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2016年03月11日(Fri)
大震災5年(2)母子サポートに風
地域を越えた助産師たちの想い
NPOこそだてシップ


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11日、東日本大震災から5年を迎えました。大きな節目の今日は、日本財団が支援したプロジェクトのうち、地域を越えて被災地の母子を支え続けている人たちの話題をお伝えします。

明るい畳敷きのフロアに、木のぬくもりが感じられる小型の滑り台。色画用紙で作ったカラフルな飾りがパステル調の壁に彩りを添え、奥の棚に座った雛人形が温かく子供たちを見守っています。

岩手県大船渡市の商業施設「サンリア」内にある「すくすくルーム」。未就学児とその保護者、妊婦を対象にし、日曜日を除く毎日、午前10時から午後4時まで開いています。プレイルームで遊べるほか、赤ちゃんの体重測定をしたり、育児相談を受けられたりできる場です。

「すごく広い。それに、衛生面にも気を配っていただいていると分かり、親としても安心。買い物がてら、フラッと立ち寄れるのもいいですね」

陸前高田市から訪れた戸羽裕美さんは、次男の新之助くん(5カ月)をあやしながら、居心地の良さに笑顔を見せました。義理の祖母を含む8人家族で現在、育休中。家族みんなに囲まれて子育てしていること、養殖業を営む義父母から「復職は、ウニが終わる(お盆のころ)まで待って」と言われていることなどを、リラックスした様子でスタッフと語らっていました。

浩美さん手作りのオムツケーキ
浩美さん手作りのオムツケーキ

この日のスタッフは、村上浩美さんと村上トメ子さん。震災前から地域の学童施設で働いていた浩美さんは手先が器用で、初めて訪れた赤ちゃんとママにプレゼントするオムツケーキや、壁に貼る飾りなどを作って盛り上げています。トメ子さんは、地域で15年以上にわたり活動する子育て団体代表。長年の経験から、ママや赤ちゃん個人のそれぞれに対応したきめ細やかなサポートを行っています。

被災地にはまだまだ少ない、子連れママパパが集える場所

すくすくルームは昨年11月にオープンしました。この地域に先駆けとなるママサロン(子育てサロン)を開設していたNPO法人こそだてシップが、その実績が認められ、大船渡市から業務委託を受けて運営しています。ママが子連れで訪れられる公共の子育て支援の場は、大船渡市では社協などの公的施設に併設されているものが3か所あるのみ。独立しての設置は初めてです。

すくすくルームで笑顔を見せる伊藤怜子さん、村上トメ子さん、村上浩美さん
すくすくルームで笑顔を見せる(左から)伊藤怜子さん、村上トメ子さん、村上浩美さん

「ようやくここまで来ました。地元や県外の仲間に恵まれたおかげです」。こそだてシップ代表で助産師の伊藤怜子さんは、プレイルームで遊ぶ親子を見て目を細めました。

長年、病院に勤務していた伊藤さんは退職後、市民の立場で母子へのサポートと充実させようと育児相談などを続けてきました。「地域の福祉は高齢者対策に偏りがち。それでは未来がないと思ったんです」。しかし、震災後、家庭の事情が激変したことから仲間が去るなど、活動を続けるのに厳しい状況に追い込まれたことが何度もありました。

「ここまで頑張ってこられたのは、東京を中心とする助産師の同志の存在が大きいです。ママと赤ちゃんをサポートしなれば、という共通の想いでつながっている。離れていても、いつも勇気と力をもらっています」

すくすくルームの入り口
すくすくルームの入り口。買い物中に通りがかり、ベビーカーを止めて中を覗き込む女性の姿も

震災でつながった助産師の想いと支え合い

岩手の伊藤さんが県外の助産師とつながったきっかけの一つが、日本財団が助成した、被災地の母子を支援する東京里帰りプロジェクトでした。この取組は2012年3月(被災地では6月)に終了しましたが、東北での母子支援はまだ終えられないとして、有志が一般社団法人ジェスペールを立ち上げ活動を継続・発展させています。

行っていることは、母子支援を行う東北の助産師・団体への側面援助。それまでの活動で彼らの弱い部分として見えてきていた、活動資金の調達と情報発信をサポートしています。特にお金の問題は深刻。現地の支援先の多くが、助産師としての本業がある中でボランティア的に並行して母子支援を行っていたため、自らの資金を獲得するための余力がなかったといいます。

そこで、ジェスペールでは、各団体が必要な運営資金を得られるように、それぞれが助成金申請をする際に手助けしたほか、自らが助成金や企業・個人からの寄付を集め、経済的に困難を抱えている団体に送金して継続的に支えてきました。「現地の努力が一番重要であることはもちろんですが、現地に不足する部分を支援する後方支援も同時に行うことが、現地の成功につながっていくものと思います」

伊藤さんが代表を務めるこそだてシップもそうした支援先の一つでした。ジェスペールによると、こそだてシップはその中でも指折りの成功例。活動主体の伊藤さんが支援事業に専念でき、自力で助成金や寄付金の獲得ができたことが、事業を展開させ、行政をも動かす結果を生んだそうです。

ジェスペール代表の宗さん
ジェスペール代表の宗さん

ジェスペール代表で助産師の宗祥子さんは、「首都圏など人口が多い地域と違い、東北では開業している助産師が少ない。つまり、助産師は病院などの施設にいることがほとんどですので、退院した後の、地域での母子サポートの担い手が限られるのが現状です。そうした現地独特の傾向もあるなかで子育てサロンを開設し、行政を動かしたことは、非常に大きいと思います」と話しています。

心を奮い立たせてくれた、遠くからのエール

このように評価されているこそだてシップ。それを率いてきた伊藤さんにとっても、11年の大震災の経験は大きな出来事でした。幸い自宅の被災は免れた伊藤さん。避難所に家庭用の救急箱を片手に駆け付けたのをきっかけに、近くの小学校に急きょしつらえられた新生児と産婦のための救護室の声掛けを任されました。限られた物資の中で知恵を絞って赤ちゃんを守る母親たちの姿に感銘を受けると同時に、「子育ては24時間、生活と切っても切り離せないもの。生活の中で母子を支えなければと再認識しました」と言います。

これを機に伊藤さんは仲間と5月、ショッピングセンターの一画を無償で借りて、震災前に行っていた相談室を再開しました。しかし、有資格者の仲間の中には、震災により肉親を失ったり、自宅が無傷ではなかったりして、とても活動ができる状況にない人も出ました。有償ではない全くのボランティアで活動を続けていくことは大きな負担になっていき、存続も危ぶまれるようになりました。

そんな中、9月に転機が訪れました。仲間の助産師と二人で招かれた、東京のある会合です。出席者は助産師など医療関係者。「被災地の母子サポートの現状を話しました。話し出すと涙ぐんでしまって。でも、会場からものすごいエールをいただいたんです」。帰りの新幹線の中で、「私たち四苦八苦しているけど、今のような人が助けてくれるんだね」と仲間と手を取り合ったそうです。

活動の歩みを語る伊藤さん
活動の歩みを語る伊藤さん

外からの支援で流れ込んだ、母子サポートの新しい風

すくすくルームへの道を開くことになったママサロンは、こうして知り合った首都圏の助産師からの働きかけを受けて始まりました。「『やったらいいよ』と言われましたが、『ママサロンって何?』という感じでした。何しろ、東北では聞かない活動でしたから」と伊藤さん。「病院と家の中間のような存在よ」という説明を頼りに10月、大船渡市と陸前高田市に会場を設け、見よう見まねで始めてみました。これが、翌年NPO認証を受けることになった、こそだてシップの活動の始まりです。

その初日の光景を、伊藤さんははっきりと覚えています。「イベントを用意していたんですが、それどころではありませんでした。避難してばらばらになっていたママたちの再会の場になったんです。『家がなくなった』『パパがいなくなった』。もらい泣きの一日でした。サロンをやればママたちが来る。再会の場になる。それだけでもいいじゃないか、という思いでいっぱいになりました」

同時に、伊藤さんたちは、サロンに来られない母子の存在も気になり始めました。そこで、12年から家庭への戸別訪問を始めました。実は、これは伊藤さんたちにとって少しハードルの高いものでした。「こちらでは、助産師が家庭を訪問するということは、ほとんどありません。家によその人を上げるということが一般的ではないという地域性もあります。また、助産師は病院勤務がほとんどですから、仕事で訪問するという機会がないのです」

その時、伊藤さんたちの背中を大きく押したのは、首都圏から助っ人に訪れていた助産師仲間の行動力でした。彼らは助産院を開業するなど、地域の中で母子のサポートを続けていた人ばかり。「わだかまりなく、どんどん家庭を訪問するんです。そして、訪問を受けた家庭も、東京の人だということもあってか、意外とすんなりと受け入れ、話をしたようです。その様子を見て、すごいと思いました」と伊藤さんは振り返ります。震災でサポートを受けることで、地元の価値観や風土に新たな風が入ったそうです。

母子の防災充実へ 行政もママ目線に 

11日で震災から5年。こそだてシップスタッフのトメ子さんは、大震災を踏まえ、母子の防災について語りました。

「私は被災した時、団体で高台の宿泊施設にいました。助けが来たとき、誰から家に戻るかという判断を迫られました。役に立ったのは、それぞれの事情をみんなが知っていたという点です。妊婦を家に残している人もいれば、私のように世話する家族を抱えていない人もいました。みんながそれを知っていて、判断ができた。災害が起きた時、これはとても重要だと思います」

「そういう情報は今、個人情報の縛りがあって、なかなか共有できません。子育て中のお母さんと赤ちゃんは災害が起きた時、弱者です。特に影響を受ける可能性があります。すくすくルームなどを通して、顔見知りのママを増やしたり、互いの家庭状況について語り合ったりしておくことが、何かあった時の役に立つと思います」

すくすくルームのスタッフ
すくすくルームのスタッフ。仮設住宅から通う人や、震災後に東京から移住してきた人もいます

伊藤さんはこう話します。

「災害が起きた時、住民がまず頼りにするのは行政です。だから、行政の方の考えをママ目線に少しでも変えておくことが、母子の防災にとってもとても有効だと思います。備えておかなければならないことは山ほどあるので、これからも、多くの人を巻き込んでサポートを続けていきたいと思います」

すくすくルームは、利用者などからの要望に応え、来年度から日曜日もオープンする方向で検討しているそうです。地域に根差した母子サポートの広がりが、楽しい子育てや地域の安心・安全につながると期待されています。






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