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2016年06月15日(Wed)
パラリンピック競技特集(20)陸上競技
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リオ大会日本代表、前回の35人より減る見通し!

パラリンピック
・リオ大会は9月7日の開幕まで3カ月を切りました。そんな中、6月4、5の両日、新潟県新潟市のデンカビッグスワンスタジアムで、日本代表の最終選考会となる「2016ジャパンパラ陸上競技大会」が開かれました。震度7の地震が起きた熊本県をはじめ、全国から約290人のパラアスリートが参加し、熱戦を繰り広げました。この結果を受けて今月末、リオ大会に出場する日本代表が決定します。参加国が増えているため、日本代表の数は前回のロンドン大会の35人より減るとみられています。

走り幅跳びの上肢切断クラスで日本新を出して優勝した芦田創選手

走り幅跳びの上肢切断クラスで日本新を出して優勝した芦田創選手



新潟駅から車で約15分走ると、白鳥が羽を広げた瞬間をイメージした、デンカビッグスワンスタジアムが目の前に迫ってきます。総工費300億円をかけて2001年に完成したスタジアムで、陸上競技だけでなく、サッカーやコンサートにも使われています。スタンドには4万人を超える観客が入場でき、臨場感を高めるための工夫がいくつもなされている、新潟県民自慢の施設です。

男子100メートルの車いすの部で競い合う選手たち

男子100メートルの車いすの部で競い合う選手たち



パラリンピックに初めて日本代表を出した1964年東京大会からメダル172個(金58、銀61、銅53)を獲得してきた陸上競技は、大会のけん引役として注目が集まっています。とくに短距離・長距離走や走り幅跳びなどの跳躍競技に有望な選手が多く、メダルが期待されています。視覚障害者マラソンは、このシリーズの10回目で取り上げたので、今回は短距離走と走り幅跳びを中心に取材しました。

短距離走は1周400メートルのレーンで行われました。まず女子100メートルの下肢障害クラス(T42)決勝で、大西瞳選手(39)が16秒90のアジア新・日本新を出し、優勝しました。大西選手にとっては初の16秒台で、パラリンピック初出場に大きく前進しました。

アジア新を出し、報道陣の質問に笑顔で答える大西選手

アジア新を出し、報道陣の質問に笑顔で答える大西選手

報道陣の囲み取材で好調の理由を聞かれた大西選手の眼から突然、大粒の涙が流れ落ちました。そして、搾り出すような声で「絶対リオ大会に行きたいという気持ちです」と言い切りました。
前回のロンドン大会では、陸上女子でただ一人の補欠で、悔しくてテレビで開会式も見なかったそうです。その後、強化指定選手になり、代表コーチの助言を頼りに、練習に励んできました。その思いが、一気にほとばしり出たに違いありません。最後に笑顔に戻り、「リオに行ってきます」と、日本代表入りを“宣言”しました。

続いて行われた片側前腕部に障害のあるクラス(T47)の100メートル決勝では、日本体育大の辻紗絵選手(21)が大学後輩の三須穂乃香選手(18)を抑え、12秒96の大会新で優勝しました。三須選手は13秒18で、同じく大会新でした。2人は200メートルでも優勝を競いましたが、辻選手が優勝、三須選手は2位にとどまりました。

辻選手はハンドボールから昨年春、陸上競技に転向、半年余りで世界ランキング上位に上り詰めました。ただ、この大会では「思ったよりタイムが出なかった」と暗い表情でした。とくに力を入れている400メートルでは、後半200メートルからの伸びに欠け、「焦って力んでしまった」と悔しがっていました。その半面、後輩の三須選手が加わり、「2人でがんばって行こうという気持ちになりました」と喜んでいました。

女子100メートルで優勝争いをする辻選手(右)と三須選手

女子100メートルで優勝争いをする辻選手(右)と三須選手



佐藤友祈選手男子車いすの部の第一人者、佐藤友祈選手(26)は四肢欠損などのクラス(T52)の400メートル決勝で58秒20の大会新で優勝しました。昨年の世界選手権ではこの種目で金メダル、1500メートルでも銅メダルを獲得しました。囲み取材で佐藤選手は「初めて58秒台を出せて手ごたえがあった。もう少し早い段階で速度を上げられるようにしたい」と、意気込みを語っていました。

小学生のころからスポーツが好きでしたが、21歳で脊髄炎を発症、車いす生活を余儀なくされてから陸上競技をやろうと決めました。昨年9月に入社した岡山市内の人材派遣会社が3月から車いす陸上部を発足させ、監督から助言を得られるようになったこともプラスに働いているそうです。

高桑早生選手女子走り幅跳びで好記録を出したのは、片足切断などの障害のあるクラス(T44)の高桑早生選手(24)。6回の試技の最初に5メートル11の自己ベストを出して優勝を決めました。昨年の世界選手権でも銅メダルを獲得しています。

高桑選手は報道陣に「1本目からベストが出るとは思わなかった。助走のスピードが出ていたからで、これをもっと自分のものにしていきたい」と話していました。高桑選手は100メートル、200メートル走にも出場し、100メートルでは13秒62の日本新を出しています。

パラリンピック・ロンドン大会に初出場し、100、200メートルでともに7位に入賞しました。2度目のリオ大会では、短距離走とともに、走幅跳でもメダルが期待されています。

芦田創選手男子走り幅跳びで最もスタジアムを沸かせたのは、T47クラスの芦田創選手(22)。6メートル75の日本新で優勝しましたが、6回の試技中、自身の日本記録6メートル53を5回も上回ったのです。この結果について芦田選手は「冬季訓練の成果が出た。助走のスピードが上がり、その速度での踏み切りに耐えうる強い身体ができた」と胸を張っていました。

リオ大会への抱負を聞くと「実力を出せばメダルを狙えるという状態にして大会を迎えたい」と語りました。芦田選手は今春、早大を卒業、トヨタ自動車に就職しました。5月からは競技に専念しており、心技体がそろってきていることも好成績につながっているようです。

山本篤選手また、T42クラスの山本篤選手(34)は、6メートル49の大会新で優勝しました。5月に6メートル56の世界記録を樹立しましたが、18日後にデンマーク選手に6メートル67に塗り替えられました。今回は世界記録の再更新はならなかったものの、6回の試技で6メートル40台をコンスタントに出しており、報道陣にも「平均値が上がっている」と手ごたえを語っていました。

パラリンピック北京大会では銀メダルを獲得していて、リオ大会でも銀メダル以上の成績が期待されます。

最後に日本パラ陸上競技連盟の三井利二理事長(52)に、リオ大会の日本代表選考方法やメダルの皮算用を聞きました。リオ大会から各国代表の選考システムが変わり、昨年の世界選手権での上位入賞国、次いで昨年のリオ・ランキングの上位国に出場枠が割り当てられ、さらに標準記録A突破国に割り当てられます。その結果が6月末に国際パラリンピック委員会から日本側に通知され、それを受けて日本パラリンピック委員会から日本代表が発表される仕組みです。

三井利二理事長三井理事長は「ロンドン大会の時は日本から35人が出場しましたが、新方式ではかなり減る見通しです。出場選手総数は決まっているのに対し、参加国が増えているためです。こうした状況は今後ますます厳しくなっていくでしょう」と話しました。この状況を打開するため、三井理事長は東京大会に向け、日本選手が手がけていない競技を開拓する一方、新しい選手を発掘し、日本代表枠を増やしていく考えを示しました。

さらに三井理事長はメダル獲得について「ロンドン大会では金メダルはゼロだったので、リオ大会では2個は取りたい。東京大会では、それを倍増させたい」と、抱負を語っていました。



競技紹介陸上競技
 陸上競技には、車いす、義足など、さまざまな障害のある選手が参加するので、障害の種類や程度により、クラスごとに競技が行われる。車いす競技では、レーサーと呼ばれる軽量の専用車いすが使用される。また、視覚障害の選手はガイドランナーと呼ばれる伴走者と共に走る。跳躍や投てき種目では、手をたたいて音で選手に知らせるコーラーの指示を頼りに競技を行う。基本的には一般の競技と同じルールが適用されるが、障害に応じて一部変更される場合もある。

● 日本パラ陸上競技連盟 ウェブサイト
● 日本財団パラリンピックサポートセンター ウェブサイト 
                 
(このシリーズは今回で終了します)







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