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2016年09月29日(Thu)
休眠預金活用に最大限の協力を
(産経新聞【正論】2016年9月27日掲載)

日本財団会長 笹川陽平 


seiron.png 金融機関に預けたまま10年以上、出し入れのない預金を活用する「休眠預金法案」(休眠預金等に係る移管及び管理並びに活用に関する法律案)が26日に開会した臨時国会中に可決成立するか注目を集めている。
 2012年から翌年にかけ本欄で3回にわたり休眠預金の活用を提案した立場からも、法案が早期に成立し、休眠預金の移管・管理・活用態勢が整備され、一日も速く貧困世帯や障害者支援、地域課題の解決などに休眠預金が活用されるよう望みたい。

預金獲得運動で12億口座に

日本の休眠預金問題の背景には、2011年現在で国民一人当たり10口座、全体で12億口座に達し、一人当たり2〜3口座が普通の先進各国に比べ異常に多い現実がある。かつて銀行業界が進めた預金獲得運動の結果で、この過程で膨大な仮名・偽名口座も生まれた。
仮名・偽名口座はマネー・ロンダリングを規制する国際的な政府間機関・金融活動作業部会(FATF)の勧告で03年以降は認められなくなり、以後、仮名・偽名口座を持つ預金者は、それが自分の口座であることを証明する手立てを失うことになった。
金融庁によると、現在、年間に発生する休眠預金は1300万口座、約850億円。単純計算すると1口座当たり約6500円、90%以上が1万円以下の小口預金と見られるが、少額のため煩雑な払戻し手続きを嫌い放置している人のほかに、仮名・偽名故に払い戻しを請求できない口座も相当な数に上るとみられる。
こうした経過を踏まえれば、銀行業界は仮名・偽名口座の実態や、休眠預金を理由に利益計上された仮名・偽名口座の預金総額を明らかにする責任がある。金融が国の要であり、金融危機に際し公的資金を投入して金融システムの安定が図られた経過を見れば、余計その思いを強くする。
しかし、法案成立に向けて過去を問わない方向で調整が進められてきた経過もある。それならば銀行業界には、これに対する反省も踏まえて休眠預金の活用に向け可能な限りの協力と努力を求めたい。それが銀行業界の責任の取り方であり、CSR(企業の社会的責任)強化、銀行の社会貢献活動の象徴にもなる。現実に実務面で銀行業界の協力は欠かせない。

「民」の公益活動を支援

 8年前に休眠預金を社会福祉事業に利用する「請求基金」を立ち上げた英国では、これまでに約720億円の基金のほかに4大銀行が360億円を出資、基金を側面から支援している。
09年に休眠預金管理財団を発足させた韓国でも銀行や郵便局の休眠預金や払い戻されない保険金など約100億円を財団にプール、預金者が休眠預金口座の有無や金額を検索するシステムの構築・運用を銀行業界が人的・技術両面でサポートしている。
 法案は超党派の「休眠預金活用推進議員連盟」(塩崎恭久会長)がまとめ、5月、衆議院の財務金融委員会で審議を開始、先の通常国会では継続審議となった。
臨時国会で可決・成立すれば、休眠預金の預金保険機構への移管、新たに指定活用団体を設立するほか、地域ごとの資金分配団体を決め、2,3年先には公益活動を行うNPOなどに対する助成、貸付制度が具体的に動き出す段取りのようだ。
 休眠預金の半額程度は、預金者の払い戻し請求に応ずるため預金保険機構にプールされるようだが、それでも国や自治体の財政難が深刻化する中で400億〜500億円が活用される意味は大きい。

寄付文化が育つきっかけにも

現行のままでは休眠預金は引き続き金融機関の利益となり、国庫に入れば一般予算の中に埋没する。地域の民間団体の支援・活動強化に役立て、実効が上がれば社会保障費など公的な財政支出の削減にもつながる。そうなれば民間資金の参入も期待でき、そうした好循環が社会づくりの新たなシステムに成長する可能性も出てくる。

 日本ファンドレイジング協会がまとめた寄付白書によると、14年の日本の個人寄付は7400億円、これに対し米国は27兆3500億円と30倍を超す。税制など文化の違いもあるが、その差はあまりに大きく、今後どのように日本の寄付文化を育てていくか、今後の社会づくりを進める上でも大きな課題となる。
 休眠預金の活用は、個人に帰属する預金を使って社会課題の解決を図る点で、預金者から見れば寄付と同じ意味を持つ。払い戻されない宝くじ当選券や生命保険、株主配当など休眠預金と同様、当事者が権利を行使しないまま眠っているお金は他にも多くあり、これらを活用すれば寄付文化が大きく育つきっかけにもなる。
そのためにも、まずは関係者の幅広い努力と国民の理解・協力で休眠預金の活用を成功させる必要がある。休眠預金の活用が軌道に乗った時、地方の活性化、地方創生に向けた新たな可能性も視野に入ってくる。
(ささかわ ようへい)







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