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2015年11月25日(Wed)
パラリンピック競技特集(4)パワーリフティング
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練習の拠点ないのが悩みのタネ


ベンチプレス台の上に足を伸ばし、仰向けに寝る。両腕でラックからバーベルをはずしたまま静止し、審判の合図で胸まで下ろす。そして再びバーベルを押し上げてラックに戻す。

大分県別府市亀川にある社会福祉法人「太陽の家」の練習場で11月上旬、ベトナムと日本のパワーリフティング代表が合同で練習を行っていました。競技では男女とも体重別に10階級に分かれていますが、ベトナムの選手の方が重いバーベルを挙げていて、日本の方が見習うことが多かったようです。

合同練習に参加したベトナムと日本の選手、コーチら
合同練習に参加したベトナムと日本の選手、コーチら

ベトナムの選手団は男女各2人、コーチ1人、それに監督兼通訳1人の計6人で、日本外務省の招待で来日しました。選手の中でも、来年のリオ・パラリンピック49キロ級の金メダル有力候補といわれるリー・ベン・コン選手(32)は、日本選手の倍近い160キロを軽々と挙げていました。

ベンチプレスで160キロを挙げるリー・ベン選手
ベンチプレスで160キロを挙げるリー・ベン選手


日本側から合同練習に参加したのは、リオ大会強化選手3人とコーチ5人。他に強化選手が2人いますが、欧州での選手権に出場するため参加しませんでした。合同練習では、それぞれの選手が自分のメニューに基づいてバーベルを挙げ、徐々に重量を増やしていました。

下肢障害者が行うパワーリフティングは、バーベルを頭上に差し上げるウエイトリフティング(重量挙げ)と違って、ベンチプレスだけの競技です。しかも、健常者のベンチプレスは足を床に下ろして行いますが、障害者の場合は足を延ばせるよう、腰の辺りからベンチプレス台の幅が広くなっています。

ベンチプレスで徐々に重量を増やす西崎哲男選手
ベンチプレスで徐々に重量を増やす西崎哲男選手

パワーリフティングは、世界的にはメジャーなスポーツで、パラリンピックで最も観客を呼べる競技の一つといわれています。しかし、日本では競技人口が少なく、日本パラ・パワーリフティング連盟(吉田進理事長)によると、アスリートは男女合わせても50人程度ということです。同連盟が発足したのは1999年で、パラリンピックにはシドニー大会から毎回選手を派遣していますが、複数の選手を派遣したのはロンドン大会が初めてです。この時は大堂秀樹選手が6位、宇城元選手が7位に入賞しました。
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中ノ瀬啓作・日本パラ・パワーリフティング連盟理事(65)=技術委員長=は「練習の拠点がないので、選手はみなバラバラに練習している。合宿もできないので、コーチの指導も統一できないのが悩みのタネです」と話しました。練習に必要な機器も全国に3カ所しかないということです。

女性ただ一人の強化選手、小林浩美さん(46)=福岡市在住=は7歳の時、筋萎縮症になり、車いすの生活を余儀なくされています。12年前、この競技に出会い、45キロ級で国際大会にも出場しました。「やり始めたらおもしろくてやめられなくなった。でも世界の壁は厚く、入賞は難しい」と話していました。

男子54キロ級の西崎哲男選手(38)=大阪市在住=は14年前、トラック事故を起こして脊髄を損傷し、1級の障害者に。その後、車いす陸上競技の短距離走をやっていましたが、東京五輪・パラリンピック開催が決まってから、パワーリフティングを始めました。それからめきめき腕を上げ、昨年秋にはアジアパラ競技大会で6位に入賞、世界ランキングでも15位に入りました。「結婚して2年目に事故を起こし、目の前が真っ暗になった。今では4歳の娘も応援してくれるので、パラリンピックに出場してなんとかメダルを取りたい」と意欲を燃やしています。


吉田進理事長は11月10日に行われた日本財団パラリンピックサポートセンター共同オフィス開所式で挨拶し、オフィス設置に謝意を表明しましたが、競技人口が少なく、練習拠点がない、など課題は多いようです。



競技紹介パワーリフティング
下肢障害の選手がベンチプレスで挙げた重量を競う。下肢障害には脊髄損傷、下肢切断、脳性マヒ、下肢機能障害などがある。障害者スポーツでは珍しく障害別のクラス分けはなく、体重の区分けだけで戦う。男子は49キロ級から107キロ超級まで10階級に分かれ、女子は41キロ級から86キロ超級まで同じく10階級に分かれている。



● 日本パラ・パワーリフティング連盟ウェブサイト
● 日本財団パラリンピックサポートセンターウェブサイト






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