説いています。

すなわち、米国の政策決定者にとって最重要問題は、一連の劇的な地政学的変化の中で米国主導の国際秩序をいかに維持するかである。オバマ政権は当初、中国とは中核的利益を共有できると考え、同国を国際秩序の中に組み込もうとしたが、結果は逆効果だった。中国は従来以上に主張を強め、一方的外交政策を取り始めている。そのため、米国も、ベトナム、インドネシア、韓国などとの関係を深めつつある、

こうしたオバマ政権の政策自体は正しいが、未だ戦略的ロードマップを欠いている。例えば、2010年国家安全保障戦略は、新興国が責任ある利害共有者となることを望まない場合の対応策に触れておらず、既に時代遅れになっている、

今米国に必要なのは、中国が圧力をかけてきても現行国際秩序を維持できるような新たな戦略である。米国はそのために、インドネシアやインドなどと新たな地政学的パートナーシップ・同盟関係を構築するとともに、欧州諸国、韓国、場合によってはベトナム、トルコなどとも協力すべきだ、と言っています。


このところ米国の外交論壇では、対中警戒感が急速に高まっており、この論説もこうした大きな流れの一環とみるべきでしょう。内容的には、その主張は、「中国に米国主導の国際秩序に挑戦させないよう、地政学的な見地から、中国周辺国との関係強化を重視する」点で、極めて常識的なものです。

一昔前ならば、中国脅威論は共和党保守・ネオコン系の対中強硬派の専売特許でしたが、最近ではこうした伝統的反中主義者以外の識者の間にも対中警戒論が広まっているようです。

ライトの政治的傾向は必ずしも明らかではありませんが、他の著作内容等から推察する限り、彼も、筋金入りの保守強硬派というよりは、中道系現実主義に近いように思われます。

そうだとすれば、中国側、特に人民解放軍幹部は、今後とも米国内でこの種の「対中警戒感」が更に高まっていく可能性があることを真剣に憂慮すべきでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:47 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米中衝突の危険 [2010年08月05日(木)]
国際政治を常にパワー・バランスの観点から分析論評しているJohn J. Mearsheimerシカゴ大学教授がシドニー大学で講演、中国が平和的に興隆することはないだろう、なぜなら、中国がアグレッシブに行動するだけでなく、米国もそれに強く反応してアグレッシブに行動するようになるからだ、と述べて、将来の米中衝突の危険を警告しています。

すなわち、@中国の意図が現在は平和的であり、隣国に対しても友好的態度をとっているとしても、5年後10年後の中国がどうなるかはわからない、また、A中国の防衛力は防衛的なものだと言うが、防衛的軍備と攻撃的軍備の区別は難しく、第二列島線の防衛は、防衛的だとも、海上覇権の表明とも言える、と述べて、平和的中国興隆説を一蹴、
 
アジア太平洋の将来を握るのは中国と米国だが、どの国の生存にとっても最善の方法は、他国よりも圧倒的に強くなる、つまり覇権国になることだ、

米国は一世紀以上かけて西半球の覇権国になった。地域的覇権を達成した国は、他地域に地域覇権国が出現するのを嫌う。米国は、日本帝国にも、ドイツにも、ソ連にも地域覇権を持つことを許さなかった、

他方、中国もインド、日本、ロシアとの力の差を拡大して地域覇権を狙うだろうし、それが台湾を獲得する唯一の方法だろう。南シナ海を「中核的利益」と主張したのはその始まりだ。それに対し、米国は地域的覇権国の出現を許さず、冷戦時代のソ連に対したように、中国の封じ込めと弱体化を図るだろう。それが歴史の示すところだ、と言っています。


明快極まるパワーポリティックス的分析であり、ミアシャイマーの持論を余すところなく披歴した講演と言えるでしょう。特に我が意を得たと思えるのは、将来の米中衝突の原因を、中国側の意図とともに、米国が中国の地域覇権を許さないだろうということにおいた点です。アングロ・アメリカン世界は、過去四世紀以上にわたって、スペイン、オランダ、フランス、ドイツ、大日本帝国、そしてソ連による地域覇権をつぶして来ました。

ところで、この論文は、地域覇権の獲得と台湾の占領を関連づけていますが、むしろ逆に台湾占領によって中国の地域覇権は確立すると思われます。台湾を占領すれば、中国は東シナ海、南シナ海、西太平洋に対する海上覇権を主張できるようになり、さらに、台湾の富と技術を加えて一層強大になるでしょう。また理由如何を問わず、米国が、自由民主主義国の台湾を見捨てることは、アジア全体において米国のレディビリティーに致命的打撃を与え、アジア全体が中国の支配に靡くことになります。米国は、いずれそれに気づいて、決してそれを許さないと思われます。

つまり、中国が現在していること(周辺海域への進出など)や、台湾解放のスローガンを降ろさずにいることは、将来米国と衝突する危険を秘めているということです。中国の指導者はこのことについて正確な認識を持つべきでしょう。
 


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 18:16 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラク全面撤退反対 [2010年08月02日(月)]
米ブルッキングス研究所の8月2日付ウェブサイトで、同研究所のMichael E. O'Hanlonが、イラク情勢はまだ安定に程遠いので、来年末に全面撤退するのは時期尚早だ、米国は今後成立するイラク新政府と再交渉し、ブッシュ時代の撤退合意は修正すべきだ、と論じています。

このオハンロンの政策提言は、米国の中東政策のあり方として適切な考え方と言えるでしょう。イラクは中東地域で戦略的に重要な国です。石油資源もあり、民度もそれなりに高く、イラクの安定は中東の安定につながります。

その上、エジプトのムバラクが高齢で病気がちであり、サウジの国王も高齢でサウジ王家の統治力もどうなるか不安がある今、アラブ世界でイラクが果たす役割は今後さらに大きくなる可能性があります。

しかし、残念ながら、この政策提言が実施に移され、成果を挙げられるかどうかは疑問があります。何故なら、@オバマ大統領はイラク撤兵を自らの政治的成果と喧伝、予定通りの撤兵に政治的にコミットしており、それを覆すのは難しい、Aマリキ政権も、来年末の米軍撤退をブッシュ政権から勝ち取った成果だとイラク国内で喧伝してきたからです。

また、マリキが引退し、別の者が首相になったとしても、大規模かつ長期の米軍駐留を許容する政治環境を作ることは困難でしょう。少数派のクルドは米軍駐留の継続を望むでしょうが、多数派であるシーア派やスンニ派の多くはそれを望むとは思えません。

ブッシュ政権が、イラクからの来年末までの全面撤退をイラクと合意したのは、当時の情勢ではやむをえないことでしたが、今から思えば急ぎすぎであり、増派によってせっかく良い状況が現出したのに、十分に長期的な視点からそれを活用しなかった嫌いがあります。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:53 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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