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2017年06月05日(Mon)
【正論】「職親」の主役担うのは中小企業
(産経新聞【正論】2017年6月6日掲載)

日本財団会長 笹川陽平 


seiron.png企業が職を通じて親代わりとなり、刑務所出所者や少年院出院者の社会復帰を促す「職親(しょくしん)プロジェクト」がスタートして5年目。法務省など「官」との連携も進み、職親の言葉が犯罪白書にも載るようになった。
5月上旬には新潟県上越市に地元企業11社が参加して全国5番目の拠点も立ち上がり、試行錯誤を重ねながら、着実な広がりに手応えを感じている。

出所後の手厚いケアが鍵に

プロジェクトに関わって、不幸な生い立ちから愛情に飢えている出所者が多いのに驚く。彼らの立ち直りは、信用できる雇用主の存在があって初めて可能になる。大企業にこうした濃密な人間関係を求めるのは組織的にも難しく、職親には中小企業こそふさわしい、と実感する。

中小企業はわが国の企業の99%、380万社に上る。職親が増えれば無事、社会復帰する出所者も確実に増える。情熱を持った企業の参加を強く求めたい。

2016年版犯罪白書によると、出所者のうち過去最高の48%が再犯に走り、職のない出所者の再犯率は有職者に比べ3・4倍に上っている。出所後、新たな犯罪に手を染め刑務所に戻る率は2年以内が19%、5年以内が39%。

職があっても昔の仲間の元に戻るケースや店の金に手をつけ姿を消す出所者も多く、入所中だけでなく、出所後のケアをどう手厚くするかが再犯を減らす鍵となる。

これに対し政府は13年、「世界一安全な日本」創造戦略を閣議決定し、出所者の「仕事(職)」と「居場所」の確保に向け、東京五輪が開催される20年までに出所者を雇用する企業を3倍にする目標を打ち出した。昨年には刑務所や少年院の出所・出院予定者の年齢や資格、職歴などをデータベース化し、企業の問い合わせに応じる法務省矯正就労支援情報センター(コレワーク)もさいたま、大阪両市に設立した。

雇用主の強い決意が自覚促す

国の契約雇用主制度には現在、大手企業を中心に約1万6,000社が登録、経済界の支援で実質的な受け皿となる全国就労支援事業者機構も整備されている。だが、実際に雇用された出所者は約1,400人にとどまり十分機能しているとは言い難い。

これに対し職親プロジェクトでは、先行した大阪、東京、福岡、和歌山の計67社で79人が就労を体験、36人が半年間の研修を終了し、16人(20・2%)が現在も雇用を継続している。

同種データはほかになく意見は分かれると思うが、20%の出所者が研修終了後も職場に留まっている意味は大きい。プロジェクトでは、雇用主は出所者を雇っている事実を、出所者は前歴を明らかにするのを原則としている。それが企業と本人の責任と自覚を高め、社会の理解につながるとの判断だ。

こうした対応は、オーナーが強い決意を持つ組織において初めて可能になる。プロジェクトの中核的存在である、お好み焼き「千房」(本社・大阪市)の場合は、中井政嗣社長の強い決意で職親の先駆者となった。

現に67社の大半はオーナー経営の中小企業で占められ、新たにスタートした上越市のように、過疎が進む中山間地を舞台に地域ぐるみで再犯防止と地方創生を目指すプロジェクトもある。

プロジェクトでは法務省や厚生労働省、職親企業やNPOなどが参加する連絡会議も発足し、問題点や取り組みを協議している。

法務省の矯正行政は入所中の改善・更生を柱にしており、出所後に目配りした対応には限界がある。それでも、われわれが強く求めたモデル刑務所の設置が、全国8つの矯正管区のうち3カ所で実現することになった。社会の幅広い理解に向け、先駆的な試みが検討されることになる。

新たな官民協力の形に発展も

今後は、入所直後から出所時を想定して社会復帰に向けた基礎学力から社会常識、さらに必要な技術を身に付けさせる方法や、入所者の特性や希望と、採用を考える企業側の条件を早い段階で付き合わせ、内定すれば入所中から職種に合わせた訓練を行うような工夫も必要になろう。

官民が協力することで、これまでは不可能だった試みも可能になる。他地区でも職親プロジェクト設立の検討が進められているほか、新たに上場企業が参加する動きもある。

出所者が安定して職に就けば本人の生活は安定し国の社会負担も減る。中小企業の慢性的な人不足も緩和され、近江商人の格言ではないが「三方よし」となる。出所者の就労が定着し、社会の理解が進めば、CSR(企業の社会的責任)を意識して前向きの姿勢に転ずる大手企業も出よう。

極めて難しいテーマだが、新しい官民協力の形も見えつつあり、再犯防止推進法に基づく各省庁の具体策も年内にはまとまる見通しだ。成功モデルとして発展させることが、山積する社会課題の新たな解決策にもつながる。

(ささかわ ようへい)









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