3月8日(火曜日)
于展さんと一緒に、ホテルからタクシーに乗って北京大学へ。国際関係学院の応接室に入ると、範副院長、呉副院長ら学院幹部が出迎えてくれた。奨学金事業の終了後も、彼らとのネットワークを維持するための仕組みについて協議。新院長になった買慶国さんは現在、人民大会堂で開催中の全国協商会議の議員、それも野党(?)議員なのだという。
打合せを終えて、OB勉強会の会場に案内される。総勢30名ほど、OB、OGや現役の奨学生達が集まってくれていた。北京にいる人だけではなく、遠く、重慶など地方の都市からも参加してくれたなじみの顔も見える。
懇親会の楽しみは、中華料理の宴会よりもむしろその前に開かれるこの勉強会にある。今回は、自身もOBの一人であるK助教授が、笹川平和財団の委託で行った調査「日中関係の悪化の背景分析」を元に講演、それに対して30名ほどの参加者(全員OB、OGまたは奨学生)が質疑応答するという形で進められた。
K助教授の報告そのものは極めて客観的、かつオーソドックスな分析であったが、面白かったのはその後の、質疑応答であった。
<30名ほどのOB、OGが集まった勉強会>
初め暫くは研究報告に対する、技術的な質問や無難なコメントが続いたが、途中で、あるOBの若者が、「中日関係の悪化は中国指導部によって意図的に仕組まれたものでないか」と彼自身が最近体験した、上層部からの恣意的な指示について述べた辺りから少し雰囲気が変わり、ついに結構率直な政府批判的な発言まで飛び出した。
あるOBがこのように言った。「中国はまだ貧しいにもかかわらず、近年、経済的な成功の故に奢りの気持ちが強くなっており、日本を軽視する風潮が強まっているがこれは間違いだと思う。また、中国の指導部は、中国は経済的に強力になったので、今後はアメリカとパートナーシップを結んでいけばよい。日本は必要ない、と考えているようだがこれは違うと思う。中国は日本とこそ共通の利益を持っており、良いパートナーになれる筈だ。日清戦争以降のアジアに対する日本の貢献をもっと積極的に評価すべきであると思う」
この意見に対し、ある政府系企業に勤めているという若手ビジネスマンが賛成の立場から以下のようにコメントした。「中日経済関係は、貿易と直接投資だけで語るのではなくもっと広い観点で協力するメリットが大きいことを認識すべきだ。例えば、石油に例を取ると、中国も日本も輸入国である。両者が協力すれば世界の石油輸入市場でもっと有利な価格で石油を手に入れることが出来るだろう。また、中国は石炭を持っている。日本は、それをクリーンに使うための技術を持っている。両国がもっと協力すればエネルギーコストを引き下げることもできるだろう」
<講演会が終わり宴会が始まった>
そして、さまざまな意見が述べられた。私の見るところ、3分の1以上は中国政府の見解に近い立場からの発言だったが、中国政府の立場にどちらかというと批判的な人たちも少なからずいた。残りは中立的、あるいは是是非非、と言ったところか。
活発な議論の後、宴会場に向かう道すがら、私が「随分はっきりとした政府批判が出て驚いた」と言うとある若手教授が教えてくれた。「我々研究者の間で一番人気がないのは、政府べったりで盲従しているタイプの研究者です。反対に一番人気があるのは、思い切った政府批判を述べる人、ただ、ぎりぎりの限界をわきまえていないと大変ですがね、、、」
講演会が終わり宴会場に行く準備をしようと振り返ると、後の席に買慶国院長が座っていた。彼は全国協商会議を抜け出して駆け付けてくれたのだった。先の両副院長らとの議論を踏まえて、この奨学金事業が終わった後も、人的な絆を大事にする事業を共同で企画しようということで一致。
皆で一緒に徒歩で、大学の近くに設けられた宴会場に向かった。宴会場には、仕事で勉強会には参加できなかったOBやOGたちも顔を見せてくれ、楽しい一夜となった。
15時 ホテル出発
15時40分 北京大学国際関係学院範、呉副院長
16時半 奨学生OBの研究発表会
18時半 買慶国院長
19時 OB夕食会