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2015年08月14日(Fri)
「次の災害で被害を拡大しないためのノウハウ」
三重県伊勢市で開講の人材育成研修に官民合わせて31人参加

東日本大震災(2011年3月)では最大40万人以上の被災者が体育館や公共施設で避難所生活を送り、その過程で亡くなった「震災関連死」が1600人にのぼるとされる。震災で助かったのに、その後の避難所生活で亡くなる人を極力減らそうと、日本財団と三重県の共催で8月11日から“次の災害”に備えるための人材育成研修が伊勢市で始まった。今回はアドバイザーの講義が中心だったが、次回は実践的な避難訓練を行い、避難所運営マニュアルなどの作成を目指す。

グループに分かれ、避難所でのトラブル防止の具体策を発表する参加者たち
グループに分かれ、避難所でのトラブル防止の具体策を発表する参加者たち

大きな震災が起きる度に、避難所に移ってから亡くなる「関連死」の多さが問題になっている。阪神・淡路大震災(1995年1月)では死者の14%を占め、新潟県中越地震(2004年11月)では死者の半数以上が関連死と認定された。このため、避難所生活の質を向上させる観点から避難所のあり方を見直す動きが強まっている。そこで日本財団は南海トラフ地震で大きな被害が想定されている三重県と共催して、災害時に重要な役割を果たす人材を育成するとともに、あるべき避難所を模索する避難訓練を実施することになった。

今回参加したのは、三重県から奥山孝人・環境生活部男女共同参画・NPO課長ら、県内の社会福祉協議会職員、自治会役員、NPO法人役員ら計31人。アドバイザーは青柳光昌・日本財団ソーシャルイノベーション本部上席チームリーダー、田村太郎ダイバーシティ研究所代表理事らが務めた。

最初に講義した田村代表理事は阪神・淡路大震災以来、防災に取り組んでいるが、東日本大震災の復興が大幅に遅れていると指摘した。その大きな要因として建設労働者の不足をあげ、「若者が減っているためで、この状態は今後さらに悪化する。次の震災までの期間が長ければ長いほど大変な事態になる」と強調した。田村代表理事は東日本大震災の直後、「被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト」(つなプロ)を立ち上げ、避難所を回って被災者から「こぼれ落ちがちなニーズ」を聞き取り、きめ細かな支援を行った。そのときの経験から専門性のあるNPOをもっと増やし、積極的に課題を解決するよう努めるべきだと力説した。

講義で被災者へのきめ細かな支援を訴える田村代表理事 
講義で被災者へのきめ細かな支援を訴える田村代表理事 
   

続いて、東日本大震災時に避難所で実際にあった事例を元に、参加者全員が4つのグループに分かれて

1. なぜトラブルが起こったのか
2. どうすれば未然に防げたのか
3. トラブルが起こらないようにするにはどのような避難所作りが必要か

などを討議した。その内容をまとめたメモを模造紙に貼っていき、グループごとに発表した。乳児1人を含む子ども3人を抱えた母親が2カ月半に6カ所の避難所を転々とした事例については、母親が乳児の夜泣きを気にしていたことから、「夜泣きする原因を探ることが必要だ」「同じ境遇の人と話し合うべきだった」「授乳室を作るべきだ」などの意見が出た。

トラブルの事例についてグループごとに原因と対策を討議
トラブルの事例についてグループごとに原因と対策を討議


このあと、田村代表理事が避難所のあり方について「多様性のあるコミュニティー作りを進めるべきだ。自信過剰な自治会長がリーダーになると上から目線になり、困りごとなどの相談をしなくなる。不満を感じていない人はいないという基本的なスタンスで運営していくべきだ」とコメントした。

2日目の12日には、伊勢市で実際に大震災が起こった場合を想定し、市内を3つのエリアに分けて避難所開設から1週間後と1カ月後のニーズの総量をグループごとに計算した。避難所単位ではなく、地域全体で必要量を割り出し、ニーズに応じて対策を取ろうというもの。そして地元や公的支援でカバーできそうなものと、外部に支援を要請しなければならないものとに分類し、速やかに対応しようという作戦だ。この結果をグループごとに発表したが、どの程度必要かがはっきりせず、戸惑っている人もいた。

グループごとに伊勢市のエリア別のニーズを計算
グループごとに伊勢市のエリア別のニーズを計算


最後に避難所の運営について質疑・応答が行われ、リーダーの決め方や避難所の周辺で関連死を防ぐ方法などに質問が集まった。これに対しアドバイザーから「避難所がうまくいっているのはリーダーに聞き上手の人がなっている場合が多い。上から押さえつけるやり方だと、どうしても被災者にストレスがたまりがちだ」と答えた。また、田村代表理事は避難所を「点」で見るのではなく、「被災者支援拠点」として位置づけ直し、自宅や事業者などで過ごす人々も含めた地域の住民全体を支援する機能を備えるべきだと提案した。

次回は9月7日と8日、拠点運営訓練を伊勢市御薗B&G海洋センターで実施する。震災でライフラインが止まっているという想定で、電気も空調設備もない体育館で就寝する。2日目は避難所運営や地域活動についてグループ討論を行い、避難所運営のマニュアルなどを策定する予定。両方の研修に参加すれば「被災者支援拠点運営管理者」に認定される。
(飯島一孝)





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