11月28日(月)
朝7時過ぎ、朝食の前に、飛行機の延着で昨晩打合せが出来なかったCIAT出向中の日本財団職員、間遠さんと、日本財団の担当者の田中さんの3人で打合せ。
朝食の後は、ホテルと同じ敷地内の別棟にある会議室で、広西壮族自治区政府の陳章良副主席ら自治区政府幹部と懇談。
陳副主席は中国の政府要人としては珍しく、英語を流暢に話す。それもその筈で、米国のワシントン大学で学び、農業博士号を取得している。専門は遺伝子組み換え。キャッサバの遺伝子操作もやったことがあるという。副主席になる前は北京の農業大学の学長だったという農業のプロだった。
彼は懇談会の後の開会式でも、広西壮族自治区におけるキャッサバの重要性を力説、今回の会議に対する自治区政府としての期待を熱く語った。開会式の会場には、英語の通訳が待機していたのだが、彼は冒頭から通訳による翻訳を制止し、自ら中国語と英語の二ヶ国語で熱弁をふるった。
それによると、広西省内の現在のキャッサバ生産能力は需要の半分に過ぎないが、キャッサバに対する需要は今後更に増大が見込まれているという。特に、バイオエタノールについては、現在の生産量は20万トンに過ぎないが、100万トンに増産する計画である。中国政府の人材の層の厚さを感じさせられた瞬間だった。 <開会式で挨拶する自治区政府の陳副主席>
開会式に引き続き、第9回アジア地域キャッサバ会議が始まった。参加者は全部で160人ほど。前回のラオスでの会議はそれまでで最高の120人だったが、今回はそれから更に大幅に増えたことになる。政府関係者や、大学関係などの研究者に交じって、日本やシンガポール、ミャンマー、インドネシアなど民間企業からの参加者もいた。キャッサバの経済的価値が、広く認識されるようになってきたことが伺われる。
各国からの報告にも、キャッサバの経済的側面が大きくクローズアップされるものが多かった。例えば、東南アジアで最も急成長したベトナムの場合、過去10年間で同国のキャッサバの作付面積、面積あたりの生産性は、倍増し、生産高は4倍以上になったが、現在、バイオ燃料に加工する大型プラントが3基、建設中で、これらが完成すると、現在の生産量の3分の一、輸出量の2分の一をこれらの工場だけで消費してしまうことになる、という驚くべきもの。 <キャッサバ会議が始まった>
私は、これらの報告を聞きながら、ひとり、感慨に耽っていた。今回の会議の冒頭の挨拶でも触れたのだが、日本財団がそれまで10年間にわたり、CIATとタイと中国、インドネシアで行ってきたキャッサバ事業を、ラオスとカンボジアにまで拡大することを決めたのは、2003年だった。その頃、キャッサバは中国やベトナムではブームになりつつあったのだが、そのことはラオスでは余り知られておらず事業の開始に先立ち、ラオス農業省に副大臣を表敬した際、副大臣はキャッサバの事業には気乗り薄で、どうせなら、キャッシュクロップ(換金作物)をやってもらえないかと言われた。
私は、彼に対し、日本財団の事業は政府の行うODA(公的開発援助)とは異なり、ラオス経済の底上げを狙ってのものではなく、貧困県で飢えに苦しんでいる零細農民の生活環境改善が目標であること、その点では、キャッサバは極めて効果的な作物であると確信していること、などを説明した。
その5年後、ラオスで開かれたキャッサバ会議で再会した事務次官は、開会式の挨拶の中で、「キャッサバは政府の農業の4大基本目標、即ち、食糧自給の推進、商業生産の拡大、焼畑農業からの離脱、森林保護に則した作物であり、ラオスにおいては、キャッサバは作付面積で第5位、収穫量で第4位という重要な作物である」と述べた。その頃には、漸く、ラオスでも、中国やベトナム、タイなどからのバイヤーがキャッサバを求めて出没するようになり、原油価格の高騰やそれに続く穀物価格の急騰により、キャッサバが極めて収益性の高い作物であると認識されるに至っていたのである。
その後、エネルギー価格が急落し一時、キャッサバ熱は沈静化したかに見えたが、今回の会議の盛況振りから見ても、再び、注目が集まっていることは間違いない。
しかし、私は、複雑な心境だった。キャッサバが国際企業や投機家の熱い視線を集めるまでに成長し、その価格がエネルギー価格などと連動して、大きく乱高下するようになってくると、我々の支援をこのまま続けることが果たして正しいことなのだろうか、、、。 <会議には160人が参加>
*日本財団がキャッサバ事業を始めた経緯について、私は2005年10月20日付けのこのブログで以下のように書いた。
「日本財団とCIATのキャッサバでのお付き合いは12年前に遡ります。当時、CIATはタイで、キャッサバの新種の導入と栽培技術の指導で大きな成果を挙げていました。それをベースに、インドネシア、ベトナム、中国南部(雲南省、海南島省)への拡張を計画し、日本財団に資金助成を要請したのです。
キャッサバはCIATの本部がある南米原産の植物で、後にアフリカやインドに広がり、今ではこの二つの地域では食料作物として主要な地位を占めるに至っています。しかし、米の生産が盛んな東南アジアではこれまで、余り重視されていませんでした。その一つの理由は、主に食用として活用されるキャッサバの根に、青酸性の毒素が含まれており、正しい処理をしないと生命の危険さえあるためではなかったでしょうか。
ところが、キャッサバは乾燥に強く、痩せた土地でも育つ上、その根は極めて良質な澱粉の原料となります。澱粉の原料はポテトやとうもろこしなど種類が多く、世界には極めて多様な製造プロセスがあります。しかし、キャッサバは他の原料と比べて、低コストで生産出来るのです。現在、世界最大のキャッサバの輸出国はタイで、タイで栽培されているキャッサバの品種はほぼ100%、CIATが品種改良に協力したものだそうです。
澱粉は、糊として、繊維産業や製紙業に使われるだけでなく、澱粉を加工すると、アルコール、グルタミンソーダからビタミンCまで多種多様のものに生まれ変わります。最近では、原油価格の高騰に伴い、ガソリンに混ぜてバイオガソリンとして使われるようにもなっています。そのため、キャッサバ澱粉の市況は高騰し、今年の価格は昨年の約2倍になっているそうです。
12年前に日本財団の助成を受けて、CIATがベトナムでのキャッサバ指導に乗り出したとき、ベトナム政府は余り興味を示さなかったそうです。政府の関心は何よりも、米(コメ)に向けられていたのです。しかし、今では、ベトナム政府はキャッサバを三大主要作物として位置づけて、キャッサバの増産に力を入れています。
ベトナムの場合、キャッサバの生産量のうち、澱粉に加工されるのは約半分で残りの半分は豚などの家畜の飼料に向けられています。キャッサバの葉っぱはキャッサバの根以上に毒性が強く、これまで殆ど利用されることが無かったのですが、天日で干したり、サイロで発酵させると、比較的簡単に毒素を取り除けることがわかってきました。実は、キャッサバの葉っぱには、極めて高度な蛋白質が含まれています。家畜用の牧草の蛋白質含有割合は良くて15%程度とされるのに対し、キャッサバの葉っぱの場合は25%。これを上回るのは大豆の40%くらいだそうです。ところが、大豆は栽培に当たって大量の肥料を必要とするなどのため、生産コストが極めて高くなります。キャッサバの根にキャッサバの葉っぱを混ぜると理想的な飼料が低コストで出来上がる、という訳です。
日本財団のキャッサバ栽培支援プロジェクトの主たるターゲットは、僻地の貧困農民です。ベトナムや中国南部などと同様に、ラオスやカンボジアでも、東南アジアの山間僻地では、どこも農民は貧しく、肥料を買うことが出来ません。そこで、肥料分を得るためには、焼畑農法に頼らざるをえません。しかし、キャッサバを活用して飼料を作り、家畜を飼い、その糞を使って堆肥を作ることで、多くの場合、10年もすると、焼畑に頼らなくて済むようになるそうです。
我々は、ベトナムなどでの成功により、10年目でこのプロジェクトを打ち切ることにしました。各国の政府が乗り出してきたからです。そこで、今度は、隣接のこの地域で行うこととし、昨年からラオス、今年の初めからカンボジアで、貧困農民を対象に、新たにキャッサバ栽培指導のプロジェクトを始めたと言うわけです。今は、カンボジアでは、第一段階として、その土に適した品種の選別を調べているところです。その意味で、この大農家の協力は大きな力になることでしょう。」
(2009年02月のブログでは、キャッサバの生産により変貌するベトナムの農村の様子をレポートしている)
<会場となった西園ホテル 広大な敷地に建物が点在>
7時 CIAT間遠さん
8時 朝食
8時半 省政府副主席表敬
9時 アジア地域キャッサバ会議開会式
10時 第9回アジア地域キャッサバ会議
12時半 昼食
14時 ハウラー博士
15時半 CIAT間遠さん
18時 CIATハーシー博士、トーベ博士
18時半 夕食会