『人類の進化が病を生んだ』
『人類の進化が病を生んだ』
(ジェレミー・テイラー著、2018年(原著は2015年)、河出書房新社)
(1)進化は、健康や幸福、長寿には関心がなく、環境変化や生殖に適応できるよう生き物を変えるだけで、しかも、ある時点でその生き物が直面している課題を、間に合わせの方法で乗り切るだけ、つまり、生き物は「引き換えの代償と制約をたくさん抱えた妥協の産物の集合体」である。
そして、
(2)生物学的進化は文化の変化に比べて圧倒的に遅いために、環境の変化に身体が追いつかないためにしばしば病気が起こる。
さらには、
(3)遺伝子の書き間違えの多くは、それ単独ではなく他の遺伝子や環境と相互作用して病気を引き起こすので、病気や体調不良は、予防しようと思ってできるようなものではない。
一方で、医学者が取り組んでいるのは、その場にいる人の苦しみを助けるという差し迫った状況であり、進化の仕組みについて考えているような余裕はなく、
また、ヨーロッパでは、宗教上の理由から、進化について考えることが長い間タブーであったこともあり、進化と病気が結びつけられることはなかった。
しかし、近年ようやく急激に研究の進んできた医学の進化的アプローチによって、
「関節リウマチや多発性硬化症、1型糖尿病、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患が、なぜこんなに多くの人を苦しめているのか。アトピー性皮膚炎や喘息のようなアレルギーが、なぜこれほど多くの人に広がっているのか。なぜ心臓病がこれほど蔓延しているのか。なぜ私たちの眼は、網膜色素変性症や滲出型黄斑変性症にこんなに弱いのか。なぜ私たちは腰痛、ヘルニア、椎間板ヘルニア、股関節の障害に悩まなければならないのか。虫垂が用のない痕跡器官にすぎないというなら、なぜそれは退化して消滅せずに、虫垂炎を起こし続けているのか。なぜ女性は、不妊症や子癇前症になるのか。なぜこれほど心の病気が多いのか。そしてなぜ、私たちの多くが人生後期にアルツハイマー病という薄暗がりの世界に入ってしまうのか。」
といった謎が徐々に解き明かされつつあり、その知見に基づいた先駆的な治療法が発見されつつあることを、できるだけわかりやすく解説してくれる本です。
とは言え、時に難解なのですが、これまで常識と思われていたことが進化の過程をたどってみると間違えであったことがわかったり、あまりに複雑なために、神?が創造したものであると信じている人にとって象徴的な器官である眼でも、進化による説明ができつつあることなど、とても興味深い内容で、読ませます。
特に、第1章「自己免疫疾患とアレルギー」がとても興味深い。
極度に不安定で、興奮すると暴力的になる自閉症児の中に、風邪などで熱があるときやツツガムシに咬まれた後など、免疫系が活躍しているときには症状が落ち着く場合があるという話しには驚いた。
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(ジェレミー・テイラー著、2018年(原著は2015年)、河出書房新社)
(1)進化は、健康や幸福、長寿には関心がなく、環境変化や生殖に適応できるよう生き物を変えるだけで、しかも、ある時点でその生き物が直面している課題を、間に合わせの方法で乗り切るだけ、つまり、生き物は「引き換えの代償と制約をたくさん抱えた妥協の産物の集合体」である。
そして、
(2)生物学的進化は文化の変化に比べて圧倒的に遅いために、環境の変化に身体が追いつかないためにしばしば病気が起こる。
さらには、
(3)遺伝子の書き間違えの多くは、それ単独ではなく他の遺伝子や環境と相互作用して病気を引き起こすので、病気や体調不良は、予防しようと思ってできるようなものではない。
一方で、医学者が取り組んでいるのは、その場にいる人の苦しみを助けるという差し迫った状況であり、進化の仕組みについて考えているような余裕はなく、
また、ヨーロッパでは、宗教上の理由から、進化について考えることが長い間タブーであったこともあり、進化と病気が結びつけられることはなかった。
しかし、近年ようやく急激に研究の進んできた医学の進化的アプローチによって、
「関節リウマチや多発性硬化症、1型糖尿病、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患が、なぜこんなに多くの人を苦しめているのか。アトピー性皮膚炎や喘息のようなアレルギーが、なぜこれほど多くの人に広がっているのか。なぜ心臓病がこれほど蔓延しているのか。なぜ私たちの眼は、網膜色素変性症や滲出型黄斑変性症にこんなに弱いのか。なぜ私たちは腰痛、ヘルニア、椎間板ヘルニア、股関節の障害に悩まなければならないのか。虫垂が用のない痕跡器官にすぎないというなら、なぜそれは退化して消滅せずに、虫垂炎を起こし続けているのか。なぜ女性は、不妊症や子癇前症になるのか。なぜこれほど心の病気が多いのか。そしてなぜ、私たちの多くが人生後期にアルツハイマー病という薄暗がりの世界に入ってしまうのか。」
といった謎が徐々に解き明かされつつあり、その知見に基づいた先駆的な治療法が発見されつつあることを、できるだけわかりやすく解説してくれる本です。
とは言え、時に難解なのですが、これまで常識と思われていたことが進化の過程をたどってみると間違えであったことがわかったり、あまりに複雑なために、神?が創造したものであると信じている人にとって象徴的な器官である眼でも、進化による説明ができつつあることなど、とても興味深い内容で、読ませます。
特に、第1章「自己免疫疾患とアレルギー」がとても興味深い。
極度に不安定で、興奮すると暴力的になる自閉症児の中に、風邪などで熱があるときやツツガムシに咬まれた後など、免疫系が活躍しているときには症状が落ち着く場合があるという話しには驚いた。
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